第27話狐族のレイア


「な……何をするのじゃサーリャ!!」


「何をするのじゃじゃあありません!! セインに謝ってください!!」


「なぜ我が人間なぞに謝らないといけないのじゃ!」


 何やかんやとサーリャと揉めている間、俺はへたり込んでいる狐族の女の子を観察していた。

 彼女は攫われたときの格好なのか和服のような服装だ。

 和服といっても特殊な形状で、深いスリットからみえる足が美しい。

 捕まったときに戦闘になったのだろう、ぼろぼろになっているため、色々な部分が見えてしまっている。

 背はサーリャよりも高く、モデルのようなめりはりのある体型をしている。

 釣りあがった目じりが、攻撃的な印象だが、サーリャに劣らず美人だ。

 サーリャが可愛いと美しいを混ぜた感じなら、彼女は美しいの方向に全パラメーターを振っている感じだ。

 そして頭から伸びているサラサラしていそうな二つの狐耳、お尻の辺りから伸びているもふもふの尻尾。

 うむ、やはり獣人とは素晴らしいのぉ。

 今は人間に捕まったばかりだし、俺が近づくことはできないが、いつか機会があれば是非触らせていただきたい。

 目を閉じ物思いに耽っている間に、サーリャと彼女の話は終わったようだ。

 喧騒がなくなったので、目を開けると、目じりから薄っすら涙を浮かべた彼女がこちらを見ていた。

 どうやら力関係はサーリャが上のようだ。


「さ……先ほどはすまなかったのじゃ……。これでいいかサーリャ」


「まぁいいでしょう。セインも許してあげてくれますか?」


「いえ、僕は全然怒ってないので大丈夫ですよ。それより状況を整理しましょう。サーリャと彼女は知り合いみたいですし、どんな関係かも知りたいです」


「ありがとうございます。ではとりあえずご紹介を、狐族族長の娘で私の幼馴染のレイアです。レイア、ここに捕まるまでの経緯を教えてください」


「……レイアじゃ、とりあえず助けに来てくれたことは礼を言う。じゃが我は今回の一見で人間を信用できん。すまないがそこは許してくれ」


「いえ、当然ですよ、僕が逆の立場なら人間なんて信用しません」


「そういってくれると助かる。まずどこから話すかの……。そうじゃな、あれはサーリャがいなくなってから二月程たったあとじゃ、狐族にも行方不明者がでるようになって、不審な輩を領地の山で見かけたという情報を頼りに、我は山を見回るようになったのじゃ。何度も山に足を運んだが、なかなか見つけられんくての、行方不明者は少しずつ増えていったのじゃ、そこからさらに一月程たったころ、そこにいる者の中の一人が連れ去られようとしているところを発見してな、戦闘になったのじゃが、どんどん敵が増えて我も捕まってしもうたのじゃ、それでここの牢屋に入れられて半月程たったのが今かの」


「なるほど、山で捕まったところはサーリャと同じですね。ここの盗賊達は猫耳を付けて襲ってきたでしょう。よく人間が犯人と分かりましたね」


「戦闘中に奴らの一人の耳が取れての、奴隷商がきたら判断を仰ぐとかで我らの扱いに困ってたようじゃ」


「なるほど、ともかく無事で何よりでした。今猫族と狐族は一瞬即発の状況らしいです。猫族の方は事情を知っている者たちが向っているので、我々は狐族の下に説明しに向おうと思いますが、いいですか?」


 きっと奴隷商がきたら殺すように指示しただろう。いくら高く売れるといっても真相を知るものを管理できない場所に置いておくわけがない。もう少しでこの美しくもふもふなソニアちゃんが失われるところだった危ない危ない。


「了解じゃ。そういうことなら急いで向おうかの」


「では、盗賊達が使っている馬がいます。そちらに乗って移動しましょう」


「そうしましょうか、ラーズ君後でその馬のところに案内を頼みます」


「任せてください」


 夜を洞窟内で過ごし、朝日が昇り始めると同時に出発の準備を始める。

 洞窟を出てすぐのところに馬を飼育するための小屋があった、馬はまだかなりの数がいたのでどれでも選び放題だ。

 俺はサーリャと同じ馬に乗り、サーリャに抱きかかえられる形だ。うむ。恥ずかしい。

 レイアと狐族の女性三人とラーズはそれぞれ一頭ずつに跨った。

 馬は買おうと思うと高いはずだが、きっとスペイズがスポンサーとして斡旋しているのだろう。

 この規模の盗賊団を雇えたりすることも考えると、スペイズはかなりの力を持っているだろう。

 それに犬族の奴らにもかなり用心しなければならない、獣人族は身体能力に優れる。

 サーリャが特別だといいが、サーリャレベルの強さの奴がいたら接近戦ではどうなるか分からない。


「先行き不安だなぁ……」


「セインでも不安になることがあるんですね」


 しまった。声にでてたか……。


「まぁ不安がないといえば嘘になりますね。僕は魔法を封じられたり、不意打ちされれば多分あっけなくやられますよ」


 一応ラーズ達に聞こえないように小声で返す。


「大丈夫ですよ。私がそばにいる限り、奇襲には対応しますから、だからセインは私から離れちゃダメですよ?」


「サーリャが領地に戻ったらしっかり体術も鍛えますよ。それまで苦労かけるけどよろしくお願いします」


「ふふ。私が領地に帰った後ですか」


 楽しそうな声が頭の上から降りてくる。久しぶりの故郷だ、無理もないだろう。


「嬉しそうですね。家族や友達と久々に会えるのですから当然か。それともそれ以外にもなにかあるんですか?」


「んー、秘密です!」


 俺をよりいっそう強く抱きかかえ、楽しそうにするサーリャ。

 良く分からないが、俺もサーリャとの残り僅かな時間を無駄にしないようにと、抱きかかえるサーリャの手をギュッと握り締めるのだった。













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