第九話 Return

王国に帰還した後、ギルドには大勢の冒険者達が押し寄せていた。ヴァンザドールの討伐報酬を受け取るためだろう。


俺も報酬金を受け取ろうとギルドに入ろうとするが、直前でアーシャに止められてしまった。



「カイトさんには重要な話があるので、王城まで来てもらいます」



「え、俺なんかやらかしたかな?」



「心配しなくても大丈夫ですよ。すぐに終わりますので」



「そっか」



どうやら俺に拒否権はないらしい。仕方なく他の王国騎士達と一緒に王城へと向かう事にする。その道中では女騎士達の視線が終始俺へと注がれていた。微かに話声も聞こえてくる。



「ねぇ、あれって本当なの?Eランク冒険者がSS級のヴァンザドールを消し飛ばしたって」



「私は気絶してて見てないけど、本当らしいわよ。ほら、あそこにいる男性がそうみたいよ」



会話しているのは俺の後ろにいる女騎士の二人だった。片方の女性が俺を指さして何やら楽しげに話している。



「しかも指一本で倒したんだよね?」



「最上級魔法も無詠唱で発動したらしいわよ」



いや、ちょっと待とう。そもそもヴァンザドールを指一本で倒してないし、初級魔法もきちんと詠唱して発動したしっ!


やっぱり失敗だったかな。そもそも冒険者になりたての俺が、エリーゼでも倒すのが難しいSS級のモンスターを倒したんだから、この反応も当然だよな。



「私も正直驚きました。まさかカイトさんがあれほどの力を持っていたなんて」



隣のアーシャも同じ様な反応だった。



「たまたまだよ。それにエリーゼがいてくれたから倒せたようなものだし」



「ふふっ、どうかご謙遜なさらずに。私もしっかりとこの目で見てましたよ」



「あ、あはは……」



アーシャの言葉に苦笑いで返す。恐らく王城に呼ばれたのもこの件に関しての事だろう。


城門から徒歩で二十分ほど経っただろうか、ようやく王城の扉が見えてきた。その堅牢な門をくぐり、騎士団に続いていくとあの風呂場での事件でお世話になった部屋に通される。


中にはすでにエリーゼが待っていた。あのふかふかなソファに腰をかけ、腕組みをしながら鋭い視線を俺に向けてくる。



「よく来たな。今回は聞きたい事があって貴様をここに呼んだんだ。すまないが、皆席を外してくれないだろうか?カイトと二人で話がしたいんだ」



言われた通り他の女騎士達は部屋を出ていった。後に残ったのは俺とエリーゼだけだ。痛いほどの静寂がこの部屋一帯を包み込む。



「とりあえず座ってくれ」



「ああ……」



言われた通り、エリーゼと対面するようにソファへと腰をかける。



「率直に質問する。貴様はどんなSスキルを持っているのだ?ヴァンザドールを一撃で倒したところを見るとステータス干渉系のようだが」



「いや、Sスキルというか何というか。本当にあれは偶然なんだ」



「偶然でSS級モンスターが倒せれば誰も苦労などしない!」



エリーゼはテーブルを砕く勢いで叩き、体を前のめりにして俺を睨んでくる。しかし、すぐにその表情を曇らせると、少し申し訳なさそうに呟いた。



「だが、負傷者が出なかったのも貴様のおかげだ。それだけは感謝している、ありがとう。だから一つだけ頼みごとを聞いてくれないだろうか」



「頼みごと?」



「ああ、実は王都から北の位置にあるフランデッタという町で問題が発生している」



フランデッタ──どこかで聞いたことがある名前だ。というか問題って何だろう。



「モンスターが大量発生とか?」



「いや、その逆だ。モンスターが一匹残らず消え去っているのだ」



「は?」



モンスターが一匹残らず消え去っただと?本当にそんな事があり得るのか?いや、仮にあり得たとして、それのどこが問題なんだろう。モンスターがいなくなったんだから平和でいいじゃないか。



「私達としても平和でいいことなのだが、フランデッタではそれが致命的な問題となっているらしい。あそこはモンスター討伐の報酬金で生計を建てている冒険者が多いからな」



「つまりフランデッタの冒険者達は実質無職なのか」



「ああ、しかも少数の冒険者達が盗賊に身を投げたとの報告もあった。町は今混乱に陥っている」



ようするに冒険者達の狙う対象がモンスターから人間に変わったのか。事態は想像以上にひどそうだ。早くこれを治めなければ、いずれフランデッタの町は大変なことになるだろうな。



「というか何で俺に頼むんだ?この前まで犯罪者呼ばわりされてたんだぞ?」



急な展開で忘れかけていたが、俺はエリーゼに疑われていたのだ。そんな信用のない奴に、こんな重大な問題の解決を任せてもいいのだろうか。



「それは今回ヴァンザドールを討伐したことによって貴様のギルドランクがSSに昇格したからだ。もちろん王国騎士団も向かわせるが、アーシャ含め私たち上層部の者は別の問題を片付けなければならない。これは即戦力である貴様にしか頼めないことなのだ」



いつにも増して真剣な表情でそう言ってくる。そこまで言われると、何だか断りにくいというものだ。まぁ冒険者としての実績を残すと考えればいいか。



「わかった、俺も行くよ。ただ一つ気になった事があるんだけど」



「なんだ?」



不思議そうに首を傾げるエリーゼへ、俺は転生してからずっと疑問に思っていたことをぶつけてみた。



「王国騎士団には女性しかいないのか?男を一人も見てない気がするんだけど」



あれから何度か王国騎士団と接する場面があったが、いつも見かけるのは女騎士達だけだった。街にはちゃんと男もいるし、冒険者にも男は大勢いたはずだ。


王国騎士団に入団する条件が女性のみとかでなければ、何かしらの問題があってこのような状況になっているとしか考えられない。



「確かに今ここには女の王国騎士しかいないが、心配せずとも男の王国騎士もいるぞ。ただ別のSS級モンスターを討伐しに行っているだけだ」



「そうなんだ」



それを聞いて安心した。てっきりこの世界では女性の方が男よりも強いのかと思っていたからな。


エリーゼにもう一度フランデッタのことで念を押され、この部屋を後にする。出発は明日の昼、王城の門に集合らしい。


それと協力してくれるお礼にまた騎士団の宿舎に泊まらせてくれるみたいだ。加えて晩御飯も出してくれるらしい。


ありがたい待遇に喜びを感じながら、俺は王城を後にした。

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