妄想遊戯のガールズスキャット4

 翌日、学校が終わると私とケイはビルの屋上にテレポートしました。レベル2の現場で無ければこれぐらいは簡単にできるそうです。


「でも学校で遅刻しそうになったぐらいで使うなよ。世界が不安定になるのは変わらないから」

「解りました」


 人を助けるための練習をするのにその練習の結果人が死にかけては意味がありませんから。


 イマジン。妄想を現実に投影する力。となるとその練習は必然的に妄想をする事になります。


「くらげ?」

「駄目ですか?」


 試しにクラゲにも変身してみました。空中をぷかぷか浮かべて私としては天にも昇る気持ちなのですが、戦う事の多いケイには魅力的には見えないでしょうね。


「私はクラゲになりたいんで、よくクラゲの妄想してます。だから凄く簡単にできます」

「アクアリウムが趣味なのか」

「面倒なので飼いたいとは思いませんね」


 たまに動画を見て和んだりはしますけど、それぐらいです。


「ケイは大剣意外出せるんですか?」

「もちろん」


 そう言うと出るわ出るわの武器のオンパレード。

 マシンガンは当然としてナイフ、ヌンチャク、十手、ハルバード、手斧、スナイパーライフル、ロケットランチャー、極めつけは戦車に軍用ヘリ。


「カッコイイだろ」

「銃刀法違反で逮捕されそう……」


 ケイはオーバーに頭を振りかざして残念って気持ちを表現していた。


「えー、もうハリウッド映画みたいで最高じゃん」

「若干チャイニーズ映画も混じってますよね。練習は色んな事を妄想すれば良いんですか?」


 中二病ノートなんて作りたくないなぁ……


「レベル2ならね。レベル3だと大剣しか作れない」

「レベル3ってどんな状況ですか?」

「妄想の世界に引きずり込まれる。これはレベル2とは桁違い。レベル3は妄想に巻き込まれて全然関係無い人も死ぬ。そして忘れ去られる」


 個人が勝手に死ぬ妄想して、妄想じゃ無くて本当に死んじゃう事は、私としてはどうでも良いと思います。

 でも巻き込まれるのはごめんです。私が友人関係に巻き込まれたがるのは、私が面倒ごとから巻き込まれないためです。

 そっか。本当にケイは優しいんだ。


「私、妄想頑張ります!」

「なんかその言い方だとえっちぃな」



 と言いつつ私が頑張るのはエタマジなんですけどね。結局キャロを主軸にするのが無難では無いかとケイとの結論でした。私はケイがエタマジやりたいだけだと思っています。


 ケイと出合ってから日常が変わったかと言うとそんなに変わりません。

 と言うか非日常も慣れてしまえば日常ですね。

 国語教師が来るたびに殺され方のパターンが変わるのは若干楽しいですがそれぐらいです。今日は爆発してました。リア充じゃ無くても爆発するみたいです。


 いえ、一つだけ、たった一つだけ慣れないものがありました。


 それは毎日死ぬ妄想をする女の子。


 黒髪でメガネをかけていてボブカットのその子は文学少女ですと言わんばかりの地味な子でした。


 その子は有りとあらゆる死に方をありとあらゆる時間にしていました。刺殺、飛び降り自殺。投薬自殺。


 どれだけ死にたいんでしょうね?


 そして私は彼女の事がとても羨ましく思いました。

 だって私は何となくですが私は生きています。特に理由は無くても生きていくのに不自由しません。特に理由も無く進学して、特に理由も無く就職するのでしょう。


 そんな恵まれすぎた世界の中で、死のうと思い続けるのは難しく思います。世界は死なないように出来ています。ただし生きようと思うと疲れます。

 しょっちゅう死体になっている彼女の事を友達達に聞いてみましたが、情報はさっぱりありませんでした。


「そんなやついるの?」


 みんながみんなそんな返答でした。そりゃ毎日死ぬ妄想をしている少女とも言えず、外見的な特徴しか言えなかった私が悪いのですが……だからといって死ぬ妄想をしているときに私が話しかけて本当に死なれても……

 本人は困らないのでしょうけれど、それだと私が殺したような物になるので出来れば止めたいです。


 あくまで自殺でいて貰いたいです。私が殺したとしたら寝覚めが悪すぎます。

 お昼休みの時間に私は自殺少女(とりあえず仮名をつけました)を探して校舎を徘徊します。


 自殺少女は図書室で首つり自殺をしていました。この子は本当に首つりが大好きですね。

見ている私としては、身体から色々な物が流れ出てきて気持ち悪いなーって感じですけど。


その妄想もすぐに終わり、自殺少女ちゃんは図書室でブンガクしていました。私の読む本と言えば教科書と預金通帳ぐらいなので、自殺少女ちゃんが何を読んでいるのか良くわかりませんでした。

 図書室では静かに、と言うのが暗黙の了解ではありますが、多少のお喋りなら目を瞑ってくれるでしょう。今のご時世スマホでタイプして見せれば会話にも不自由ありません。


 だから、


 クラゲの私が珍しく活動して見ることにしました。


 クラゲだってたまには捕食活動ぐらいするでしょう。人間の海と違ってあっちは生きていくのに必死なのですから。


「ねぇどんな本、読んでるの」


 本にはGOTHと書いてありました。ゴシックホラーの小説でしょうか?

 自殺少女は話しかけられるとは思っていなかったのか、いきなり本をばたんと閉じてきょどきょどさせてしまいました。

 いきなり話しかけられると困りますよね。私も良くわかりますので本当に申し訳ない事をしたと思います。


「あ、あの何のご用でしょうか?」


 ここが静かな図書室でなければきっと聞こえなかったと思います。それぐらいウィスパーボイスでした。あと声高くて可愛らしいです。

 しかし用と来ましたか……

 死ぬ妄想を止めてくださいとは言えませんからね……いや、言った方が良いのかもしれません。


「自殺したいの?」


 絶句。と言った所でしょうか。凄まじい顔をしているのか顔をうつむけています。


「解るよ。私と貴方、同じ匂いと言うか空気するから。ちょっと場所変えようか」


 さすがに図書室内で堂々と自殺についての話題をするのは失礼だと思いました。と言うか私の評判に関わります。私は人気の少ない図書室の外にある庭に出ました。池とかベンチもあって学校のクセして及第点をあげてもいいぐらいです。ただ、図書室を利用する生徒の性質上だれも使いませんけどね。


「私と貴方って同じだと思う。そして同じだけど全然ちがう。だから話してみたかった」


 自殺少女は俯いたまま私の顔を見ません。

 私のスマホがバイブレーションする。友達からエタマジのクエストすんぞ! とお誘いがかかってきました。


「貴方はこういうゲームやらないでしょ」

「ごめんなさい。ゲーム全然やらなくて、楽しいゲームなんですか?」

「全然。でも友達がやってるからやってるだけ。ゲームしながらの会話でごめんね。私から話しかけたのに」


 自殺少女は首をブンブン横にふりました。


「私はねこんな面倒な事ほんとはしたくないんだよね。でもしなきゃ浮くでしょ。そしたら生きにくい。だからやる。ごめん名前聞いて言い? 私はみのり 大杉みのり」


「江藤すみれ」

「江藤さん?」

「下の名前で呼んでくだざい」


 もっと防御堅そうに思ってました。意外と柔らかいですね。


「じゃあ私の事もみのりで」

「でもスミレちゃんはそういうことしないでしょ。ずっと一人の世界にこもってどうやって死ぬか考える。私たちって恵まれすぎて生きるのに苦労しない。だから死のうと思うと苦労する。拳銃が簡単に用意できたら頭ぶち抜けるのにね」


 スミレがしなかった妄想の一つが拳銃による自殺だ。だからこそ私は話しかけたんだと思う。


 日本で拳銃を手に入れるのはとても難しい。それこそそんなことが出来るなら自殺の方が簡単なぐらい。


「ミノリさんは自殺の事を考えるんですか」

「考えようと頑張ってる。でも駄目。私は流されちゃうの。世間に、友達に、常識に、海にただようクラゲみたいに流され続けてるのが私なんだ。

 だから明確に死にたいと思えるのが羨ましい。凄い俳優になりたいとか、大金持ちになりたいとか、そんな奴らよりよっぽど魅力的に見えるんだ。だってあいつらは海の流れにそって泳いでるだけ。死ぬのは違う。海から逸脱しようとしてる」


 少しの合間沈黙があった。スマホの画面ではクエストが未だに継続中みんなで頑張るぞーと励まし合ってるのがバカバカしく思える。


「私きっとミノリさんが考えてるような強さじゃありません」

「でも貴方は自殺の香りが凄くするんだ。よく自殺を考えてるでしょ」

「それは自殺する強い意志があるわけじゃないです。友達いないし、死んでいいかなって、そうするとどうやって死ぬのが一番良いのかよく考えてしまいます」


 私は思わず吹いてしまった。


「友達がいないから死ぬの」

「だ、だめですか?」


 駄目とかそう言う話では無い。私は友達の輪が鬱陶しくてたまらないってのに、死を懇願ばかりするスミレは友達が欲しくてたまらないだなんて。


「だったら友達が出来る妄想もすれば良いのに」

「そういうことを考える時だってあります。でもどうやって話しかけて良いか」


 一年生の二学期になると友達グループなんてのは固定化されちゃってる。そんな状態で誰かに話しかけようとするのは確かに困る。

 私みたいに自殺してるから興味が出てきましたなんてまずいないだろうしね。


「じゃあ私で友達ごっこしよう」

「友達じゃないんですか?」

「だって私友達の輪が嫌いだもん。エタマジとかその象徴だよ」


 その時丁度良くクエストが終了しました。みんなでおめでとうと言い合いました。最低ですね。何を頑張ったんだろう? ボタンを押すだけならサルでも出来るのですからサルとでもやってれば良いんです。


「好きでも無い事をやらされてるだけ。じゃあスミレもエタマジやってみる? それで私とフレンド登録して友達の面倒くささを体感しましょう」


 そうなんですよね。

 ここでスミレと話しても結局面倒な友達を増やすだけなんですよね。

 私のやってることは無駄どころかマイナスでは無いでしょうか?


 まぁ、いいや、友達ごっこ、ごっこって解ってるからだるいって言えばスミレも許してくれるでしょう。

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