第四話 Guild

翌朝、窓から入ってくる眩しい朝日に目を細めながら、俺は体を起こす。どうやら昨日、アーシャにこの部屋を案内してもらった後にすぐに寝てしまったようだ。


寝起きの体を叩き起こして周りを見渡す。昨日は暗くて分からなかったが、よく見ると俺が生前に使っていた自室よりも広い部屋だ。


恐らくはこのベッドやその他の家具なども高価な物なのだろう。この王国は騎士団に力を入れているのか、昨日見た女騎士達の装備も高そうな物ばかりだったような気がする。


少し冷気を帯びた朝の風を感じながら、俺は今後の方針を考える事にした。とりあえずはギルドに入り、ある程度この世界での生き方を身に付けなければならない。


最終的な目標は神々のスキルを授かった人達との戦いだけど、もしその中に善意のある人がいればどうしようか。悪いことをしないならそれはそれでいいんだけど、味方とも限らないし。


というか神の能力を持った敵に勝てるのだろうか。一応創造神の能力を貰っている俺だけど、今一このGスキルの強さが分からない。まだまだ確認しなければならない事が山ほどある、数えだしたらキリがないな。


俺が次々と浮かび上がる問題に頭を抱えていると、不意に部屋の扉が開かれた。



「おはようございますカイトさん、よく眠れましたか?」



「ん?ああ、よく眠れたよ。おかげで絶好調だ」



声の主はアーシャだった。昨日見た鎧姿ではなく、パジャマのようなゆったりとした服を着ている。そしてやはりスタイルが良かった。姫やエリーゼには劣るものの、アーシャも十分に可愛いと思う。


腰まで伸びた艶やかな茶髪。少し眠たそうにこちらを見ている黒眼。今まで見た中で一番の大きさを誇るバストにキュッと引き締まった腰。この王国は俺を悩殺したいのだろうか。



「それは良かったです。今服をお持ちしましたので、こちらに着替えて下さい。さすがにその服装では目立ち過ぎますよ」



そう言われて学生服を着ている事に気が付いた。確かにこんな服装の奴なんて異世界にはいないだろう。



「ありがとう、何から何まで迷惑かけてるみたいで申し訳ないよ」



お礼を述べて服を受け取ると、アーシャは何も言わずに部屋の外へ出て行った。恐らく今の内に着替えろと言いたいのだろう。


窮屈だった学生服を脱ぎ、渡された黒地の長袖とズボンを着る。中々着心地がいいところを見ると、恐らくはこれも高価な物なのだろう。ほのかにいい香りもする。



「着替えが終わったみたいですね、それではギルドへご案内致しましょう」



「ああ、よろしく頼む」



アーシャに続いて部屋を後にし、そのまま宿舎の外へ出る。まだ時間が早いのか、王城の周りにはあまり人がいなかった。


それから王城の門番に軽い挨拶をして城下町へと進む。石畳の道路にレンガ造りの家など、ファンタジー溢れる情景に俺は心を奪われていた。



「何だか思っていたよりもずっとわくわくしてるよ」



「何がですか?」



「いや、何でもない。気にしないでくれ」



何はともあれ、早くここでの生活に慣れなければならない。お金に関しても食料に関しても全く地球と一緒ではないはずだからな。運良く言葉は通じてるみたいだけど。



「着きました。ここが冒険者ギルドです」



「これが……」



周りに建ち並ぶ家屋や商店とは一戦を画して、一際目立つこの建物。少し古びてはいるものの、外観は想像していたものよりもずっと素晴らしかった。


レンガ造りなのは変わらないが大きさが普通の一戸建ての四倍くらいはあるし、それに二階建てというおまけ付きだ。


所々に松明たいまつが設置してあり、他にも剣や盾などの装飾も施されている。加えて早朝にも関わらず人が沢山いた。



「登録までは私がお手伝い致しますのでご心配なさらず。さっそく中へ入りましょう」



「あ、ああ……」



なされるがままに俺はギルドへと足を踏み入れる。扉を開けると、そこはまるで居酒屋のような所だった。少しばかり広い空間に等間隔にテーブルとイスが設けられており、様々な武器や防具を身につけた冒険者達が幾つかの塊となって楽しそうに喋っている。



「奥に見えるのがギルドの受付です。あそこで依頼の受注やギルドカードの発行・登録を行うことが出来ますよ」



案内されたのは酒場の空間を抜けた先にある銀行の受付のような所だった。三人の受付嬢が慣れた手付きで仕事を捌き、並んでいる冒険者達の列がどんどんなくなっていく。そして遂に俺達の番が来た。



「おはようございます。今日はどのような……あら、アーシャさんじゃないですか。どうしたんですか?」



「おはようございます、レイラさん。今日はこの方のギルドカードを発行してもらいに来たのです」



「新規の方ですね。少々お待ちください」



そう言うと少女は奥の方へと行ってしまった。



「彼女はレイラ・シャルラントといってこのギルド一番の看板娘なんですよ」



「へぇ、そうなのか」



確かに見た感じ人懐っこそうな顔をしてるし、なんというか雰囲気からして可愛かったな。あれなら冒険者達の中で人気が出るのも頷ける。



「お待たせしました。新規の方には簡単な質問に答えて頂きますね。まずお名前と年齢を教えて下さい」



「カイト・ヒロ、十七歳だ」



「カイトさんですね。出身はこのランスロード王国でよろしいですか?」



「ランスロード王国……なのかな?うん、ランスロード王国出身だ」



ここは変に波風をたたせず、成り行きに任せてしまおう。出身国不明なんて怪しすぎてヤバいよね。



「分かりました。ギルドカードを発行しますので少々お待ちください」



そう言ってレイラは再び奥へと行ってしまった。冒険者達がこんなに多くいるのに俺に時間を掛けさせてしまって申し訳ないな。



「後は受け取るだけですので、私はここで失礼しますね。試しに依頼なども受けてみてください」



「ありがとう。何だか色々としてもらってるみたいでアーシャには頭が上がらないよ」



それを聞いたアーシャは「お気になさらずに」とだけ言い残して後ろへと消えて行った。丁度その時、ギルドカードの発行が終わったのか、奥からレイラが現れる。



「お待たせしました。こちらがカイトさんのギルドカードです。一応身分証などにもなるので無くさないように気をつけてくださいね。再発行も出来ますが、その場合は料金が発生します」



レイラからの忠告を聞き、白色のギルドカードを受け取る。表面には俺の名前や出身国、ランクが書いてあった。



「このEランクっていうのは……」



「それは冒険者の功績を示す位階です。E・D・C・B・A・S・SS・X・Zの順で位が高く、それに応じて受注できる依頼や報酬金の額、ギルドカードの色などが変わってきます」



えっ、何か異様にランク多くない?SSは分かるけど、なんでXやZまであるんだ!


戸惑いながらも再びレイラに質問する。



「そ、そうなのか。Eランクってどんな依頼が受けられるんだ?」



「主に下級モンスターの単体討伐や薬草などの素材収集です。ですが、冒険者の申し入れがあれば二段階まで上の依頼も受けられますよ。しかしその場合は、冒険者ギルドは一切の責任を負いませんのでご了承ください」



つまり自分より上のランクの依頼を受けるときは自己責任って事だよな。まぁそれが当たり前なんだろうけど。



「さっそく依頼を受けたいんだけど、Cランクの依頼を受けさせてくれないか?」



「先程も言いましたが、冒険者ギルドは一切の責任を負いませんよ?それでも受注されますか?」



少しだけ威圧的な口調でレイラは忠告をしてくる。恐らくは過去に何かあったのだろう。だけど、あの時見た自分のステータスを考えるとこれくらいの難易度は余裕なはずだ。



「ああ、よろしく頼む」



それを聞いたレイラは少し考え込むと、しばらくして諦めたような表情になる。



「わかりました。丁度さっき入ってきた依頼があるので、それでよろしいですか?」



俺がその問いに頷くと、レイラは書類に記入をして俺に渡してきた。何か難しい内容だったが適当に自分のサインをして返す。



「今回の討伐対象はアグラードです。絶対に無理をされないようにしてくださいね?」



「わかってるよ。もし危ないと思ったら全力で逃げる」



「ふふっ、それを聞いて安心しました。場所はここから正門の方に出てまっすぐ行ったところにあるエルシャの森です。ご健闘を祈ってますね」



「ああ、頑張ってくる」



手渡されたモンスターの絵を見つつギルドを後にする。あれだけ心配されるとは思ってもいなかったから、少し悪かったかな。


何はともあれ初の戦闘だ。湧き上がる興奮を感じながら、俺は道行く人達に正門の場所を聞いてエルシャの森を目指して行くのであった。

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