8.昔とは意味が異なる言葉、近世に生まれた言葉

 二〇一六年七月現在放映中のアニメ「クロムクロ」は、戦国時代から蘇った侍の青年が主人公であり、彼が未知の様々な文化や技術・言葉に戸惑うシーンが見所の一つ。つい先日のエピソードでは、彼が現代に来てから知った概念として「自由」という言葉を口にするシーンがあり、いたく感心しました。


 「自由」という言葉は古来から日本に存在し、かの「徒然草」にも登場するのですが、その意味は現代のものとはかなり異なり「勝手気まま」であるとか「我儘放題わがままほうだい」といった、あまり良い意味では使われない言葉であったそうです。現代のような意味合いで使われるようになったのは、明治時代頃、英語の"freedom"や"liberty"の訳語として「自由」が当てられたのがきっかけだとか。


 だから、例えば厳密な時代考証を売りにしたような歴史小説などで登場人物が、


「横暴の限りを尽くした織田信長は死んだ――我らは、自由だ!」


等と現代的な用法で「自由」という言葉を使ってしまうと、少々おかしな事になってしまう可能性もある訳ですね。


 まあ、「厳密な時代考証」も度が過ぎると「登場人物が全編に渡って古語で会話する」等という、読者に過剰な読み取り能力を強いる作品が出来上がってしまいますので、あくまでも歴史小説としての雰囲気を壊さない程度に気を付ければよいのではないかとも思いますが。



 さて、上記の「自由」のように昔と今とでは違う意味で使われる言葉がある一方、昔は存在しなかった「新語」というものも存在します。分かりやすい例としては所謂「2ちゃん語」等の、web掲示板やblog等で生まれたネット上のスラングが挙げられるでしょうか。「リア充」ですとか「炎上」ですとか、web発祥ではないですが「イケメン」も比較的新しい言葉ですね。


 web小説はその媒体の性質上、新語が受け入れられやすい土壌があるようで、カクヨム内の人気小説でも会話・地の文問わず新語が多用されているものをよく見かけます。日々テレビやネット上で目にしている言葉ですから、書く方も読む方も親しみやすいのかもしれません。


 ただ、一部の新語というのは定着する事無くそのまま「死語」となってしまう事も多々あり、流行り言葉をあまり考えなしに盛り込んでしまうと、あっと言う間に文章が陳腐化してしまう事も。「用量・用法は慎重に」といったところでしょうか。



 また、新語も定着して数十年も経てば最早「新語」では無くなり、若い世代にとっては「生まれる前からある、当たり前の言葉」になります。

 例えば、『同類のものよりはるかに強大であること。また、はるかにすぐれていること』を表す「超弩級ちょうどきゅう」という言葉、これは元々「ドレッドノート級(弩級)」という巨大戦艦を超える大きさをもつ戦艦を表す言葉でした。最初の超弩級戦艦の建造開始は一九〇九年の事ですから、少なくともそれ以前は存在しなかった言葉な訳です。


 しかし、今日においては上記に挙げたような「より強大なもの」という意味で使われる事が多く、その為か、一九〇〇年以前を描いたとある作品で「敵国の超弩級戦艦が接近!」等という表現が使われてしまっていた例を目にした事が……。読者によってはガックリしてしまうかもしれませんね。


 もちろん、分かりやすくする為に、現代的な言葉遣いを織り交ぜるという文章作法もありますので、一概に「誤用」と決めつけられる訳でもないのですが……この辺りの話は次回の番外編で。

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