23.「耳ざわりがよい」という表現は誤用?

 「耳ざわりがよい」という言い回しがあります。

 例えば、「耳ざわりのよい言葉」「耳ざわりのよい音楽」のように、『聞いていて気持ちが良い』という意味で使われる事が多い言葉ですが……この表現は性質を持っています。


 そもそも、日本語で「耳ざわり」といった場合、通常は「耳障り」と漢字が当てられます。

 「耳障り」は、『聞いて気にさわったり、不快に感じたりすること。また、そのさま』ですので、「耳障りがよい」等と書いてしまうと、日本語としては意味不明な内容になってしまいますね。


 では、一体何故「耳ざわりのよい」という表現が生まれてしまったのか?

 この疑問は、比較的新しい版の辞書を引くと解消します。


 試しに、「デジタル大辞泉」と「大辞林」で「みみざわり」を引くと、「耳障り」の他に「耳触り」という項目がある事に気付きます。「耳触り」の語釈はそれぞれの辞書で、『聞いたときの感じ・印象』『聞いた時の感じ』となっています。

 つまり、「手触り」や「肌触り」のように、『触れた感じ。感触』を表す「触り」に、「耳」をくっつけて『聞いた時の感じ』という意味の言葉にしたもの、という事ですね。


 「じゃあ、『耳触りがよい』は誤用じゃないのではないか?」と仰る方もいらっしゃるでしょうが、実は話はそう単純ではありません。一部の辞書では、「耳触り」が「俗語」と定義されています。

 つまりはスラングや、主に口語で使われる表現、もしくは近年になって定着してきた言葉という事ですね。手元にある古い辞書をいくつかチェックしてみましたが、「耳障り」はどの辞書にも掲載されていましたが、「耳触り」は載っていませんでした。


 日本最大規模の国語辞典「日本国語大辞典」には、かなり古い「耳触り」の用例が掲載されており、一部の辞書もそれに追随しているのですが、上記のように「耳触り」を採録していない辞書も少なからずあり、解釈が分かれているようです。


 「NHK放送文化研究所」の解説によれば、1980年時点で有識者相手に行ったアンケートでは、「耳ざわりがいい」という言い方を「おかしい」と答えた人が、全体の89%だったそうです。

 その一方、世論調査では、1989年は59%、1992年は42%の方が「おかしい」と答えているとの事で、近年になればなるほど市民権を得ている言葉だと言えるかもしれませんね。

(参考URL: https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/005.html)

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