③
「……ん」
日の光で目が覚める。
なんだか花がムズムズする。それに……
「ぶえっくしょい!」
くしゃみが止まらない。風邪を引いたかもしれない。
どれだけ寝ていたのかとか色々気になる。物音がする方、錬金部屋の扉を開ける。
「うおっ……」
開いた途端、部屋に充満していたであろう強い香りが俺に飛んでくる。
「……香料用ミント」
いい匂いも度が過ぎるとキツイな……
「ほう、わかるようになったじゃないか……なんだその赤い鼻は」
「鼻とか喉の調子が悪くて……風邪でも引いたか……ぶえっ……ぶふっ!」
クッションが顔に飛んできてくしゃみが中途半端になる。
「薬を作っている場所でくしゃみをする馬鹿はお帰りください」
投げたのはコカナシ。確かにコカナシの机には調合器具が置かれている。
「ちょうど出来たものがあります。飲んでください」
出されたのは綺麗な赤色の液体。
「な、何これ」
「大収穫祭の後に流行る風邪の為の薬だ」
先生が言うと同時にコカナシが薬の容器を投げてきた。
「早く飲んで香料付けを手伝ってください、さあ早く!」
「わかったよ……熱っ!?」
「出来立てですから」
「このやろう……」
何回かに分けて熱い薬を飲み終わり、数時間休むと少しずつ薬が効き始めた。
即効性があるのは鼻炎のみらしい。風邪自体は治っていないとの事だ。
その後、香料用ミントを錬金薬に混ぜ込み薬を作る作業を続けた。
*
「……おかしい」
「き、キミア様?」
先生の貧乏揺すりが机を揺らし、コカナシがコーヒーを置く場所に困っている。
「先生、何がおかしいんですか?」
「薬が売れなさすぎる!」
「……え?」
「薬を作って販売を開始してから数日……殆ど売れていないじゃないか!」
確かに客は少ないが……いつもより少し少ないくらいだ。
「この時期はいつも大繁盛なんですよ。例の風邪薬がありますから」
「ああ……」
マンドレイク大収穫祭の後に流行る風邪の為の薬。一番効くのは先生の薬らしく、そこらへんの人は皆買いに来るレベルらしい。
「キミア! 大変だ!」
「うるさい!」
家に飛び込んできたアデルは先生に一喝されて少し落ち込む。
「……で、何が大変なんだ。それよりお前の方に回した薬は売れているのか」
「殆ど売れていない!」
「それが問題か、それならこっちの方が大変だ」
「そうじゃない!」
段々と声が大きくなっていくアデルをコカナシと先生が睨む。またアデルは落ち込んで、それでも声は大きいままこう言った。
「お前の商売相手が来て、そこに客が流れている!」
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