第三話 不吉ナモノ
どのくらいの時間が過ぎただろうか。実際は一分と経っていないのだろうが、無言のままだと短い時間でも物凄く長く感じてしまう。やがてアイリスは重たい口を開いた。
「それはGスキルを本来の姿に戻すための行為じゃ」
アイリスの言葉に、俺は一つの疑問が浮かぶ。Gスキルって最初から本来の姿じゃないのだろうか?これ以上強くなるなんて想像がつかないんだけど。
しばらく言葉の意味を理解出来ないでいた俺を、見かねたアイリスが説明してくれる。
「Gスキルは神の能力というだけあって、到底人間が扱えるような代物ではない。神の能力を使っているつもりでも、実際は本来の力のほんの一部しか使っておらんのじゃ」
「つまり俺が持っているイーリスのGスキルも、これ以上に強いのか?」
「カイトに関しては全く扱えておらぬよ。現状、イーリスの神器とちょっとしたステータスへの恩恵があるだけじゃな」
「いや、ちょっとした恩恵って言っても百万のプラス補正値があるんだけど……」
実際これだけでも十分に強すぎるんだが、やはり神の能力は常識を軽く逸脱しているみたいだ。俺では想像すら出来ないくらい強大な力なのだろう。
「簡単に言うと、EXモードとは強制的に所有者に神格を与え、神に等しき力の発動を許可するシステムのようなものじゃな。能力の最終段階に移行するため、この状態になることを〈
言い終えたアイリスは「そして」と付け加える。
「EXゲージを溜める方法は何故か戦闘しかないのだ。理由はわしにもわからぬ」
「いや、それだけでも十分勉強になったよ。そして俺がまだまだ未熟だったってことも」
「そう気にするでない。いずれ完全にイーリス様の能力を使える時が来るはずじゃ。その時は、わしも全力でカイトに力を貸そう」
満面の笑みで微笑むアイリスは、本当にイーリスに似ていた。強く、美しく、そして優しさも持ち合わせている完璧な美少女だ。
「その代わり、力を貸したその時はご褒美としてわしとの子ど……んぐ!?」
「言わせねぇよ!?」
やっぱり変な奴だったよこの人!完璧な美少女と言ってしまった自分が恥ずかしい!
「な、なぜ口を塞ぐ!せっかく親切に教えてやったというのに!」
「恩を仇で返したつもりはないからな!これは当然の措置だ!」
尚も抵抗するアイリスに力負けして、俺は押しのけられる。
「はぁはぁ……まぁよい、今日のところはここら辺で勘弁してやろう」
アイリスは息を荒くしながらベッドに仰向けで倒れる。俺も今の戦闘で相当疲れたため、地面に仰向けで倒れた。
「なぁアイリス。SスキルもGスキルのように何らかの存在から与えられたものなのか?」
ふと、Sスキルのことが気になった俺は、アイリスにそう質問した。
「いいや、違うぞ。じゃが、Sスキルに関してはわしも詳しくは言えんのでな。すまんが、今は超能力のようなものという認識でいてもらいたい」
「……そうか」
なにやら訳ありのようである。触れてはいけない部分だと感じた俺は、黙って引き下がった。
と丁度その時、ドアをノックする音とともにアーシャの声が聞こえた。
「お疲れ様です、カイトさん。そろそろ王都に帰ろうと思うので、準備をお願いします」
「ああ、わかった」
ドア越しにアーシャに返事をすると、持ってきていた荷物や武具を持ち上げる。アイリスを見ると、天井を見つめながら心ここにあらずと言った感じだった。
「おーい、アイリス?」
「ん?ああ、そうじゃったな。すまぬ」
我に返ったアイリスはベッドから降りると部屋から出て行く。俺もそれに続いて部屋を後にした。外で待っていたアーシャと合流し、宿屋を出る。ちなみに宿代は既に俺が支払っておいた。
アイリスが転移魔法を使ってくれると言うので、とりあえず人目につかない村の外に出ようということになる。
「転移魔法とは時空系統の派生ですよね?
「いいや、わしはマナを読んでおるからな。魔法源や魔法陣の類は用意しておらぬよ。まぁここまでくると魔法とは言わないのかもしれぬな」
「マナを読む。なるほど」
何やら難しそうな話をしているようで、俺は完全に
「にゃあ」
「お、可愛いなお前」
途中、野良猫と思わしき黒猫に出会った。ここは村ということもあって、王都よりも動物が多いみたいだ。この世界に来てから何度か犬や猫を見かけたが、地球のそれと全く変わらないようである。周りには馬小屋や鶏小屋なんかもあった。
「怪我してる」
前足を見ると、大きな切り傷がある。見てみぬ振りをするのも可哀相なので買っておいた
「やっぱすごいなぁ」
これが地球にあったら大変なことになっていただろうとしみじみ思っていると、後ろからアーシャ達が追いついてきた。
「どうやら黒猫に懐かれておるみたいだな」
「ああ、怪我してたから
「ほぉ、動物でも
アイリスは驚いたようにそう呟く。
「ところであれは何をしてるんだ?」
ふと横を見ると、大きな建物の中に村人達が集まっていくのが目に入った。
「あれは集会じゃろう。村などでは案件を決める際、投票制ではなく話し合いが行われると聞いたことがある」
「へぇ、そうなんだ」
つまり村で何かあったのだろうか。近くにいた村人に聞いてみると、どうやら水路の掃除と落ち穂拾いの雇用者を選定するだけだという。
「何もないみたいだし、このまま帰ろうか」
そう言って、俺達は再び村の外へと歩いていく。しばらくして村の外に着くと、アイリスが転移用の魔法陣を展開してくれた。
「にゃぁぁ」
「あれ?着いてきたのか?」
鳴き声の方に振り返ると、あの時助けた黒猫が着いてきている。首輪もしてないし、野良猫だろうから連れて帰っても問題ないだろうか。
「なぁアイリス、この黒猫も一緒に連れて帰ってもいいか?」
「別にいいのじゃが。黒猫はあまり好きではないの」
とは言いつつも黒猫を魔法陣の中に入れてくれるアイリス。そして俺達は王城の目の前に転移する。
「おかしいですね」
「どうしたんだアーシャ?」
転移を終えた後、王城を見たアーシャが不思議そうに呟く。
「王城の周りには魔法遮断壁が張ってあるので転移してこれないはずなのですが」
そういえばここへ転移してきた時もエリーゼがそんなことを言っていたな。神に等しき力でなければ転移出来ないんだっけ?
「カイトさんもそうでしたし、効力が切れたのでしょうか?」
「いや、多分切れてないと思うよ」
俺とアイリスがイレギュラーなだけだろう。いまだに不思議そうな顔をしているアーシャを促して王城へと入る。扉を開けて大広間を左に曲がると、王国騎士団の団長用の自室があった。
俺はそっとノックをする。
「カイトか?とりあえず入ってくれ」
中からエリーゼの声が聞こえたので、俺とアーシャとアイリスは中へと入った。
「素材は収集できたか?」
「ばっちりだよ。一応最下層まで行ったんだけど大丈夫だったかな?」
「問題ない。それより貴様の後ろにいるその女は誰だ?」
エリーゼの視線が俺達から、後ろにいるアイリスに向けられる。
「素材を収集してたら偶然会ったんだ。頼りになるから一緒に行動してる」
「うむ、わしはアイリスという者じゃ」
「そうか、とりあえず座ってくれ」
エリーゼはさほど気にしていない様子でそう呟く。俺とアイリスはソファに座り、アーシャはエリーゼの後ろに立った。
「帰ってきて早々すまないのだが、また一つ依頼があるんだ」
「最近多いな。やっぱり男の騎士団が帰って来ないからか?」
「ああ、心配になって様子を見に行かせたんだが、善戦しているようでな。後もう少しで帰ってくるだろう」
そう、今王国騎士団の男達はSS級のモンスターを討伐しに行っているのだ。そのため、騎士団は通常よりも少ない人員で王都に入る要請を処理している。だが、どうしても手が回らないような物もあるみたいで、こうして俺が受ける形となったのだ。
「で、次はどんな内容なんだ?」
「ランスロード王国の至る所から子供が消えているらしい。この事件は一年ほど前から多発していたのだが、最近特にひどくなっている。早急に対応せねばならない」
「誘拐……ってことだよな?」
でも、一体どうやって解決するんだろう。誘拐された子供達が今どこにいるのかもわからないのに、何か良い手でもあるんだろうか。
「ああ、だがその誘拐された子供達がある場所で頻繁に目撃されているそうでな。場所はランスロード王国とヘカル王国の国境付近にあるウルニルという村だ。テヌロという村に行っただろう?あそこからまた更に西へ移動すれば辿り着く」
「ほぉ、ウルニルとはまた懐かしい」
隣にいるアイリスが膝元で眠っている黒猫を撫でながら興味深そうにそう呟く。
「行ったことがあるのなら話は早い。それと、今回は私もウルニルに同行する」
「それはまたなんでだ?」
今までエリーゼが依頼に絡んでくる事など一度も無かったのに、なぜ今回だけ着いてくるんだろう。俺の疑問に、エリーゼは驚愕の答えを出してきた。
「私の故郷だからだ」
エリーゼは真剣な眼差しのまま、俺達にそう告げた。
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