絶望少女のドールシアター9
机の上が実験道具が山積みになっていたので全て箒でなぎ払い私たちはようやく交渉のテーブルにつくことができました。
「どうして私がこうなったのか良く覚えてない」
「現実世界での直前の記憶はどうなっていますか?」
「親のクレジットカードを借りて限度額限界までガチャしてたのは覚えてる」
……両親に撲殺されたのでは無いでしょうか?
そう考えるとこの子は幽霊なのでしょうかね? ゲーム脳からゲーム幽霊とか、もう何でもありですね。
「それでこの世界にいて、私はエタマジ大好きだったからずっと遊んでた。でも全てやり終わると現実世界と違ってメンテも無いけど更新も無いから退屈になった」
「それで現実世界の人間をこっちに引き込んでいたんですか?」
「うん。エタマジ好きの人間の感覚がこっちの世界でも解るんだ。そう言う人間にこの世界の存在を教えると来たがるんだ。でも私と同じように最終的にはあきちゃってみんな帰っていった」
「なら貴方も帰れば良いじゃ無いですか」
まぁ親の魔法のカードを限度額いっぱいまで使ってぶん殴られた後で、どういう顔して戻ればいいのかまで私は知りませんけど。
それでも親は親です。
子供の事が嫌いな親などいないと私は信じたいのです。―――もちろん現実がそうじゃないことぐらい解っていますよ。
「帰っても私に居場所なんてない! 家にも、学校にも、どこにも、私の居場所はエタマジだけだ!」
壁はどこにだってあります。友達という暗黙のルールの壁、そしてその壁を乗り越えられなかったら、自ら壁を作りその中にいるしか無い。
そしてその壁がエターナルマジックだったと。
「それに私はこの世界から出られない。どうやっても、何度やってもエターナルマジックを使っても」
……それは現実世界の青山もえは消えていなくなっているからでしょう。この世界に引きこもる事は出来ても現実世界には干渉できないイマジン。
残留思念。あるいは幽霊とでも言うべきでしょうか?
「ならすみれちゃんを返してあげてください」
「ヤダ」
「他の子は返したのにどうしてですか?」
「私は他の子は来るように誘った。でもこの子だけは自分から来てくれた!」
妄想と現実、他人と友人、どんな所にも壁があります。
そしてその壁を乗り越えることは難しいと誰もが解っています。
この少女だって例外では無いのでしょう。
初めて壁を乗り越えてきてくれた少女に執着する。身に覚えのある案件すぎてもう嫌になりますね。
ただ、この少女にとって壁を乗り越えてきてくれた少女とは全く別の思想でした。
「すみれちゃんにとってはエタマジの世界である必要も、貴方である必要も無かったんですよ。私という存在を監禁する世界が欲しかっただけですから、偶然貴方の世界が私の監禁に向いていただけですから」
「それでも!」
「それに貴方は一つ勘違いをしています」
もえちゃんはきょとんとした顔を浮かべました。
「帰して欲しいのはすみれちゃんだけです。私は永住を希望します。私も現実の世界に居場所が無い。貴方と同じなのです」
「でも貴方にはすみれちゃんと言う友達が」
「えぇすみれちゃんは友達ですよ。本物の私、大杉みのりの……」
私は偽物の大杉みのり、現実の世界に戻ったところで、私に居場所はありません。すでにみのりは居るのですから。
さすがに二人もいらないでしょう。と言うか必要になったら勝手に増やすでしょ。本物の私は。
「貴方と同じなんです。だから友達になりましょう。居場所居ない同士で居場所を頑張って作りましょう。」
「貴方もきっとこの世界に飽きてしまう」
「良いじゃ無いですか別にエターナルマジックの世界にこだわらなくても、まずエターナルマジックが世界観ごったに何ですから私たちだけのエターナルマジックを作れば良いんです。現実世界ではエターナルマジックのサイドエピソードはep7まで出来てますよ。でも私あの話暗くて嫌いなんですよね。私はもっと明るいハイファンタジーを希望します」
「そんなの、無理だよ」
「出来ますよ。エターナルマジックがあるんですから」
「それに今友達が出来たじゃ無いですか。今まで出来なかった事が出来たんですからきっと次の事もできますよ」
私はもえの手を握りました。細くて小さくて冷たい指でした。
壁は作りあげる物ではありません。ぶち壊す物です。この脳筋魔法少女が全てをぶち壊して見せましょう。
「と言うことがあったんですよ」
いや、興味無いですから、とも言えず、私の(偽物)活躍劇をすみれちゃんは楽しそうに語ってくれました。
とりあえず現実をねじ曲げて一週間ほど我が家に泊まり込んでいて、学校にも出ていたと言う風に現実を改ざんしました。すみれちゃんが学校で目立つタイプでもありませんので改ざんしても特に問題はないでしょう。
「ところでみのりちゃんが言ってたイマジンって何ですか?」
「超能力みたいな物です。私もケイもカエルちゃんも、今度紹介する美春も使えます。私たちはそう言う繋がりなんです」
今日はすみれちゃんに美春ちゃんを紹介すると言うことで駅まで待ち合わせをしていました。すみれちゃんから遅れると言うメールが来ていましたので、まぁのんびりと待ちましょう。
「久しぶりだね。みのりちゃん」
「えぇ久しぶりですね」
美春さんが時刻ピッタリに来ました。イマジン持ちが一緒にいると碌な事にならないから一緒にいたがらないんですよね。と言うか基本的に一人が好きというか……
友達の友達?
「私としては全然久しぶりって感じはしないがな?」
「はてな?」
いや、学校違いますし、そんなに頻繁に連絡とったりもしていませんからね私は。友達に餓えたりしていませんので。
「いや、君の偽物の方と頻繁に連絡してる」
「あぁエタマジ世界に幽閉されてる子ですね」
「最近のエタマジ事情を教えてるの」
本来なら常に外部からの刺激によって妄想は広がり続けますが、一人では限界があります。それを美春からのエタマジ情報によって拡張しているのでしょう。
「あぁあと偽物から貴方にメッセージよ」
「私からは特に無いんですけどね」
私が私とあったら絶対嫌いになると思うので会いたく有りません。一生幽閉されていてください。
「私に純情な黒髪ロングのロリッ娘と二人きりで最高の生活です。だそうだ」
私は初めて明確な殺意を覚えました。
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