妄想遊戯のガールズスキャット2

 電話で両親に確認を取ってみたらオーケーが出てしまいました。むしろ喜んでました。

 最悪です。

 いえ、人に見られて恥ずかしい物が置いてあるとかそういうことも無いですし、命の恩人に対してそれぐらいのお礼は常識だと思います。


 ですが、やはり人付き合いがティッシュより薄い私には過酷な選択でした。

 しかしやらないわけにもいきません。


 世界が不安定になる。


 その言葉だけ聞かされて家に帰った方が精神の方が不安定になります。


「おじゃまします」


 と金髪ちゃんがもう親友ですって感じで気軽に話しかけました。なお、私はまだこの子の名前を聞いていません。ここまで来る途中の会話は全部エタマジでどうにかしました。ゲーム脳万歳。


「娘がお世話になってます」


 と母もにこやかに返事をしました。

 二十分前ほど公園であったばかりの他人ですと言ったらどんな顔をするか見てみたいです。


 私は彼女を自室にまで案内しました。

 私の部屋は語るべき特徴も特にありません。ベットがあって勉強机があってテレビがある。ウィークリーマンションの部屋そのものと言っても過言では無いでしょう。

 金髪ちゃんは特にことわりも無しに私のベッドに腰を掛けました。しょうがないので私も隣に腰を掛けます。行儀悪いですが、悪い人じゃ無いのはなんとなく解ります。


「さってととりあえずフレンド登録してよ」


 そう言うと金髪ちゃんはスマホを取り出します。スマホは過剰にデコられていて、これが私だ! とでもいいたげでした。

 そして世界が不安定になると言うもっと重要そうな事の前にエタマジのフレンド登録が行われる事になりました。

 私もスマホを取り出しゲームを起動させローカルでの協力プレイを選択


「メグさんって言うんですね」


 金髪ちゃんのキャラ名にはメグと書いてありました。


「あぁ、それはキャラの名前だよ。本名は鬼瓦ケイ」

「本名の方がキャラの名前みたいですね」


 ケイの方がキャラにも似合ってカッコイイのにと思いましたが口にはしません。口は食べる為にあります。あと適当に同意するため。


「よく言われる。そんな君はミノリで良いの」

「はい、大杉みのりです。私はゲームのキャラ名は自分の名前を入れるタイプです」

「そかそか、この子私のフレンドで持ってる奴いなくてさー助かるよーこれでクエスト攻略できる」


 持つべき物はゲームですね。私は珍しく友達に感謝しました。


「それで、その、世界が不安定になるってどういうことですか?」

「実は世界ってのはものすごく不安定なんだ。ただ普通の人はそれが認識出来ていないだけ。あぁ言うモンスターが出るのって実はすごく当たり前に起こってることなんだ。さっきエタマジの事考えながら歩いてなかった?」

「はい。課金用のカード買ってきたんで当たれば良いなぁって」

「だよね!あの子がいたら攻略すっごい簡単になる。ってそう言う話じゃ無かった。


 さっきの事象は君の思ったことがそのまま世界に反映されたんだ。

 世界ってのは人間の認識によって成立している。あると思えばあるし、無いと思えば無い。じゃあちょっと実演してみせようか」


 そう言うとケイは先ほどの大剣を手に持つと窓の方に投げ捨てました。当然窓は割れて道路の方まで飛び散ってしまいました。


「な、何してるんですか!」

「まぁ見てなって」


 窓硝子が何事も無かったかのように戻っていました。


「いきなり女子高生が大剣ぶん投げて窓硝子なんて割るわけないでしょ。それが常識」

「でも、今間違い無く」

「だから世界が不安定になるって言ったでしょ。本来だったら君も目撃していたとしても認識の方をねじ曲げてしまう。みんなそう言う認識をするだから世界の方が事実の方をねじ曲げる。でも君は一度世界と繋がった。世界と繋がると世界が塗り替えられても塗り替えられる前の世界を覚える事になる。ってもわかんないよね。大丈夫一週間もすれば解るし一ヶ月もすれば慣れる」

「は、はぁ」


 電波さんとはお近づきになりたくありませんが、事実として先ほどの大立ち回りが

ある以上信じるしかありません。


「もしも世界がすでに2000回ぐらい入れ替わってると言われて信じる?」

「意味がわからないです」

「東日本大震災って凄い地震があって原発がメルトダウンを起こした世界があるって言って信じる? ついでに東京より東側は居住禁止区域だったりするぜ」

「福島大震災の事ですか? と言うかそんなのが起こってたのに人間が認識したくなかっただけで地震が消えるんですか?」

「さすがに完全には消しきれなかった福島大震災があるでしょ。本当はもっとでかかったんだよ。それとは逆に起こすことだって出来る。一度世界と繋がっちゃうと世界が不安定で常に移り変わっていくのが解っちゃうんだ」

「そうなんですか」


 としか言えなかった。そんな大地震があって、人が共通認識として認識出来なかったから地震その物の存在が消えたなんて理解の範疇を遙かに超えています。


「まぁこれはかなり珍しいパターンで、実際は朝食がパンからご飯に変わったとか、牛乳の賞味期限が延びたとか、そんなだったりなんだけどさ。その延長上で人間が消えたりもするんだ。さっきの君みたいに」

「もしもケイさんが助けに来なかったら私はどうなっていたんですか?」

「まず君は間違い無く死んでいただろうね。そして死ぬ事によって認識していた主が消えるからキャラもセットで消える。そして世界が認識の方をねじ曲げる。君は最初から世界にいなかった。そういうことになる」


 ……助けられなかった方が良かったかも?


「だから世界の認識がおかしいと思った時は私はその場所に駆けつける事にしてるんだ。誰にも理解されない何て死ぬより悲しいだろ」


 先ほどまであったケイのあっけらかんとした表情が消えた。


「それで私を助けてくれたんですね」

「うん世界が認識にねじ曲げられる前に助けないと、君がそのまま消えちゃうから、そうなると私の認識力では君を助けることができない」


 なんとなく解ったような気がしました。


「でもどうしてですか?」


 私には不可解な事が一つあります。


「別に助ける理由なんて無いですよね? 生きていた事実そのものが消えてしまうなら」

「そんな悲しいこと言うなよ。私たちは間違い無く生きていたことを覚えてるんだよ。私なら助けられるんだから助けたいじゃん」


 そういうものなのかなぁ?


「そうですね。私馬鹿な質問していました」

「じゃあエタマジしようぜ」




 その後私はケイと一緒にエタマジをしました。誰とやってもゲームの楽しさは変わらないと思います。私は終始接待プレイしていましたが、ケイはその対極で好き勝手攻略していきました。

 たぶんお泊まり会的な事を普通にしました。さすがにお風呂は別々に入りましたが、布団は一緒。と言うか、母が布団を来客用の布団があるのに用意してくれませんでした。


 私はスマホのアラームで目を覚まします。隣にケイがいる意外はいつも通り、世界はいつも通り安定しています。


 私は隣で寝ているケイを揺さぶって起こします。

 ケイは寝ていてもカッコ良かったです。これで男の人でしたら完璧な王子様です。


「ケイは学校間に合うの?」

「あぁ私不良だからちょっとぐらい遅刻してもへーきへーき」


 制服から考えるとちょっとの距離では無いんですけどね。一時間ぐらいは余裕で遅刻でしょうか? そう考えるとわざわざ私の家に来たのはむしろ遅刻したかったぐらいの感覚なのでしょう。


「まぁ今日で不安定の意味は解るんじゃない? 変な事があっても慌てちゃ駄目だよ。人が多くて妄想が激しくなきゃ人間の認識する常識の方が強いから、へたに世界と繋がってる私たちが強く認識するとそっちが事実になりかねないからね」

「ようするに無視を決め込めば良いんですね」


 それなら得意です。


「そそ」

「では学校に行く準備をしましょう」

「はーい」


 私はケイのお世話をしながら学校へ行く準備をします。両親とも共働きで早いので食卓にはお弁当だけが置いてあります。


「ごはんとパンどっちにしますか?」

「私食べないからー」

「そうですか」


 私は気にせずシリアルを食べることにしました。

 私は基本的に会話が苦手です。自分から何を話していいのか解りません。だからずっと、『そうだね』『すごいね』『しらなかった』『ふーん』なんて聞いてるのか聞いていないのかよくわからない返事をしたりします。


 その点ケイは楽でした。スマホしか見ていません。

 一晩を過ごした仲で苦手とかそういうのはもう超越している気も若干しますが気にしません。


 私はケイと別れるといつも通り学校に行きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る