第十一話 Cave
薄暗い洞窟の中、俺達は急ぎ足で進んでいた。灯りはティナが持っている松明の光のみで、しかし唯一の光源はぼんやりとした明るさで少々物足りない。
そんなことを思っていると、ふいに先頭のティナが立ち止まった。
「ゴブリンですね、数は六体。リドリーは後ろの二体をお願いします。私とルルで残りの四体を相手にしましょう」
「「了解!」」
唐突な指示にも関わらず、ルル達はすぐさま行動に移る。まず最初に動いたのは、俺の隣にいるリドリーだった。
「風の精フィルシードよ。我に力を授けたまえ。
落ち着いた様子で唱え終わること数瞬後、突然ゴブリン達の後ろにいた二体が声を出す間もなく真っ二つに斬り裂かれる。
それを合図にルルは帯刀していた二本の短剣を手に取り、流れるように二体の喉元を斬った。
息つく暇もなく今度はティナが長剣を引き抜く。
「スラッシュ!」
その声に呼応するように長剣は青白い光を帯び、並んでいたゴブリン二体を諸共斬り倒した。
「すごい……」
見事な連携だった。僅かな乱れもなく、まるで前もってこの事態を想定していたかのような動き。やはり王国騎士団の名は伊達じゃないみたいだな。
「ルル達にかかればゴブリン程度なんて、楽勝の二文字だよ!」
他の二人とは違い、ルルだけはとてもはしゃいでいた。ティナは倒したゴブリンの元にかけより、何かを手に取る。
「これはゴブリンのドロップアイテムである[小鬼の爪]ですね」
「ドロップアイテム?」
というと、モンスターを倒した時に出てくるアイテムの事か。一般的なゲームではそれを武器や防具の材料にしたりするよな。
そういえばアグラードを倒した時はそんな物落ちなかったはずだ。ドロップの条件にある程度の原形を留めさせておくとかでもあるのだろうか。
「さぁ、先に進みましょう。まだ先は長いですよ」
その言葉に俺達は頷き、再び足を進める。洞窟の先はまだ続いているのか、一向に出口が見えない。
「なぁ、さっきリドリーが使ってた魔法って誰でも使えたりするのか?」
ふと気になった俺はリドリーにそう質問した。ヴァンザドール戦で初めて魔法を使ったが、今一どういったものかが分からない。それに、今までゲームなどでしか聞かなかった魔法を実際に使えるまでに至ったのだ。聞きたくなるのは必然的なことだろう。俺の質問に対してリドリーは首を横に振る。
「いいえ、魔法は誰でも使えるわけではありません。知識と魔力が無ければ発動すら出来ませんよ」
「でも俺は詠唱するだけで発動できたんだけど」
「たまにそういった例外もあるみたいですよ。生まれながらに精霊の加護を貰っているとか」
「そうなのか……」
精霊に関しては何とも言えないが、今の話を聞く限り魔法に精霊が関係していることは間違いなさそうだ。イーリスから貰ったスキルに全魔法使用可能って書いてたから、もしかするとこの世界でも神は精霊よりも上位の存在なのかもしれない。
「簡単に説明しますと、魔法を発動するためには、まずオドという体に元々宿っている魔力で魔法陣を描き、マナという自然に満ちている魔力に干渉させて現象を発生させることが必要です」
リドリーの言葉に俺は首を傾げる。説明してくれることはありがたいのだが、如何せん全く内容が頭に入ってこない。
「マナは単に力、存在というだけではありません。資質と実態、そしてその状態のことを表しています。オドはその魔力量で魔法の威力が変わりますが、どちらにしても魔法陣という媒体がない限りは発動致しません」
「その魔法陣って設計図みたいなものなのか?」
「大雑把に言えばそうです。万物万象に干渉できるマナはこの世界に溢れるほど存在しています。もちろんいまだに完全であるとは言えませんが、ある程度の研究が進められていますよ」
なるほど、さっぱりわからん。もう魔法のことは無視していいかな。どうせ詠唱するだけで発動できるんだし、知識は必要ないか。
「もうすぐ出口です。急ぎましょうか」
ティナの言葉に頷き、俺達は早足に洞窟内を進んでいく。途中、何度かゴブリンや蜘蛛みたいなモンスターに遭遇したが、俺の出る間もなくティナ達がことごとく倒していった。そして強い光を浴びながら出口を抜ける。
目の前には相変わらず大草原が広がっていたが、一つ違ったのは向こうの景色が山から街に変わっていたことだ。
「あれがフランデッタなのか?」
「うん、そうだよー!」
俺の言葉に前にいるルルが答える。遠くに見える街は王都には劣るものの、それでも結構な規模だ。草原には大きな通り道があり、恐らくこれを辿ればフランデッタに着くだろう。
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