第三話 Ranceload Kingdo
場所は変わって王城の二階にある部屋。あの浴場での事件の後、頑なにステータスを教える事を拒む俺を見て諦めたのか、エリーゼは強引に俺の手を引いてここまで連れて来たのだ。それに加えて姫を送っていった女騎士達も合流し、今は俺を包囲するように並んでいる。
部屋の内装はあの浴場より少し抑え目ではあるものの、やはり豪華だった。なんと言っても金色に光り輝く壺や虹色の宝石で装飾された机や椅子などが物凄く存在を主張している。
この部屋に来るまでの通路も絶対に忘れないはしないだろう。あのふかふかしたカーペットとキラキラ光るシャンデリアは何なんだよ。
どれもこれも初めて見る物ばかりだった。
「そろそろ本当のことを話せ」
「だから俺は何も企んでなんかないんだって!」
エリーゼと対面するようにこれまたふかふかな椅子に腰掛けると、唐突にそんなことを言ってきた。どうやら浴場での事をまだ疑っているらしい。
「ならば何故転移魔法を使えたんだ?この王城は侵入者への対策として特殊な結界を張っているのだぞ?何者にも破られぬ、それこそ神に等しい力がなければ無理なのだ」
あー、それあれですよあれ。神が転移魔法使ってたからね。結界が破られるのも仕方ないと思います。
「本当に何も知らないんだ。頼むから信じてくれよ」
「そんな事で信じられるわけがないだろう!出身国も分からないし、何よりお前のその服装は何なんだ?」
唐突に学生服の事について咎められ、俺は返答に困る。この場合は何て言えばいいんだろうか。
「失礼ですがエリーゼ騎士団長。もう夜も更けますし、この者の身柄は一旦騎士団が預かるとして、明日にでも冒険者ギルドに任せてみてはどうでしょうか?」
焦る俺の後ろから救いの声が聞こえた。振り返ると、そこには一人の女騎士が優しい表情で俺を見ている。
「冒険者ギルドか、なるほどな。しかし姫様には何と説明すればいいだろうか」
「姫様にもきっとご理解して頂けるでしょう。見たところこの方が悪い様には見えませんので」
どうやらここにも一人、俺を庇ってくれる人がいるようだ。ありがたい事この上ないのだが、果たしてエリーゼは納得してくれるだろうか。
「仕方ない、そうするか。確か騎士団の宿舎が一室空いていただろう?案内してやってくれ、アーシャ・フェルズナント」
「了解しました」
案外あっさりと許可されたようだ。呆けている俺に、アーシャと呼ばれた女騎士が近寄ってくる。
「私に着いてきて下さい。騎士団の宿舎にご案内しましょう」
「すまない、助かったよ」
俺はアーシャに礼を述べると、背後にエリーゼの鋭い視線を感じながらその部屋を後にする。俺を包囲していた女騎士達もそれに続いて部屋を出ていった。
先程通ってきた豪華な廊下を歩き、一階への階段を下ると大広間に出る。そのまま真っ直ぐに大広間を横切ると、少し大きめな扉があった。多分これから外に出ることができるんだろう。
扉を開けると、辺りは夜の静かな闇に包まれていた。所々に設置されてある
「なぁ、一つ聞いていいか?」
俺はエリーゼとの会話で疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「何でしょうか?お答えできる範囲内であれば良いですよ」
「冒険者ギルドって、あのモンスターを倒して報酬を貰える所だよな?」
「ええ、その認識で間違いないですよ?」
さも当然と言わんばかりに首を傾げるアーシャへ、再び質問をする。
「なんで俺を冒険者ギルドに預けるんだ?こんな怪しい奴、速攻牢屋にぶち込むべきだろ」
「確かにその方が確実とも言えますね。ですが、冒険者ギルドへ預けた方がこちらとしても都合がいいんですよ。ギルドカードを通して冒険者全員の功績を管理していますので」
「つまりギルドに預けた方が俺を監視しやすいと?」
「そういうことです」
なるほど、監視もしやすく且つ魔物も倒してくれる俺の存在は、王国からしてみればデメリットよりもメリットの方が大きいのだろう。
それにある程度の功績を残せば、王国に貢献した事になるため少なからず疑いも晴れるかもしれない。
「わかったよ、新米冒険者として地道に頑張ってみる。アーシャにも恩があるしな」
「いえ、私の事はお気になさらずに。早く疑いが晴れるといいですね、私は応援してますよ」
アーシャの言葉に、俺は自然と笑みがこぼれる。異世界の人間に対して少なからず不安もあったのだが、アーシャみたいに優しい人間がいるのであれば、この世界も悪くないのかもしれない。エリーゼはちょっときついけど。
神から与えられた第二の人生だし、スタートからどんよりするよりも楽しく過ごしたいのは大前提だ。こんな俺でも世界の一つや二つは救える事を、あのイーリスにも証明してみせる。
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