第9話 望まれない物語

 ―――おかあさん。

 唐突に女の子の鈴のような声がわたしの耳を劈いた。

 周囲を見渡すが誰もいない。

 気のせいか―――


 ―――おかあさん。


 ………やっぱり、気のせいじゃない。

 確かに聞こえる。

 おかあさん、と呼ぶ声が。

 とうとう、わたしもおかしくなってしまったのだろうか?

 

 ―――おかあさん。


 また聞こえた。

 声のした方に振り返る。

「――――――――――!」

 眼前にあるモノに対し、わたしは絶句してしまう。

 何故なら―――

 意を決して、わたしは彼女に誰何する。

「あなたは、小学生の頃のわたし?」

 そう、その子は小学生の頃のわたしに瓜二つだったのだから。


 ―――やっと逢えたね。おかあさん。


 おかあさん、とは、わたしのことなのだろうか?

 ゆっくりと、けれど、確実な歩みで彼女はわたしに近寄ってくる。

 本当は逃げるべき場面なのだろうけれど、わたしにはそれができない。

 何故ってわたしの足は全くいうことをきいてくれないのだ。

 もう、彼女は目の前に迫っている。

 わたしも覚悟決めたほうがよさそうだ。

 そう思い、目を瞑る―――


「そこまでよ、ドッペルゲンガーさん」


 わたしと彼女の間に見覚えのある娘が割り込んだ。


「―――凛花?」

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