光の粒……見える体力の量がいつもより多い。ここまで持ち歩いたせいで水分が失われていたはずのマンドレイクも心なしか良質な物になっているように感じる。

 あまり体力が漏れてはアルスに見つかってしまう。漏れ出そうな体力を素材に溶け込ませようとすると内側に引き込まれそうになる。

 このままじゃ内側に……

「ダメだ」

 諦めではない。自分の心に対してそう呟く。このままじゃ内側に飲まれてしまう。

 マンドレイクではないもう一つの素材、先生は体力がため込みやすい植物だと言っていた。

 ならば余った体力はこっちにやれば……

「……くそ」

 素材どうしの均衡が乱れ、結合が少しほころぶ。

 ほころんだ部分を咄嗟に体力で強化する。体力を消費したことで扱う体力の量が減り、内側への引力が弱くなる。

 もしかしてこれを繰り返せば……

 植物に体力を寄せ、生まれたほころびを体力で強化する。

 漏れ出ていた体力は減り、引力も弱まる。

「いける、いけます!」

 思わず叫んだ瞬間、残っていた光の粒が吸い込まれるように薬に入っていった。

「……これって」

 ビーカーの中には綺麗な緑色をした液体が出来ていた。ビーカーはひび割れもしていないし熱もほとんど持っていない。

 それまで黙っていた先生が俺の持つソレを見て頷く。

「ああ、完成だ」

「じゃあ、どうぞ!」

「嬉しいのはわかるが状況を考えろ」

 言われて少し冷静になる

「すいません」

「謝らんでも……うぇ」

 薬を飲んだ先生は顔をしかめる。香料とかを入れていないから草の味しかしないのだろう。

「少し休めば体力が体に馴染む、少し待っていてくれ」

「は、はい」

 俺は先生の横に座り込む。

「今の錬金、可視化する体力が多くなかったですか?」

「自然の力というやつだな、今回は同じ種類の生きている植物が近くにあったからなおさらだ」

 先生はここで咳ばらいをする。

「休息ついでに一応指導をしておくか」

「え……」

 こんなところでこんな状況でもかよ。

「まず今のような方法は可視化する体力が多い時にしか安定してはできない、ほころんだ結合を引き留めるには結構な体力が必要だし非効率的だ」

 いきなり批判から入られると少し落ち込む

「ただ、今後も錬金に成功すると思うぞ」

「でも今の方法は使えないって」

「方法はあくまで方法でしかない。今までお前はどこか焦りを感じさせる錬金だった」

 先生は俺が渡したハーブティーを一口飲んで続ける。

「しかし今回、お前はこの状況にも関わらず一定の落ち着きは持っていた。素材の特性をうまく使い咄嗟の判断で正解を導き出せる程にな」

 体力が戻ったのか先生は立ち上がって俺にコップを返す。

「そもそも油断と焦りさえなければもっと早くに習得していたはずだった。なのにお前はこんな状況になるまで……」

 先生はそこまで言って少し笑う。

「いや、違うな。今の感覚を忘れるな。……よくやった、合格だ」

 先生の少し素直じゃないその言葉に顔が熱くなる。あの先生が合格と言ったのだ。

「先生! ありがとうございます」

「ああ……しかしバッドニュースだ」

 いきなり変わった声のトーンに違和感を覚え、先生の視線の先を見る。

「臭いが拡散してしまったようだな」

「こんなうれしい時に……」

 俺は茂みの中から現れたそいつを見つめて呟く。このお決まりのごとく繰り返されるパターンはこれで最後にしてほしい所だ。

「またお前かよ……キメラ!」

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