ゾンビウィルス
仕事や学校、その他様々なことで連日連夜忙しい毎日を送っている私たち日本人。それはどんなことがあっても続いていく。
朝のニュースではここ1週間同じ内容についてどこの局も報道している。
「ゾンビウィルス ついに東京でも感染者」
「政府 ゾンビウィルス感染注意を呼びかけ」
「感染を防ぐには?専門家の徹底解説!!」
1週間前にアフリカで発見されたゾンビウィルス感染者のニュースは世界を震撼させた。その後、感染者は世界各地で発見され欧米をはじめとした国々ではその対応に追われている状態である。
ここで、このウィルスについて現時点で分かっていることについて記す必要がある。なぜなら、現代のゾンビのイメージは映画などの影響によって人それぞれ違いがあるためである。そのため、このゾンビウィルスについてここに定義しておく。まず、最初の感染者がどのように感染したのかはわかっていないが、感染ルートは人から人へということが分かっている。それは、ゾンビの噛み付きによるものだ。ゾンビに腕や足、首など体の一部を噛まれることによって感染し、その症状は噛まれた後すぐに出るらしい。また、ゾンビの特徴として足の遅いことが分かっている。最近の映画などでは足の速いゾンビなどもいるらしいが、今回のこのゾンビは小学生でも走れば逃げれるくらいのスピードでしか襲ってこない。つまりは、そうそう簡単には感染しないということである。(大勢に襲われたら、感染するかもしれないが)
では、なぜ感染者は増えていくのだろうか?謎である。
話を朝のニュースに戻そう。
毎日繰り返し報道されるニュースを佑二は慌ただしい準備をしながら聞いていた。「東京でも感染者が出たか。」と思うが、正直まだ現実のものとは思えていない。なぜなら、今日も朝から満員電車に揺られて会社に行くし、息子である祐樹も学校へ普通に向かっている。ゾンビがでたというのに、今までと日常の生活が変わっていないのだ。
ニュースによれば、欧米では仕事や学校に行くことを全面禁止にして外出禁止令を出すというような措置をとっているところもあるようだが、ここ日本ではそんなことはない。さすがは日本、といったところだ。
「行ってきまーす」
「いってらしゃい」
1週間前と変わらない会話をして私は会社へと向かう。
駅までの道にある高校でも部活動の朝練を普通にしているし、朝のゴミ出しがてら近所の人と話す、オバサンもいる。本当にいつもと変わらない日常がそこにはあった。電車はいつもと変わらず満員、ドアと人との間で押し潰されている。
会社に着けば、辛いノルマと地獄のような残業が待っている。
ゾンビがいるからってなにも変わらない、日常が続いていた。
日に日にゾンビの数は増えていくのだが、私には疑問が一つあった。それは、なぜゾンビの数がこんなにハイペースで増えているのか、ということだ。簡単に逃げることのできるゾンビになぜ、感染されるのだろうか?
ゾンビウィルス発生から三カ月がたった。日本での感染者は、遂に人口の4分の1となり街中でゾンビを見かけることも珍しくない出来事であった。最初は、ゾンビを見ると恐れおののいて逃げていた人たちも今ではゾンビの横を素通りしている。ゾンビに襲われない微妙な距離を取りながら。
私の同僚も、会社に顔を見せなくなったなと思ったら、ゾンビの姿で発見されたらしいと聞いた。また、息子の学校でも教師や生徒のゾンビ感染者が出ているらしいが、学校は休校措置をとることもなく、普段通りにやっているらしい。異常だと思うかもしれないが、ゾンビがいてもほとんど害がないのが現状のため、わざわざそこまでする必要もないという判断がされているのである。私もまた、普段通り満員電車に揺られ、辛いノルマと地獄の残業に追われる毎日であった。最近は、人手がゾンビのせいで少なくなったためか、休日も返上で働いている。
それから、1週間後私の妻がゾンビウィルスに感染したと携帯に隣に住む田中さんから電話があった。スーパーに行く途中の道でゾンビ姿の私の妻を見たらしい。田中さんは残念ですね、という思いを言っていたが、正直もうすでによくあることの一つだと思っていただろう。深い悲しみとともに私にまた、疑問が生まれる。
「なぜ、妻はゾンビウィルスに感染したのだろうか?」
私は妻に何かしただろうか?
いや、違う。何もしていなかったのかもしれない。妻は日々私たち家族のために家事をこなしてくれていた。それはゾンビウィルス発生前からだ。
それなのに、私は家庭を顧みることなく仕事をしていた。そして、多分妻はこの日常から抜け出したいと考えたのではないだろうか?そして、ゾンビになった。
私には、ゾンビの数が異常に増えた理由が分かった。
この辛い地獄のような毎日から皆、脱出したいと考えていた。
そして、目の前にいる自由に街を徘徊するだけのゾンビに憧れを持った。
私は会社での仕事が終わると、駅前のベンチに腰を下ろした。
今までの自分の人生を振り返る、辛かったなあと思う。
妻に迷惑をかけてしまったこと、これから息子に迷惑をかけてしまうだろうなあ、と思う。
ゾンビが私に近づいてくる。私はそれをじっと見つめる。
ゾンビに首を噛まれた気がする。腕も噛んでいただろうか?
頬に一筋の涙が流れるのを感じた。
これからは、自由だ。
ゾンビウィルス発生から、1年後。
「ついに、ついに出来ましたよ。」
「ああ、あとはこれを空から撒くだけだな。早速、ヘリの準備だ。」
ある日本の山奥の仕事熱心な研究者によって、ゾンビウィルス感染者をゾンビから元の人間へと戻す薬が開発された。
生き残っていた人類はその知らせに歓喜と称賛の涙を流した。
「やっと、救える。」
そして、ゾンビウィルスを消す薬は地球のすべてのところで撒かれた。
もとに戻った人たちは、涙を流していた。
「ああ、またあの日常が戻ってくる。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます