第5話 断片の物語

「ねえ、夢。知ってる? あの幽霊の話」

 ニヤニヤ顔を隠そうともしない友人の凛花りんかをぼんやりと見つめてわたしは、何それ? と問い返す。

「だからさあ、幽霊の話。知らないの? いま、すっごくホットな話題なのに!」

 幽霊の話にホットはないだろうとわたしは思わず苦笑いを浮かべる。

 この娘は体が小さくて気が弱い癖に怪談が大好きなのだ。

 凛花は続ける。

「実はさあ、うちのガッコの正門でって子がいるらしいんだよ。なんかね、めっちゃ髪の長い小学生ぐらいの女の子が俯いてずっと立ってるらしいんだよぉ。

 でね、その子に声をかけるとすうって煙みたいに消えちゃうんだって」

 なにそれ、くだらない。

 わたしは正直こういう与太話の類を信じない。

 だって、馬鹿げてるでしょう?

 存在しないものをあたかも存在すると断言する奴は精神を病んだ手合いか詐欺師ぐらいのものだ。

 まあ、冗談ならば話は別だが、わたしの友人は本当に真に受けているらしい。


 それもこれもすべては心霊カウンセラーを自称する阿呆どものせいだ。


 悪魔の証明を可能にしたその手腕はたいしたものだが、どうか他所でやってもらいたいものだ。


 例えば、黄色い救急車に乗せられていった果てにたどり着く白塗りの病棟とかで。


「でね、まだ続きがあるんだけど………」

 なんだ、まだ続くのか。

 わたしはさっき買ったばかりの缶コーヒーを開けながら凛花の話に耳を傾ける。

「消える瞬間に『あなたじゃない』って言うんだって。めっちゃ怖いよね。それって誰かを探してるってことじゃん」


 ああ、やっぱりあほらしい―――

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