第10話 ~SIDE T~

「で、無事くっついた……と?」


「はい、なんかいろいろ考えていたのが馬鹿らしいくらい今の状況が落ち着いているんです」


先輩は少し困ったような顔をしていたが、俺の晴れ晴れとした顔を見たら何も言えないようだった。

あれから俺は善也の家に引っ越しをした。実家にそれを伝えると『ようやく腹を括ったか』と言われるほどだった。

もしかすると俺と善也を取り巻く家族はいずれこうなることが予想できていたのかもしれない。


「いや、俺は男同士の何が良いのかわからないけどさ……やっぱりおっぱいって幸せになれるじゃん?……でも珠は今幸せなんだろう?」


「はい」


即答する俺を見て苦笑いを浮かべる先輩に少し申し訳なくなった。

多分俺と善也の関係は世間一般的に見たら変わっていて、理解されなくて、賛同者も少ない関係なのだろう。

全員に理解されなくていい。自分を取り巻く限られた人が許してくれるなら、俺はずっとこの関係を続けていこうと思う。

許してくれない場合は悲しいかな、その人とのつながりを切るまでだ。

俺にとって優先すべきは善也なのだから。


「ならいいよ。うん、それが一番いい」


「幸せですよー。早く先輩もいい人見つけてください」


『ほっとけ』と言って俺の頭を軽くたたくと先輩は席を立ってしまった。

俺は慌ててそれを追いかける。

先を歩いていた先輩は構内に生える木の一角を指さして止まっていた。


「どうしたんですか?」


「ほら、あれ。お前とプリンス」


先輩が指さす方には仲良く寄り添う二羽の鳥がいた。

二羽は寄り添い羽を休めているようだった。


「先輩意外とロマンチストですね……。でも俺もこれからずっとあの鳥たちみたいに、善也と寄り添って生きていきますよ」


「おうおう。頑張ってくれ……って、ん?寄り添う?あぁ、はいはい。違う違う。下見てみろ、下、しーた」


どうやら先輩はあの二羽を指差したわけではないらしい。

俺は先輩の本来指差す方向へ視線を向けると……


「あんな風に二羽で一つの体に翼をはやして、一羽になって飛ぶ鳥がいるんだよ。片方だけじゃ飛べないだろう?本当お前たちみたい」


先輩はそういうと笑って講堂へ入ってしまった。

俺はその光景を黙って見ていることしかできなかった。

昔何かの本でちらっと読んだ覚えがある古い言い伝え。

比翼の鳥……確か雌雄それぞれ目と翼が一つずつで、常に一体となって飛ぶという想像上の鳥だったはずだ。

片翼では飛べない、二人いないと生きることができない。

まさしく俺と善也のようだ。


「まじ先輩最高ー」


寄り添う二羽によって地面に作られた影を俺は携帯で撮影した。

帰ったら善也にも見せてあげよう。

多分善也も気に入るに違いないと確信しながら、先を行ってしまった先輩の後を追ったのだった。

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