第十三話 Aldoberck
翌朝、まぶしい朝日に目を細めながら体を起こす。少し背伸びをして持ってきていた服に着替えると、俺は一階に降りた。
「おはよう」
「おはようございます、カイトさん。昨日はよく眠れましたか?」
食堂のテーブルには既にティナとリドリーが座っており、用意された朝食を食べている。
「ああ、疲れも全部とれたよ。そういえばルルは?」
辺りを見回すが、ルルの姿だけ見つけられない。
「まだ寝ていますよ。もうそろそろ起きてくると思いますが」
「そうなのか」
ルルって意外と朝に弱いのか。俺もあっちの世界では寝坊ばっかしてたし、気持ちはよくわかる。こっちの世界に来たことで、何故か早起きするようになったけどな。
俺はティナたちと向かい合うように座り、用意された朝食に手をつける。しばらくしてルルも降りて来た。
「では、行ってきますね」
「ああ、俺もなるべく有力な情報を集めてみるよ」
朝食を食べ終えた俺達は、さっそく行動に出る。まずは昨日助けたローチェに話を聞いてみることにしよう。
俺は客がいなくなったテーブルを清掃しているローチェに話しかける。
「あの、今回の問題について聞きたいことがあるんだけど。今いいかな?」
「あ、はい!何でしょうか?」
「まず、モンスターがいなくなったのっていつぐらいからなんだ?」
ここはさほど重要でもないが、一応聞く価値はあるだろう。
「んー、そうですね。いきなり消えたのではなく、徐々にその数を減らしていったみたいですよ。確か六十日ほど前からだったと思います」
「約二ヵ月前からか。確かティナ達から聞いたんだけど、フランデッタの周りってモンスターが他の所より多いんだよね?」
「はい、それは昔からですね。かの伝説に載っている勇者、アルドベルク様がこの地に埋葬されているためだと思います。魔王を討ったので、魔族も本能的にここに集まっているって説が今のところ有力ですよ」
そういえばフランデッタの名前を聞いたとき、どこか聞き覚えのある名前だと思ったんだ。ギルドの受付嬢から勇者が埋葬されている話を聞いたことを今思い出した。
「うーん、勇者と今回の問題に関係があるようには思えないけど、一応頭に入れておくか」
「あまり役に立てず申し訳ないです」
申し訳なさそうに謝るローチェを、俺は急いで止める。
「いやいや!そんなことはないよ、十分助かった」
改めてお礼を言うと、彼女は笑顔で返してくれた。何ていい娘なんだろう、としみじみ思う。今もこうして病気の父に代わって店を回しているし、明るい笑顔も素敵だ。あまり俺と年が離れていないのにどこか大人というか、しっかりしている。
「さて、他の客にも聞いてみるか」
周りを見渡すと、奥のテーブルに四人組の冒険者と思わしき人達がいた。近寄って挨拶をすると、冒険者達もこころよく受け入れてくれた。
それから話すこと三十分くらいだろうか。彼らの情報によって驚くべきことがわかった。
まず、このフランデッタの町に伝わる勇者の伝説だが。今から三百年ほど前に存在した実在の人物で、彼は光輝の神シャーロンから授かったGスキルで魔王を倒したらしい。旧ランスロード帝国に多大な影響を及ぼしていた魔王を倒した彼は、当時英雄的な扱いを受けていたそうだ。
それから幾日もしない内に、彼はフランデッタへと辿り着いた。魔王討伐の報酬を受け取りに行く前の休息がてらに、フランデッタの周辺にある丘で休んでいたそうだ。
その時、周りを帝国騎士団に囲まれた彼は、為すすべもなくその場で処刑されたらしい。つまり国に殺されたのだ。英雄視され名声とともに国民の関心を高く集めていた彼を、王は邪魔だと判断し殺害を命じたという。
勇者の名はアルドベルク・サイラー。
Gスキルは【
何とも後味が悪い物語だ。今の王国では考えられないことだが、昔は帝国だったということで変に納得してしまった。
詳しく教えてくれた冒険者達に礼を言い、ティナ達が帰るまで自室で待っていることにする。早く帰って来ないかな。
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