6.言葉に込められた「性別」を取り違えると、とんでもない事に?

 以前、知人から聞いた話ですが、某中堅出版社の雑学本の電子書籍化(データ変換)を依頼された際、校正をしていて以下のようなトンデモ表現を見かけたそうです。


『坂本龍馬の姉・乙女は身長5尺8寸(約174cm)を超えるだった』


 ……女性に対して「巨漢きょかん」とは何とも失礼極まりないですね。言うまでもなく、「巨漢」という言葉は男性を表す「漢」の文字が入っている通り『並外れて大きな男性。大男』を表す言葉であり、女性に対して使うのは不適切。


 なお、知人が出版社にその誤用を指摘したところ、「女性にも使う事があるからOKじゃないですかね?」という木で鼻を括ったような返答しか来なかったのだとか。その雑学本には、これ以外にも珍表現が沢山あったそうですが、結局一つも修正されなかったらしいです。知人曰く「いちいちライターさんに確認取って修正するのが面倒だったんじゃないかな?」との事。……出版業界というのも中々面倒くさい所のようですね。



 上記のように分かりやすい例も含め、言葉それ自体に性別的な意味が込められているものは少なくありません。ポピュラーな所では「野郎やろう」という言葉はそもそも男性を指す言葉ですし、女性の美しさを表す言葉の一つである「あでやか」は通常男性に対しては用いられません。


 創作作品などで、男尊女卑丸出しの男性キャラクターが「この野郎! 女のくせに!」等と女性を罵るシーンを時折見かけますが、何とも二重の意味で恥ずかしい光景なわけですね。



 さて、このように言葉それ自体が性別そのものを表す事がある一方で、字面としては男性・女性どちらかの文字を含んでいても、それが直接性別には結びつかないという言葉も存在します。


 例えば、『男らしい様』を表す「雄雄おおしい」は主に男性に対して使われますが、対義語である「女女めめしい」も女性に対してではなく男性に対して使われる言葉です。意味合いも『いくじがない』という何ともネガティブなもの。「雄雄しい」が褒め言葉なのに対し、「女女しい」は貶し言葉だというのは、何とも男尊女卑な気がしてしまいますが、多くの言語にはこういった傾向が見受けられる為、何も日本語に限ったお話ではありません。英語で『人間』を表す「man」が『男性』という意味も持つのと同根の問題ですね。


 とは言え、近年ではジェンダーフリーの観点から、ズバリ性別を表す言葉以外は男女の垣根を超えて適用する方々も少なからずいらっしゃるようです。上記例で言えば、旧来の「男らしさ」を備えた女性に対して「雄雄しい」という言葉を使ったり、女性の負の側面を強調する意味合いで「女女しい」という言葉を使ったり。言葉についてもユニセックス化が進んでいるという事でしょうか?



 余談ですが、上記とは逆に元々男女両方に使われていたのに、近年では女性に対する敬称であると誤解されている言葉に「御前ごぜん」があります。

 本来は『貴人や高位の人の敬称。また、その妻の敬称』ですので男女問わないはずですが、つい最近プレイしたとあるスマートホンゲームでも「女性の敬称」と誤解して使われていました。恐らくは、「静御前」や「巴御前」など、歴史上の女性に対する敬称として多く目にするから生まれた誤解なのでしょうが……。


 例えば、平維盛の嫡男・高清は「六代御前」と呼び習わされていますし、父母に敬意を表す為に「父御前」「母御前」等と、性別を問わない使い方をされていますので、私的には違和感が残ります。

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