第3話 誰か夢オチと言ってくれ

『この世界はループしている』

 後ろから自分のものではない低い声が聞こえて咄嗟に逃げ出した。

『まってくれ』気が付くと青いローブをまとった男が目の前にいた。

「な、あなたは誰ですか」というか何で知っているんだ。

『誰であるかは関係ないが、しっているんだ。名前は……まぁいい。アストとよべ』

「アスト……」正直、知らない人だからなどと構っていられるわけではない。俺はずっとずっと夏休みをループを出るためだけに使っている。

「ループしているのを知ってるなら、その解き方はわからないのか?俺は、ちゃんと未来に行きたい。」

 アストは……俺の顔を不思議そうに眺めている。

『……どうしてもどりたいんだ?明日がくる世界に』

「え」それは、

『今日が充実していて、幸せだとはおもわないか?夏休みがおわれと、そうねがっているんだぞキミは。』そうかもしれないが、俺は

『みんなが夏休みの終わりをのぞんでいないとしたら、キミの敵は……どれだけいるのだろうな。……それでもその全員を説得して、明日にかえりたいか?』

「……帰りたい。」

『なぜ?』

「……この世界が変だって思うからだ。いつもの世界に戻りたい」

 アストは黙っている。理由に問題でもあったのだろうか。苦虫を噛み潰したような顔をしている。

『……おおきな決断をしいられる可能性がある。なにかおおきな変化がおこって、キミがのぞむ明日にはもどれない可能性だってある。』声が小さくなったような気がする。

「……それでもいいんだ」

『……いいだろう』

 アストは、微笑んでいる。どこか、苦笑いのような。

『私がいえることはない。キミはきっと答えをみつけるさ。キミの大事な人を大切におもえば、きっとわかる』




<Loop>

 ……ベッドから落ちた。

「……ゆめ……?」

 7月の21日。またこの日が来た。今日から夏休みが始まる。


 そして……終わらない。

<Loop/>


<Loop>

 俺はみんなの望みを聞きあさった。世界平和。みんなの健康。いつも通りの自由な時間(これは船津)。しかし、一つだけ不思議なものがあった。

「特に……何もないかな」……無論、珠美である。


 珠美にしたいことはないのだろうか。本当に?なんだか逆に引っかかってしまう。ここで確信する。俺はこれを叶えるためにループしているんだ。

</Loop>


 <Loop>俺は繰り返す。</Loop>


 <Loop>俺は繰り返す。映画に行ったり行かなかったり。</Loop>



<Loop>

「珠美」

「あ、何?」……最近、気づいたことがある。珠美はいつも歩いているとどこか遠くを眺めているのだ。

 俺はそのあと何度も繰り返した。何度目かの夏かわからないが、高校生になり大学生になり、夏の経験回数だけならおそらく新しく就職した人たちを超えた。いや、夏の記憶回数のほうが正しいかもしれない。ほかの人も本当は同じ夏を迎えているはずだから。俺のループの中ではモブになっている彼らは、どんな夏を過ごしているのだろう。

</Loop>



 <Loop>俺は繰り返す。映画に行ったり行かなかったり。デートに行ったり行かなかったり。</Loop>


 <Loop>俺は繰り返す。映画に行ったり行かなかったり。デートに行ったり行かなかったり。ふさぎ込んでみたりもした。</Loop>



<Loop>

 何が悪いんだろう。俺の行いが悪いのかなあ。彼女をほったらかしにしないいい彼氏じゃーん、なんて茶化されてまんざらでもなかったんだけど、何か間違っているんだろうか。何か寂しい思いをさせていないかと彼女の表情を一生懸命に眺めたり彼女の望みを一生懸命探しても、俺はその答えを見つけられないでいた。


 あんなに楽しんでいたはずの夏休みも、もう彼女の視線を探るばかりだ。デートに行っても、彼女がどこへ行きたいのか?何がしたいのか?を考えさせられるばかりで……引きこもってループもののファンタジーを読み漁る日々も続いた。勉強するのも気分転換にはよかったみたいで、何も考えずに勉強することも増えた。母さんが喜んでいいのかだめなのか、何かあったのか訊くべきか、よくわからない顔をしていたけど、俺にはどう説明したらいいかわからなかった。答えはたぶん、自分で見つけるべきだと思ったから、船津や仲のいい人たちへのいろいろな質問も途中のループでやめた。

</Loop>



 <Loop>俺は繰り返す。映画に行ったり行かなかったり。デートに行かないことも増えて、俺も少しずつわかってきた。</Loop>


 <Loop>俺は繰り返す。映画は上映されているものすべてを飽きるまで見尽くして、もうたくさんだ。</Loop>


 <Loop>俺は繰り返した。</Loop>



<Loop>


 そしてだんだん、


<Loop>


 だんだんと。


<Loop>


 …わかってきた。


<Loop>


 そして、



If Subjects = Achieve Then

Date = Continue

Else

Date = Return

End If



 今のループにい続けたいと、願うようになった。

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