第7話
その女の子はしかし、制服を着ていない。
少し古くさい私服に、その小さな足を来賓用スリッパに突っ込んでいる。
話し方とは裏腹にどこか幼さを残すそのシルエットは、同世代か年下を思わせた。
ぽかんと口を開けたまま、しかし、彼女の最も大きな特徴に俺は目を捕われていた。
か、かわぁ。
服装こそ洗練されていないとはいえ、あまりに美少女過ぎる。
話し方はともかく、顔立ちのよさと幼さゆえの透明感はまるで人形のようだ。
それに肩まで伸びたサラサラの髪は風に揺れて、その可憐さを引き立てていた。
うちの生徒だろうか。もしくは兄弟の忘れものを届けに来た、誰かの妹かも知れない。それとも……。
「ちょっと聞いてますかー?」
ふいに美少女がその小さな顔をこちらの顔に近づけて問いかけてきたことにドキっとする。
「な、なんだよ」
顔が真っ赤になっていないかが不安だ。
「? あのねぇー、キミ。ここは”あたしの場所”だって言ってるんですよ」
「”あたしの場所”?」
どういうことだろう、と思う間もなく彼女は次の言葉を投げかけてくる。
「そうです。大体、どうやって入ったかは知らないけど、生徒は屋上への立ち入り禁止でしょう。」
「それはキミも――」
「あたしはいいの。特別だから。」
「特別って」
どういうことだ、と聞く前に、いつの間にか後ろに回り込んでいた彼女に背中を押される。
「とにかく! もうすぐお昼休みも終わりだよ。学生の本分は勉強! さっさと教室に戻って勉強しなね~」
あれよあれよという間に屋上から締め出されてしまった。自分も学生じゃないのかよ。
仕方ないので教室へと歩みを進めながら、考えた。
”わたしの場所”って何のことだったんだろう。そして。
一体彼女は何者だろう?
翌日。その答がすぐにわかった。
朝のホームルームで教室の前に立ち、黒板に自らの名字を書いたのは、昨日の女の子だ。
昨日と違うのは、やや緊張をしているのが見て取れることと、その服装。
振り返ると満面の笑みを浮かべて彼女は挨拶をする。
「というわけで、本日からこちらで教鞭を取らせてもらいます。教育実習生の大岡です!」
マジか。
(by下水堂)
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