第3話. 龍渓 大地の恋・下

喧噪と活気に満ちた繁華街、大通りにのぞむ昼下がりのカフェ「Casa del mese」。

窓外は乗用車や人々の往来で賑やかですが、それとは無縁の店内に広がる静かな空間と、愛くるしいタッチで演奏されるモーツァルトのピアノソナタ。

静かなるひと時と、エスプレッソの芳醇な香りを楽しむゲストたちの傍らで、店内に置かれたグリーンインテリアに隠れ、ひとり闘志を燃やす影。否、嫉妬と怒りに狂う、恋に悩める咲夜くん。

実の姉に殺意を覚え、恋のライバルである馨子さんを睥睨する咲夜くんは、自身の意思とは裏腹に、今にも恋する相手である大地くんのまえに駆け寄りたい衝動を抑えるのに必死です。

明朗闊達で、人を疑うことを知らない純粋な心の持ち主である大地くん。

一途に馨子さんを想う大地くんの心を案じてストーキング・・・・・・いえ、尾行・・・・・・間違えた、影なる心の守護者として密かに同行した咲夜くんは、席サイドに置かれて遮蔽しゃへいする観葉植物を毟りながら、為す術もなく事の顛末てんまつを見守るしかなかったのでした。

「くっそ~! なに話してんのか分かんねーよ! チッ! やっぱり馨子に盗聴器仕込んどくんだったぜ!」

穏やかではない科白が、ぽってりと可愛い咲夜くんの口からガンガン紡がれます。

その愛らしい顔や容姿からは想像もできない毒舌も、周囲から見れば「この葉っぱ痛んでる! お手入れしてあげるね♪」なんて、心優しい少年が植物の精に語りかけている・・・・・・そんな危ない人の筆頭みたいな科白を口にしているようにしか見えないのでした。 

「アイスコーヒーのおかわりは如何ですか?」と、空になったグラスに気づいたウエーターさんがサーブに来るも、一瞥しただけでにべもなく意に反さない咲夜くん。常に彼の鋭い双眸と全意識は、大地くんたちに注がれているのでした。

そんなアサシンめいた視線に気づくこともなく、彼と彼女・・・・・・大地くんと馨子さんは、恋する乙女と恋に破れた三枚目としてディスカッションを交わしていました。

「それで・・・・・・馨子さんの好きなやつって、どんなひとなんですか?」

「うん・・・・・・学園のね、英語教諭なの」

「教諭・・・・・・それは・・・きびしいっすね」

「ううん、教師ってだけならそんなにも難しいことではないの。私はもうすぐ卒業だし、そうすればもう教師と生徒ではなくなるから。でもね、私はそのひとの心には置いてもらえない」

「それってどういうことですか? 馨子さんはそのひとに告白したんですか?」

「とっくに振られ済み! 微々たる可能性すらなかった。そのひと、とてもモテるって話したでしょ? 当然いつも周りにはたくさんの女の子たちが取り巻いている。現国の女教諭までそのひとに逆上せ上がってる。けれど誰にも心のなかには踏み込ませないの」

「なにそれ! 贅沢なやつ!!」

まったくです。その教諭とは何奴か? その疑問にお答えするコーナー、「千隼の質問Q」の時間がやってまいりました。

「翡翠ヶ丘女子学園」の英語教諭、れん・クリス・藤岡30歳・男、独身。

学園都市からほど近くに建ち並ぶ、ハイソサエティ御用達の高層マンション群に住むボンボン・・・・・・いえ、エリート教諭。

彼はアメリカ人である企業家の父と、日本人である母から生まれたハーフさん。

母君の祖父は翡翠ヶ丘学園の英語教諭でした。そして今は父君が翡翠ヶ学園で英語教諭として教鞭をとってらっしゃいます。幼少の頃よりアメリカンイングリッシュを話す漣さんの父君と、流暢なクイーンズイングリッシュを話す祖父と母君から英語を見聞きし、初等部低学年の頃には漣少年はそれは素晴らしい発音で英語を操っていたそうです。

父も母も、祖父も曾祖父まで英語がらみ。自身の祖父は翡翠が丘で教鞭をとる、やんごとなきイングリッシュ・ファミリーのサラブレッドなのでした。

そんな漣少年が「ぼくも英語教諭になるんだー!」と己の進路を既に決めていたのも当然の流れ。父君は自分の事業を子供に押し付ける意思はなく、伸び伸びと育って今があるのです。

でもなぜ、漣さんは祖父と同じ翡翠ヶ丘学園の教諭にはならず、女子学園の教諭になったのか? それは至って男子生理現象の最も自然な流れ・・・・・・男子に囲まれるより女子に囲まれたい! そんな邪なモットーを掲げていたからに他ならないのです。

ここからが肝心! 漣さんは翡翠ヶ丘学園の美人保険医「仮にレディーM」に恋をしたのです。レディーMが臨時保険医として女子学園に3ヵ月間の派遣勤務に就いたみぎり、漣さんは運命の出逢いをしたのです。 ・・・・・・とは漣さんが思っているだけ。レディーMは、翡翠ヶ丘の有名ドッペルゲンガーズに見初められ、ただ今素晴らしき恋を謳歌し合ってらっしゃいます。

けれど漣さんの心に住み着いたレディーMは、決して席は譲らずに、それ故他の女性が入り込む余地がなかったのです。

と、本筋の流れとはあまり関係のないモブキャラ説明を、熱く語る「千隼の質問Q」これにて終了です。 ・・・・・・すみません。

「そうだよねぇ~ まったく贅沢だよねぇ~ まぁ、お相手にちょっと難があるんだけど~」

「え!? 難っすか? てか、その英語教諭だれかに恋してるの?」

「うん、そうなのよ。先生が恋してるお相手ってのが・・・・・・」

そこで馨子さんは大地くんに手をチョイチョイと遣り、「こっちさ来い」のジェスチャーをし、大地くんが耳を馨子さんの口元に近づけました。どうでもいいことですが、その光景を盗み見る咲夜くんは「おのれぇ~ 馨子~!」と、怒髪衝天をついて毛を逆立てているのでした。

「あのね・・・・・・私の双子の弟の彼女なの。ちなみに相手ってのは、大地くんとこの保険医だったりして」

と、馨子さんは超極秘案件を大地くんに打ち明け、「あ、これトップシークレットだからよろしく!」と付け加えました。

「え!? まじで!? あの美人保険医と!? うお~ ちょースキャンダル!」

「やっぱ大地くんから見てもあの保険医って美人だよね」

「そりゃ・・・・・・まぁ。男子にもめちゃ人気だし・・・・・・あ、でもオレは馨子さんのがサイコ―に美人だと思います」

「ふふ、ありがと♡ あ~ 恋する男子って複雑だなぁ~」

「なんすか? それ。ってか、それならオレも一応は恋する男子ってやつだと思うんすけど」

「ああ、大地くんは複雑ってより単純だよね♪」

「うわ、酷でー!!」

「あははは! あ? あ、はは・・・・・・ごめん。私も恋する女子ってことで許して?」

哀れ! 大地くん。ぺこり頭を下げて手のひらを併せる馨子さん。

「ふ、ふふ、あははは! っとに馨子さんて見た目と中身が噛み合ってないっすよね~ まじで詐欺!」

抱腹絶倒する大地くん。馨子さんはそれを見て頬をプゥと膨らませ、

「ひどぉ~い! そんな笑わなくてもいいじゃないー! あはは」

大地くんに抗議しましたが、すぐに自分も可笑しくなって大地くんとともに笑い合いました。終いには大地くんの肩をパシパシと叩きながら泣き笑う馨子さん。笑いの坩堝るつぼに嵌った瞬間です。

それを遠くの茂みから隠れ見るスト・・・・・・咲夜くん。

「!? なんだ!? あれ! っつか、おい! 気安く大地に触るんじゃねえ! 馨子!」

語弊があるようですが、正しくはシバかれてます、大地くん。

歯軋りしながら羨ましくも思う、男子に恋する咲夜くんなのでした。

「ふ~ よく笑ったわ! お腹が痛くなってきちゃった」

「オレも腹いてー。咲夜といい馨子さんといい、オレ花華院の姉弟には悶絶笑いさせられっぱっす」

「うふふ~ 大地くんはもう花華院と親交深めちゃったから、これから大いに笑って表情筋を鍛えてね!」

にっこりと笑って口もとに人差し指をさす馨子さん。咲夜くんといい、花華院の姉弟は・・・・・・ホント、あざとすぎ。

口もとから人差し指を外し、そのままストーカーが隠れる茂みを指さす馨子さん。大地くんと目配せし、茂み・・・・・・観葉植物の辺りを見定めました。

あ、ストーカーって本当のこと言っちゃった。

「じゃあ、そろそろあいつ痺れ切らしてるだろうし、周りの客たちの迷惑にもなるし、選手交代といきますか!」

「そうっすね・・・・・・あいつ、あれで隠れてるつもりなのかな? てか、ここ来るときからオレのあとつけてきてるのモロバレだっての、気づいてねーんだな」

ふたり顔を突き合わして呆れ顔。とうの噂の君は今もヤキモキしています。

「じゃあ私は退散するから、あいつのことよろしく頼むわ!」

「え!? つ、連れて帰ってくださいよ~」

「だ~め! あの子、あんなでも大地くんのこと本気みたいだから、やっぱ姉としてお節介したくなっちゃうんだな~ なんか不思議」

作者は、振った相手に弟を押し付けて帰る馨子さんのほうが不思議でなりません!が、怖いので対峙して口にすることはできません!

「聞こえてるのよ!」

ひ~~~~~~! 

「じゃあ、またね!」

ウインクを残してカフェをあとにする馨子さん。壮絶に可愛いウインク顔に恍惚と呆ける大地くん。 ・・・・・・どうでもいいですが、馨子さん伝票そのままにして行きましたよ? 大地くん。 ん? わー! 一番高いランチ喰ってやがるー!

「ふ~ ・・・・・・しゃーねえなぁ」

ひとつため息をついて席を立つ大地くん。向かう先は当然咲夜くんの許です。

徐々に己の許にやって来る大地くんを、「これは夢か幻か? いや運命かー!」などと、心をトキメかす咲夜くん。いえ、大地くんは運命に引き寄せられているのではなく、もともとバレきっているのです。頭も尻尾も隠せてませんよ? 残念!

咲夜くんの席のまえまでやって来た大地くんが、咲夜くんが座る席の向かいに腰を下ろします。

「で? オレになんか言うことある?」

「好きです!」

「・・・・・・じゃなくて~~~」

大地くんは、作者と同じくしてズッコケました。古い表現が嫌にぴったりなシーンで困ったものです。

大地くんは、咲夜くんにもっと分かりやすく端的に、

「オレをつけてきたんだろ?」

と言い直しました。それに対し咲夜くんは、

「・・・・・・今日はいい天気だよね~ お散歩には絶好な日だと思わない?」

と、苦しいすっ呆けで乗り切ろうとしました。無理です。

「あのなぁ~ まぁいいや。それで? お前これからどうすんの? 暇なら・・・・・・てかオレのあとつけるぐれーだから暇に決まってるだろーけど。これから付き合えよ」

「え!? 僕と付き合ってくれるの!? よろこんで♡♡♡」

「なんか・・・・・・意味違ってねえ?」

です、

ふたりして席を立ち、馨子さんの残した置き土産の伝票とともに、咲夜くんの会計もまとめて清算する大地くん。それを見て、また咲夜くんは大地くんを好きになるのでした。

                ★ ☆ ☆

ふたりが向かっている先は・・・・・・作者にも咲夜くんにも分かりません。大地くんのみぞ知る、です。でも、ここって・・・・・・

「ほら、ついだぞ」

「ここは・・・・・・」

丘のうえの空き地でした。ドーンッッッ!

見渡す限りの地平線と青空。翡翠ヶ丘の町が見下ろせる大パノラマ。

翡翠ヶ丘学園の屋上も同じように見渡せますが、この場所は大地くんだけの秘密基地なのです。ここから見るすべては、大地くんだけの宝物なのでした。

「すげーだろ♪ 隠れた穴場っつの? オレのお気に入りの場所なんだ」

「・・・・・・すごい。こんな場所よく知ってるね。って、大地くんしか知らないの? それを僕に教えてくれたの?」

「まーな。オレさ、落ち込んだときとかムシャクシャしたとき、よくここに来るんだ。それで、なんも考えねーでボーッと景色みてると、なんかさっきまで考えてたことがすっげーちっぽけに思えてさ、気づいたら元気になってんだよ」

「大地くんのパワースポットなんだね。そんな場所を僕に教えてくれたんだ・・・・・・嬉しい」

咲夜くんが俯いて本当に嬉しそうにはにかんで頬を染める。それを見た大地くんも、つられて真っ赤になりました。

「なに赤くなってんだよ! こっちまで照れんだろ!」

照れ隠しに声を荒げる大地くん。それが大地くんの癖なのはインプット済みな咲夜くんは、くすりと笑って大地くんを仰ぎ見るのです。

「大地くん、ありがとう♡ 僕、今日のこと絶対に忘れないよ♪ それから・・・・・・僕もたまにここに来てもいい?」

「当然だろ! そのために咲夜を連れてきたんだからさ」

今度はウルウルと瞳を潤ませる咲夜くん。これは狙って潤んだのではなく、純真に感動が涙腺を通って双眸に現れた結果。咲夜くんの目にも涙なのです。

そんな咲夜くんを認めた大地くんは、存分にギクリと冷や汗をかきました。

「おいおい、まじか~ ちょ~ 泣くなよ~ おーい、咲夜~ 咲夜く~ん?」

顔を両手のひらで覆い俯く咲夜くんを、頭ひとつぶん高い大地くんが屈んで覗き見る。大きな手のひらを咲夜くんの頭に置き、優しく撫でてやります。

くすん、ぐすん。鼻を啜って滂沱ぼうだする咲夜くんを大地くんがあやします。

「ほら、手ーどけろ。こっち向け。今日はちゃんとハンカチ持ってるんだぞ? ったく、どこにそんだけ涙が溜まってんだ? あ! ばか、目擦んじゃねえ」

困惑の表情を浮かべながらも、咲夜くんの涙を甲斐甲斐しく拭ってやる大地くん。

温柔敦厚な大地くんは、誰からも好かれる優しい男の子。咲夜くんが好きになってしまうのも頷けますね。仕方がありません。大地くん、ここはひとつ年貢の納め時ということで―――

「おいッ!」

「・・・・・・はい?」

「あ、いや・・・・・・なんでもねえ。涙止まったか? もう泣くんじゃねえよ? オレが困るからな?」

「うん。ごめんにゃさい・・・ ッ!―――」

噛んだ。咲夜が噛んだ。おじいさーん!

真っ赤になって恥じ入る咲夜くん。その横で笑いを堪える大地くん。

「~~~~~~笑いたきゃ笑いなよーッ! そんな横でプルプル我慢される方が居た堪れないんだからッ!」

「くふっ! ッ!―――り・・・・・・くははッ!」

呵々大笑かかたいしょうの境地へと達する大地くん。赤くなりながらも、好きなひとが傍で肩を並べてくれているのが嬉しくて、愉悦に浸る咲夜くんなのでした。

「・・・・・・もう。ほんと、よく笑うよね。馨子のまえでも、なんか爆笑してたし」

「くふッ! ・・・・・・ほんと、オレよく笑ってるよなぁ! おまえら姉弟―――いや、考えたらオレ咲夜のが笑わされてんじゃね? ・・・そっか、オレおまえといると自然でいられるんだ」

そう言って、大地くんは片手で咲夜くんの細い肩を抱き寄せました。自然と咲夜くんの頭は大地くんの肩にもたれ、その柔らかな温もりのうえにそっと己の頬を添わせたのです。 ・・・・・・わ~ ラブシーンだぁ~ や~らし~♡

「だ、大地くん? どうしたの!? や、嬉しいんだけど・・・・・・なんか変だよ!?」

「変か? そうだな~ 変だよな~! でも変でもいいや~♪」

「わ、わ! ちょ―――ッ!」

力強い大地くんの抱擁と情熱的な口づけ。

大地くんの科白に訝しみながら伺い見た咲夜くんを、大地くんは両手でぎゅっとその胸に包み、吃驚する咲夜くんの口に己の口を重ねていたのです。

「ふ、ぅ・・・・・・ッ」

咲夜くんが大地くんの広い背に腕を回し、恍惚となって大地くんの口づけを甘受します。なにを血迷ったのかと聞くような、野暮で勿体ないことは死んでもしない咲夜くん。大地くんの真意は分かりませんが、こんな降って湧いた美味しいチャンス、絶対に物にしてやる! と、腹のなかで着々と策士構築する黒咲夜くんなのでした。

ちゅっと音を立てて口唇と口唇が離れる・・・・・・

「どう・・・して・・・・・・?」

まだ息の整わない声で、咲夜くんが大地くんに口づけの意味を尋ねます。

「ん~? うん、やっぱ嫌じゃねえな。今も嫌悪感はねえ」

「どういうこと?」

どういうこと??

「ん~ ・・・・・・怒んなよ? ちょっとした実験だ」

「「何さ、実験って!!?」」

「!? おい! 今おまえ誰かと声被ったぞ!?」

「んなことどうでもいいよ! 何!? 実験って?」

「男と―――なこと出来るのかな? って」

「え? なに? 聞こえなかった。もっかい言って?」

「だからさ・・・・・・『男と、女とヤるみたいなこと』が出来るのかって」

ひどい! 咲夜くんも言ってやりな! こ、の・・・ひとでなし―――ッ!!

「う・・・・・・嬉しい! その実験って成功だよね!?」

「ま、まーな」

え――――――ッ!?

「やったー♪ 僕たち両想いだよね!? ね!?」

もはや咲夜くんの嘆辞は、告白も気持ちの交換もすっ飛ばした、事後の了承を取り付けることしか頭にありません。この情熱は誰にも真似は出来ないのでした。

「両想い・・・・・・? どうだろ? それはまだ分かんねえ。とりあえず咲夜をこーやって抱きしめんのと、キスすんのは嫌じゃねーみたいってだけだ」

なに、それ! 卑怯者ですか、あなた。それはダメだめ駄目ね! 潔く―――

「僕のものになっちゃいなよ! 後悔はさせないからさ!」

・・・作者の科白を取らないでいただけません~? 咲夜くん。でもよく言った!

咲夜くんの、嫌に説得力のある科白と迫力に押される大地くん。ともすれば「はい、不束者ですがよろしくお願いします」と首肯してしまいそうな勢いでした。

「後悔って・・・・・・おまえなあ。たく、変なところでおまえ男らしいよな」

くつくつと笑いながら、大地くんは咲夜くんの額に額を併せ、愛おしそうに目を細めるのでした。


「で? やっぱ、そうなっちゃったんだ」

意味深で、深いようで浅いかも知れない、綾人くんの科白ではじまるこの章筋。

「やっぱ」と綾人くんにつっ込まれるくらいに♡をまき散らす、咲夜くんを腕にぶら下げていては、仕方がないようにも思えます。 ・・・・・・ねえ? 大地くん。

「あーいや、うん。 ・・・・・・まーな。てか、まだ分かんねえ」

「なに、それ? 咲夜のこの顔見れば分かるんじゃない? 雄弁に語ってるよ?」

「・・・・・・う~」

「もう観念しな」と、綾人くんに釘を刺されて、己の心を固めさせられる大地くん。けれどこれまた厄介な「男の矜持」なるものに縛られ、まだ素直に認められないでいる大地くんなのでした。

ここは球技専用の体育館。広大な土地面積を誇る翡翠ヶ丘学園には、多目的体育館の他に、専用体育館が全部で4館建ち並び、大地くんたちが今いる体育館は主にバスケットボール部が部活で使用しています。

因みに今は放課後の部活動開始時。大地くんはメニューであるウォーミングアップとランニング、ロールやレッグスルーなどの基本を後輩たちに伝授しつつ、先ほどまでディフェンスをつけてのドリブルや、ハーフコートでのミドル・ロングシュートの練習を自主的に行っていました。

3年生部員は既に殆どが引退し、事実上ただ今のキャプテンは大地くんが代理で引き継いでいるのでした。けれど、大地くんが3年に上がっても、満場一致で大地くんがキャプテンということで落ち着くでしょう。

それからそれから、なんと咲夜くんもピカピカのバスケ部1年生なのでありました。これまで咲夜くんは、大地くんに近づくことは叶わず、ただ見てるだけなのでありました。え? なんで近づけなかったのかって? ・・・・・・それは、咲夜くんがベンチ組だからです。

翡翠ヶ丘のイケメン5人組のひとり、龍渓 大地くんに憧れて入部する新入生は数多。そのなかでも控えめ(演技)で大人しく(という自己キャラ設定のもと)、影から先輩を憧れ見る(繊細な俺って可愛い?)という後輩を、咲夜くんは健気にも演じ重ねてきたのです。

ただ、その儚い演技は、大地くんには「まったく」届くことはなく、むしろ影が薄すぎて花華院邸ではじめて知り合ったとばかり思っていた大地くん。憐憫れんびんなる咲夜くんの努力は、涙を誘うどころか笑いを誘ったのでした。

「まあ、時間の問題だよね? 咲夜が可哀想だからさ、さっさと受けちゃいな」

「他人事みてーに言うな! ・・・・・・って、綾人は男もイケたんだっけ」

「うん。でもなんか引っかかる言い方だよね。 ・・・まあ、いいや。咲夜? よかったね」

「はい♪ いろいろとありがとうございました♡」

「いえいえ、どういたしまして」

すっと大地くんの顔色が変わる。そのとき、作者は大地くんに阿修羅を見た!

「・・・・・・おい、それはいったいどういうことだ?」

「「あ」」

ユニゾンする綾人くんと咲夜くん。ふたりの顔に「マズい」と一筆書きで書き綴ってあるのが窺えます。

「なんで咲夜が綾人に礼なんて言うんだよ。てかさ、オレ前々からおかしいと思ってたんだけどよ、おまえらって初対面じゃないっぽくね? 咲夜はオレより綾人の方が慣れてるっつか、前からの知り合いっぽいんだけど」

綾人くんと咲夜くんは平静を装いながら、額からひと雫の汗を流しました。

「あの、ね、大地く、ん・・・・・・僕―――」

「あー 分かっちゃった? うん、そう。僕と咲夜は、大地と咲夜が顔合わせるまえから面識あったんだよね」

えー!? そうだったんだ! 作者も知らない事実発覚!

「んなバカな」

的確なつっ込みありがとう! 大地くん。

「綾人くん・・・・・・」

「もういいだろう? 咲夜は大地と両? 想いになれたんだから。ネタばらししよう? じゃなきゃ、大地にとってフェアじゃないでしょう?」

「・・・・・・うん」

「ネタ・・・・・・なに? それ・・・」

「怒らないで聞いてほしいんだけ―――」

「それは場合による。まずは洗いざらい話せ!」

「「怖~い」」

ユニゾンするふたり・・・・・・え? ひつこいって? 怖~い!

「ボケはほっといて・・・・・・じゃあまず―――」

作者に対し、失礼千万な科白を吐き捨てた綾人くんが、順を追って大地くんに事の顛末を吐露とろし出しました。

                ☆ ★ ☆

「あの・・・・・・兎妃 綾人先輩・・・です、よね?」

「ん? そうだけど? なに? 僕のファンの子? きみ可愛いね。よか―――」

「ありがとうございます♪ でも違います。僕は綾人先輩じゃなく大地先輩のファン(愛人アイレン希望)です♡から!」

「・・・・・・はっきり言う子だね。ちょっと驚いちゃったよ」

綾人が驚いた―――ッ!? 綾人が驚いた! 綾人が驚いた! おじいさ―――

「うるさいよ!」

・・・・・・すみません。

「それで? 大地のファンが僕になにか用?」

己に興味のない者に対しては、恐ろしいほどに無関心無頓着で、愛想の激減する綾人くんでした。

「はい♪ あッ! 自己紹介が遅れました、僕、花華院 咲夜といいます。よろしくです♡綾人先輩♪」

小首を傾げて狙って言い放つその演技、アッキャデミィ~賞ものの―――

「あざとさだね」

!! ・・・・・・だから、作者より先に言わないでって言ってるのに・・・

「ありがとうございます♪ さっそくなんですが、僕と大地先輩の『恋のキューピット』になっていただけませんか? お礼に僕の姉の『花華院 馨子』を差し上げますので♡」

「差し上げるって・・・・・・。花華院 馨子って、女子学園のマドンナの馨子ちゃん?」

マドンナって・・・・・・綾人くん・・・・・・古いです。

「そう! その馨子です。で、なっていただけますか? キューピットに」

「まあ、貰う云々は兎も角として、なんだか面白そうな話ではあるね」

「でしょう?」

「うん」

うふふふふふ~ ・・・・・・ふたりはハモりながら、不気味に下卑た笑いをあげるのでした。

因みに、この綾人くん。例えどれ程くだらない案件であろうとも、己にとって面白いかどうか、また己に益があるかどうかで諾否だくひを決める、我田引水を地で行く人なのでありました。

ここでぴたりと息の合ったふたり。密かなる水面下での交友を深めてゆくのです。

「それで? 咲夜・・・でいい? きみは既に筋書を立ててるんでしょ?」

「もちろんです! あッ! 僕も綾人くん♪ でいいですよね? ふふ♡でね、まずは僕バスケ部に入部します! これまで様々な勧誘を断ってきたんですが、断ってきてよかった~♡」

「一度入部したら、卒業まで退部できないもんねえ」

「そうなんです! でね、僕が徐々に大地先輩と距離を縮めて行きますから、綾人くんは僕と大地先輩がふたりで逢える場を作ってもらいたいんです。そのあとは僕の色テクで何とかします!」

「了解。色テクがなんなのかよく分からないけど、まあ頑張ってよ。僕のほうは任せといて。あ、ちなみに大地はノーマルだよ?」

「う・・・・・・そ、それはもちろん想定内です・・・」

「なんだか頼りないなあ・・・」

そんなこんなのやり取りで、コンタクトを取り合ってゆくふたり。お互いの家に行き来しつつ、策を練り上げていったのです。

因みに綾人くんと馨子さんが「馨子ちゃん」「綾くん」と言い合う仲なのは、綾人くんが何度か花華院邸へ足を運んだ折に、顔見知りになったからなのでした。

もともとパーソナルスペースが皆無の綾人くんにとって、ほんの数分の干渉で竹馬の友並に交友度は昇格するのでした。

そんな折、郁くんの零したひと言で、綾人くんの事案は解決へと迎えるのでした。


「それが、オレの馨子さんへの気持ち・・・・・・って訳か。あの屋上のときの会話か?」

「そう。だから大地には『共通の知り合いがいる』って言ったでしょ? 嘘はついてないよね?」

「ああ・・・・・・だけどよ・・・なんだかな・・・・・・」

非常に複雑極まりのない表情で、綾人くんと咲夜くんを交互に見やる大地くん。咲夜くんは大地くんの腕からぶら下がったまま、頑是無い無垢(そう)な少年の表情で小首を傾げ、その手を大地くんの頬へと伸ばして撫でさすりました。

「大地くん、大丈夫? ごめんね? 黙ってて。でも大地くんが好きで、どうしても僕のことを好きになってほしかったから、綾人くんにお願いしたの」

大地くんは満更でもない顔で脂下がり、けれどすぐに咎めるような声音で咲夜くんを問い詰めます。

「でもなんで綾人なんだ。他にも頼むやつなら居ただろ」

「えーとね? 綾人くんって、なんだか僕と同じ匂いがしたんだよね~ きっとこの人なら味方になってくれるって、直感で分かったの♪ ごめんね?」

早い話が同じ穴のムジナ・・・・・・類友の獣臭を嗅ぎ付けたと。納得です!

咲夜くんは、なぜ綾人くんにはじめに声を掛けたのかと嫉妬する大地くんが愛しくて仕方がなく、今や咲夜くんのぶら下がりの木と化した大地くんに至っては、己が綾人くんに嫉妬していることさえ気づいていない朴念仁だったのです。

それを瞬時に把握した綾人くんは、大地くんのあまりの鈍感さを不憫に思うも、何食わぬ顔で更なる嫉妬を掻き立てる科白を、大地くんに対し繰り出したのでした。

「僕も咲夜はどうも他人とは思えない親近感というか、見えない糸で繋がってる気がするんだ。こんな邂逅かいこうもあるんだね」

更に「これってもう運命?」とまで言い放ちました。

ここまで言うのも、咲夜くんの純粋? かも知れない恋心と、己の気持ちに気づかない大地くんの心の枷の開錠をうながすが故。己にとって大切な存在にはとことんなまでに世話を焼く、温厚篤実な部分も持ち合わせた綾人くんなのでした。

「おい・・・・・・咲夜・・・そろそろフットワークはじめるぞ」

「え? あ、はい」

それはとても、とてもとても低い大地くんの声。そんな声どこから? と聞きたくなるような、低く熾火おきびがチラチラと燃えるような声でした。

フィールドへと走る大地くんのあとを追い、咲夜くんがてけてけと駆けてゆきます。「大地くん、なんだか機嫌悪い?」などと、策士なようでどこか詰めの甘い咲夜くんは、綾人くんの「大地誘導作戦」にはまったく気づかないのでした。可愛い♡サクやん。対して綾人くんは・・・・・・

「はあ。ほんと世話焼けるよね。なんだかんだ言って、やっぱり咲夜のことが好きなんじゃないか。いっちょまえにヤキモチなんか焼いちゃって。ふふ」

綾人くんの言うとおり、大地くんは綾人くんから咲夜くんを離すために、そそくさとフットワークを再開し、今は他のメンバーとは違ったメニューを咲夜くんとふたりでこなしています。

「おまえら次はディナイに繋げろ! フリースロー忘れんなよ!!」

大地くんがピリピリしていることは、メンバーの誰もがすべからく理解しました。

みなは「いかれるアースドラゴンの逆鱗に触れてはならぬ!」と、心をひとつにして声を揃えたのでした。

                ☆ ☆ ★

静まり返った部屋、ひとの気配のない龍渓邸。

フランス窓の外は夜のとばりが下り、否応もなく咲夜くんの緊張は高まるのでした。

思い返せば、大地くんは綾人くんとの会話のあとから様子がおかしくなったように思う。咲夜くんは「なぜなんだろう?」と、神経を総動員して記憶の断片を片っ端からかき集めるのでした。

けれど、そんな焼け石に水のような努力はまったくの無駄で、実際にはなにひとつ思い当たるような出来事はなかったのです。 ・・・・・・咲夜くん、それ本当?

「ね、ねえ大地くん? どうしてなにも喋ってくれないの? なんだか僕、どきどきしてきちゃったんだけど(別の意味で)。もしかして僕、なにか大地くんの気に障ることでもしたのかな? だったら、ごめんね?」

なんて意地らしいのでしょう! 例え根っこが策士で腹黒猫かぶりであろうとも、こんな科白を聞かされた日には、なにもかも水に流して「全然オッケイ!」と歯を光らせ言い切るでしょう。

例え小首を傾げてあざとくしなを作ろうと、例え己がいちばん可愛く見えるポイントで狙って上目使いをしようと、例え―――

「例え例えうるさいなぁー!」

・・・・・・もう言いません。

「ねえ! 大地くんったら。なんか言ってよ?」

「・・・・・・おまえさ、綾人とどういう関係なの? あいつ、男もイケんの知ってんだろ? 仲いいもんな、咲夜と綾人。で、どう? なんだよ」

「どう・・・って、そんなのなにもないよ。ってか、え? なに? もしかして、大地くん・・・それって嫉妬とかいう・・・・・・?」

「だったらどうした。嫉妬して悪いか? ああ、嫉妬してるよ。めちゃくちゃな!」

「うそ・・・・・・」

まさに感無量! 咲夜くんはここがどこかも忘れ、今すぐ狂喜乱舞にリオの大カーニバルをはじめそうな勢いです。

潤む瞳と高鳴る鼓動。「ああ! やっと俺の大地になったぜ! ベイビー♪」と、愛くるしい表情とは裏腹の、なんとも男らしいことを考える咲夜くん。

だとすれば、もはや大地くんに遠慮は要らぬ存ぜぬ、はたまた皆無なり! などと、咲夜くんは早速ジリジリと大地くんとの距離を縮めてゆくのであったのです。

と、そのとき・・・・・・

「! ぅわあ―――ッ!?」

咄嗟とっさのことで、咲夜くんは可愛い子ブリッ子の仮面も被れず、素でドスの効いた悲鳴を上げでしまいました。

なにがあったの!? ・・・・・・要約すると、一回りも大きな大地くんが、すっぽりと包まれてしまう小柄な咲夜くんを引っ捕まえ、抱き留めてしまったのでした。距離を詰めて襲うつもりでいた咲夜くんは、虚を突かれて目を白黒させてます。まさか大地くんのほうから、反対に襲ってくるとは思わなかった咲夜くんは、大パニックです。

「咲夜! おまえはオレのことが好きなんだろ!? なら他の男と仲良くなんかしてんなよ! オレだけ見てろ!」

わあ・・・・・・そっか、そうなんだ・・・・・・大地くんて、結構―――

「重いんだね♪ ふふ♡大歓迎!」

ごめんなさい。間違えてました。このひとたち同類です! いえいえ、作者たるもの、わがが生み出したキャラクターは我が子同然。我が子の幸せが作者の幸せです!

がっちりと抱き合うふたり。咲夜くんは、大地くんの大きな背中に目いっぱい腕を広げ、ぎゅっと抱きつきます。まるでコアラです。対して大地くんはおのが胸のなかの愛しき存在を、2度と離さないといった面持ちでしかと包み込みました。

「咲夜、 ・・・・・・オレ、おまえが好きだ。誰にもやらねえ。オレだけのものだかんな! オレから離れんな!」

「嬉しい。うん、僕も大地くんから離れたくない。ううん、離れないよ♪」

「咲夜・・・・・・」

大地くんの強烈なまでの所有欲。ともすれば狂気染みた感情を隠しもしない、焦がれる想いと執着心。

ふたりはどちらからともなく、惹かれあう磁石のようにお互いの口唇を・・・・・・って、えッ!? まだ解説し終わってないのに、どうしてサクサクまぐわい出すの――――――ッ!!


「はッ・・・・・・ん、・・・・・・ぅ」

「咲夜・・・・・・オレ、はじめてだから・・・下手だよな?」

「うう、ん・・・きも、ち・・・い・・・んッ」

くちゅり、重なる口唇から洩れる水音が、大地くんの部屋に広がる。冷房の効いた室内は快適よりも少し寒いくらいだけれど、ベッドで絡み合うふたりの周りの温度だけは、肌寒さを感じることなく徐々に上昇してゆくのです。

吐息が触れるほどの唇の接触。咲夜くんのぽってりとした愛らしい口唇は、今はただ互いの唾液に濡れそぼり、ぬらり淫靡に大地くんの情欲を掻き立てる蜜口と化しています。

咲夜くんが口唇をそっと花開くと淑やかな白い歯が覗き、その官能的な情景を目に映した大地くんはことの他煽られてしまい、衝動のまま歯列を割って舌をねじ込んできたのです。

「ッ・・・・・・、 んぅ・・・・・・ッ」

互いの舌が絡み合う。

大地くんの熱い舌が咲夜くん口蓋をなぞり、彼がびくりと震える。ふたりの唾液が混じり合い、それを交換し合う。飲み干せなかったものは、銀の玉糸となって頤から喉もとまで流れ落ちた。

だんだんと咲夜くんの息が上がってきます。上気した頬のなんと艶めかしいことか。彼の婀娜あだびた表情のすべてが、大地くんの奥底に眠る獣染みた激情を揺さぶるのでした。

「もっと咲夜の身体に触れていいか?」

大地くんはそう言うなり、己の下に仰臥して組み敷く身体を、手のひらいっぱいに味わいだしたのです。

彼の衣服を手早く取り去った大地くんは、羞恥で色づく諸肌を視覚と触覚で犯してゆきました。

まるで、手のひらのすべてが性感帯にでもなったような不思議な感覚。大地くんは、咲夜くんの肌に触れるたびに、己が昂ってゆくのが分かりました。

すべらかな頬から首筋へ、鎖骨を通って大地くんの手が、咲夜くんの胸に下りてゆきます。右手の人差し指が、羽毛のようなタッチで彼の胸の尖りに掛かりました。

「ん――――――ッ!!」

組み敷く彼が、人魚にでもなったように跳ねる―――


『すっげえ凄まじい快感だった。というか、むき出しの神経に直接触れられたみたいにビリビリきたんだ! 電気でも通ったような? こんな気持ちいいのはじめてで・・・・・・やっぱ、好きなやつに触れられたら気持ちいいいわ! クセになりそー♡』(咲夜、心の後日談より)


大地くんの下で組み敷かれる体躯は、痙攣でもするようにピクピクと絶え間なく震えています。咲夜くんの息が本格的に乱れてきた頃、大地くんがおもむろに胸の尖りを口に含んだのでした。

「やッ!? ―――ぁあッツ!!」

大地くんの舌使いはとてもいやらしく、それからうっとりするほど滑らかに淫猥いんわいに動くのでした。尖りを舌先に引っかけ、歯に掛けて甘噛みしてやると、咲夜くんはこれまでに聴いたどんなシンフォニーよりも美しい旋律で、協和音を奏でたのです。

「あッ・・・んぅ、・・・は、あ・・・んッ!」

悦に入りながらも、大地くんの彼を愛撫する手は休むことなく、今度は下肢に下りてゆきました。

そこは既に固く兆しており、大地くんを誘惑するようにとぷりと蜜が鈴口より溢れていました。下生えまでに垂れた愛液を掬うようにして、大地くんは彼の昂る刀身に塗りこんでゆきました。

「うゎ!・・・・・・ッ・・・や、そ、それ・・・ダ、メッ」

「気持ち良くない? じゃあ口でしてやる」

そう言って、胸のあわいに舌を這わせていた大地くんの頭が、すっと下肢まで下りてくのでした。

「え!? そ、そんな・・・・・・や、い、いや・・・あぁ―――ッ!!」

躊躇とまどいもなく、大地くんは咲夜くんのものを口に含んだのです。そのまま上下にインサートしながら、茎に舌を這わせて彼の官能を昂らせてゆきました。

強弱をつけての抽挿。口を窄めて亀頭を吸ってやると、咲夜くんは甘すぎる嬌声を上げるのでした。その愛らしい声に興奮し、大地くんは危うくノーホール状態で極めてしまうところでした。

(や、やべ・・・・・・危なかった)

さすがは無垢なるチェリーなイノセントボーイ。そんなところが素敵なのです♡

「これはマズい」と大地くんは、イソイソと行動に移し始めました。

口で咲夜くんの屹立を柔く愛撫しながら、脚の先にまだ残っていた咲夜くんの下衣をすべて脱がし去りました。少し性急かもと咲夜くんの反応を慮りますが、如何いかんせん己の下肢状況のほうがより切迫緊急を要するので、ここは緊急避難と銘打ち(使い方間違ってます)陰嚢から続く隘路あいろに指を這わせ、双丘の奥に固く閉じられた後孔へと指を導いていったのです。

「あッ! も、もう・・・うぅ・・・い、いっちゃ・・・んッ!」

「いいぞ、イけ」

それだけ言うと、大地くんはより一層彼の屹立をなぶる行為を速め、射精へと導いたのです。咲夜くんの昂りから流れ出た淫液と、己の唾液。そのふたつの異なる体液で、既に彼の後孔は濡れそぼっており、その滑りをかりて外襞をなぞるように少しずつ固く閉じた蕾を解していったのです。

大地くんが強く屹立を吸い上げた瞬間、咲夜くんは甘やかな嬌声とともに、大地くんの口内にしとどに精を放ちました。

「うッ―――ッッ! うぅッ!!」

まるで酩酊めいていしたように咲夜くんは蕩けきった表情で達っします。2度3度と射精は続き、そのたびに咲夜くんの腰が突きあがり、否応なく大地くんの口内奥まで彼の屹立が突き刺さりました。

けれど大地くんは決して咲夜くんの昂りを離そうとはせず、最後の残滓まで啜るように嚥下してしまったのです。 

「も、もう・・・・・・離して・・・ごめんね、僕、その・・・出しちゃって」

咲夜くんが真っ赤になりながら、消え入る声で「すっごく恥ずい・・・」と手のひらで顔を覆う。咲夜くんテレてます。

ちゅぷっと音を立てて、咲夜くんの屹立から口を離す大地くん。さいごに舌先で亀頭をぺろりと舐める。

達したばかりで過敏感になっている刀身への刺激は、ことの他辛いものだということは同じ男として、大地くんがいちばんよく理解している訳で。それは大地くんが、ただ咲夜くんの可愛い声を聴きたいがためだけに仕掛けた、可愛いイジワル。

案の定、咲夜くんは大仰なまでに「ああ、んッ!? ―――ひどいッ!」なんて、涙目で大地くんを睥睨し、プイと横を向いてヘソを曲げる特典付き。

「くくく! 悪い。あんまりにも咲夜が可愛いもんだからさ、ちょっといたずらしたくなったんだ。もうしない」

あたかも「オレとっても反省してる」といった表情を取り繕ってはいますが、大地くんはまったく反省などしていなかったのです。咲夜くんの可愛く乱れた顔と声を見聞き出来るのなら、なんどでも同じことをするでしょう。

その後、咲夜くんの頬をそっと撫で、「機嫌直せよ」と鼓膜を愛撫する甘い声で、咲夜くんを懐柔し翻弄ほんろうするのです。

「大地くんて・・・けっこうイジワルだったんだね。いじめっ子だ」

「そんなとこも大好きだけど♡」と、付け足す咲夜くん。泣けるほど物好きです。

「咲夜限定でな」

ちゅっと口づけをして、大地くんが気合いを入れました。

「よし! ヤるか」

「もう! ムードなさすぎ!!」

「なんだよ。結局ヤることに変わんねーだろ? オレはおまえがいるだけで最高なんだ。ムードなんていらねーよ」

もう・・・ばか・・・なんて、咲夜くんは言いませんでしたが、でもそんな雰囲気。ふたり睦み合い、頬を染め、書いてるこっちの首が痒くなる甘いムードですよ♡咲夜くん!

大地くんが男らしく、一気に己の衣服を脱ぎ去りました。細身ながらも逞しく隆起した筋肉。引き締まった下肢。一糸まとわぬ大地くんの見事な体躯に、咲夜くんの思考は大暴れです。(映像事故のためカットします)


「オレの部屋、なんもないんだ・・・その・・・おまえのなか解すやつ・・・」

「大丈夫! 僕のバッグに入ってるから♪」

「え!?」

用意周到でした。

「備えあれば~ ってやつ? 役にたったでしょ♪」

ずっと鞄に備えていたの? と聞くのは、咲夜くんを生み出した作者としては大変怖くまた憚られ、しかしそれは大地くんも同じだったようで・・・・・・咲夜くんの科白には始終暗黙を通した大地くんなのでありました。

可愛いピンクの小瓶。丸いキャップを回して傾けると、とろりハチミツのような潤滑ローションが咲夜くんの形のよい隆起へ絡むようにして注がれ、重力に導かれるまま隘路に沿って流れてゆきました。

「あんッ! 冷たッ!」

冷房で十分に冷えた室内。バッグのなかで瓶ごと冷たく冷やされたローションを不意に注がれ、咲夜くんはびくりと下肢を弾けさせました。

「悪い!」

「はじめてで気が回らなかった」と、不慣れを恥じてバツが悪くなる大地くん。「いいからそのまま続けて」と大地くんの頬へと手を伸ばし、いとけない笑顔でそう口にする咲夜くんの気遣いに、大地くんの胸がトクンと高鳴ります。

今度は咲夜くんを吃驚させないよう、予め手のひらでローションを温め、そっと後孔へと塗りこめてゆく大地くん。襞に沿って指を滑らせ、つぷりと指の先を後孔に侵入させます。

「ひゃッ!」

急な侵入者に、咲夜くんの後孔に力が入り、大地くんの指をきゅうきゅうと喰い締めます。その艶めかしい感覚にぞくりと総毛立ち、頬を染める大地くん。けれどすぐに顔を上げ咲夜くんを窺い見る大地くん。彼に辛い思いをさせているのではと、不安になったのです。 

「痛いか? 苦しかったら言ってくれ。無理させて咲夜を傷つけたくない」

本当はここで止めるのは、大地くんにとって一世一代のおあずけにも匹敵しますが、それ以上に睦み人に苦痛を味わわせたくはないのです。

「やめないで! ・・・・・・大丈夫。ちょっと驚いただけだから」

「ね? おねがい、続けて?」と、上目使いで先を続けるよう、愛しき相手にねだられて拒める男などいるはずもなく。大地くんは、咲夜くんに心を鷲掴みにされたような感覚に陥り、恍惚と彼の婀娜あだびた面貌に溺れてゆきました。

甘く鼻をくすぐるのは、ラベルにあるように桃のアロマ。キャンディーのような作り物染みた甘ったるさが、殊更に大地くんの雄の欲望を、淫らで貪婪な劣情へと変えてゆきました。

彼の後孔はとてもきつく、固く閉じられた蕾のように外部の侵入を拒んでいます。指ひとつでも苦しそうな彼を慮ると、このまま続けてよいのやら・・・・・・大地くんは少なからずの尻込みをみせました。

そんな大地くんの気持ちを察したのか、咲夜くんは大地くんの手にそっと自身の手を重ね、自ら大地くんの指を己の奥へと呑み込ませてゆくのでした。

「おい!? なにやってんだ! 無理するな!」

「い・・・・・・い、いから・・・指、もっ、と増や・・・して」

ローションでスムーズに指は奥まで挿入できましたが、依然として孔口は引き攣っています。けれど、指をかぎのように曲げ、性器側の奥襞を擦ったとたん、咲夜くんは背をしならせ悩ましい嬌声を上げました。

「あッ! あ・・・ああ―――ッ!」

「!? !? !?」

驚く大地くん。咲夜くんは悶え、シーツをぎゅっと掴んで強すぎる刺激に身も世もなく喘ぐのでした。

「や、あ―――ッ! うぁ・・・・・・あッ」

「ここか? 咲夜のイイところ」

操られるように、こくこくと頷く咲夜くん。瞳からは生理的な涙が溢れています。

快楽に力が抜けたのか、それまで頑なだった孔口が更なる快感をねだるようにして、花開くように綻んでゆきました。

その変化を逃さないように、大地くんは指を二本三本と増やしてゆきます。スムーズに動く指のストロークに合わせるようにして、ぐちゅくちゅと後孔から淫猥な水音がたちました。

「ああ・・・・・・ん、く・・・ぅッ」

はじめて感じる後孔での快感と、指が与える進入禁止ゾーンへの違和感に、咲夜くんは歯を食いしばり頭を振りながらやり過ごしています。

「・・・・・・そろそろいいか? ・・・俺、もう我慢できそうに・・・ない」

すでにとろとろになっている咲夜くんの、壮絶な色香に中てられた大地くんは、とても辛そうです。よもや懇願するような科白を、大地くんは喉奥から絞りだしました。

「ふぅ・・・・・・ッ ん、・・・・・・きて」

苦しさに涙を浮かべる咲夜くんは、それでも精いっぱいの笑顔とともに、大地くんへと両手を広げて意思表示を示しました。

健気で一途な彼の気持ちが伝わり、大地くんの胸は張り裂けそうなほどに高鳴りました。

大地くんは、彼の腿を掴んで胸につくほどにぐっと折り曲げます。そのまま彼に圧し掛かるように重なり、自身の性器を掴んで後孔へとあてがい、自重に任せて蕾のなかへと昂りを呑み込ませてゆきました。

「ひゃうッ! ・・・・・・あ―――ッ!」

三本もの指を呑み込んでいた後孔は、それでも大地くんの猛る怒張を受け入れるには狭く、刀身を呑み込むのが精いっぱいでした。

ローションで滑りを借りてはいるものの、引き攣る痛みにシーツを握りしめて唸る咲夜くん。大地くんは彼の痛みに縮こまった性器をそっと握り、緩やかに扱いてやりました。

「は、あ・・・・・・ん・・・・・・ぅ」

うしろからの痛みとまえからの法悦に、咲夜くんは次第に呼気を荒くなってゆくのでした。

時間をかけて、大地くんは己を彼のなかへと埋めることができました。きつい彼のなかは、大地くんにとってもダメージがありましたが、それよりも彼とひとつになれた感動が一入ひとしおで、気づけば咲夜くんを抱きしめていたのでした。

「・・・・・・大地・・・僕も嬉しい。大好きだよ♡」

「ああ。オレもだ・・・・・・」

ふたり重なり合うように、互いを抱きしめあいながら、口唇を合わせました。

舌を絡ませ、深くなる口づけに、まるでエスプレッソとミルクが混じり合ってゆくような感覚を覚えたのでした。


互いの呼気が共感する。

ひどくエネルギーを使った。もう動きたくない。でも、とても満ち足りた気分だ。

大地くんは、咲夜くんを腕に抱き、ぎゅっと抱き寄せてそう思うのでした。

彼に守られるように抱かれている咲夜くんも、愛しい彼の上気した顔を見つめて、同じことを考えているのでした。

「・・・・・・身体、辛くないか?」

「うん♡ だいじょーぶだよ♡」

上がった息のなか、大地くんは咲夜くん体躯を案じます。

ほんとうは、方々ほうぼうあらぬ場所が悲鳴を上げ、ズキズキと鈍痛を訴えているのですが、咲夜くんは目いっぱい元気を取り繕って笑顔で答えたのでした。

でも明日は筋肉痛で地獄だなぁ~なんて、心のなかで涙する咲夜くんなのでありました。

はじめてで三回も・・・・・・ 大地くんの意外な絶倫ぶりにも、立派な体躯に似合う持ち物にも大満足な咲夜くん。

健気にも己を慮ってやせ我慢する、愛しき恋人の優しさに触れて心温まる大地くん。 ・・・・・・きみが腕に抱く、愛しき恋人がただ今考えていることを、願わくば永久とわに知らず幸せになれますよう・・・・・・

                ☆ ☆ ☆

「ねッ♪ 大地♡ ずっとずぅーっと僕を可愛がってね♡」

「ああ。一生オレがおまえを守ってやる! ・・・・・・愛してる」

「僕も♪」

ベッドでじゃれ合うふたり。

それからふたりはまた愛し合い、明日のデートのプランをピロートークで語り合ったのでした―――

                ―おしまい―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る