17.何かと間違えやすい「カタカナ語」(意味編)

 第13回で所謂いわゆる「カタカナ語」の書き間違いについて取り上げましたが、今回は意味をよく取り違えられたり、本来とは異なる意味で使われるようになったカタカナ語について解説していきたいと思います。


「コンプレックス」

 日本語の文脈としては、例えば「父に対してコンプレックスを抱いている」等と『劣等感』の意味合いで使われる事が多い言葉ですが、本来は『複雑に関連していること。複合的であること。複合体』を表します。商業施設と一体となった映画館の事を「シネマ・コンプレックス(シネコン)」と呼びますが、本来はこういった意味合いの言葉となります。

 では、何故日本語では「劣等感」という意味で使われるようになったかというと、心理用語で劣等感を表す「インフェリオリティー・コンプレックス(inferiority complex)」という言葉の前半がいつの間にか略して使われるようになったから、というのが有力な説のようです。なお、心理用語におけるコンプレックスとは、「デジタル大辞泉」によれば、

情緒的に強く色づけされた表象が複合した心理。抑圧されながら無意識のうちに存在し、現実の行動に影響力をもつ。マザーコンプレックス・エディプスコンプレックス・インフェリオリティーコンプレックスなど。複合感情。複合観念。

という意味とのこと。

 「ブラザーコンプレックス(ブラコン)」や「ロリータコンプレックス(ロリコン)」等の執着や性的嗜好を指す言葉もありますが、こちらは和製英語であり正式な心理用語ではありません。



「セレブ」

 日本語では何故か「富裕層の人々」といった意味合いで使われる事が多い言葉ですが、本来的な意味は『有名人、名士』です。



「リベンジ」

 「逆襲」という意味合いで、例えば試合に負けたスポーツ選手が「次回はリベンジしたいと思います」等といった使い方をしている事が多いですが、「リベンジ(Revenge)」本来の意味は『個人的な恨みを晴らすために仕返しをする』というネガティブな意味合いを含んだ「復讐」です。

 私怨を含んだニュアンスで使う分には問題ないでしょうが、例えば社会正義であるとか、そういうものに則った「復讐」にはあまり向きません。

 社会正義に適った「復讐」や「当然の仕返し」の場合は、通常"avenge"を使います。



「バイキング」

 北欧の「海賊」を意味するこの言葉、日本社会では「食べ放題」や「ビュッフェ(ブッフェ)」の意味合いで使われる事が多いと思いますが、本来は帝国ホテルのレストランが始めたセルフサービス式の提供スタイルの名称。北欧のビュッフェ形式料理「スモーガスボード」と、当時流行していた映画「バイキング」の和気あいあいとした食事シーンから着想したネーミングだそうです。

 欧米の方に「バイキング料理」と言っても恐らく通じないでしょうが、海外でも一部日系のホテルではビュッフェのことを「バイキング」と称して提供している所もあるとのこと。



「ユニーク」

 日本語の文脈では「面白い」というニュアンスで使われがちな言葉ですが、本来は『唯一の』『独特な』『類のない』と言った意味合い。例えばIT技術で「ユニーク」と言った場合は「重複のない」という意味になります。



「サスペンス」

 あまり多くはありませんが、時折「ミステリ」と同じ意味合いで使っている方がいらっしゃいます。ですが、本来の意味は『不安』や『緊張』であり、劇やドラマ・映画において観客の不安感や緊張感を煽る演出手法を指しますので、全く別物となります。恐らくは「火曜サスペンス劇場」等の脚本の大概が、「犯人当て」というミステリの要素を含んでいる為に生まれた誤解と思われます。

 また、故・水野晴郎先生が、生前民放のバラエティで「ミステリとサスペンスの違いは『事前に犯人が分かっているか否か』。前者がサスペンスで後者がミステリ」というツッコミ所満載な解説をされていた事があるので、それが記憶に残っている方がいらっしゃるのかもしれません。

 なお、「事前に犯人が分かっている」タイプのミステリ――例えば「刑事コロンボ」やそのオマージュである「古畑任三郎」――の事は、「倒叙とうじょ形式のミステリ(倒叙ミステリ)」と呼びます。




 「コンプレックス」のように和製英語として意味が定着しているものはさておき、「サスペンス」の項で挙げたような和製英語としての意味すらも取り違える、というケースは避けたいものですね……。

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