ONE AND ONLY②~後日~
第11話 ~SIDE ……~
その二人は入学してきた時から有名だった。
一人は男の俺でも見惚れてしまうような端正な顔の持ち主で、やはりそれを女は放ってはおかなかった。
入学後も奴が近くを通れば騒ぐし、食堂に顔を出すと情報が入ればいつもは弁当派の女もその日は食堂で食べることに変更するほどだ。
でもその男はそんな周りの環境にもなれているようで、別に対して驚きも喜びもしていなかった。
でもそんな男が感情を表に出すとき。
それはもう一人の有名人が男のそばにいる時だけだった。
もう一人の男は端正な男とは違い、顔も普通だし性格も普通で俺としては親近感が湧く存在だった。
端正な男は完璧すぎてどこか近寄りがたい雰囲気を醸し出すのに対し、その連れはその逆だった。
どちらかというと普通の男は端正な男によって有名にさせられていると言う感じだった。
普通の男自身に何か他を引き付ける何かはないのだ。
知り合いの後輩が飲み会に連れてきた時に少し話したが、居たって普通のどこにでもいるような大学生だった。
彼と彼らの感覚は俺とその他とかけ離れており、後輩が彼におかしいと言っても彼はそれの意味が分からないようであった。
最初はそれくらいの接点。
それが大学を卒業する頃には一番気にかけている後輩なろうとは、あの時の俺は予想もしなかった事だろう。
まあ俺が浪人して同学年になったのが一番仲を縮めるきっかけだったとは思うが。
そんな二人が周りからおかしいと言われても、二人でいることを選んだのは俺の就職先が決まったころだったと思う。
近くでそれを見てきた俺からすれば、落ち着くところに落ち着いたといった表現が一番しっくりくる。
そこ以外の位置では違和感を覚える。
彼には奴の隣が。
奴には彼の隣が。
それが生まれた時からの二人の定位置なのだろう。
大学卒業後どのような進路を歩んだかはわからない。
自分の事が忙しく、俺自身が周りを見れなかったせいもある。
それに加え彼が余り周りと関係を持たなくなったせいでもあると思える。
そんな大学時代の後輩兼友人兼同級生の彼……珠緒と偶然駅であったのは俺が就職して3年後の事だった。
「久しぶりですね先輩。お元気でしたか?」
営業回り中に偶然後ろから『先輩?』と懐かしい声で声をかけられた。
声を掛けてきた珠緒はあの頃と変わらず、1人だけ3年分の年月を過ごしているように感じるほどだった。
辺りを見回したがどうやら奴はいないらしい。
「善也の事ですか?あいつならいませんよ」
「あー、悪い。つい癖で……」
あのプリンスの嫉妬深さを思い出した俺を目にした珠緒が笑う。
その笑顔に息を飲んでしまった俺が居た。
別に珠緒はあの頃と変化はない。
むしろ3年の歳月など感じさせないくらい未だ若く見える。
でもなぜか珠緒が醸し出す雰囲気が、あの頃の珠緒と違う人間なのだと俺に理解させたのだった。
多分こんな風に珠緒を変えたのはあのプリンスだ。
あの頃の珠緒は自分とプリンスの関係に名前を付けられずに、普通になろうとしていた。
所が今の珠緒はありのままを受け入れ、そして自分で選んだ所為か妙にすっきりとした顔をしている。
『少し話しませんか?』そう珠緒が声をかけてきたのと、営業回りがうまくいかなかった事が重なって俺はその提案に2つ返事で飛び乗った。
近くにあった喫茶店に入ると、俺たちは互いにアイスコーヒーを注文して喉を潤した。
「俺の顔何かついてますか?」
「え?あーいや、何か変わったかな?って思ってた……」
「んー、善也の贔屓目で見ると色気が只漏れらしいです。おかしいでしょう?」
あながちプリンスの言うことは間違っていないんじゃないかと思う。
彼に愛され、彼を愛している珠緒は中も外も満たされているのだろう。
「……珠緒は今幸せか?」
「はい。善也がいますから」
俺の問いに間髪入れずに回答する珠緒の顔に迷いはない。
あの時も思ったが幸せで何よりだと思う。
「そういえば、珠緒は今何やってるんだ?」
「俺ですか?俺は……自営業やってます」
「自営業?じゃあ社長さんってわけか……。凄いな。俺なんてまだまた下っ端の営業回りだぜ」
「そんな大層なものじゃないですよ……自由気ままに輸入雑貨の販売代行みたいなことやってます」
あの頃自分の就職先は決まっていたが、珠緒の就職は決まっていなかったはずだ。
とりあえず今働いていると言う事なので一安心だ。
「プリンスは?」
「あー、その呼び方久々に聞きました。善也は家にいますよ。在宅ワークみたいなやつですね」
「……株か?」
「まあ、当たらずとも遠からずですね。小さなコラムの連載やってたり、翻訳やってみたりとか器用に働いていますよ」
あの当時の俺から見た二人はとても危うくて、この社会という存在が二人の壁になっていることは明らかだった。
生きていくためには金が必要だ。
でも恐らく、この二人は離れてしまってはダメになるのだと思う。
確信はないが、俺にはそう思える何かがあった。
「頭良かったもんな。流石プリンスだな」
「今じゃ王子って言うより、王様って感じですよ」
多分それは珠緒が自分のものになったからだと俺は思ったが、それは言わないことにした。
言わなくてもきっと珠緒は分かっている。
守るべきものを手に入れたのだから責任も生まれる。
王子のように庇護される立場ではなく、庇護する立場の王へ進化したのだろう。
「あ、時間大丈夫ですか?まだ先輩お仕事中でしょう?」
「うん、まあ……。契約取れないんだよな。また怒られちゃうよ……」
「でも先輩頑張ってるじゃないですか。俺応援してますよ」
「おうよ!地道に頑張るぜ!」
年上の俺の威厳でコーヒー代は俺が払い、『じゃあ次は俺が払います』と珠緒は言う。
言うけど多分俺は次など無いと思っている。
俺の携帯には珠緒の連絡先が登録されてはいたが、卒業後使うことはなかった。
俺もあの頃から番号を変えたわけではなかったので珠緒が連絡を取る気なら連絡が取れる。
でも今までなかったのだから多分これからもないのだ。
今日が偶々そして唯一の日だったのだ。
これが他人と極力関わらずに、狭い世界で生きていくと言う事を決めた俺の後輩の人生なのだ。
それを選択したのは目の前にいる俺の自慢の後輩だ。
俺にはできない。
自分にできないことろやり遂げるからこそすごいと思える。
出会った当初珠緒事態に有名人になる要素は感じられず、親近感を覚えたりしたが今ではそれは俺の勘違いだったようだ。
俺は珠緒のようにはなれない。
親近感どころか恐らく真逆の位置にいるのだろう。
「頑張れよ!珠緒」
「はい、先輩も」
俺と珠緒が大学で出会ったのも偶然。
そして仲良くなったのも偶然。
今日出会ったのもまた偶然。
偶然が続いていけばいつかはまた昔みたいに会えるのかもしれない。
駅とは逆方向に歩いていく珠緒の背を見送り、俺も仕事を再開させるかと頬を叩き喝を入れたのだった。
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