第6話
宮田なる人物がいるらしい教室に入った俺は、そこでいくつかの情報を手に入れることができた。
まず瀧先輩の言う「宮田」とはただのアダ名で、その人の本名は「田宮」だったこと。
「田宮」と呼び始めたのは誰であろう瀧先輩であったこと。(当の本人は田宮さんの本名などすっかり忘れているらしい。)
そして、宮田麻央という生徒をその教室の誰も知らなかったこと。
教室を出た俺は内心がっくりときていた。
「また空振りか・・・。あの部長覚えとけよ。」
肩を落としながらも、ふと窓の外を見ると、俺の心情とは裏腹に5月の爽やかな天気となっていた。
お昼にして切り替えるか。
昼休みは長いようで短い。
俺は購買へと走った。
パンと飲み物が入った袋を携えながら階段をのぼる俺は、ポケットから鍵を取り出した。
「こいつをここに挿して、っと。」
ガガガッ、っと立て付けの悪さから、ドアを開けたと同時に金属の擦れる音が辺りに響いた。
「ふーっ、風が気持ちいいなあ。」
俺の頭上には何処までも青い空が広がっていた。
たまたまドアの前で拾ったこの屋上の鍵。
あっさり届け出るのではロマンがないと思った俺は
それを使って時々こうしてこっそり屋上へ忍び込み、
誰にも邪魔されない場所で優雅な時を過ごすのがお気に入りなのだ。
青空の下、購買で買ったパンをほうばりつつ、俺は考え事をしていた。
そもそもなんで俺は宮田麻央を探しているんだろう、と。
彼女がたまたま俺のいつもの場所に自転車を停め始めたから何だというんだ。
たしかにどんな奴なのか見てみたいというのはあるのだが、こんなに
探して回るような事か?
「それに・・・。」
日陰の床に寝転がりながら空を見上げる。
それに、宮田麻央を見つけたとして、俺は一体どうしたいんだろう?
自転車を別の所に停めてもらうように頼むのか?
いや、それはいくらなんでも俺のワガママ過ぎる。
そもそも別にあの場所は誰のモノでもないんだ。
そんな物言いは恥ずかしくて到底できない。
そうだ、俺は彼女に出会ってからの事を何も考えていなかった。
よくよく考えると、何故こんなにも彼女の事を気にしていたのか自分でも不思議なくらいだ。
別に無理して探さなくても、そのうち自転車置場でばったり会ったりするだろ。
顔見るだけならそれで十分じゃないか。
何必死になってんだ。
急に自分の行いがバカバカしく感じられた。
無理に宮田麻央を探すのはやめておこう。
食後というのも相まって急に眠気がやってきた。
はーっ、っとため息を吐いた俺は、そのまま目を閉じた。
耳には心地よいガヤガヤとした学校の環境音と鳥の鳴き声が聞こえる。
屋上ではゆったりとした時間が流れていた。
「平和だねぇ~。」
自分の腕を枕にして、一眠りしよう。圭がそう考えた直後の事だった。
「ねぇ、そこ"あたしの場所"なんだけど?」
その声に驚いて跳ね起きた圭は、声のした方を振り返る。
するとそこには、女の子が立っていた。
(byアオケン)
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