26.案外知らない人も多い「辞表」「退職願」「退職届」の違い
今回は、少々変わり種の話題です。
途中で納得してしまわずに、どうぞ最後までお読み下さい。
Web小説というと、近年は
社会人を主人公にした場合、一番多いのは特定の職業をテーマにした「お仕事もの」ジャンルでしょうか? カクヨムでも『「働くヒト」小説コンテスト』が開催されているので、こちらのジャンルの作品が最も多い印象を受けます。
また、「社会人」というキーワードが、主人公の持つ属性の一つにすぎない、という作品も多いように見受けられます。社会人の主人公が繰り広げる恋愛劇だったり、ラブコメだったり、ミステリだったり、はたまたSFだったり……。
そして、そういった作品の王道的展開の一つに「主人公が会社を辞めて新天地を目指す」というものがあります。脱サラして店を開いたり、ボクサーを目指してみたり、世界一周の旅に出たりetc...。
少々使い古された展開ですが、ドラマを盛り上げるのには中々効果的であり、必然、読者としては「この先、主人公はどうなるのか?」と気になってしまいますよね。
――ただし、この「会社を辞めるシーン」で、一つ気を付けなければいけない事があります。
まずは、以下の例文をお読みください。
”
この春大学を卒業し、一流企業に就職した俺を待っていたのは、残念ながら「心躍る新生活」とはかけ離れたものだった。
研修期間を終え、部署に配属された俺を待っていたのは、上司の執拗なパワハラだった。毎日毎日、なんでもないことで叱責されなじられた。
誰かに助けを求めようとしても、周りは皆知らんぷり。会社側も見て見ぬふりだった。
結局、俺はそんな生活に嫌気が差し、入社から半年足らずで会社に辞表を提出することになった。
”
上記の例文には、ややおかしい部分があります。お分かりになったでしょうか?
答えは――「俺」が「新入社員」であるのに「辞表」を提出している、という
「辞表」の多くは、会社の役員などの一定以上の役職を持っている人間や、もしくは公務員が職を辞する時に会社や組織に提出するものを指します。
上記例文の「俺」は、新入社員なので役職持ちではないでしょうし、「一流企業に就職」と言っているので、公務員ではありません。ですので、「辞表」を提出するのは少々おかしな話です。
所謂「平社員」が会社を辞める際、多くの場合には、まず「退職願」を提出します。「会社を辞めたいです」という意思表示の書類ですね。そしてそれが受理されてから、多くの場合は「退職届」を書きます。こちらは「会社を辞めます」という意思確認の書類となります。
この「辞表」「退職願」「退職届」のそれぞれに違いを理解されていない方は意外に多く、Web小説上での表記にとどまらず、実生活でも何度かそれらを混同されている方を見かけた事があります。
平社員なのに「部長に辞表を叩きつけたやった!」とドヤ顔でアピールしていた方を目撃した時は、中々にいたたまれない気持ちになったものです……。
「主人公が会社を辞める」という、読者の興味を引く大切なシーンで、この手の間違いを犯してしまうと、折角の展開も「不発」になる場合がありますので、気を付けておきたいですね。
――と、ここまで書いておいてなんですが、この話にはオチがあります。
実は、この「退職願」「退職届」「辞表」という名称は、法律的に定められている訳ではなく、一部の企業・団体の規約や慣習によって使い分けされているもの、となります(公務員でも、一部自治体は規約で「退職願」を提出と定められている場合があります)。
また「辞表」という言葉自体は「職を辞する」という意味ですから、日本語として考えた場合には、「平社員が辞表を提出」しても十分に意味は通じるものと思われます。
実際、デジタル大辞泉の語釈にも『職を辞めたい旨を書いて出す文書』としか記載されていません。他の辞書もほぼ同様のようです。
「日本語としておかしい」という話では決してありませんので、念の為ここに書き添えておきます。あくまでも慣例上のお話、ということですね。
ですので、企業によっては「退職願」や「退職届」を必要としない場合もあります。「退職願」は口頭で済ませ、「退職届」も予め定められたフォーマットの書類に必要事項を記入して終わり、という何ともさっぱりとした手続きだけで終わる場合もあるのだとか。
ドラマか何かのように、「上司に退職願を差し出して引き止められる」みたいなシチュエーションに憧れている方には、残念なお話かもしれませんね。
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