39.『「下さい」と「ください」は意味が異なる』という誤解
久々の更新です。以前リクエストのあった題材について解説していきたいと思います。
さて、早速ですが、皆さんはこんな話を聞いた事があるでしょうか?
『「下さい」と「ください」とでは意味が違うので、使い分けが必要だ』
曰く、「下さい」は動詞の『相手に物や何かを請求する』意味であり、「ください」は補助動詞の『相手に何かを要望・懇願する』意味なのだとか。
つまりそれぞれ、「何か下さい」や「ご覧ください」のような使い方をする、という訳ですね。
Web上を検索してみても、この「下さい」と「ください」の使い分けを指南する記事が沢山出てきますが……実は両者には本来意味の違いは存在しません。
もし、お手元に戦前の文学作品があればチェックして頂きたいのですが、多くの作品では動詞の場合も補助動詞の場合も「下さい」表記となっており、使い分けされていません。ひらがなで統一された作品も見受けられます。
また、「デジタル大辞泉」や「大辞林」等で「下さい」の項を引いてみても、特に漢字と平仮名で使い分けるという注釈はありません。
古い文学作品でも大手辞書でも、「下さい」と「ください」が使い分けられている例が殆ど見受けられないのに、何故「両者は意味が異なる」という言説が広く流布しているのか?
その謎を解く鍵は、政府が定めた公用文の表記ルールにありました。
政府が定めた公用文の表記ルールでは、動詞は基本的に「常用漢字表」内に存在するものは漢字で表記する事になっているそうです。
対して、補助動詞はひらがなで記載するよう指示されています。
”
参考
・常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/kanji/index.html
・公用文の書き方資料集(文化庁)
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/series/21/21.html
”
つまり、「下さい」が動詞、「ください」が補助動詞という使い分けは、本来は公用文を書く際のルールだった訳ですね。
そして、新聞や雑誌などの報道各社も、基本的には上記「常用漢字表」などで定められた表記ルールに従う場合が殆どです。となると自然、新聞や雑誌でも「下さい」と「ください」の使い分けが行われる事になります。
そういったルールを徹底している方々から見れば、なるほど『「下さい」と「ください」は意味が異なる』という認識が広がっても不思議ではありません。
しかし、「常用漢字表」や公用文の表記ルールは、ただの「政府が定めたルール」であり、言葉の意味を縛るものではありません。
補助動詞の「ください」を「下さい」と書こうが、別に間違いではないのです。その逆もまた
ところが先述の通り、Web上には「下さい」と「ください」の使い分けを推奨する記事が多く存在します。
公用文や報道向け文章の書き方を指南する目的の記事ならば分かるのですが、手紙などの私信にまで使い分けを奨めているなど、読んでいて頭が痛くなる記事も少なくありません。
今回は、そういった記事に対して思う所があり、久々の更新と相成りました。
【まとめ】
・「ください」と「下さい」に「意味の違い」は無い
・ただし、一部公用文のルールでは、動詞を「下さい」、補助動詞を「ください」と記載することになっている
・マスコミでの「下さい」「ください」運用も公用文に準じている
・個人の手紙や文章で「下さい」と「ください」を使い分ける必要はない
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