第14話レイフォード家の客人

 僕達を迎えてくれたのは、幼い頃お世話になっていた、家政婦長のロアさんだった。

 隅々まで行き届いた掃除に、食事の準備をして待っていてくれた。


 王の段取りのよさは言うまでも無く、王族の家の家風なのだろうか、エレナの要領のよさと良く類似している。


 ロアさんも含め皆で食卓を囲む。

 家の復興を記念した、気合の入ったロアさんの料理の数々を堪能し、この家に昔いたとき、エレナと俺の定位置だった、暖炉の前のソファに腰を下ろす。

 昔と違うのはサーリャが隣にいるのと、家政婦がロアさんだけになったことくらいだ。

 サーリャの頭を撫でさせて貰いながら、次の旅に備えての、しばしの休息をとるのだった。



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 窓から入る暖かな日差しに、柔らかな布団。隣にいるサーリャの寝息がこそばゆく、もう一眠りと二度寝に入ろうとしたところで、突然扉が開かれ、珍しく強引に起こされる。

 慌てている様子のエレナに状況が読めず目を擦ると、後ろに立っている人に気づき頭を一気に覚醒させる。


「女王様! なぜ付いてき、いえ、そうではなく! 応接室でお待ちください! 寝起きの姿など見せられません!」


 俺の視線に気づき、慌てて視界を遮ろうとエレナが割ってはいる。


「私のことは公式の場で無い場合はソフィアと呼べと言っているだろう。幼馴染に女王様など呼ばれると、私も悲しいぞ」


「ソフィア様! 分かりましたから! 下の部屋でお待ちください!」


「良いではないか、私がセインを起こしたかったのだ」


「もう起きております。状況が読めないのですが……」


「よし、では下で待つ、着替えたら話そう」


 エレナの大きなため息と共に、セイン・レイフォードの一日が始まる。


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「お待たせしました。申し訳ありません」


 応接室ではなく、ダイニングの、俺の指定席であるソファーのポジションで王は寛いでいた。

 謁見の間でのキリっとした氷のような静けさの人とは思えない。

 座り方もだらっとしていて、深いスリットから伸びる足が何とも妖艶だ。


「やめいやめい、ここには他の貴族もおらん、ソフィアさんとでも呼んで砕けていこうではないか」


「いえそういうわけには……」


「じゃあ王の命令ってことで」


「…………」


 何か俺の想像していた感じの人じゃない……。

めっちゃフランクだし、何か逆に怖いわ……。


「まぁいいからこっちに来なさい」


 とぼとぼと近づき、間隔をあけて隣に座る。


「そこじゃないここだ」


 王が指差す場所は完全に太ももなのだがどうすれば……エレナに助けを求めようと目線を送るが頭を抱えていてそれどころではないようだ。

 クレイルに助けをと思ったが、なぜか何度も深くうなずき、珍しく微笑んでいる。怖いよおい……。


 しぶしぶソフィアの太ももの上に座ると、後ろからギュッと抱きしめられ。

 顔を頬ですりすりしたり、頭の匂いを嗅がれたり、体を弄られたりとやられ放題だ。

 俺の悲鳴が屋敷にこだまし、エレナはいっそう頭を抱えているのだった。


 ようやく弄るのを止めてくれた頃には、俺はもう生気を吸い取られた人形のようになっていた。

 もうお嫁にいけない……。


「それでソフィア様は何の御用でいらっしゃったのですか?……」


 正直ソフィアのような絶世の美女に色々と密着していては、俺の精神衛生上良くない。体は8歳、頭脳は33歳その名もセイン・レイフォード!

 そう俺は精神年齢は33歳なのだ。耐えられないよ? 我慢できなくなっちゃうよ?


「そうだった。本題を忘れるところだった。旅の準備と望んだだろう。この国の国境までは安全に進めると思うが、その先は魔物もいる。それに国境を渡り各国を旅するなら、商業許可証か冒険者証が必要なのだ」


 説明によると、商業許可証があれば、国家間の商品の売買を許されるため、国境を自由に通れるらしい。ただし、盗賊などに襲われようが、奴隷にされようが、自己責任なので大概は護衛なども雇っている大商人しか必要としないようだ。

 まれに行商をする者も持つらしいが、相当強い護衛などがいないと厳しいらしい。


 次に冒険者証、これは各国に発生する魔物などを討伐するため、昔からある団体、冒険者ギルドで登録した者が貰える証書らしい。

 冒険者証のいいところは、その証書があればどんな種族でも各国で活動でき、依頼をこなせば、その難易度によって金銭を得られることだ。

 多種族を忌み嫌う神聖帝国でさえも、冒険者であれば問題なく住めるというから驚きだ。

 それほど冒険者ギルドというのはこの世界において重要なのだろう。


「そこの獣人の子、サーリャちゃんであってるかな? その子を送り届けるなら、どちらの証書でも大丈夫だろうが、どちらにする?」


 う~ん……。

 商業も捨てがたいな……行商とか将来してみたいし、でも魔法が使えるし、冒険者になるのも今後活動するにあたって有用そうだ……。


「両方欲しいとかはダメですよね?」


「ぷっ、アッハハハハハハッ」


「そうだな、両方渡せばそもそも良かったのだな! 全然大丈夫だ!」


「それと一応食料や一人で運転できる小さな馬車も用意した。馬車は冒険者ギルドで預かってもらうこともできるから、邪魔になるなら街で預けるといいだろう」


 なるほど、冒険者ギルド結構便利だな。依頼の内容や報酬次第では、冒険者も楽しそうだ。


「最後に出発する日に王城に寄ってくれ、宝物武器庫にある杖の好きなものを一つやろう。どれがセインにいいか思いつかなかったから直接選んでくれ」


「色々とありがとうございます。気になったのですが、かあさまととても親しいようですが、幼馴染という関係だからですか?」


「ああ、王城で来る日も来る日もクソみたいな貴族の相手に飽きてたときに、遠縁の王族の女の子が来てな、その日から良くいじるよ……遊ぶようになって昔からこんな関係なのだ。レイフォードにとられてからしばらく会えなかったのだが、そのレイフォードも死んだので、そこにいるクレイルもエレナの護衛にと遣わせた。城で引退してから暇そうだったしな」


「暇ではありませんよ陛下。日々騎士達の教育をしておりましたよ」


「そんなもんよりエレナの身のほうが大事だろ。我に似ている上に美しいからな、対立している貴族がエレナを手に入れでもしてみろ、どんな卑猥なことをさせられるかわからん。そんなことが起きたら、多分王宮の対立貴族を我が根絶やしにしてしまうぞ」


「陛下なら本当に根絶やしにしかねないので怖いところです。私もエレナ様に仕えられ、幸せでございますよ」


「そうだろう、そうだろう」


「さてそろそろ帰るかな、また構ってやるからなセイン」


「ハハハ……」


 俺の中で、美しく、静かで、それでいて力のある女性という印象から、台風のような人という印象に僅か一日で変わった。


 まぁああいう人は嫌いではない。むしろ好きだし。

 めちゃくちゃにされたが、久々に性欲なんていうものも思い出した。

 今日はサーリャと二度寝と洒落込んで、色々触らせてもらおう。うん。そうしよう。


 こうして台風の目が過ぎさったレイフォード家では、久々の緩やかな時間を取り戻したのであった。



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