AM1:00のマンション屋上にて
左腕につけた腕時計で時間を確認する。
時計の時間がずれていなければ丁度1時だ。秒針も12のところにあり、
正真正銘のジャスト1時、これは初めてかもしれないと思う。
こんな小さなことにも喜びを感じるくらい今の自分の気持ちはすっきりしている気がする。
屋上へのドアを開けると涼しい風が体全体に当たる。
半袖のシャツで着たことを若干後悔したが、「まあすぐに終わるんだしな。」と自分に言いながら、紺色のシャツの袖口から手にかけてを手でさすり温めようとする。
ドアを出て、まっすぐ歩いていくと転落防止のために胸くらいの高さまで壁がある。そこを乗り越えれば、地面に真っ逆さまに落ちていくだろう。
私は、下をのぞき込んでみた。下にはただ闇が広がっており、何があるかわからない。「良かった。」と安心する。万が一にでも、人がいたらと思うとゾッとする。
このマンションは、大通りから一歩脇道に逸れたところにあり、夜中の人通りは少ないところにある。さらに、今僕の見た闇の広がっている下の道は、その脇道からさらに横に逸れたところにあり、向かい側のマンションとの間にある。ここは、昼でもあまり人は通らないところでもある。だからこそ、この夜中のこの場所に決めたのだ。
私は、慎重に位置を図りながら、まず用意しておいた「遺書」置きそして、その「遺書」が風で飛ばないよう、白のコンバースで挟んだ。
「これで、もうすることはないな。」私は、ふう、と息を吐く。
これでやっと終わった。
だが、そこで私はまだしていない重要なことがあることに気付いた。
「これをしなければ意味が無いではないか。」
私は自分自身の忘れっぽさというか、馬鹿さ加減にフフッ、と笑ってしまった。
最後にあれをしないとな。
翌朝、大通りから一歩脇道に逸れたところにあり、さらにその脇道から横に逸れたところにある、向かい側のマンションとの道には警察とパトカー、がいた。
「亡くなったのは午前1時頃ですかね。」
1人の刑事が言ったのに対し、
「どうしてだ?」
と聞きかえす低い声がする。
「いや、ほら腕時計をみてくださいよ。壊れてますよね。」
「ああ、確かにな。」
「多分、落下した時に壊れたんじゃないですかね。で、その時刻が1時になってるので。」
そう言われて声の低い方の刑事は右腕につけられた腕時計の時刻を確認すると、たしかに1時である。
「まあ、検死の結果を待たないとな。」
「自殺ですかね。」
「どうだろうな、このマンションの屋上から遺書と靴が見つかってるけどな。」
「マンションの屋上から飛び降りた、ってことですかね。」
「まあ、その遺書もパソコンで書かれたものだし、なんとも言えないよな。」
そのような会話をしていると血で染められたワインレッドの長袖シャツを着た彼は担架に乗せられ運ばれていく。
これから、検死が始まるのだろう。
翌朝、目が覚めると外がザワザワしている。
私は枕元に置いてあったお気に入りの時計を左腕にはめる。
気分爽快のすっきりした朝がやって来たなと思う。
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