32.変換ミスが原因? 意外に多い「尤も」と「最も」の取り違え
「
この言葉には大きく分けて三つの意味があり、名詞・形容動詞と接続詞、そして副詞として使われる場合、それぞれで意味合いが変わってきます。
名詞・形容動詞では、『道理にかなっていること』や『当然』という意味になり、例えば「彼の言うことは尤もだ」のように使われます。
接続詞では『とはいうものの』とほぼおなじ言葉として使われ、「このお菓子は非常に美味しい。尤も、苦手な人は苦手な味なのだが」のように、前の事柄を肯定しつつも、続けて一部反する内容を補足する時に使用します。
そして副詞としては『いかにもなるほどと思われるさま』等を表しますが、こちらは古語表現に近いので、現代ではあまり見かけることがありません。
私は特に、接続詞としての「尤も」を好んで使い、自作小説の中にも度々この言葉が登場するのですが……先日、自分の小説を読み直していて次のような表記を見付けてしまいました。
”
ちなみに、全員弁当派な上に亜季と大和は手作りだ。最も、大和の昨日の夕飯の残りをおかずに詰め込んだ「手抜きのり弁」と違って、亜季は小さいながらも彩り豊かな「思わずお手本にしたくなる」力作なのだが。
”
上記は、拙著「そらにみつ」の一場面です。
傍点で強調してあるのでお分かりかと思いますが、「尤も」と書くべきところを「最も」と書いてしまっています。
「最も」は『いちばん』や『何よりも』という意味ですので、かなり意味不明な文章になってしまっていますね。
気になって探してみると、なんと他の部分でも「尤も」が「最も」と誤記されているのを多数発見……何ヶ月も誤記が放置されていたのかと、恥ずかしくなってきました(苦笑)。
ところが、その後いくつかのWEB小説や記事などを読んでいて、この「尤も」を「最も」と書いてしまっている例を何件も見かけることに気が付きました。
私のうっかりミスというだけではなく、本件も「間違えやすい日本語」の例だったようです。
さて、ではどうして「尤も」と「最も」を取り違えるケースが起こるのか?
恐らく一番の原因は誤変換なのでしょうが、そもそもその誤変換が何故起こるのか?
そのヒントは、本シリーズではおなじみの「常用漢字表」にありました。
辞書で「尤も」を引いていただくと分かりますが、「尤も」は常用外との記述があります。
対して、「最も」は常用漢字。
そして、多くの日本語入力システムでは、漢字変換時に常用漢字が優先して候補に表示されます。
第25回『間違えるのには理由がある「にもかかわらず」の漢字表記』と同根の問題だったようです。
試しに手元のパソコンで「尤もな意見」と書こうとしてみましたが……「最もな意見」と変換されてしまいました(苦笑)。
「尤も」をパソコンなどで書く場合は、変換の際に細心の注意を払うか、もしくは漢字表記ではなくひらがなで通した方が無難かもしれませんね。
余談ですが、「最も」を辞書で引くと、多くの場合『「尤も」と同語源』との記載があります。
第2回で取り上げた「湧く」と「沸く」も同じく同語源の言葉でしたが、そういった関係にある言葉同士は、単純な同音異字よりも取り違えられやすいのかもしれませんね。
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