妄想遊戯のガールズスキャット10
そこにはゴッホが描いたようなライ麦畑が広がっていました。
「よくこれたね」
カエルちゃんが前に来たときと同じようにベンチに座ってライ麦畑を眺めていました。
「わざわざラスボスに遭いに来るってことは、殺されに来たって事だよね?」
「そう見えます?」
私はわざとらしくケーキの入った箱を顔の位置まで持ってきました。
「ここだと美味しい物は持ちこまないといけないみたいでしたから」
ついでにインスタントのティーバッグも持ちこんできました。さすがに水は現地調達でも大丈夫だと信じたい所です。
「それでも私が殺されに来たとカエルちゃんは言うんですか? お姉ちゃんは泣いちゃいますよ」
ティーパーティーの用意は一瞬でした。
「この世界って味覚の再現が難しくて困ってたんだよね」
「やっぱりそうだったんだね。この間のあんまり美味しく無かったんですよね」
「あれはお姉ちゃんを困らせたかった訳じゃ無いんだ。ただ人の妄想の世界って何でも出来るように見えて出来る事に制限があったりするからね。どんな世界にも法則が存在するの」
紅茶とケーキをカエルちゃんに分けるとカエルちゃんはケーキに飛びつきました。幸せそうに食べるその顔を見てると変な性癖がつきそうになります。
「それで何しに来たの? 私と遊びに?」
この自称ラスボスかなり懐いてきてます。
「いえそれもあるんですけど本題は別にあります」
「お姉ちゃんの為に何でも答えるよ」
じゃあ本題から切り込んでも問題無いでしょう。
「どうして人を殺して存在を無くしていたんですか? 殺すのまでは理解できるのですが、わざわざ存在その物を消す理由がわからないんです。嫌いな人の存在を消すのならまだ納得ですよ。でも話を聞く限り無差別だったみたいですし」
快楽殺人と言われてしまえばそれまでですが、それこそ、殺人の邪魔が入るような方法にするでしょうか?
「私だってちゃんと考えて代行者として殺していたんだよ」
「その辺りの話を美春さんもケイも話してくれなかったので私詳しく知らないんですよ」
「私は死を望んでいる人を殺していたの」
なぜ私を殺し損ねた!? 憤慨しそうになりましたがそこは年上のお姉さんとして頑張って平静を保とうと努力しました
「死ぬ妄想をする人はね、けっこういるんだ。私はそう言う人を見かけると本当に死にたいかどうか確認してるの。それで本当に死ぬしか無いんだなって思ったら殺してる。無差別殺人鬼じゃなくてガッカリした?」
「それでミカエルですか?」
「そだよー。私は天使さんなんだー」
「ヴァルキリーの方がよくありません? 死を選別する天使って言うとヴァルキリーかワルキューレのイメージですよ」
「……所でお姉ちゃんこのケーキ美味しいねどこで買ってきたの」
露骨に話題そらしましたね……可愛さに免じて許してあげましょう。
「最近駅前に出来たケーキ屋さんで友達達との合間で話題になっていたので食べておきたかったんですよ」
そうしないと友達の輪に入っていることが難しいですからね。最近はすみれちゃんと一緒に居ることも増えたのでさらに大変です。
「なら今日の襲撃はおかしいですよね。明らかに無差別に殺す気でした。結局ケイが蜘蛛機械をこてんぱんにしたので何も問題ありませんでしたが」
「だから言ったよ。私は代行者だって」
つまりカエルちゃんの意思とはまた別の思惑が動いていて、カエルちゃんはそれの手先と言う事ですか?
「代行者ってラスボスにしてはしょぼくありません。ラスボスのクセして命令される立場とか中間管理職ですか?」
けっこうなダメージだったのか、カエルちゃんの動きが止まってしまいました。
「水がこっちの世界のだから紅茶の味がどうなるかわからなかったけど、美味しく出来て良かったね。今度来るときも紅茶いっぱい持ってきて欲しいな」
「そうですね。さすがに水のイメージは簡単にできるみたいですね」
食べ物も料理をマスターしていればこちらの世界で再現可能なのでしょうか?
「それでお姉ちゃんはどうして生きるのか解った?」
「頑張って探してはいるんですけどね。あぁどうぞ、カエルちゃんにあげます。この世界暇そうですから」
私は星の王子さまの本をカエルちゃんに手渡します。
「ありがとう。下手に現実世界に出ると色々大変な事になるからありがたいよー」
妄想の世界で何でもできる。しかしそれは妄想の範囲を超えることは決して出来ない事も意味しています。
妄想の全てをやり尽くしたとき、人間はどうするのでしょうか?
それこそがカエルちゃんの聞きたがっているどうして生きているのかの答えの気がします。
「私はその本からどうして生きているのか探してみましたけど無駄に終わってしまいました。でも面白い本なのでカエルちゃんにあげます」
「ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃんとは生きている内に会いたかったな」
「死んでも会えるのに生きてるも死んでるも無いと思いますよ」
現実も妄想もぐちゃぐちゃになってしまう世界において、生と死の境目などどこに存在するのでしょうか? 事実としてカエルちゃんは生きています。
「それがそう言うわけでも無いの」
「どういうことですか?」
「私を殺したのはケイと美春ともうひとりって言ってたでしょ」
「はい。私にはそう説明してくれました」
「じゃあ何で私だけこうやって妄想の世界にいて、犠牲になったもうひとりは妄想の世界にいないの?」
それもそうでした。カエルちゃんが妄想の世界から現実に戻ってきて戦った用に、もうひとりの方も同じ方法で帰ってくれば良いだけではないのでしょうか?
それともそれがケイと美春さんの仲違いの原因なのでしょうか?
「お姉ちゃんへの宿題増やしちゃったね」
「宿題、嫌いなんでこれ以上は止めてくださいね」
先に結果だけを言ってしまえば私は彼女に宿題を提出することが出来ませんでしたが。
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