第5話. 兎妃 綾人の恋・中

桜庭の視線が突き刺さる・・・・・・

右隣に座す桜庭の鋭い視線に、全神経が右頬に集まるのを、綾人は否応もなく感じた。

(見られ・・・・・・てる、よね? 怖くって振り向けないや。僕もしかして副会長の獲物?)

これ、もしかして野生の勘? などと、綾人は別段恐れも困惑も感じさせない、飄々とした意識下の許、他人事のように此れを分析した。

「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」

「は~い♡ どうぞ♡ どうぞ~♡」

綾人の科白の腰を折るようにして現れた風見は、桜庭とグラスを合わせて乾杯をする。桜庭も取ってつけたような、胡散臭いアルカイックスマイルで、己のグラスを風見のグラスと合わせた。

(あ~ ・・・・・・風さん、これぜったい副会長の営業スマイルに騙されちゃってるよね。じゃあ・・・・・・このひと、風さんに押し付けちゃう?)

嬉々として、桜庭にトークを繰り広げる風見を横目に、「今のうちに退散しようか」と、涼しい顔をして卑怯極まりない算段を張り巡らせる綾人であった。

「どうしたんだ? 綾人。俺がいたら落ち着かないのか?」

「え!? ・・・・・・あ~ いえ、そんなことはないですよ」

ははは、と、カラ笑いで取り繕う。やはり桜庭は苦手だ、そう心でため息をついた綾人は、己の思考を読まれていたことに内心ひやりとし、おもてには出さずに此れを制した。

「なによ~ なによ~ 綾ったら、葉月くんと友達なんでしょ~? なに素っ気ない態度取ろうとしてんのよ~~~!! もっと話の輪に交じりなさいよ~!」

「ほんとに綾はクールなんだから~」と、綾人と桜庭の顔を交互に見やりながら、風見はブチブチと苦情を垂れる。

それに対し、綾人は「風さんはもっと空気を読んでください」と、喉もとまで飛び出しそうになるが、それを既で押しとどめた。己を褒めてやりたい。

「綾人は学園でも同じだよな? ブレない・・・・・・って言うかさ、誰に対しても飄々とした態度なんだけど、けどそれってクールってのとは少し違うかな? 綾人は友人をとても大切にしてます。無関心なようで、その実周りの話にはちゃんと耳を傾けている・・・・・・俺は、結構綾人は熱いやつだと思います」

「!? !? !?」

なにを言い出すかと思えば―――綾人は桜庭の科白に瞠目どうもくし、驚きのあまり二の句が継げないでいた。

(ちょ・・・・・・なに・・・言ってんの!? この・・・ひと)

いつものポーカーフェイスも、飄然とした態度さえ繕えなくなった綾人。みるみる顔がくれないに染まってゆく。

「あら~♡ な~に!? 綾ったら~♡ お顔真っ赤っかよ~? 葉月くん、あなた結構あるかも~♡」

うふふ~ と、風見が綾人の顔を楽しそうに眺めながら、これ見よがしに葉月の頬を人差し指でツンツンと突く。

「『素質』・・・・・・ですか? それは、いったい何の―――」

「綾くんの心を修理して溶かしちゃう、そッ♡しッ♡つッ♡」

「修理? それはまた酷く抽象的ですね・・・・・・おい? 綾人?」

意味深長なキャッチボールが飛び交うも、綾人の耳には入ってこない。

(なに? なに? なんで僕がこんな動揺させられなきゃなんない訳?? てか、熱いやつってなんなの!?)

ひとり狼狽える綾人は、桜庭の呼びかけも耳に届かないでいる。その様子を、風間は「うんうん♡」と、先見の明を総動員したかのように、ひとりほくそ笑みながら納得しているのであった。

はじめて自身の心を乱した男、「桜庭 葉月」。やはりこの男は己にとって、鬼門以外の何ものでもない。そう綾人は俯き赤面しながらも、心のなかで思いつく限りの罵詈雑言を並べ立てたのであった―――


                ☆ ☆ ☆


ふ~ん。兎妃くんの弱点て葉月くんなんだ~ へえ~ ・・・ふふ。

あのの兎妃くんが、こ~んな可愛くなっちゃうんだ~!

なんだかぼく、この話おもしろくなってきたかも♪

もしかして―――葉月くんなら、兎妃くんを更生できるかも? まあ、なんでもいいんだけどさ、これ以上兎妃くんの「エロ牙の犠牲者」が出なくなってくれると、ぼくとしてはオールOKなんだけどね。

ん? そろそろ時間? あ~ ごめん。ちょっと喋りすぎちゃった? じゃあ先進めるね~ ではでは、なになに? 雑路を縫うように歩く、綾人と桜庭は―――


                ★ ☆ ☆


どちらともつかず、言葉を交わすこともないまま、歩みを進めているこの状況。正直、非常に居た堪れない心境であった。

桜庭の思わぬ赤面トークと、風見の野次に心乱されながらも、なんとか綾人は冷静を取り戻した。内心まだ狼狽する己を叱咤しながら、風見にチェックを願い、「Bar・Silpheed」をあとにした。これ以上、予想外の精神的ダメージを食らわされたくなかった綾人は、とっととその場を退散したくて仕方がなかったのだ。

異常なまでの胸の動悸に息切れ、眩暈とのどの痛み・・・・・・

これは早く今夜の閨房ベッドを見つけた方が賢明だ―――そう即思案した綾人は、風見にまた来ると告げ、席を立った。

桜庭の方へと直り、「じゃ、僕はこれで。ごゆっくり」と言い置き、風見に足止めされるまえにエントランスへと急ぐ。ボックス席でソワソワするキャバクラ嬢に、艶やかな笑みを贈るサービス精神は怠らず。

風見と桜庭の、背中を絡め取るような視線には気づかないよう努め、店を出てやっと一息ついた綾人ではあったのだが・・・・・・あろうことか、そのすぐあとに桜庭も店を辞してきたのである。

「俺も綾人のあとを行こう」と言ったきり、ほんとうに桜庭は綾人の歩みに続いている―――これはいったい何の試練なんだ! と、綾人は己の隣に並ぶ桜庭を横目で見やり、悶々とした気持ちに振り回される心に嫌気がさす。

だが終着点というものは必ずあるものだ。ふたりのまえには、既に駅前のコインロッカーが見えていた。綾人は、適当な理由で煙に巻く算段を、いくつかのパターンに分けて脳内シミュレーションする。

今まさに綾人が口を開こうとしたその直前、桜庭が綾人の科白を縫うように、鼻の差をついて牽制句を投げかける。

「これから何処かに行こうというのか? 大方また女のところにでもシケ込もうってんだろうけど。どうだ? 今日はいつもと違った行動してみないか?」

(? ? ?)

綾人は桜庭の科白の意図が読めず、あからさまに訝しむ。それが表情に出ていたのか、桜庭は普段己が纏う鎧のような繕った笑顔ではなく、なんとも意地の悪そうなニヒリスティックな笑みで綾人を嘱目する。

(行動って・・・・・・このひと、僕を甚振いたぶりたいの?)

桜庭は、綾人のいつもの飄然とした仮面の内を垣間見て、それが己の快感のドストライクと気づいたばかりである。なんとしても、綾人の感情の機微に揺さぶりをかけたいところではあるが・・・・・・

奇しくも、桜庭だけではなく、綾人もまた「ドS’」なのであった。サディスティックな者同士、龍虎相打つ腹の探り合い、同じ穴の貉として平行線を辿る。

「行動とは? 僕が先輩と行動をともにして、なにか僕にメリットはあるんでしょうか?」

「ははは! そう構えるなよ。それから、俺のことは葉月と呼べ。俺もおまえを綾人と呼んでいる」

それがいちばん釈然としないのですが―――綾人は、いつのまに気安く呼びすて合う同士になったの? と、そこが最もつっ込みたいポイントであった。

「じゃあ・・・・・・葉月・・・。僕は先輩でも遠慮はないですよ?」

「ああ。それでいい。望むところだからな」

綾人の返しに満足したのか、桜庭はいたくご満悦の様子。この隙に姿を晦ましてやろうか―――そんなことが頭に過るが、すぐに桜庭は冷静に綾人に向き直り、「このあとの時間をどう過ごすか」の提案をかけてきた。

「綾人。俺の家に来ないか?」

直球であった。芸も駆け引きもあったものではない。これには綾人も呆気にとられるしかなかった。だがすぐに、くつくつとした笑いが腹の底からこみ上げてくる。腹を抱えて呵呵大笑する綾人に、桜庭は「なにが可笑しい? 俺へんなこと言ったか?」などと、神妙・・・・・・いや、珍妙な面持ちで訴える。それがまた綾人の笑覚にヒットする。

「ちょ・・・・・・も、もう・・・笑かさ・・・い、で・・・・・・ッ!」

とうとう綾人は、その場に頽れるようにして抱腹絶倒してしまった。

「おい・・・・・・綾人・・・なにがそんなに面白いんだか。まあいいか。おまえの貴重な爆笑シーンも見れたことだし、な」

足もとでしゃがみ込んで哄笑する綾人を見下ろし、桜庭はこと自然な笑みを浮かべ、綾人が落ち着くのを腕を組みつつ待つことにした。




「へえ~ ここが葉月の住んでるとこなんだ」

翡翠ヶ丘の近郊、ハイソサエティ向けに建設された、高層分譲マンション群。

シングルパーソン・ファミリー向けと、居住者のニーズに合わせて区画配分された、翡翠ヶ丘で最も美しい町並みのひとつと評される、コンドミニアム・ビルディング・タウン。

クリスタル・タワー―――大廈高楼たいかこうろうと建ち並ぶマンションのなかでも、ひと際目を引く美しい建造物。その呼称が示す通り、水晶のように清らかな総ガラス張りのマンションが、桜庭の住居である。

「ああ。双子の弟と一緒に住んでるんだが、あいつはほぼ毎日恋人の家に入り浸りでな。帰って来るのは朝方なんだ。だから、まあ・・・・・・ほぼ俺ひとりで暮らしてるようなもんだな」

「へえ~ それは―――」

奇遇~ 弟さんて僕と似た生活してるんですね―――言いかけて、咄嗟にそれを呑み込んだ。危うくやぶ蛇になるところであった綾人は、眼鏡を指で上げつつ己を窺うアイロニカル・キラーに気づかれぬよう、そっと焦燥的な息を吐いた。

(なんでこんなにも、僕が葉月にビクビクしなくちゃなんないの!?)

横目で桜庭の存在を確認しつつ、綾人は気を取り直し、不自然にならぬよう彼に問いかける。

「あ・・・あ、あの。葉月と弟くんは、ここにふたり暮らしなの?」

「ああ、そうだ。両親は―――まあ、ちょっと我が一族は、両親も含めて個性的な輩が多くてね。翡翠ヶ丘に入学が決まったのを機に、弟とともに家を出たんだ」

「それって、葉月と弟くんが中等部の頃?」

「ああ」

「へ~ よく親が許してくれたよね~ てか、兄弟だけで暮らすとか、かっこいいよね」

「そうか? ・・・・・・まあ、異色ではあるか? 俺も弟の皐月さつきも、桜庭という名のしがらみに辟易としていたからな。とは言え、このビルは桜庭うちの持ち物なんだ。結局、俺たちはいえから飛び出したようで、その実まだ桜庭の支配下のなかって訳だ」

固執的な物の考えで凝り固まった桜庭の一族は、現在桜庭の祖父を長とする、代々本家が優位に立ち、その他分家は劣位として本家に仕えている。

葉月と弟の皐月も、のちの一族の名を継ぐための帝王学を、幼少の頃より叩き込まれてきた。幼等部・初等部と、ミッション系スクールで学び、幼少の砌を犠牲にして武道や芸事に従事した。

翡翠ヶ丘学園に入学の決まっていた葉月と皐月は、初等部卒業とともに学園の近くに住まいを移したい旨を、祖父と両親に進言する。

桜庭の邸から学園までの距離からして、毎日の登下校にそれなりの時間がかかる。それらを考慮し、利便性を図ったうえで、葉月は翡翠ヶ丘学園の学生寮「ジェイド館」に入寮を希望した。

その結果、葉月たちの進言は祖父により一蹴されることとなるが、ここに来て思わぬスケッターが葉月たちの要望を実現させたのである。

その者とは父の秘書である「桜庭さくらば 秋名あきな」。分家の身で唯一進言力のある彼は、温和怜悧で優秀なる父のビジネス・パートナーである。

如何様なる手段を用いたのかは不明だが、太古の化石然とした頑固一徹な祖父を納得させたうえで、住まいその他、生活環境のすべてを整えてくれたのであった。

―――父から言い渡されたのは次の通り。

学生の本分を疎かにしないこと。秋名による定期的な家宅訪問。桜庭の持ちビルでもセキュリティー性の高い、この「クリスタル・タワー」に居を置くこと。

―――此れを条件とし、家を出ることを許されたのである。

「けど・・・・・・親許を離れて暮らせてるってだけで、僕からしたら十分自由な生き方だと思うけど」

「いやに感情がこもってるな。なんだ、綾人もひとり暮らしがしたいのか?」

「ん・・・そうだね。できればそうしたいけど―――まぁ、無理だろうね」

「なぜ無理なんだ。家を出たいなら親に言えばいいだろ」

「親・・・・・・に、か。ふふ。 ―――ん、そだね」

微妙に気まずい空気が流れる―――のは綾人だけで、桜庭は至って何の憂いもなく、通常運転である泰然自若を地で行く厚顔さであった。

「こんなところで立ち話もないな。部屋行くか」

「うん。ありがとう」

桜庭は綾人の了解を取ると、スマートな所作で綾人の手を取り、タワーエントランスへと彼をエスコートする。

綾人も、桜庭に手を握られていることには敢えて触れず、大人しく彼のあとをついて行ったのであった。


                ☆ ★ ☆


「んッ・・・・・・ッ、・・・・・・ッは」

静まり返った室内に、ふたり分の重なり合った口唇から漏れる、唾液絡む淫猥なる水音が辺りに広がる。

人気のない空間は、生活感さえ感じられず、冷ややかな印象を受ける。

桜庭は双子の弟である皐月とともに、このクリスタル・タワーの最上階ツーフロア分――メゾネットと言うべきか――を、ふたりだけで暮らしているという。

フロント・サービスであるコンシエルジュが恭しく出迎えるロビーを進むと、部屋まで直通だというエレベーターまで、綾人は桜庭に手を引かれながら歩いた。

ルームキーも兼ねているという専用カードキーを、桜庭がエレベーター脇の挿入口へと差し込み、ドアが開く。ふたり縺れるように機内へと乗り込むと、お互い示し合わせたかのようにひとつに絡まり、欲望のまま互いの口唇を貪ったのである。

程なくして機が到着すると、ふたり飛び出す勢いでエレベーターを降り、玄関口までのエントランスをジャレるようして進んだ。

部屋へと飛び込むと、靴を脱ぐのも惜しむように、ふたり隙間なく重なり合い、口づけを交わし合うのであった。

「・・・・・・んッ ・・・―――ベッド、どこ?」

「こっちだ」

婀娜あだやかな綾人の唇から紡がれる、交接を意味する科白に対し、桜庭は綾人の手を引き行動で示すことで、其れを合意と表す。

中二階へと続く階段を上り、左右2部屋ずつに分かれた左翼2つ目のドアへと、桜庭は綾人を案内する。

桜庭の寝室だと即分かる、見た目ストイックな彼らしい、娯楽とは無縁のビジネスホテルのような内装。部屋の中央にはキングサイズのベッドが置かれ、その脇にサイドチェストとランプ。就寝まえに桜庭が読んでいるのだろう、栞を挟んだ読みかけの洋書推理小説が、無造作にサイドチェストのうえに置かれていた。

全体的にブルーとブラックで統一された室内は、その他の家具が書案に書架だけというシンプルさである。

室内に足を踏み入れたふたりは、抱き合い接吻を交わしながら、互いの着衣をはぎ取ってゆく。ベッドまでたどり着いた頃には、ふたりとも下着と腿まで落ちたボトムスだけという格好になっていた。

綾人が慣れた所作で桜庭の腰に手をやり、優しくベッドへと仰臥ぎょうがさせる。

チュッという音とともに、交じり合う口唇が離れる。好色の光を宿した、紺碧の双眸で見下ろす壮絶なる綾人の婀娜あだやかさに、桜庭はぞくりと肌が粟立つ。

綾人が桜庭のボトムスを取り去る。ボクサーパンツの膨らみの先端からは、既に淫らな体液で濡れそぼっていた。

自然と腕をシーツに縫いとめられた桜庭は、再び口づけを落とす綾人の色香に恍惚となる。

「ん・・・・・・、ぅ・・・・・・っ」

舌と舌が絡み、互いの唾液を交換する。口蓋を蹂躙する綾人の舌使いに、桜庭は否応もなく零れる声を、止めることが出来ないでいる。

生理的な涙が浮かび、綾人の香りと与えられる快感に意識が霞みかけた桜庭は、己の置かれる立場に気づき、意識がすんでのところで再浮上する。

「・・・・・・ん、ぅ・・・―――ちょっ、と・・・待て」

「う・・・・・・ん、 ―――なに?」

与える快楽を桜庭自ら中断してきたことに対し、綾人は少なからずムッとなるも、しかし其れを曖気おくびと出さずに訳を問う。

「このポジショニングはなんだ? なぜ綾人が俺にペッティングしている?」

「ん? 葉月が僕の下にいるからでしょ? 自然な流れだと思うけど」

「・・・・・・自然だと? 綾人が俺を組み敷くというのか」

「ええ。不都合がなければ」

「不都合は大アリだ! なぜ俺が抱かれる側なんだ!!」

「? 僕が抱く側だからでしょう? ―――さあ、もうお喋りは終わり。素直に僕に抱かれてよ♡ 葉月・・・ッ」

「――――――ッ!」

綾人の甘いバリトンが、桜庭の耳もとを愛撫する。

全身を総毛立つ蜜なる余韻が、圧し掛かる綾人をせき止める腕の力を解放させた。

その隙を突き、綾人は桜庭の耳朶に舌を這わせ、縫いとめた腕をひとつに纏めて頭上へと掲げた。

股の内へと割り入った綾人は、下着のなかで欲情に濡れそぼつ彼の昂りをやんわりと握り締め、その刀身を指腹でぐりぐりと愛撫してやる。

「う、あ・・・・・・っ」

亀頭からの刺激に喘ぎを漏らす、桜庭の艶美なる官能に酩酊した綾人は、頬を上気させながら快感に蕩ける彼のおもてを魅入った。

「葉月・・・・・・すごく色っぽい♡ 僕・・・葉月に夢中になりそう」

更に先端を刺激する指の力を強め、「気持ちいい?」と、綾人は桜庭の耳もとで囁く。声を殺しながらも、与えられる快楽を甘受する桜庭。ぎゅっと瞑った瞳からは、美しく濡れたトパーズの雫が浮かんでいた。

綾人の舌がそっと雫を掬い、そのまま頬を伝って首筋へと降りてゆく。ぺろりとひと舐めして口づけを落とし、薄っすらと汗の浮かぶ首筋を甘く食む。所有印を付けながら、綾人の口唇は彼の小さな胸の尖りへとたどり着いた。

「ん! あッ!? ―――ッんん!!」

そんな場所・・・・・・普段は気にもかけないようなところなのに―――

桜庭は、己の胸から広がる、絶対的な快感の衝撃に、酷く狼狽する。

「ん! や、やあ―――ッ! あ、ああ・・・・・・ッん・・・ぅ」

綾人は、舌と歯と指先を巧みに使い、桜庭を快楽の淵へと追い上げてゆく。

甘噛みし、たまに吸ってやると、桜庭は水面みなもで跳ねる白魚のように、そのしなやかな背を仰け反らせた。

「う、あ・・・・・もう・・・止め、ろ・・・・・・っ」

ちゅぷっと音を立て、綾人は赤く熟した尖りから口唇を離す。

「どうして? 気持ちいいんでしょう? もっと感じてよ♡ 僕、もっと葉月の甘い声が聴きたい♡」

「あ!? なに言って―――おッ! おい! なにすん―――」

焦る桜庭を軽々と抑え込み、綾人は彼の下着を一気に抜き取った。

「うわ!?」

身長こそ綾人の方が手のひらひとつ分高いが、体格は両者ほぼ互角である。

そんな桜庭を、綾人は素気無すげなく此れを蹂躙し、いとも容易く翻弄してゆくのである。

「こんなときに日頃の成果を披露するな!」と、文句のひとつもつきたくなる桜庭ではあるが、如何せん綾人のスペックの許では成す術もない。非常に悔しい。

だが悔心とは裏腹に、蜜を流しそそり勃つ屹立だけは、快楽と劣情を包み隠さず曝け出していた。

露に塗れる昂りを、綾人の手のひらが包み込む。緩慢としたストロークで、再度桜庭の理性に紗をかけてゆく。

「あ・・・・・・・ん、んんッ・・・・・・」

絶えず溢れる淫液で形のよい屹立を濡らし、くちゅくちゅと卑猥な音が立ち上がって来ると、綾人は躊躇いもなく彼の昂りを口に含んだ。

「んッ! ふ、うぅ・・・・・・ん、ん・・・・・・ッ」

口淫により昂る意識と霧散していく理性とで、桜庭は殊の外乱れてしまう。

そのストイックなまでの気高さと、ニヒリスティックな理性をも打ち破り、綾人は彼を高みに追い上げてゆく。

口唇と舌で屹立を愛撫する。舌先で鈴口を刺激し、亀頭をねっとりと舐め上げる。茎を伝い舌を這わせ、昂りの下で重々しく垂れる陰嚢を口に含む。

「ぅあッ ・・・・・・んっ」

手で優しく揉み込んでやりながら、舌を隘路へと伝わせてゆく。

桜庭の太腿を掴み、ぐいと腹へと押し上げた綾人は、双丘の奥の後孔に舌を這わす。固く閉じた蕾を解すように、少しずつ舌先で刺激を与えてやる。

「うわ!? なにしてんだ! 止めろ!!」

徐に後孔に舌先を差し込まれ、それまで酩酊していた意識が一気に引き戻される。耳まで赤くした桜庭が、己の下肢に顔を埋める綾人に向かって非難を飛ばす。

「・・・・・・もう。葉月は、ほんとことごとくムードをぶち壊すよね」

大人しく愛撫されててよね―――と、綾人が桜庭の股ぐらに顔を埋めたままぼやく。

「ひとの股に顔埋めて喋るな! ―――ッ!?」

つぷり―――綾人の人差し指が、解れゆく蕾に侵入をはじめた。

「う、わッ!! ちょ! おい―――ッ! 止めろ!!」

桜庭の苦情を見事にスルーすると、綾人は指を二本三本と増やしてゆく。

強烈な違和感に、桜庭は二の句も告げず、ひたすら歯を食い縛るしかなかった。生理的な涙が浮かぶ。

「ふふ♡ だんだん柔らかくなってきたね♡ でももう少し解してやらないと、僕のは入らないかな?」

もう少し我慢してね? そう綾人は彼に囁く。もちろん股ぐらで。

「んん!?? う、ぅあ―――ッ!」

綾人の指が、彼の快楽のツボに深く抉るようにして掠めた。桜庭は大きく仰け反る。

「ふふふ♡ 葉月のイイところ発見♡ ここだね♡」

的確な位置を定めて、綾人が彼の前立腺を一気に攻め入る。

「あ! あ、ああ―――ッ! や、やめ―――」

うっとりするような蕩ける笑顔を向け、綾人は快感に滂沱ぼうだする桜庭の顔に陶酔する。

ひと際しなると同時に、桜庭は大量の白濁を散らせた。

肩で息を繰り返し、全身を襲う倦怠感に体躯はベッドに沈む。

「気持ち良かった? ふふ♡ いっぱい出たね♡」

胸にまで飛んだ精液を指で掬うと、それを口に含んで綾人が彼に賛辞を贈った。

「じゃ、次は僕も気持ち良くなっていいよね?」

綾人が己の下肢で育つ昂りを、下着のなかから引きずり出した。桜庭の腹に散る白濁を掬い、それを自身の屹立に塗りこめ、彼の後孔にもたっぷりと含ませる。

困憊とした桜庭に、もはや綾人の一挙手一投足を謗る余力もない。

彼の脚を抱え直した綾人は、己の肩に足を預け、己の屹立を後孔へと宛がい圧し掛かる。

「ふふ♡ これで葉月は僕のモノだよね♡」

「う! うわぁ―――ッ!」

最奥まで隙間なく塞がり、ふたりひとつとなった下肢から互いの熱を感じる。

綾人と桜庭、ふたりは恍惚とした瞳で見つめ合う。

互いのからだで高め合う煽情的な快楽と色香に、ともに意識が昇華するまで焼けるような渇望の寄す処を、繰り返し繰り返し貪り味わうのであった―――


                ☆ ☆ ☆


うわ! 濃いなぁ~~~

てか、やっぱり兎妃くんてケダモノだったんだね・・・・・・やっぱりぼく苦手。

哀れ! 桜庭兄。葉月くんてタチだと思ってたけど、兎妃くんのまえでは誰しもネコちゃんなんだね~ へ~ どうでもいいけど~

じゃあ次進みますね~ え~と・・・・・・カーテンから薄く差し込む光―――




―――が、暗い室内にひと筋の線を描く。

全身――主に臀部――が悲鳴を上げ、桜庭は軋む身体の鈍痛に覚醒を促された。

(・・・・・・いつの間に眠ったんだ? そうか、気を失って―――)

そこまで考え、咄嗟にサイドを窺い見る。

(―――帰ってなかったのか)

あからさまにホッとする自身に驚く。それから、そんなことで一喜一憂する自身を、悔しくも思う。

桜庭は、綾人のことが好きだ。その想いは、綾人が一年遅れて入学してきた日にまで遡る。

光を受けて輝く銀の髪。どこまでも吸い込まれてしまいそうになる碧眼。すらりとした長躯に、透き通るような象牙の肌と甘いバリトン。

中等部新入式の砌に、多勢の新入生のなかにいて、それでいて誰よりも光を放つ存在。それが兎妃 綾人であった。

桜庭は、中等部二年から生徒会副会長の任に就いていた。ただ今の生徒会長をサポートするべく、現在まで任の座を会長とともにキープしている。

会長が舞台上で激励の挨拶を述べているとき、桜庭はその横に付き従っていた。舞台上より生徒たちを見回し、そしてその眼に飛び込んできたのだ。

目が離せなかった。彼が立つ場だけ、きらきらと輝く神域であり、桜庭の心は彼が放つ光に一瞬にして奪われてしまったのである。

(それが・・・・・・こんな見境のないやつだったなんてな)

詐欺だろ―――桜庭は、睡る綾人の顔を見やり、爛れた素行・身持ちの軽さに、憤懣遣る方なくため息をついた。

「しっかし痛てーな。まだなかに挟まってるみたいだぞ。ったく無駄にデカいモノ所持しやがって! まったく・・・・・・無茶させやがる。 ・・・次は覚えてろよ。今度は俺が犯してやるからな」

あらぬ箇所からの痛みに顔を顰めつつ、桜庭は天使のような綾人の寝顔に向けて、そう宣言する。


「ん・・・・・・」

深い熟睡から意識が引き戻される。

綾人は、まだ散漫としている意識下のなかで、それでも己が充足した睡眠を取ったのだと理解する。

これまで綾人が、一所以外の場で熟睡したことはない。それは綾人の母が亡くなったときから続く、己の咎でもあるのだ。

必要とされない孤独感と、姦淫の許に生まれた罪悪感。

その憂いに心を塞いだときから、綾人の休まる場所はなかったのである。

「すごく・・・・・・よく寝た・・・」

―――知らない天井。

綾人は一点を眺め、なにか心の柔い部分を揺り動かす、何とも御し難い得も言われぬ感情の芽がもたげるのを感じた。

「なに? これ・・・・・・なんか・・・嫌だ・・・・・・」

嫌だ! 気づきたくない―――自分が自分でなくなるような、変化を恐れる頑是無き幼子のように、身体を丸めて震える。

(葉月・・・・・・?)

そういえば葉月の姿が見えない―――己とともに横たわっているはずの躯体を求め、無意識に伸ばした腕が空を掻いた。

「葉月・・・・・・葉月・・・葉月! 葉月―――ッ!!」

「なんだ!? おい? いったいどうし―――」

己の名を呼ぶ、尋常とは思えぬ綾人の叫喚がキッチンにまで届き、桜庭は慌てて彼の許までやって来た。

「葉月 ッ―――葉月!」

桜庭の姿を認めると、綾人はベッドから飛び出し、彼に縋り付いた。回された腕や肩は小刻みに震え、明らかに様子がおかしかった。

「綾人!? どうしたんだ! おい!? 黙ってないでなんとか言え!」

いつも飄然とした綾人からは想像もつかぬ、なんとも弱々しい姿である。訳が分からず、ただ己に縋る虚ろな彼を見下ろす。桜庭は困惑しながらも、まだすべてを暴けぬ綾人の仮面の下を垣間見、己が特別であるかのような例えがたい胸の昂揚を感じた。

「綾人? おまえ―――」

「・・・・・・お腹すいた。葉月、なんだかイイ匂いするね♪」

「はあ?? なに言ってんだ・・・って、ちょっと! おいッ!」

すっくと立ち上がった綾人が、桜庭をその腕のなかに閉じ込める。首筋に顔を埋め、彼の髪と肌から漂う甘い香りを楽しんだ綾人は、深呼吸をして其れを胸いっぱいに取り込む。

「シャワー浴びたの? ひとりで済ませちゃうなんて、ちょっと酷くない? 僕も誘ってよ。しかもなんだかお腹が鳴っちゃう、美味しそうな匂いまでするよ」

「俺が起き出してもおまえ、爆睡して目覚まさなかったろ? だからそのまま寝かせておいたんだ。今朝食作ってるから、その間にシャワー浴びて来いよ」

「うん♡ わかった♡ 楽しみにしてるからね♡」

着替したぎえ貸してね♡ 行ってきまーす―――手を振りバイバイしながら、綾人は部屋から出て行った。

「なんだったんだ? あいつ・・・いったい・・・・・・」

先ほどの奇嬌なる姿はいったい―――震える体躯で桜庭に縋り付くも、幾時が過ぎると既にいつもの飄々とした綾人に戻っていた。

綾人の生い立ちと、彼に対する義母たち扱いは把握済みの桜庭ではあるが、けれどまだまだ底知れぬ仄暗い闇が潜んでいるらしい。

桜庭は、往来のサディスティックな支配欲がムクムクと頭を擡げ、ディテクティブよろしく眼鏡のフレームを指で持ち上げ眼を光らせた。

「どこまでも把握してやるから覚悟しろよ? 綾人―――おまえは俺のもんだ」

不遜なる態度で恐ろしい科白を宣言し、彼の出て行ったドアの向こうを見据えたまま、桜庭は元来の底意地悪い微笑を浮かべたのであった―――


                ☆ ★ ☆


駅前のコインロッカーに、着替え一式を詰め込んだスポーツバッグを預けたままであったことを思い出し、綾人は一足先に桜庭のマンションを出た。

これからバッグのなかから制服を回収し、ホーム内のトイレで着替えなければいけない。綾人はスマートフォンにて、まだ時間に余裕があることを確かめると、急ぐ足を少し緩めてけぶる空を仰ぎ見る。

(あ~ なにやってんだろうね・・・僕・・・・・・)

失敗した―――綾人は、桜庭に己の失態を見られ、慚愧ざんきの念に堪え難く目を瞑った。

もともと、綾人はアドレスのなかの誰か―――ひと夜を飼ってくれる誰かの翠帳すいちょうへと、転がり込むつもりでいたのだ。

だが桜庭に捉まり、不承不承と行動をともにする羽目となった。其れがどうなってか、遠慮解釈もない桜庭の言動に振り回された挙句、気づけば自身の心はどっぷりと彼に浸かり染まっていたのである。

「これはヤバいよね~」と、この上なく大きなため息を落とし、二重の失態にひとり責苦する。心の機微など他人ひとには悟らせない綾人であるが、やはり桜庭は綾人にとってのダークホースなのだろう。いとも簡単に、己の心を乱されてしまうのだ。

「・・・・・・でも葉月の作ってくれた朝食、美味しかったなあ~♡」

葉月は料理も上手なんだねえ―――ふふふと蕩ける笑みを浮かべ、ついでにすれ違う女性たちの正常な歩行感覚を麻痺させた綾人は、再度歩みを進めたのであった。

「あッ! 今穿いてるボクサーパンツって、葉月のなんだ♡ ふふ♡」

・・・・・・それは新品だ! 妙な想像をして笑うな!!―――この場に桜庭がいれば、迷わずそう叫ぶであろうことは間違いがなかった。


「誰なんだ? さっきのやつ」

「ん? なんだ、皐月おまえ知らないのか? 2ーAの兎妃 綾人だぞ。有名だろう」

「ん~ ん~? ん! やっぱ知らね。俺は怜央れお詩音しおんちゃんしか眼中にねーし」

「・・・・・・まったく。ブレないところがおまえらしいよ」

「だっろ?~~~♪ でさ、なんでその兎妃がココにいたのよ?」

綾人あいつとセックスしてたからだ。お互い朝までぐっすりと寝てたからな、皐月が帰って来てるのも気づかなかった。美人だろう? 綾人は。今日からあいつは俺のだから、そのつもりでな」

「うっひょ~~~! つーか、それ可愛い弟のまえで、恥じらいもなく言ってんなよ~ 生々しいっつうの!!」

「おまえだって優月ゆづきの部屋で、似たようなことしてるんだろ? 毎日朝帰りしてるじゃないか」

「う・・・・・・ そ、ソレとコレとは話が別なんだよ! つか、俺のこたどーでもいいの! 後、詩音ちゃんを持ち出すな! ―――それよりさ、大丈夫なの?」

「綾人はそんなやつじゃない。だいたいうちとは全く関係がないから安心しろ」

「うわ~~~ それって、やっぱ葉月お得意の『秘技! 調べ上げ』ってやつ?」

「そうだ!」

「んな誇らしげに・・・・・・」

―――朝に上る話題としては、この双子の掛け合いは非常に下劣且つ、精神衛生上酷くタイム・プレイス・オケーションに不適切であった。

暗にストーカー・スペシャリストと呼ばれる葉月、意思疎通は双子の専売特許と高を括る弟の皐月とで、朝の一コマはこれにて終了するのであった―――


                ☆ ☆ ☆


信ッ―――じらんない!! ぼくたちのことペラペラと喋っちゃうなんて!

ばか皐月! ・・・恥ずかしいじゃんか・・・・・・

もう・・・・・・今晩は泊りに来てもHなことさせてやんないんだから―――ッ!




「おーい! 兎妃ー! おまえを呼んでくれって、可愛い客が来てるぞー!」

「ん~? だ~れ??」

いつもの教室の風景、野太い喧騒。黒山の人だかりとも言うべく、鬱蒼うっそうと茂る男子たちに辟易としながらも、綾人は今朝も利口に予鈴まえに教室へと身を置いた――生活態度は逐一親の耳へと届くからだ――。

今朝は桜庭のマンションから駅に寄り、直接学園へと登校したので、自宅には戻ってはいない。多少なりと義母の憤懣湛える表情が脳裏に過ったが、それものらりくらりとかわしてしまえばいいかと、綾人は諦念を以て其れを飲み込んだ。

ヤケに廊下が騒がしいな―――綾人は胡乱に思うも、興味がないので其れをいち早く思考から切り離す。

午前の授業も終わり、今朝は弁当を持参出来なかったので、これから購買部でパンでも買ってこようかと思案していたみぎり

「は~い。どちらさま?」

「綾くん♡」

「あれ? 雛―――どうしたの?」

教室のドアの脇からピョコンと飛び出してきたのは、綾人の妹である雛歌であった。

なるほど、賑やかだったのは雛歌のせいか―――男子たちが騒ぐはずだ。雛歌は愛らしく整った目鼻立ちの、花のような美少女である。

男ばかりの学園内に、突如としてこんな可愛い女の子が現れれば、草の根分けてでもひと目見ようとたかるのは男の人情である。

「綾くん、今朝はお家に帰って来なかったでしょう? だから、クオーコから預かってきた綾くんのお弁当を、私が届けにきたの♡」

「そうだったんだ。ごめんね? わざわざ、こんなところまで来させちゃって。ありがとう♪」

綾人のこの科白には、何ごとかと集まって来ていた男子たちが、みな総出で声を合わせてブーイングする。

「ううん! 綾くんにはちゃんと栄養とってもらいたいもの♡」

「そっか。うれしいな♪ じゃあ、しっかりと味わって食べなきゃね」

「ありがとう。途中まで送っていくよ」と、雛歌の背中に手を添えた綾人は、彼女を校門までの道のりをエスコトートしてゆく。

校門の周辺には、各々学園内の想い人である生徒たちに、手作り弁当や菓子を手渡したい女子生徒たちが列をなしている。

綾人がその姿を現したことで、一気に彼女たちのテンションも最高潮に達したようだ。甘く愛らしい歓声や嬌声が、辺り一面に響き渡る。さながら、コンサート会場でのアイドルとファンような一コマである。

「綾くん・・・・・・ここまででいいよ。ありがとう♡」

「そう? 気を付けて。今日はちゃんと家に帰るからね。一緒に夕食を食べよ?」

「! うんッ♡」

約束よ♡―――雛歌は満面の笑みを浮かべ、綾人に手を振り校門の外へと消えて行った。

「ふう・・・・・・僕・・・ちゃんと演じられてた?」

ひとりごちた綾人は、風紀指導の顧問や委員たちが粉骨砕身バリケードを組む校門を一瞥し、女子たちの呼び声には耳も貸さずに教室へと踵を返した。


「なにアンタ? 綾人くんとどんな関係だよ? あッ?!」

「調子のってんじゃない? てかさぁ、鏡みなよ~」

翡翠ヶ丘学園を少し歩いた先、歩行者からは死角になる路地裏で、女子生徒たちの高らかくも勇ましき怒号が反響する。

きゃははは♡ と、謗り蔑む黄色い嗤い声。女子たちがひとりの少女を取り囲み、どうやら集団で少女を体裁リンチを加えているようである。

「わた、わ・・・・・・きゃッ!」

パシンッ! と響く、頬をはたく音。

少女が悲鳴を上げ、周りを囲む女子たちの熱は更にヒートアップしてゆく。

「あたしら差し置いて出し抜けないよう、たっぷりと分からせてあげる」

「その制服って中等部のじゃん? なに子供ガキが綾人くん狙ってんの? 意味わかんないから~」

「ち、ち違いま・・・・・・す・・・私、綾くんの―――」

「うっせ―――ッつってんだよ!」

バシンッ!

先ほどよりも大きな衝撃音が、少女の頬に炸裂する。

少女は痛みに悲鳴し、噎び泣く。胸倉を掴まれて引きずられれば、自ずとリボンタイは解け、ブラウスのボタンは弾け飛んだ。

髪を鷲掴んで引きずる者。衣服を裂く者。

本来、淑やかにたおやかであるべき女子生徒たちは、各々と少女をなぶってゆく。

「もう調子のって綾人くんに近寄んじゃないわよ」

喧々諤々と、女子生徒の群れは少女に捨て台詞を吐き、引き上げていった。

「うっ・・・・・・うぅ・・・綾、くん・・・・・・ッ」

歔欷きょきし頽れる少女が、綾人の名を呟く―――




怖・・・・・・・・・・・・

てか怖いんだけど―――ッ! なに! あれ!? 女子ってあんな怖いの!?

やだぼく、もうナビ降りる!

作者「ちょ――――――ッと待った―――ッ!!」

優月「うわ・・・・・・また?」

作者「『また?』ってか、それひどい! ―――いやいや、そんなことよりも! ナビゲーター降りるとか、それホント止めて!? もう残すことあと一章じゃん!」

優月「だって~ ぼく怖いんだもん!! それに皐月ったらぼ―――」

作者「わ―――ッ!!!」

優月「また~? ・・・・・・じゃあ、もういいや」

作者「わかってくれた? そう! サァア~ン♡キュウゥ~♡♡♡ じゃあ次回もヨロシク~」

優月「え!? さっきの話題がもういいやって言っただけで、ぼく次もナビるとは―――あ~あ、行っちゃった・・・バカじゃん?」


・・・・・・と言う訳で、次回もぼくがナビることになりました。

怖いですが頑張りますので応援よろしく。ではでは、次回の予告―――

その1、少女の正体は! その2、綾人の運命は! その3、桜庭の恋は!

その4、風見の頭部は光るのか???

ここまでお読み下さいまして、まことにありがとうございます♡

次回、「兎妃 綾人の恋・下」も、どうぞよろしく♡ご愛読♡のほど、お願いいたします! では!


・・・・・・ンダダダダダダダダダ―――ッ!!!

作者「ちょっと―――ッ! 予告の3番と4番て、話の伏線にもなってないから!! てか「綾人の恋」だよ!? 勝手に話増やさないで!? 詩音くん!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る