第4話 ~SIDE T~

「先輩!無事就職決定おめでとうございまーす!」


そんな掛け声で先輩の祝賀会は開かれた。

集まっているのは男女学年年齢様々。

先輩の人脈の広さと、人望の成せる業だろう。

中にはまだ自分の進路が決まっておらず、第二の先輩になる可能性がある奴だって居るのに。

こうやって他人の幸せを自分の事のように祝福できる関係は中々築けないと俺は思う。


「ありがとー、ありがとー!みんなも俺に続いて世界に羽ばたけ~」


そう先輩に言われて考える。

幼稚園、小学校、中学校、高校、大学……ここまでは自分の意思で居場所を決めることができる。

でもその後を考えた時、自分の意思でそれは選べない。

選ぶのは社会だ。

俺の居場所……善也の隣。

俺と善也はいつまで一緒にいられるんだろうか?

高校まで誰も俺と善也の関係に口を出す者は居なかった。

行き過ぎているとは言え、幼馴染・親友と言う単語で片付けられる。

そんな俺たちの関係に口を挟んできたのは赤の他人、大人たちだった。

当たり前のように進学先も善也と同じところを選んだ俺に、学年主任は言った。

『いつまでもこのままではいられないぞ、そろそろ自分の意志を持て』と。

彼の言う『このまま』が何なのかその時の俺には分からなかった。

そんな俺を哀れな視線で見つめながら、学年主任は善也と学部を分けることを提案した。

確かに善也が望んでいた学部は俺にとっては何の魅力もなく、ただ善也が『ここにする』というから俺もそこにしただけであって。

分からなかったけれども、学年主任の薦めた通りに善也と学部を分けてみたが、善也に相談をせずに決めた為機嫌は悪くなってしまった。

あの時分からなかった『このまま』は、大学に入って視野が広くなり、関わる人物も増えてきた今になってやっと意味が分かりかけてきた。

当たり前のように隣にいて、当たり前のように側にいる。そんなのは学生でいる間だけだ。

社会人となって自分の働きに給与という対価を得たとき、今と同じようにはなれない。

先輩と俺は同じ学年になってしまったが、俺はまだ就職先が決まっていない。

先輩だってお世辞にも早いほうではないけれど、まだまだ決まってないやつもいる。


みんな自分の未来を見据えて、先を決めなければいけない時期に来ているのだ。

俺は就職するのかこのまま先に進むのかも決まっていない。

でも先を考えたとき、当たり前のようにそこに善也がいる。

結婚したり、子供が産まれたりするのかもしれないけど、その将来はひどく不明確で。

ブレる事無く、褪せる事無く、変わらないのは隣に善也がいる事。

それが俺の見える将来。

善也の将来はどうであろうか?俺と同じ将来が見えているのだろうか。


「珠~暗いぞ!呑め呑め~」


考えに没頭していた俺はコップを持ったまま固まっていたらしく、先輩に声をかけられて動き出す。


「俺、そんなに呑めないですよ……」


「いーや!そんなんじゃ社会人やってけないぞー!ほらほら~」


「わっぷ……ちょっと先輩っ……」


「やれやれ先輩~!」


「これなんて超飲み易いよ~」


先輩が俺に酒を飲ませるものだから、回りも便乗して俺を煽ったり飲みやすそうな酒を勧めてくる。

皆は既に出来上がっているようだった。

楽しければいい!そんな状態。


「あれ?」


薦められたその中のひとつにとても飲みやすいものがあった。


「これ……、おいしー」


「ねー!これお酒って感じしないよね~デザートみたい」


コップの中にはシャリシャリと凍らせてある日本酒らしきものが入っている。

でもとてもフルーティーでまるで、シャーベットを食べているようだった。

薦めてきた先輩の知り合いも飲むというよりは食べる感覚で杯を開けている。

正直日本酒は苦手だったが、これなら大丈夫かも……。


「すみませーん、これもう一杯!」


おいしい日本酒に出会えたのがうれしくて、さっきまで考えていた善也との関係なんて忘れて俺は先輩の祝賀会を楽しんだのだった。

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