5.「役不足」は実力不足という意味ではない

 今回は、非常に間違われやすい言葉の一つ「役不足やくぶそく」を取り上げたいと思います。さっそく例文を一つ。


「あの仕事を任せるには、彼では役不足だ。明らかに荷が重い」


 ……さて皆様、上記例文における「役不足」の用法は正しいでしょうか? それとも間違っているでしょうか? ――答えは「間違っている」となります。


 「役不足」という言葉の意味について「デジタル大辞泉」から引用すると――


1 俳優などが割り当てられた役に不満を抱くこと。

2 力量に比べて、役目が不相応に軽いこと。また、そのさま。「そのポストでは―な(の)感がある」


――となっています。最初の例文ですと、逆に役割に対して「彼」の実力が不足しているという意味になっていますから、明らかな間違いなわけです。


 ところが、「デジタル大辞泉」の注釈にもありますが、平成二十四年に文化庁が行った世論調査によると、実に51パーセントの方が最初の例文と同じ『本人の力量に対して役目が重すぎること』の意味で「役不足」という言葉を使っているという驚きのデータが。という逆転現象が起きてしまっています。


 恐らくは、似た語感を持つ「力不足」という言葉と混同して使っている方が多いのかと思いますが……。正しい表現をしているのに、過半数の人間には「間違っている」と認識されてしまう――言語表現というものの難しさを端的に表した例ではないかと思います。



 余談ですが、二十年以上前の某ミステリ小説で、とある登場人物がこの「役不足」という言葉を正しい意味で使って、主人公が「役不足という言葉の正しい使い方を久しぶりに聞いた」と感心するシーンがありました。つまりは、二十年以上前には既に、「役不足」の誤用は定着していたという事なのでしょうね……。



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