絶望少女のドールシアター3

「私おうち帰りたくない」


 夕方で学校もしまる時間に、カエルちゃんがぼそりと言い出しました。


「おうち嫌いなの?」


 私は知らない振りして尋ねました。本当は知っています。カエルちゃんが家庭内暴力を受けていることを。そしてそれをひた隠しにしていることも。貧乏でクラスメイト達から嫌われていることも。


 卑怯なつきあい方だと思います。


 それでも私はシナリオライターに勝ちたいのです。


 手段は選びません。


「エルマーのぼうけんみたいにドラゴン探しに行きたい」


 エルマーのぼうけんは子供向けの冒険小説で少年エルマーが動物島にとらえられたドラゴンの子供を助けに行くお話です。


 高校生になって初めて読書の楽しみを知りました。


「うん。私もしのちゃんと一緒なら絶対に楽しいと思う」

「みのりちゃんのお家に泊めて貰っても良い?」


 私は色々な事を考えました。今の私は大杉みのりでは無くて、相原恵。

 当然家も違うわけです。

 さて、イマジンでそこまで許されるのでしょうか?


「おうちに電話して聞いてみるから待ってて」


 許されるかどうかはすでに私の中ではどうでもよくなってました。

 カエルちゃんとお風呂に入る>>>越えられない壁>>>世界の事。

 どうせこの世界なんてまやかしでしかありません。家一戸ぐらいマインクラフト感覚で作ってやりますよ。


 そう言うわけで私はよく知らないマンションに404号室を勝手に新設しました。時空の歪みやイマジンによる悪影響などしったこっちゃありませんし、シナリオライター様の権限で私を操る事は非常に簡単なはずです。


 でもそれをしないと言うことはこれは許されているのでしょう。


 大体この世界は妄想です。妄想の上にさらに妄想を積み上げると言う行為がもう無茶苦茶なのです。


「おじゃまします」

「父さんも母さんも今日働いてて帰ってこないの。だから思いっきり遊べるね」

「そうだね!」


 あぁ邪気の無いカエルちゃんの笑顔が心に痛む。ここ本来なら狼を警戒しなくてはいけないシーンですよ?


 遊ぶ前にまずはご飯にします。


 小学生が料理をささっと作るのはリアリティーに欠けるので、母親が作り置きしてくれたカレーと言う設定にしました。


「一緒に食べよ」


 私がカレーをカエルちゃんの分まで運びます。


「いただきます」


 レベル3の麦畑の時とは違いこの世界の料理はきちんと味がします。

 妄想のレベルがさらに高いと言う事でしょう。

 あるいはシナリオライターがいると言うのが現実として、常識として存在しているとでも言うのでしょうか?


 まぁ楽しみましょう。人生はスキャットだ、私にも解ってきた気がします


 カレーをフウフウとしながら口に運びます。市販のカレールーで特にこだわり何て物はありませんが、カレーは誰がどうやっても美味しく出来る最強の料理です。

 そうやってうぬぼれているとカエルちゃんが泣き始めました。


「ごめんなさい。にんじんとか苦手だった?」

「ちがうの…おいしいの…」


 泣きながらカエルちゃんはぺろりとカレーを食べてしまいました。ちっちゃな身体のどこに入るのか不思議なぐらいです。


 私はその後カエルちゃんとゲーム(健全な)して遊びました。


「そろそろ九時だしお風呂一緒に入ろうよ」


 友達同士お風呂に入るのは自然なはずです!


「え?」


 カエルちゃんは全くその事を想定していなかったようです。


「パジャマも服も私のあるよ?」


 パンツ?シャツ? そんな物たまたま新品があったって設定にするだけですよ。


「いや」


 カエルちゃんの小さな拒絶。

 いえ、拒絶されることなど最初から解っているべきでした。

カエルちゃんは虐待されているのですから……


「だって、私汚い」


 私はカエルちゃんにキスをしました。口と口の子供のキスをそれでいて真剣なキスを


「汚くなんて無いよ」

「でも」

「なら私も一緒に汚くなるよ。だってそれが友達じゃないの?」


 私は壁を乗り越えていく。

 昔の私が守ってくれている、囲ってくれていると思っていた物を、ドンドンと越えていってる。


 アザ、アザ、アザ。


 それがお風呂場で見たカエルちゃんの身体でした。

 カエルちゃんの身体は服の上から見えない場所で傷ついていました。


「私ドジだからよく転ぶんだ。ごめんね全然奇麗じゃ無くて」


 私は躊躇することなく、風呂釜に自分の足を叩きつけました。内出血で紫色になっていきます。


「これでおそろいだね」

「みのりちゃん……」

「ほら、早くお風呂はいろー」


 そして私は小学生の身体を思う存分堪能しました。役得ぐらいあっても許されるべき。なによりシナリオライター様も許してくださる。

 カエルちゃんと同じ布団の中で私たちはいちゃついてました。


「今日ねママに内緒で来ちゃったの」

「いいよ。私も一緒に謝るから」


 いえ、明日カエルちゃんの母親、西野啓子と絶対に遭わなければなりません。

 明日は、

 カエルちゃんが母親を殺してしまう日なのですから。




 午前中は一緒にトーストを食べて、テレビで映画を見て、まぁ要するにだらだらしてました。


 一人でだらだらするのが最高だと思っていた私も、気が合う相手なら二人でも良い物だと思えるようになりました。


 時計が三時をまわりました。


 現実世界でもそろそろ妄想の暴走が始まる時刻でしたので一緒にカエルちゃんの家に向かうことにしました。カエルちゃんの家は公団住宅の5階にありました。


 怯えているカエルちゃんを無視して私はチャイムを鳴らしました。


「どこ行ってたのよ!この馬鹿!」


 どう贔屓目に見ても愛のある表現ではありません。ただの罵倒です。これが実の娘に対して、その娘の友人に対して言われるものなのでしょうか。


「ごめんなさい。わたしがしのちゃんと一緒に泊まりたい」

「黙りなさい!人の家の子を勝手に誘拐して」


 小学生相手に誘拐だなんて…半分ぐらいあってるから文句言えないのが悔しい。

 妄想が現実にすり替わっていく感覚が急激に辺りに広がっていきます。

 ここで本来ならば、美春、ケイ、メグの三人が母親の方と勘違いして母親を止めますが、実際はカエルちゃんが母親を殺してしまいます。


 しかしもう現状が違います。カエルちゃんには友達がいます。心のよりどころがあります。

 この妄想はカエルちゃんの物ではありません。


「あんたみたいなのがいるから!」


 カエルちゃんの母はカエルちゃんの首をしめようとしましたが、うまく生きませんでした。

 両手が無いのですから当たり前ですね。


「メグ、お前小学生と遊ぶ趣味があったのか?」

「えぇ罰ゲームの時に話すネタはこれにしていました」

「メグ最低ね」


 だそうですよ。シナリオライター様。ロリコンは最低趣味だそうです。私ですか?

 私はメグではありません大杉みのりです。相原恵とは何の関係もありません。

 

 さて、妄想は常識によって打ち消され現実に戻っていき……

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