29.「完璧」とは正反対の「完膚なきまで」
先日、テレビでとある少年漫画原作のアニメを観ていたところ、とても気になる台詞が聞こえてきました。
”
俺がとるのは、
”
とあるキャラクターが、「ただ単に勝つのではなく、他に圧倒的大差を付けて一位をとる」という宣言をした際の台詞ですが、「完膚なきまで」の意味を考えると、酷く不自然な言い回しに思えます。
早速、お馴染み「デジタル大辞泉」で「完膚なきまで」を引いてみると、
”
無傷のところがないほど徹底的に
”
となっています。
これを踏まえて上記台詞を言い換えてみると、「無傷のところがないほど徹底的の一位」になってしまいますから、どうにも意味が通じません。
恐らくは、「完膚なきまで」を「完璧な」や「完全無欠の」と混同されているのだと思われます。
そもそも、「完膚」とは『傷のない、完全な皮膚』を指す言葉。
「完膚なきまで」とは『傷のない皮膚がない』状態、つまり「無傷な場所が無いほどに」という意味になります。
元々は、中国の古いことわざに由来する言い回しで、「徹底的にやりこめられる」様を表します。
ですから、「完膚なきまでの敗北」でしたら「無傷な所が無いほど徹底的にやりこめられた敗北」という意味になり通りも良いのですが、逆に「完膚なきまでの勝利」と言ってしまうと、途端に意味が怪しくなってしまいますね。
もし、「完膚なきまで」という言葉を使って圧勝した様を表したいのならば、「(相手を)完膚なきまでに叩き潰して勝利した」と書くべきでしょう。
もしくは、素直に「完璧な勝利」という言い回しを使うか、です。
「完璧」は『欠点がまったくないこと』を表す言葉ですが、その原義は『傷のない宝玉』です。
「完膚なきまで」とは、意味も由来も正反対の言葉ですね。
冒頭に挙げた少年漫画は、さる大手週刊漫画誌の看板作品なのですが、読んでいるとこの手の誤用が多く見受けられます。内容は少年漫画の王道らしく、非常に素晴らしいのですが……。
激務で有名な週刊漫画連載での事ですから、本来こういった細かい部分のチェックというのは作者ではなく、編集者や出版社の仕事かと思うのですが、アニメ化に至ってもそれらが修正されていない状況を目撃してしまうと、「ちゃんと仕事をしていないのかな?」等と思ってしまいます。
子供達に夢を与え、その内面に大きく影響を及ぼす少年漫画なのですから、編集者や出版社にはもう少し、言葉に対する真摯な態度を持ってもらいたいと願わずにはいられません。
想定読者が「完膚なきまで」の意味を知っているであろう層だったなら、あえて逆の意味で用いることで幾重もの解釈を可能な台詞にしている……と好意的に受け取る事もできるのですが。
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