第四話 僅カナ不安
出発は明日の昼からということで、その間暇な俺とアイリスは王都へと行くことにした。
「うまい飯が食いたいの」
「そうだな、クロの食事も何か買わないと」
ちなみにクロとは、一緒に着いてきた黒猫のことである。名前を付けてあげると嬉しそうに鳴いていた。
空も薄暗くなり、夜の王都は人通りもまばらになり始めた頃だろう。
「ここが良さそうだな」
何軒もの料亭が建ち並ぶ中、俺は一つの料亭を選んだ。中は繁盛しているようで、冒険者や商人と思われる人達で溢れかえっている。
受付の人から空いている席に案内してもらい、俺たちはやっと一息つくことができた。
「にゃぁ」
クロも嬉しそうに俺の横に座る。ここは動物の出入りも自由らしいから、猫が椅子に座っている光景も違和感がないみたいだ。
「お待たせしましたー」
さっそく頼んだ商品が来たようだ。俺はクロが欲しそうに見つめている肉を、一口サイズに切って分けてあげる。
「にゃあ!」
クロも嬉しそうに鳴くと、それを口いっぱいに頬張る。俺も切り分けた肉を食べようとフォークで刺そうとした時、突然その肉切れが消えた。
「え?」
「うん、おいしい」
声の主はアイリス……ではなく、アイリスの隣にいつの間にか座っている銀髪の美少女だった。俺はその少女に見覚えがある。
「えっはっ!?リリス!?」
そう、アルドベルクと行動を共にしていたはずのGスキルの持ち主、リリスなのだ。
「ん?気付いておらんかったのか?カイトが肉を切り分けておる時にはいたがの」
「いや、ちょっと待とう。何でそんなに冷静なんだよ」
「カイト、うるさい」
おかしい。何かがおかしいぞ。何で俺がリリスにうるさいと言われなければならないんだ。
「はぁ……今日は何の目的で来たんだ?」
「目的が無ければ来ちゃダメなの?」
何でそんな上目使いで泣きそうな顔してんの?おかしいよね?俺がおかしいの?
「そういうのはいいから本当の事を言って」
「カイト、ノリ悪い」
「ノリが悪くて結構!冗談抜きで本題に入ろう!?」
何かどっと疲れた気がする。リリスは俺の様子を見てくすりと笑うと、真剣な表情となった。
「アルドベルクが殺されそうなの。助けて欲しい」
「Gスキルを持ってるのに?」
「彼のGスキルでも防げないほど強力なスキルだった。あなたも異常だけど、アレはまた違う意味で別格」
いや、俺そんな危なそうな奴と戦いたくないんだけど。大体なんで俺がアルドベルクを助けなきゃいけないんだよ。ティナ達がどんな目にあったのか忘れたのか?
「悪いけど、俺はアイツに何もしてあげられない。ティナ達のことを考えるとな」
「それは本当にごめんなさい、アルドベルクも悪気はなかったと思うの。罪滅ぼしではないけど、生き返らせたよ?」
「生き返らせれば良いって問題じゃ……」
無い、と言おうとした時、俺はふといいことを思いつく。
「わかった。協力するけどその代わりにリリスのGスキルの詳細を教えてくれ。話はそれからだ」
「うっ」
それを聞いたリリスは微妙な顔をしながらアイリスに助けを求める表情をする。しかし、アイリスも興味津々といった顔でリリスに詰め寄った。
「ほほぅ、お主Gスキルを持っておるのだな?誰の能力じゃ!」
「し、死と再生の神ウルグアンテ……」
諦めたようにリリスはそう呟く。
「勿体ぶらずに早く全部言うのじゃ」
「【
「EXは?」
「ぐすっ、【
今度こそリリスは泣きそうな顔になる。こんなところを誰かに見られたら、まるで俺達がいじめてるように見られそうだ。
「ウルグアンテか。あの引きこもりが能力の譲渡に出ていたとはな」
そんなことはお構いなしに、アイリスは物思いに
「アルドベルクがいる場所はどこだ?俺達も明日からウルニル村に行くんだけど、その途中にあれば寄っていくよ?」
それを聞いたリリスはにやりと笑う。
「ヘカル王国のジクードっていう村」
「丁度ウルニルの近くにある村だな」
アイリスが補足を入れてくれたおかげで場所はわかったのだが、それにしても偶然すぎる。
「幸か不幸か、俺達の目的地も近いな」
「不幸じゃろ」
「うん、不幸だ」
深いため息をつくと、隣にいたクロが俺を見つめながら「にゃあ」と鳴く。
「クロは優しいなぁ。俺を励ましてくれてるのか?」
「にゃあ!」
「可愛いぞこの野郎!」
ご褒美に肉を一切れ食べさせてあげると嬉しそうに食べていた。
「カイト、わしには?」
「え、何が?」
「あーんしてくれぬのか?」
何故かアイリスは拗ねたような表情でそう言う。仕方なく食べさせてあげると、頬を赤らめて悶え始めた。めんどくさそうなのでそのまま放置する。
「カイト、私もして欲しい」
「なにゆえ」
「早く」
仕方なくリリスにもしてあげると、嬉しそうに笑う。こうして見ていると、年相応で普通に可愛いな。まだ十三歳くらいだろうか?
いつも無表情そうに見えたけど、あどけない笑顔や時折見せる子供っぽい仕草に、ドキッとすることがある。あ、俺はロリコンじゃないよ?
「ということで、私も一緒に同行する」
「どうしてそうなった」
「カイトはアルドベルクがジクードのどこにいるのか分からない。私は知っている、以上」
リリスは半ば強引に話しを進めていき、結局俺達と同行することになった。エリーゼに何て言おうか真剣に悩み始める俺。
料理を食べ終えた俺達は一度外に出て、宿屋へと向かう。道中、リリスは物珍しそうに周りを見渡していた。
「王都は初めてなのか?」
「うん、今まで教団にいたから」
「そっか」
何やら訳ありのようである。こういう人の過去にはあまり触れないほうがいいだろう。
しばらく歩くと、目的の宿屋にたどり着く。俺とクロ、リリスとアイリスに分かれて二つ部屋をとった。
「寝るときは鍵を開けておれよ」
「断る!」
アイリスの執拗な攻めも何とか防ぎつつ自室に閉じこもる。持ってきていた荷物を下ろし、今日一日の疲れからくる脱力感に襲われた俺は、だらしなくベッドにダイブした。
「疲れたー」
「にゃぁ」
ベッドにうずくまる俺の背中に、クロが飛び移る。俺はクロを振り落とさぬように振り返り、仰向けの状態となった。
「にゃぁぁ」
俺の腹に移動したクロは眠たそうに目を擦りつつ、体を丸める。
「そうだな、もう寝るか」
この世界に来てから、本当に寝るのが早くなったと思う。言ってしまえば毎日が初体験の状態だ。いくら転生してから二ヶ月以上が経っているとはいえ、慣れないものは慣れない。そのせいか、最近精神的にきているところがある。
「おやすみクロ」
「にゃぁぁ」
クロも疲れたのだろうか。鳴き声を上げた後には既に寝息を立てている。そんな可愛らしい様子に頬を緩めながら、俺もゆっくりと睡眠に入っていくのだった。
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