第2話 ~SIDE T~
「いつも思うんだけどよ、法学部のプリンスと珠は付き合ってるの?」
「付き合ってないですって……何度も言ってるじゃないですか。産まれたときから一緒にいるから、今更離れるほうが変な感じなんです。それに善也の母さんからもよろしくって言われてるし……」
あの後善也のアパートを出た俺は、実家に帰らず先輩の家に寄った。
善也には言える訳がない。言ったらどうなるかなんて火を見るより明らかだ。
まあ先輩と言っても俺たちと同じ学年に在籍しているから、同級生なわけだけど。
俺は去年の癖で先輩と呼んでいる。
先輩曰く俺と善也の関係は少しおかしいらしい。
俺としては善也は家族も同然で、その他の人間と比べる存在じゃない事になっている。
きっと善也だって同じだろう。
「何だっけ?ほぼ毎日プリンスの夕飯作って、週の半分は泊まって朝も作って。一緒にいない時でも定期的な連絡と、何時家に帰宅したかの報告だっけ?」
「あー、後は実家に居る時は起きた時と寝る前の連絡……かな?」
「おいおい、どこのバカップルだよ……」
そう他人に言われてやっぱり俺たちの関係はおかしいのだと再認識する。
今まではこれを正面からおかしいと言ってくれる人間はいなかったから……。
「てか、プリンス束縛激しすぎ……俺が女なら引くね」
「え?でも善也だって同じ事を俺にしてくれるんですよ?」
「そこで『してくれる』とか言ってる時点でお前も染められてんだよ!」
俺も男、善也も男。
俺たちは家族みたいなもので、家族ではないから連絡を取り合うし面倒も見る。
他人で考えるとやはりおかしいと思うが、それが善也だと違和感はない。
「ぶっちゃけた話、泊まってる時はそういう事もやってんの?」
「そういう事?」
先輩はどうにかこうにか俺にそれを伝えようとするが、余り聡いほうではない俺にはわからない。
「……いわゆる性交渉」
「え?だって俺も善也も男ですよ?」
「……男でも出来るぞ?」
「え?」
「…………って事は本当にお泊りだけかよ」
先輩から告げられた事実は俺には予想外すぎて考えが追いつかない事だった。
性交渉…つまりSEXって物は、俺の知識では男女間の行いだった。
小学校の保健体育の教科書にもそう書いてあったはずだ。
確かに同性愛者がいるのは分かっていたが、彼らは心の繋がりを大切にする人たちなのだと勝手に思っていた。
「で、でも俺一度も善也からそんな扱い受けた事ないですよ……?性的な目で見られたりとか……第一善也には」
「まああの顔じゃ周りがほっとかないしな~」
先輩が先ほどから善也を『プリンス』と呼ぶように、善也の顔は幼馴染の俺から見ても整っている。
少し釣り目の一重の瞳を筆頭に顔良し、頭良し、高身長と優良物件だ。
異性からの人気は高いが、同性受けはとても悪い。
見た目はパーフェクトな善也は人格破綻者と言っていいくらい、中身が酷かった。
女の子たちはその見た目や冷酷な態度も『冷徹~』『素敵~』と称しているが……。
同性からは嫌われていて、異性からモテモテの善也。
常に彼女が居るのにも関わらず余り相手にせず、俺とばかり一緒に居るから対して俺は異性から嫌われていたりする。
同性の友達は『良くあんなのと一緒に居られるな』と言って仲良くしてくれるけど……。
「あっ!やっぱり!そうですよ!」
「いきなり何よ……?」
記憶を遡って行くとある場面が思い出された。
もしも善也が俺を性的対象としてみているのなら、その後続きを強要されたはずだと予想される事件。
「だって、俺最中に出くわしたことありますよ!」
「……純粋な質問だけど、そう言う場合って普通に珠は退出するの?」
「え?うーん。俺は退出しようとしたんですけど、善也に呼び止められて善也が彼女を帰しました。その時事後とかって訳じゃなくて、普通に挿入中?だったんですけど善也そのままズボンの中に仕舞っていました!もしも俺を性的対象としてみるならあの性格なら続きを強要して来そうじゃないですか?」
「……それもそれでどうなの?」
先輩は『お前ら意味不明ー』と言ってトイレに立ってしまった。
確かあの後は普通に部屋の換気をして、予備の布団を出してそこで二人で寝たわけだけど……。
今思うと男としてあの状態でずっといるとか凄過ぎる。やっぱりモテる男はアソコの鍛錬具合も違うのだろうか?
馬鹿な俺でも俺と先輩の関係と、俺と善也の関係は違うって事がわかる。
でもそれがおかしいことだって思わない俺は、先輩の言う通りどうかしているのかもしれない。
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