妄想遊戯のガールズスキャット3
ケイの説明を聞いていなければ今頃精神科に行くか保健室通いを決め込んでいたでしょう。
世界は不安定でした。
と言うか、人間の情緒の不安定さが世界をそのまんま不安定にさせていました。
みんなが大嫌いな国語の教師が入ってくると、一人の男子生徒がいきなりマシンガンを取り出して国語教師を銃殺しました。
気にするなと言われてもこれを無視を決め込むのは並大抵では……と思いましたが、超リアルなハリウッド映画みれてラッキー程度に思っていたら勝手に授業が始まっていました。
常識の壁がこれほど強固だとは今の今まで思っていませんでした。
それからも学校はスリリングでエキサイティングな物でした。授業中に友達がイケメンに告ったりとか、窓から人が落ちていったりとか、もう無茶苦茶でした。
世界が不安定になる。
ケイはそう表現しましたが、私ならもっと別の表現をします。
他人の妄想が見えてしまう。
だって見えて全てが終わった後はそれらが何も無かったかのように常識がはじまってくのですから。
やはりなおさら私を助ける意味がわかりません。
megu『今日の学校はどうだった?』
ケイからメッセージが届いた。
minori『退屈しなくて楽しかったです』
megu『って事はレベル1しか発生しなかったのか』
minori『すみません専門用語は解りません』
で、エタマジキャラのスタンプが張られました。イラッ ミ☆
megu『今日暇? 昨日の公園でまた落ち合おう』
何時だって暇です。
ブランコに揺られながら私は今日あった事をケイに説明しました。
「まぁふつーはそんぐらいで終わるんだ。妄想が世界を侵食してそのまま妄想の世界に帰っていく。私たちはそれが認識出来ちまう」
「おかげで楽しかったです。他人の妄想が見れるってけっこう面白いですね」
「他人の妄想が見れる。認識としちゃ大体あってるけど、良い根性してるな」
「どうしてですか?」
「……」
なんか諦められたみたいです。
「まぁその程度なら良いんだ。妄想がちょっと現実を侵食する。それがレベル1」
「となるとレベル2とか3とかあるんですか?」
「昨日エタマジのキャラに襲われただろ。あれがレベル2妄想が現実に固定化している状態。私はそれを認識したら助けるようにしてる。今日はみのりにも私についてきて欲しい」
「どうしてですか?」
「世界と繋がっている以上きちんと説明しないとね」
そう言い終わると、第六感が働きました。妄想が世界を侵食する瞬間に感じる頭痛みたいなのがさらに激しくなった感じです。
「ちょっと手をつないで」
私は言われるがままに手をつなぎました。
「世界と繋がっているとこういうこともできるんだよ! 私の妄想をわざと具現化する」
私とケイは一瞬にして別の場所にいました。
ケイが私と別にいる場所の妄想をして現実をねじ曲げてそれを事実に置き換えたみたいです。
私とケイは道路のど真ん中。
状況がわからない私は周りをきょろきょろ。後ろには青年がぼーっと突っ立っていました。
目の前には遠くからトラックが一直線にで走ってきました。フルスロットルで止まる気配ゼロです。
「自殺の妄想にしちゃ派手だな。」
「アニメでそうやって異世界に行くのがあるからじゃないでしょうか?」
私はけっこうアニメを見ます。処世術の一環ですね。まぁ楽しく無いですけど。
ケイは少年を担いで道路から歩道に歩こうとしますが、道路の方がねじ曲がってしまいました。
「どんだけこいつトラックにひかれたいんだよ。これだとトラックの方をぶち壊した方が早いな。でも私のイマジンじゃキツい」
「イマジンって昨日使ってた大剣ですか」
「そう、世界と繋がってると妄想を具現化することが出来るの。ただししっかりイメージできないと無理。この世界はすでにあの青年の妄想に支配されている。その妄想に対抗できるほどの想像ができないといけないからね。常日頃からイメージしている物ならできるはずだけど。何か思いつく?」
常にイメージしてるもの、クラゲ……では助かりませんね。
「試してみます」
私は想像する。
最強の魔法使いと呼ばれてる女の子の姿を、そしてそれが私であると。
「エタマジのキャロか似合ってる」
ケイがそう言って私の服を触ってきました。ケイの気持ちもわかります。エタマジでトップクラスの人気と誉れ高い絶対魔法少女キャロ。
透き通るような青い髪にゴスロリ系魔法少女の服を着て頭に天使の羽が生えてる子です。
薄味な私にだって可愛いぐらいの感性ぐらいあります。
キャロの得意技は氷。
「フローズンフィールド!」
私が叫ぶとトラックは氷ついてその場で止まりました。
「後は任せろ!」
ケイが大剣を両手に持つと高く飛び上がりトラックに飛びのしました。
剣で斬りつける。いいえ、剣で殴りつけるが正解でしょう。ボッコボコのギッタギタです。凍り付いていたトラックはその場でバラバラに砕け散りました。
「まぁトラックも無いし妄想も止まるだろう」
「青年はどうなるんですか?」
「歩道橋で見ようか」
私はキャロに成るのを止めてケイとのんびり歩道橋でトラックが消えていくのを見ていました。
トラックが消えると、青年は歩道橋で何事もなく帰路についていきました。
「本来はこんなもんなんだよ。私たちの事なんざなーんも気にしてなかっただろ」
「……鬼瓦さんは優しいんですね」
「その名字嫌いだから止めてゴツすぎる」
「ケイさんは優しいんですね。感謝される訳でも無く、世界が修正して最初から青年がいなかった物になるのに、それでも助けるんですね」
「うん。悲しいじゃん。そんなの」
ケイは遠くを見つめていました。
きっとその事象を悲しいと思えない私は薄情なのでしょうね。
「みのりが良かったらさ。私と一緒に人助け手伝ってよ」
私は即答できませんでした。人間失格だと思います。私を助けてくれて、ここまで私の状況を教えてくれた人に対して少しの恩義も返そうともしないのですから。
「足手まといになるかもしれません……」
「そんなことないよ! 今日はみのりがいなかったら不味かったよ! きっと青年担ぎながらひたすら走ってたぜ私」
そっか、私を必要としてくれてるんだ。私の持ってるキャラでも無くて、私がその場にいるからでも無くて、
私が私でいるから必要としてくれているんだ。
「私ケイさんの事手伝いたいです」
「じゃあケイって呼んで。相棒は名前でフレンドリーで呼ぶ物っしょ。みのり」
「はい。ケイ」
こうして私は妄想と現実が交差する世界の住人になってしまいました。
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