第十五話 復讐を果たすため、彼は復讐の無い世界を望んだ

それからどのくらい戦い続けただろうか。気付けばうっすらと空が明るくなっている。十字架の猛攻撃に行動を鈍らされ、傷を負わせてもリリスによって回復されるため、一向に決着がつかないでいた。


STRがこれだけあるにも関わらず、アルドベルクへ致命傷を与える事が出来ない。加えて彼から受けるダメージもSS級ヴァンザドールの攻撃力を遥かに凌駕した数値となっている。


戦闘中の会話から察するに、どうもリリスのGスキルが絡んでいるように見えた。得体の知れない能力を相手にどうするべきか、リリスはアルドベルクを回復するだけで後は傍観している。つまり戦闘向きのスキルじゃないのかもしれない。


ある程度、戦うことに慣れてきた俺は冷静にそんな事を考えていた。再び突進してくるアルドベルクの隙をついて、遠くへ蹴り飛ばす。


考えてみれば、俺のGスキルは【極光の神剣ソル・イーリス・ブレイド】と詳細不明の【創々ウィル・オブ・ゴッド】しかないし、【創々ウィル・オブ・ゴッド】に関しては発動不可能とか書いてある。


他に使えるものはないか、アルドベルクとの距離があいているため、久しぶりにステータス画面を見ることにした。



<メインステータス>

■カイト・ヒロ (♂・17)

■LV.76

■JOB なし

■EX.2%

■HP 9,891,605/10,004,720

■MP 10,004,720/10,004,720

■STR 1,002,022

■DEF 1,001,762

■AGI 1,001,237

■INT 1,001,225

■DEX 1,001,244


<称号ステータス>

【unknown】

全てのステータスにプラス補正

全魔法使用可能

EXゲージ出現

限界突破

アクティブスキル【極光の神剣ソル・イーリス・ブレイド】取得

パッシブスキル【創々ウィル・オブ・ゴッド】取得


【眷属殺し】

STRとDEFにプラス補正


<アクティブスキル>

極光の神剣ソル・イーリス・ブレイド

其は天地を切り裂き万物を守る永劫の神器なり──

・この剣を対象とするあらゆるスキルの干渉を受け付けない

・所有者の魂を保管する


<パッシブスキル>

創々ウィル・オブ・ゴッド

栄光あれ、秩序の王よ──

※現時点で常時発動不可能



ふむ、今更だけど名前、レベル、職業ときて、このEX.2%って何なんだろう。ステータスの数値は相変わらずで、スキルもほとんど変わってはいないけど。


確かこのEXの数値、エリーゼと一緒に見た時は0%だった気がする。つまりこの2%は戦いの中で増えたということか?


まぁあまり深く考えても仕方ないし、100%まで溜まったらまた考えてみよう。



「よそ見をする暇があるのか!」



「あるよ!」



ステータス画面を見ていると、遠くに飛ばしたはずのアルドベルクがいつの間にか目前まで迫っていた。振り下ろされる剣を防ぎ、再び弾いてある程度の距離を保つ。


自らの攻撃をことごとく打ち防がれたアルドベルクは埒が明かないと判断したのか、リリスの方へ向き直った。



「リリス、もうそろそろか?」



「うん、もうすぐ時間。あと半刻であなたは動けなくなる」



「ちっ、使いづらい体だ」



「生き返っただけでもありがたいと思って欲しい」



舌打ちするアルドベルクに、リリスは淡々とした表情でそう呟く。今の会話から察するに、やはり死んだはずのアルドベルクを生き返らせたのはこの少女と見て間違いないようだ。アルドベルクは俺との距離をとりつつ、リリスに近づいていく。



「もうすぐ夜が明ける。時間が惜しいからあれを使わせてもらうぞ」



その言葉に呼応するかのように、突然大きな十字架が彼の背後に落下する。それは徐々に光度を増していき、やがて奴を包み込むほどの光となった。


肌にビリビリと感じる神聖なるオーラ。それがとめどなく溢れ出し、辺りに満ち広がっていく。今まで丘の上にあった巨大な光の十字架も、粒子となってアルドベルクの元に集まっていった。



「光輝よ!天上よ!大いなる閃耀よ!十字架に宿りし神はのぞ……!」



「待って」



やがてまばゆいほどの光を放つ十字架がアルドベルクの体に溶け込もうとするが、それを制するようにリリスは彼の手を掴む。



「駄目。今ここでEXモードを使うべきではない。来たるべき時が来るまで待って」



「…………わかった」



渋々と言った感じでアルドベルクは答えると、再び俺の元に斬り込みに来た。俺はそれを防ぎ、体を回転させて回し蹴りを放つ。



「ぐっふぅ!」



盛大に吹き飛んでいったアルドベルクを追いかけると、そこにはティナ達の遺体があった。気づかない間に俺達はこんなところまで進んでいたのか。



「なるほど、ここへ避難させていたのか」



アルドベルクは憎らしげにティナ達を一瞥すると、俺に顔を向けた。その仕草に苛立ちを覚え、俺は再び彼に問う。



「もう一度聞くけど、何で殺したんだ?」



「復讐以外に理由はないと思うが?」



「復讐ったって、もうずっと昔のことじゃないか。今は王国になっているし、ティナ達が所属している王国騎士団の人達も皆いい人だ」



ヴァンザドール戦で一緒になって気付いたが、騎士団の皆はお互いがお互いを助け合い、絆も深いように見えた。それに、ティナ達には何の罪もないはずだ。


俺の言葉に、アルドベルクは首を横に振って否定する。



「帝国も王国も俺からすれば変わらない。今も昔も、これからもな!」



その言葉とともに三本の十字架が現れると、それぞれがティナ達の胸元に再び突き刺さる。


その光景を見て、俺の中で何かが切れた。



「悔しいか?俺も悔しかったよ。それが憎し……がはっ!」



アルドベルクの腹部に一撃を入れる。吹っ飛ぶ体を掴み地面に叩きつける。仰向けにして全力の一撃、地面にクレーターが広がる。顔や胸などを無我夢中で殴打する。途中で何度も回復魔法が飛んできたが、それでも攻撃の手を止めなかった。


気付けば地面に隕石が落ちたような穴がぽっかりと空いている。その中央で倒れているアルドベルクの喉元に、俺は【極光の神剣ソル・イーリス・ブレイド】の剣先を突き立てた。



「くそったれが……」



剣を握っている手に力を込めようとしたが、どうしても刺せない。頭では殺したいほど憎いのに、体はそれを拒むかのように全く動かない。


その様子を見て、アルドベルクは呆れたように笑った。



「結局は他人ごとなんだろ?あの騎士団の連中とお前は、見たところ出会って日も浅いように見える」



「だけど、目の前で人が死んでるのを見たら、誰だって怒るだろ。例え肉親でなくとも、例え友達でなくとも、それこそ数日の付き合いしかない人達でも」



「それを偽善って言うんだよ。そうやって人を助けて得られるものは自己満足だけだ。あいつらを助けて何になる?お前は何でここにいる?」



その言葉に、俺は躊躇ためらうことなく即答する。



「俺がここにいるのは、世界を救うためだ」



「はっ、馬鹿馬鹿しい。結局は口先だけの奴だな。あんなクズどもを庇っ……」



「クズじゃない!」



アルドベルクが言い終える前に、俺は奴の顔面に全力の一撃を与える。再び地面に巨大なクレーターが広がり、アルドベルクの顔が地面に埋まる。体はピクリとも動かないが、息をしていることから死んではいないだろう。


俺はもう一人の人物であるリリスに視線を向ける。彼女もそれに気が付き、こちらにゆっくりと歩み寄ってきた。やがて俺の目前まで迫る。



「すごい力。やっぱりイーリスのGスキルを持ってるんだ」



リリスは物珍しそうにそう呟くと、右手に持っている【極光の神剣ソル・イーリス・ブレイド】にそっと触れようとする。しかし、それを拒絶するかのようにバチっと電気が走り、神剣は彼女の手を拒んだ。



「開闢の神剣、イーリスの力の一片。ねぇ、君も私と一緒に来ない?神殺しジーサイドはあなたを求めてる」



「悪いけど、その誘いに乗るつもりはないし、神殺しジーサイドなんてのに興味もない」



「そう、残念」



全く残念そうには見えないが。リリスは小さく微笑むと気絶しているアルドベルクを抱えて俺から離れる。



「また会うのを楽しみにしてる。アルドベルクを殺さないでくれてありがとう」



彼女の横の空間にヒビが入り、徐々に広がって人一人が通れるような広さになる。



「それとアルドベルクがいなくなるから、フランデッタの周辺にモンスターも出てくると思う。迷惑かけてごめんなさい」



「………………」



つまり今回の事件はアルドベルクの復活と何か関係があったのか。そう考えている内にリリスは完全に姿を消してしまった。


一人取り残された俺は薄明るい綺麗な夜空を見上げて溜め息をつく。どうしようもない喪失感に襲われ、何もする気が起きない。


ゆっくりと後ろに振り返り、仰向けで倒れているティナ達に視線を移す。胸に刺さっていた十字架も、いつの間にか消えていた。



「せめて埋葬だけでもしてあげよう」



ふらふらとした足取りでティナ達に近寄り、側まで行くと力無く崩れ落ちる。昨日まで元気だったティナの表情も、今ではぴくりとも動かない。


目を閉じて、これからどうするかを考える。エリーゼやアーシャにはなんて言えばいいんだろうか。自分だけ無傷で帰れば、決して良い対応はされないはずだ。俺も領主のところに着いていけば良かったと今更になって後悔するが、それも既に遅い。



「頼むから……起きてくれよ」



「お、起きてますけど?」



「はぁ、俺も相当やばいな。いま幻聴が……え?」



驚いて目を開ければ、そこには不思議そうに俺の顔を見つめるティナがいた。確かにあの時死んでいたはずなのに、どうなっているんだ。



「あの、大丈夫ですか?ひどくやつれているように見えますが」



「えっいや、あはははは……はぁ。良かった、本当に良かったよ」



続いてルルとリドリーも起き上がり、眠たそうに目を擦りながらこちらを向く。



「あれ?ここどこ?」



「確か私達は領主のところに行ってたはずだけど」



三人とも見たところ体に異常は無いみたいだし、本当に良かった。何故こうなったのか疑問に残るが、それも忘れるくらい安堵している自分がいた。



「本当に……良かっ……た」



「カイトさん!?」



焦ったように倒れる俺を抱き起こすティナ達。安心したからなのか、極度の緊張から解放されたからなのか分からないが、徐々に俺の意識が薄れていく。


そして意識が薄れていく中で、俺はふと思う。この世界に来て色々な事があったけど、今もこうして生きているのはひとえに皆のおかげだ。本当に、皆生きてて良かった。


やがて俺の意識は深い闇へと落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る