第2話 題名のない物語

 私には、名乗るべき名前がない。

 この世に生を受けた瞬間に誰もが与えられるであろう記号を私は持たない。


 それゆえに私は他人から認知されることなく存在してきた。


 親にすら認知されることのなかった―――というか、自らの記憶を持たない―――私は何故いまもこうして自らが存在しているのか未だに理解できない。

 認知されることがないということは、世話をして貰えないということであり、自分の面倒を見ることが出来ない赤ん坊にとってそれは死に直結することではなかろうか?


 でも、私はこうして存在している。


 それが私には不思議でならない。


「ねえ、どうして私は存在しているのかな?」


 通りかかった男の子に声を掛けるが、答えは帰ってこない。

 予想したとおりだ。

 

 ねえ、どうして―――

 その問いに答えてくれた人物はいまのところ誰一人としていない。


 別に構わない。

 だってもうすぐ私を捨てた母親ひとに逢えるのだから。

 記憶がなくったって直感でそれぐらいわかる。

 あのひとはここにいる。


「きみ、どうしたの? こんなところに突っ立てさ」


 見知らぬ女が私に声を掛けてきた。

 違う。

 私の逢いたいひとはあなたじゃないの。

「あなたじゃない」

 私は冷たく、そう言い放った―――

 

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