絶望少女のドールシアター4

 私は体育館でスポットライトを浴びていました。


「楽しかったですが人形劇は?」


 私はシナリオライター……いいえ、鬼瓦ケイに成りたかった相原恵に尋ねました。

 尋ねるまでも無いのですけどね。


「最悪よ。結局私に生きている価値なんてないじゃない! 誰も救えず、ケイにもなれず、あげくにケイに成るために作った私の偽物にまでコケにされる!」


 ケイは手に持っていた脚本を投げ捨てました。

 さてここは現実なのでしょうか? それとも妄想?


「私はケイが生きていて良かったと思っています」

「上から目線で語らないでよ! 私を哀れまないでよ! どうして私をミカエルと戦ってる時に助けたのよ! 本当はあそこで貴方がミカエルに殺されかける所を私が助けるはずだったのよ」

「それでケイになれると」

「そうよ! それで私はケイになれる! 本物のケイ!に 私は本物になれる。こんな何も出来ない自分にさよならできる!」


 ケイは脚本を足で踏みにじる。


「本当にそう思ってるんですか?」

「そうよ! そうでなければ私は生きている意味が無い物」


 どうして生きているの? それはカエルちゃんの質問でした。

 私はそれに答えることが出来ませんでした。死ぬ事ばかり考えていましたから。

 私は大きく息を吸い込みます。


「私はケイに生きていて欲しかった。だからカエルちゃんが相打ちを狙ったときに、必死になって助けたんです」

「さぞかし気分が良かったでしょうね!」

「えぇ、ケイが生きていてくれて本当に嬉しかったです」

「だから哀れむのは止めなさい!」


 人生はスキャットだ。その言葉に意味は無い。意味があるのはリズムだ。スキャットマンは吃音症で喋るのが怖いと言っていた。


 そんなの吃音症じゃなくたって同じ。


 私だって怖い。


 誰だって怖い。


 それでも乗り越えなければ手に入らない物があった。


「生きてることに意味なんてありません。ただ生きている事を楽しむことは出来ます」

「ふざけないで!」

「ケイがケイである必要なんて無いんです。私が好きなケイはケイになろうと必死になってるメグなんですから。その瞬間こそが全てなんです。ケイになれるかなれないか何てどっちでも良いんです。動こうとするかしないか。それだけの問題だった」


 そしてケイは、いいえ、シナリオライターはメグは、ケイに成るために計画した。

 結局全てが失敗に終わってしまった。


 それは無意味でしょうか?


 空想と現実が入り交じり、空想と現実に境目の無いこの無茶苦茶な世界に。


「それにもうメグがケイになろうとする計画はとっくに終わっているんですよ?」


 そこは私がいつも見てる学校風景。そこは国語教師が銃殺されたり、リア充が爆発するイマジンには日常の光景。


 そしてすみれの死体。


 毎日のように屋上から飛び降り、廊下で刺殺し、教室で首つりする少女。


「自殺願望が何だって言うの。イマジンになればそんなのいくらでも見るじゃない」

「うん。すみれちゃんが自殺する所を私は何度も見たの。だから私はすみれちゃんと友達になった」


 当時の私は死ぬ気にもなれず、中途半端に生きることしかできなかった。


 だからすみれちゃんに惹かれた。彼女の持つ死の匂いに、


 でも違った。彼女は友達が欲しかった。壁を乗り越えたかった。

 そして私も本当の意味で友達になる意味をしった。


 壁の中にこもるのが友達じゃない。壁を一緒に乗り越えるのが友達なんだ。


「それがどうしたの?」

「それってケイと恵の関係じゃないの!? 恵はもうケイに成れていたんだよ。化け物と戦う必要なんて無い。妄想の世界にこもる必要なんて無い! ただ友達になりたいって思うだけで良かったんだよ」


 私とだってそうだ。化け物を倒して、一緒にエタマジしよう。

 それだけで私は救われたんだ。


 友達が私を囲う壁だと思っていた。恵がどう思っていたのか解らない。でも私は救われていた。




 世界をライ麦畑に戻した。

 やっぱりここが一番落ち着く。


「恵、私と踊ってよ」


 私は恵の言葉を聞くまでも無く手を引っ張り、ライ麦畑に飛び込んでいく。

 ボーカロイドの曲をてきとーに歌う。だって機械音声が超高速で歌うんだもん歌詞なんて意味が無い。


 歌の名前は妄想遊戯のガールズスキャット。


 私はその曲をリズムの部分を適当に歌い上げる。ズビズバーとか、ダラララーとか、歌の名前通り全部スキャットで歌いきってやる。踊りのリズムも適当で、私たちはその場その場を瞬間に生きていた。


 最初は手間取っていた恵も私と同じように適当に踊る。

 私が歌い終わると同時に倒れるようにメグに抱きついた。


「それでも恵はケイになりたいの? 私は恵が欲しい。今の恵が欲しい。向上心が高くて、でも人とのコミュニケーションがちょっと苦手な恵が」

「すみれを助けたのは貴方でしょ」

「そのみのりを作ったのは恵だよ。ケイでも美春でも無い。だから自分の事を要らないだなんて言わないで。世界は繋がってるんだから」


 ケイがメグに声をかけて美春と共に戦って、カエルちゃんを倒して、でもケイが死んじゃったからメグがケイの代わりに成ろうと頑張って、でも成れなかった。

 でも、その行為には意味があった。私が生まれてすみれが救われた。

 これからどうなるか解らない。でも、この瞬間は幸せだと思いたい。



 ねぇ悪夢からもう目を覚まそう。

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