24.気を付けて使い分けたい「回復」と「快復」

 入院した人などへのお見舞いやはげましの表現として、「ご快復かいふくをお祈り申し上げます」という言い回しがあります。しかし時折、この「快復」の部分を「回復かいふく(恢復)」と書く方をお見かけする事も。


 どちらでも十分に意味は通じますが、両者に違いがある事を知らないで使ってらっしゃる方もいるようです。

 今回は、「快復」と「回復」、この似て非なる二つの言葉について、その違いを解説していきたいと思います。



 まずは、それぞれの言葉をお馴染み「デジタル大辞泉」で引いてみましょう。

 「快復」は、『病気がなおること』とあります。

 一方の「回復」は、『悪い状態になったものが、もとの状態に戻ること。また、もとの状態に戻すこと』『一度失ったものを取り返すこと』とあります。


 つまり、「快復」は主に病気が治る事に限定して使われる言葉であるのに対し、「回復」はそれ以外にも使える表現、という事ですね。

 「失地回復」や「名誉回復」といった言い回しを思い浮かべると、「回復」のニュアンスがより分かりやすいかもしれません。ゲーム等でも「回復魔法」というものが存在しますね。あれも失ったHP(ヒットポイント)や毒・呪い等の悪い状態を「元に戻す」ものです。


 また、病気に対してのみ使用した場合でも、実は両者の間には、ある違いがあります。

 少々古い辞書ですが、中高生向けの辞書の定番「旺文社 標準国語辞典 改訂新板」に、「快復」と「回復」の使い分けについての注釈が掲載されていました。


「回復」は広い範囲に使われるが、「快復」は病気の場合に限って使われる。また同じく病気の場合でも、「快復」はすっかりなおりきったときにしか使えないが、「回復」は「少しずつ回復に向かう」のような使い方もできる。


 つまり、「快復」は『すっかり治る』というニュアンスを含む場合もあり、「少しずつ快復する」という言い回しは不自然、という事ですね。おなじみの「言い換え」をしてみると分かりますが、「少しずつ」では、あまり綺麗な表現とは言えません。

 逆に、「少しずつ回復する」ならば、「少しずつ(悪くなる前の)元の状態に戻る」ですから、違和感は覚えないと思います。


 その他、「快復」より更に強く『病気や傷が完全に治ること』を示す「全快」や、『病気や傷がだんだん治ってくること』を意味する「快方」、等という言葉も存在しますので、状況や伝えたいニュアンスによって、使い分ける事が肝要と思われます。


 また、なにより一番大切なのは、怪我をしたり病気になったりした方を思いやる気持ちです。型通りのお見舞いの言葉よりも、自分らしい労りの言葉の方が相手にとっては嬉しい場合もあるでしょう。

 それこそ、「正解のない」お話になってしまいますので、一生懸命に考えましょう。


 相手にどんな気持ちを伝えたいのか、相手はどんな言葉を欲しがっているのか……。

 病気やケガで苦しんでいる人に、どういう言葉をかければ励ませるのか。嬉しい気持ちにさせてあげられるのか。

 まさにあなた自身の語彙ごいが試される場面かと思います。頑張りましょう。



【今回のまとめ】

・「快復」は、『病気などがすっかり治りきった』というニュアンスを持つ。

・「回復」は、「元の状態に戻る」という意味で、より広い範囲で使われる。「少しずつ回復に向かう」のような言い回しもあり。

・他にも、病気やケガを見舞う言葉は沢山あり、一番大切なのは相手を思いやる気持ち。



 日本語に「正解」はありません。日々刻刻ひびこくこくとその意味やニュアンスが変わっていきます。

 本稿の内容を踏まえて、様々な出版物で「快復」や「回復」がどのような使われ方をしているのか実際にチェックして、常に「生きた日本語」を意識しましょう。

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