妄想遊戯のガールズスキャット11

 その日は珍しく寝坊してしまいました。スマホのアラームで起きるのですが、どうやらUSBケーブルの接続がうまくいってなかったのか充電切れをしていました。

 急いで学校に行ったところ遅刻が免れるような時刻でも無いので、むしろゆっくりと行くことにしました。

 

 学校には誰も居ませんでした。比喩とかそう言うのでは無くて言葉通り誰もいませんでした。休校の可能性も考えましたが、その可能性は無視しても良いでしょう。


「こっちで遭うのは初めてだねお姉ちゃん」


 カエルちゃんが居たからです。

 カエルちゃんは下駄箱の前で体育座りしていました。頑張ってパンツ覗きたいです


「カエルちゃんが学校の人達全員殺したの?」

「代行者としてね」

「一体誰から代行を受けてるの? どうせなら学校の人じゃ無くて学校そのもの無くしください。むしろ私から依頼を受けてくれません。学校を物理的にぶっ壊す依頼を」

「小学生みたいな事言うよね。お姉ちゃん。それにしても良いの? ラスボスがラスボスみたいな事してるんだから主人公っぽいことして欲しいんだけど」


 確かに目の前に巨悪がいるんですよね。昨日へんてこな会話したばかりなのでどうも実感として沸きにくいのですが……


「それでもどうでも良いと思えてしまいます」

「そんな事無いでしょ? お姉ちゃんは頭おかしいの?」

「よく解りましたね」


 世界のどこかで行われてる紛争で誰かが死んでも、友達が交通事故で亡くなっても、私には等しく無価値に思えました。


 どうでも良かったです。


 ゼロでしか無い物がいくら集まった所で心は揺さぶられません。


 塵じゃなければ積もる事はありません。あえて積もるとするなら話でしょう。

 人間を殺されて現実に固定化されたとしても私は怒る事などしないでしょう。

 人間失格と呼ばれても文句は言えません。


「そうですね。きっと私はカエルちゃんに対して怒りを覚えなければいけないと思います。だからちょっと待ってて貰えますか」

「どうして?」

「校内に入って死体を見てきます。もしかしたら本当に人が死んでいたら、少しぐらいはカエルちゃんに怒る気持ちがわいてくるかも知れません」

「じゃあ待ってる」


 校内はグロテスクでした。血で塗られた壁に、内蔵がぐちゃぐちゃと敷き詰められた廊下は歩きづらくて困ります。


 見慣れていないから気分は悪くなりますが、怒りは自然とわいてきませんでした。

 私がカエルちゃんに殺されないと高をくくっているから?

 いえ、カエルちゃんが殺してくれるなら私はもっと喜んでいるでしょう。と言うかカエルちゃん可愛い殺されたい。


 私は妙なテンションで校内を散策します。

 友達は当然として嫌われ者のの国語教師からイケメン男子まで、有りとあらゆる物が肉塊になっていました。


 だから、当然、彼女も肉塊になっているのでした。


「すみれちゃん」


 すみれちゃんは椅子にもたれかかるように死んでいました。腹が引き裂かれて内蔵どばどばでしたが、他の死体と比べればまだまともな死に方をしています。たまに原型をとどめていませんからね。ちゃんと認識できればまともな方です。


 私はキャロに変身しました。

 絶対魔法少女キャロ。彼女はエタマジで最強と言えるほど強いキャラではありませんが、高確率でパーティに採用が検討されるキャラです。


 その理由は汎用性の高さです。どの部分も一線級のキャラから若干落ちますが、総合力や穴埋めポジションとして彼女を越えるキャラはいません。

 ヒーラーに回して良し、魔法によるダメージディラー、バフ、デバフ要員、とタンク役意外はほぼ何でもこなせます。(よく解らない人はネトゲ用語とかで調べてください)


 私はキャロの能力を使ってすみれちゃんの蘇生を試みました。


「エンジェルブレス」


 試みながら何で私がこんな事をしているのか全然わからなくなりました。後でカエルちゃんを倒せば妄想が現実に否定されてまとめて元に戻るはずです。


 なのになぜ?


 私がしてることは無駄?


 違う……違う! これが怒りだ。 ごっこ遊びなんかじゃない!


 私はすみれちゃんの事を友達だと思ってるからこうやって特別扱いしているんだ。


「おはようすみれちゃん」


 蘇ったすみれちゃんにキャロの姿で挨拶しました。


「おはようみのりちゃん」

「どうして私ってわかるんですか?」


 変身は完璧で声も違うんですけどね?


「解るよ。友達だもん」

「そう言われてしまうと返答に困ってしまいますね」


 少し照れます。そっか友達なのか。


「じゃあ友達のお願い聞いてくれますか。これから学校で殺戮を繰り返していた代行者ケイと二人で殺しにいきます。彼女を殺さないと学校が元に戻りません。それはとっても困りますよね。だから私が人殺しになるのを見逃してください」

「正義の為に人殺しをするの?」

「私は代行者、カエルちゃんって呼んでるんですが本当に悪人だとは思えません。今回もわざわざ私と戦う理由が必要だから学校の人間を殺したように思えます」


 ライ麦畑での会話が嘘だと思いたくありません。

 ケイがケイの理由に基づいて戦っているように、カエルちゃんはカエルちゃんの思想で殺しまわっていたと思います。


 だからきっとカエルちゃんは私とケイが殺しやすいようにわざわざ悪役を演じてくれてるんだと思います。


 一体だれの代行者なのでしょうね?


「あと私とすみれちゃんの秘密と言う事でお願いします。そっちの方が友達っぽいし」



 私はスマホを取り出すとケイに電話します。


「カエルちゃんが私の学校の生徒皆殺しにしました。さすがに度が過ぎてるのでオシオキが必要だと思うので一緒に来てください」

「行く前にカエルの能力をある程度教えておく。ただ、これは私たちが過去に戦ったときの能力だから今も本当に同じ能力か解らない。カエルの能力は天使になる能力剣と盾と飛行。そして治癒の能力」

「それだけですとそこまで強そうには聞こえませんね」


 トラックが突っ込んでくる方がよほど強そうに見えますし、何よりケイは機械蜘蛛を瞬殺しています。


「とにかく速いんだよ。一撃は弱いが、その分速度で補ってくる」

「では私がケイに速度上昇のバフをかけて、カエルちゃんに速度低下のデバフをかければいけそうですね」

「キャロの能力を考えるとそれが妥当かな」

「前はどうやって倒してたんですか」

「仲間が相打ち覚悟でお互いに剣で貫いてた。そして自分ごと妄想の世界の方へ引きずりこんだ」


 なるほど、それでカエルちゃんだけ出てきたら無駄死にも良いところですね。とまではさすがに言えなかった。


「さすがにカエルちゃんの妄想が強すぎる。テレポート出来ないからちょっと待ってて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る