トラック運転手やってたら異世界を救うことになった!
折口詠人
第一章 罪と過ちの異世界トランスファー
第1輪 人を轢いたら、そこは異世界だった
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タイトル : トラック運転手をやってて、人をはねてしまったらしい俺が異世界とやらにいる件について
名前 : E-mail : sage
内容 :
おまいら、聞いてくれ
今日、高校生をうっかりはねちまったんだが。。。。。
いま俺は異世界?っていうんだっけ?の宿屋に、ケモ耳娘と泊まっている
何が一体どうなったのか分からないんだが、ここ日本じゃないらしい
ワロタ。
いやスマソ、笑えねえよな、正直はねたやつがどうなったか考えると今夜は眠れそうもない
これが神様の罰ってやつなのかな。。。
だれか助けてくれ
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送信ボタンをそっと押してみた。
しかし、画面に表示されるのは当然「接続が有効ではない」というエラーの文章。
俺は某巨大掲示板用アプリのスレ立て画面を閉じて、ため息をついた。
同じ部屋にある……そう、ここは宿屋の一室で、ひとつしかないベッドではウサ耳娘が寝息を立てている。
そして俺は、椅子に逆向きに座って、背もたれに顎をのせたままスマホを操作していた。
いったいどうしてこうなったのだろう?
ここは日本じゃない——多分、地球でもない——のは納得するとしても、いったいどこなのか。
そして、俺がはねちまった、あのガキは無事なのか……。
スマホの時刻表示では、すでに深夜二時を回っている。
眠気の欠片すらやってこない俺は、ふたたび今日の出来事を思い返してみることにした……。
🚚
俺の名前は、
じょうのさき、ではなく、きのさき、で
年齢は二十六歳。
就活失敗組であり、今の仮の職業は中・長距離トラックの運転手。親父の親戚の紹介で、この仕事を始めてようやく一年になろうとしている。
いつもはパレ積みの定期便でやらせてもらっている……トラック便の細かいことは、多少は説明できるぐらいの知識はあるが、どうせみんな興味ないだろう。なので、省略する。
ともかく。
その日は急病だのなんだのがあって、いつものとは違う、長距離便を代理で引き受けることになった。
……それがよくなかった。
俺の年齢だと、普通免許に四トン車が運転できる特典が付いていることはない。
だから、ちゃんとした中型免許を持っている。それで今回のトラックが運転できるのだ。
この免許がなければ今回の仕事を引き受けることもなかったのだが、そもそもそれだとこの職自体がなかっただろう。
長距離便ってやつは、片道で二日から三日はかかるんだ。
休憩はとるが、寝るときは基本、車内泊。
慣れていないと長時間なんて寝られたもんではないから、少し寝て起きては運転する、の繰り返し。
身体がばっきばきに凝り固まってしまって、実に難儀した。
……それでも、行きはまだよかった。
時間内に到着しなければならないし、初めての道だからおっかなびっくり、注意を払って運転していたからだ。
ところが帰りはそうではなかった。
早く戻らなければならないのは変わらなかったので、積み卸しの作業で疲れた身体で運転を始める。
帰りは空荷だったため、高速代は会社から支給されない。
仕方ないので、下道を延々と運転する。
時間は夜だから、混み合ってはいない。
ただただ、制限速度を少しばかり超えるぐらいのスピードでちんたら進むだけだ。
届け先が、田舎の海沿いにあるプラントだったので、戻りの経路の大半もこれまた田舎だ。繁華街の光だとか、そういう目を引くものもない。
ちょうど国道だったから、道路事情もよく、とにかく単調なドライビングだった。
で、夜が深くなったころ、うっかり寝ちまった。
目を覚ましたのは衝突の直前だった。
ハッと気づいて、ブレーキを踏み込んで、さらにハンドルまで切った。
でも全然意味が無かった。
俺の乗っていた四トントラック車は、中学だか高校の制服を着たガキんちょを、自転車ごと跳ね飛ばした。
——正直に告白しよう。
下手にハンドルを切ったせいで、多分だが、電信柱とサンドイッチにしちまった。
少なくとも、電信柱とトラックの前面に挟まれた自転車が、窓ガラスをぶち割ったのをこの目でみた。
だから、あのガキが、やばいことになったのは間違いないと思う。
細かいことが不確かなのは、衝撃が激しくて、じっくり観察なんて出来なかったからだ。
で、次の瞬間——。
「へい、らっしゃい、砂ネズミのもも肉の串焼き、今ちょうどできてるよ!」
「新鮮なプリラーン桃の果汁を搾ったジュースはいらんかねー。一杯二ルクだが、二杯でなんと三ルクだよ!」
「ちょっとそこの可愛い子連れてる、イケちゃってるお兄さん、こいつと力比べで勝ったら一ガリオンやるよ! 参加費はたったの五ルクさあ」
俺と、俺が載っていたトラックは、異国のバザーめいた光景のど真ん中にいた。
「な、なんだ、おい!? どこから出てきた?」
いま叫んだのは俺じゃない。
ひびの入った窓ガラスの向こうで、こっちを指さしている野郎だ。
コスプレってやつらしく、頭に灰色の毛の狼のかぶり物をしていて、服に包まれた身体の尻からは、尻尾まで生えてやがる。
いったい何なんだ。
事故の直後だってのに、周囲の屋台の連中は気にせず商売してるし、目の前の狼頭の野郎と——そいつが何の冗談か、首輪に鎖を付けて引っ張っているウサ耳のカチューシャをした女の子は二人揃って、目を丸くしてこっちを見てやがる。
……変態コスプレカップルというやつだろうか?
いや、そんなことより、まずは救急車だ。
車内のホルダーに入れていたスマートフォンを取り出して、操作する。
三桁の番号をコールする。
繋がらないので、もう一度かけ直してみる。
「くそ、繋がらねえ……って、あ、圏外だと?」
山間部でもないのに、日本で携帯の電波が届かないところなんて、そんなにないはず……。
そして、ふと。
電話に集中してたせいで、目に入っていたが意味を理解してなかった光景の、一番おかしなところに気がついた。
「なんで昼なんだ……?」
太陽はほぼ中天にあった。
窓ガラスの向こうに、眩しく輝いているから間違いない。
さっきまで夜だったはずだ。
いくらなんでも、数時間にわたって居眠り運転を続けられるわけがない。
再び、周囲を見直してみる。
よくよく観察してみると、市場にいる連中がおかしい。
例の狼男とウサ耳少女だけではなく、スマホのソシャゲに出てきそうな、剣とか鎧とかを身につけたやつがあちこちにいる。
染めているわけでもなさそうな、金髪や銀髪、それどころか赤髪までいる。
道路……というか道も舗装すらされていない、土むき出しだ。
それに狭い日本の道路のそこかしこに生えているので、運転してて路地に入ったときにクソ面倒な、電柱が一本もなかった。
おいおい、ちょっと待ってくれよ……。
「もしかして、ここ日本じゃないのか!?」
車内で叫んだ俺は、次の瞬間、黙り込んだ。
理由は単純。
「オイコラァ!? わけの分かんねえものを放り出したままにしてんじゃねえよっ! 邪魔だろうがよっ!」
狼頭のやつが、窓ガラスにバンバンと張り手しながら、そんなことを言ってきやがったからだ。
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