「……ん」

日の光で目が覚める。

なんだか花がムズムズする。それに……

「ぶえっくしょい!」

くしゃみが止まらない。風邪を引いたかもしれない。

どれだけ寝ていたのかとか色々気になる。物音がする方、錬金部屋の扉を開ける。

「うおっ……」

開いた途端、部屋に充満していたであろう強い香りが俺に飛んでくる。

「……香料用ミント」

いい匂いも度が過ぎるとキツイな……

「ほう、わかるようになったじゃないか……なんだその赤い鼻は」

「鼻とか喉の調子が悪くて……風邪でも引いたか……ぶえっ……ぶふっ!」

クッションが顔に飛んできてくしゃみが中途半端になる。

「薬を作っている場所でくしゃみをする馬鹿はお帰りください」

投げたのはコカナシ。確かにコカナシの机には調合器具が置かれている。

「ちょうど出来たものがあります。飲んでください」

出されたのは綺麗な赤色の液体。

「な、何これ」

「大収穫祭の後に流行る風邪の為の薬だ」

先生が言うと同時にコカナシが薬の容器を投げてきた。

「早く飲んで香料付けを手伝ってください、さあ早く!」

「わかったよ……熱っ!?」

「出来立てですから」

「このやろう……」

何回かに分けて熱い薬を飲み終わり、数時間休むと少しずつ薬が効き始めた。

即効性があるのは鼻炎のみらしい。風邪自体は治っていないとの事だ。

その後、香料用ミントを錬金薬に混ぜ込み薬を作る作業を続けた。



「……おかしい」

「き、キミア様?」

先生の貧乏揺すりが机を揺らし、コカナシがコーヒーを置く場所に困っている。

「先生、何がおかしいんですか?」

「薬が売れなさすぎる!」

「……え?」

「薬を作って販売を開始してから数日……殆ど売れていないじゃないか!」

確かに客は少ないが……いつもより少し少ないくらいだ。

「この時期はいつも大繁盛なんですよ。例の風邪薬がありますから」

「ああ……」

マンドレイク大収穫祭の後に流行る風邪の為の薬。一番効くのは先生の薬らしく、そこらへんの人は皆買いに来るレベルらしい。

「キミア! 大変だ!」

「うるさい!」

家に飛び込んできたアデルは先生に一喝されて少し落ち込む。

「……で、何が大変なんだ。それよりお前の方に回した薬は売れているのか」

「殆ど売れていない!」

「それが問題か、それならこっちの方が大変だ」

「そうじゃない!」

段々と声が大きくなっていくアデルをコカナシと先生が睨む。またアデルは落ち込んで、それでも声は大きいままこう言った。

「お前の商売相手が来て、そこに客が流れている!」

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