7.「心の声」を括弧()で括って表現するのはラノベ的?

 カクヨムでも他の創作系サイトでも、「小説の書き方」といった類のジャンルは一定の需要があるようです。そういった作品の大概は、きちんと文法を勉強をしたり、幅広いジャンルの小説を分析したり等、ある程度の根拠を持って解説されていますので、一読して損はないかと思います。


 しかしながら、中には少々首を傾げたくなるような文章作法を披露している方もいて、(当たり前ですが)全てを鵜呑みにして良いという訳ではないようです。今回は、その中でも非常に気になった「心の声」を描写する為の文章表現について、解説していきたいと思います。



 先日、「小説の書き方」系の作品の一つを読んでいて、次のような言葉が目に留まりました。


『「心の声」を括弧()でくくって表現するようなラノベ的手法は避けるべき』


 ――「心の声」を表現する為に括弧()を使用する手法は比較的ポピュラーであり、特段「ラノベ」だけで使われるものでもないと思いますが……筆者さんはどうしてこのような結論に達したのでしょうか?


 この「心の声」を括弧()で括って表現するという手法は、言うまでもなく会話を表す鉤括弧「」による表現を踏襲したものです。主に地の文が三人称の小説で使用され、台詞を印象付けたい時や登場人物の「声なき声」を強調したい時に重宝する表現ですね。例えば、


 花子の突然の奇行を前に、「何て破天荒な女なんだ」と太郎は呆気にとられていた。


という文章を括弧()を使った表現に変えてみると、


(何て破天荒な女なんだ)

 花子の突然の奇行を前に、太郎は呆気にとられていた。


地の文で全てを表現するよりも、太郎の「心の声」が強調される形になっているかと思います。



 括弧()で括る以外にも、行頭をダッシュ――で開始したり、山括弧〈〉を用いたり、様々な方法があります。具体的な作家名を挙げると、括弧()はミステリ作家の綾辻行人先生が、行頭ダッシュ――は時代小説家の藤沢周平先生、山括弧〈〉は同じく時代小説家の隆慶一郎先生等が、作中で使用されています。


 確かに、夏目漱石先生や川端康成先生の小説で、括弧()や行頭ダッシュ――を用いて「心の声」を表現している例は記憶にありませんが……少なくとも現代作家の、それも少なくない方々が括弧()等により「心の声」を表現するという手法を使用されていますので、「ラノベ的」という意見も「避けるべき」という意見も疑問符が浮かぶばかりです。


 もちろん、必要もないのにやたらと「心の声」を多用してばかりで、地の文が「頑張っていない」小説も困りものではありますが。

 どんな冴えた表現でも、そればかりを使っていては段々と陳腐ちんぷになっていきます。ワンパターンにならないよう、気を付けるのも大切ですね。



【今回のまとめ】

・「心の声」を括弧()で括って表す手法は、幅広いジャンルの小説で使われている。

・括弧()以外にも、山括弧〈〉が使われたり、行頭をダッシュ――で開始したりと、様々な手法がある。

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