第8話 続かない物語

「何時までしみったれた顔してのよ。あんたは」

 また声がした。

 周りを見渡すが、やはり誰もいない。

 当然だ。

 僕は声の主を知っている。

「あんたの出番なんじゃないの? しっかりしなさいよ。」

 また、あたまのなかで声が響いた。

 繰り返し言うが僕は声の主を知っている。

 というか、いい加減に僕は彼女の声が聞こえる度に周囲を見渡すという悪癖を直した方がよさそうだ。

「まあ、探偵役はあんたには荷が重いでしょうから、あたしがやってあげるわよ。ワトソンくん?」

「わかったよ。りょう

 僕は彼女にそう返す。

 僕に取り憑いた幽霊に。

 幽霊と会話が出来ない、というのは少し語弊がある。

 霊視ができる以上、会話も当然できるのだ。

 だけど、僕には彼らを癒す言葉を紡ぐことができなかった。

 単純に言えば、コミュ障だ。

 僕はどうすることもできない。

 だが―――

「それじゃあ、体の主導権を寄越しなさい。あの子のところまで超特急でいくわよ」

 彼女がいるのなら話はべつだ。


 僕は体中の力を抜いた。

 それだけで稜は僕の体の主導権を奪って走り出す。

 件の幽霊の許へ―――

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