Epilogue.2 2088年1月7日 ヨハネスブルグ連邦 ヨハネスブルグ市郊外 Baddest

ほぼ同刻。熱波の中のヨハネスブルグ連邦ヨハネスブルグ市郊外、街の区画4つ分はあるオールザッットショッピングモール前、大通りを挟んだ街路樹の木陰に、誰が置いた往年の明治カカオの白いベンチに、アジア人男女の二人の姿


麻のジャケットに、一際の長身と無駄の無い肉付きの壮年の男性、ふわりと

「今、弓月おったな、」

麻のロングワンピースにワンレングスボブの眉もアイラインもくっきりの三十路に入り立ての女性、興味無さげに

「万上さん、太尊もいました、」

万上、溜息も暫し

「やはり、ここかい、いるのにもどかしいわ、何時になったらしばけるんや、なんやねん、楠上、」

楠上、口を拉げては

「私に言われても、万上さん、今は内定に尽きますよ、」

万上、自らをただ仰ぎ

「内定も何も、手配写真まんまやん、どいつもこいつも大悪党ばかりや、」

楠上、ただくすりと

「それを言ったら、乙川班も相当な手配書回ってますよ、」

万上、神妙に

「ええねん、乙川はしおらしゅうしても何れかや、何れ飛びついては正面突破がお似合いやったやろうな、」

楠上、ただぽつりと

「乙川さんには、甘いのですね、」

万上、ふと

「甘くて正解や、その気すら無い内定のまま、大事に持ち込まれたら、乙川を宥めるのにごつう掛かってたわ、乙川な、このままアジア待機長うしてくれへんかの、」

楠上、凛と

「同意見です、源さんには、そのまま言っておきますね、」

万上、時折オールザッットショッピングモールの入場口をちらりとも

「しかしな、こないな大袈裟過ぎるモールをアフリカ大陸で作りおるか、大箱だけって言う事で、つい通うてしまうわ、さぞがっぽりやろ、なんや、存在自体がナンセンスやな、」

楠上、さも退屈そうに

「そこですね、ヨハネスブルグ連邦に知的財産権あったら、大悪党湧きませんよ、ここ何遍言いますかね、」

万上、大仰にも

「大悪党ほいほい見て、じれったくならんか、なあ楠上、」

楠上、万上を見つめては

「万上さん、良いですか、内定捜査中なので、自然体ですよ、」

万上、全く意に介さず、

「悪党ばかりすぎて、皆油断しとるわ、逆に自然体が目に付き始めてるわ、多少の痴話喧嘩振りも混ぜたらな、あかん、」

楠上、整った髪を撫でては

「恋人設定、まあ、アジア人なら、それはぎりぎりの線でしょうけど、」

万上、胸のポケットから携帯音楽プレーヤーをどんと差し出し

「楠上な、その知的財産権や、これ見たら何度も言いたくなるだろう、ここまで巧みなら、よくぞここまでと褒めながら訴えたるわ、Zeharp、まんまシャープやないか、」

楠上、ただ伺い

「Zeharpですか、本当、シルバーコーティングが格好良いですね、ですが万上さん、訴えるも何も、購入した時点で、知的財産権侵害の幇助になります、程々ですよ、」

万上、呆れ顔のままで

「あかんか、全部、内定捜査や、」外ポケットから無造作のままのレシートの束を差し出しては「こうしてな、領収書貰ってるから、壊れたら店舗で喋り倒すで、」

楠上、溜息も深く

「万上さんたら、全く何個買ってるんですか、ですがお気持ちは分かります、巧妙にプレイリストも流し込んでますから、驚愕すべき海賊盤を店舗で掲示されるとつい買ってしましますよね、」

万上、うんざり顔の

「せやろ、このZeharp、1980年代のバンドエイドのセットリスト全曲入っていたら買うてしもうわ、」

楠上、はたとに手を伸ばし

「それ、貸して下さいよ、」

万上、こくりと

「今、聞き倒してる最中や、もうちょい待ってな、意外にエンハンサー上質で、耳が痛うないんや、」

楠上、事も無げに、ぱしと万上の携帯音楽プレーヤー奪い取り

「ふむ、まさかの硬化FRPですか、それなりに材質上がってますね、」

万上、ただベンチの背もたれにもたれ

「そやな、価格安定路線で、旧中華も商売気出てるって事や、ほんま壊れる迄、気が遠くなりそうや、」

楠上、ふとZeharpの携帯音楽プレーヤーの裏面を見ては

「やはりですか、万上さん駄目です、彫られた印字は製造年月日が中華人民共和国の2084年製です、記載前倒しで製造してますね、ここ大切ですよ、旧中華の法体系は立国した麦秋に引き継がれていませんので、遡って訴える事が出来ません、今度買われる際は麦秋中華帝国製の2087年以降の製品にして下さい、そこで精査して旧中華の製造品なら、麦秋経由で麦秋中華帝国の名を一部騙ったと異議申し立て出来ます、」

万上、大仰にも

「せやさかいな、怪しまれない程度に物色してるわ、そうなればせめて最低でも一台買わんとあかんやろ、難儀やな、ほんま、新旧どっちの中華もまどろっこしいわ、まあええわ、Zeharpの携帯音楽プレーヤー壊れるまで使い倒して、怒鳴り込んでは店舗から貴重な情報聞き出すわ、」

楠上、右片耳にヘッドフォンを入れては徐に本体再生ボタンを押し

「とは言え、結局飽きたタイミングで壊れますから、訴訟にもなりません、万上さん、何台持ってるんですか、」

万上、はきと

「軽く、20台越えたな、辛うじて競取りのラインは越えてないわ、趣味人やわな、」

楠上、リズムに乗りながら小さく拍手

「まあ、辛うじて趣味人ですけどね、おお、フィル・コリンズ始まりました、」片方のヘッドフォンを万上に差し出す「万上さん、内定なら仲睦まじくですよ、」

万上、ヘッドフォンを受け取っては左片耳へ、とくとくと

「楠上な、普段から関係良好やん、ああ『見つめて欲しいか』な、楠上も、よう頭入っとるで、うちの実家のレコード蔵で漸くのフィル・コリンズにジェネシスやで、如何なる意味でも、向いはなんやねん、オールザッットショッピングモール様か、」

楠上、音楽で気分も上々も

「万上さん、日本人なら白家電も買って下さいよ、生活面浮き出てこないですよ、」

万上、ただ神妙に

「ここで人情を晒すはちょいとな、ホテル住まいで嵩張るの買えるか、ええか、そんなもん買うたら、後着けられて強盗に押し切られるわ、うっかり倒してみい、そこで正体ばれるわ、」

楠上、意に介さずは上機嫌に

「まあ、極悪犯罪都市ヨハネスブルグはそれが日常ですからね、たまにはしばかないと、調子に乗せますよ、」

万上、うんざりも

「それはあかんな、陽気なお兄さん、ごつうでしたは無しや、しかしな、モールの商品一切合切、一体、どこに設計図あるんやろうな、」

楠上、素っ気なくも

「さあ、皆目分かりません、第三次世界大戦で、旧中華に北九州工業地帯完全占領されましたから、端末のログイン突破して、USBメモリに全部吸い取られ、コピーされまくっては今も尚何処かでしょうね、」

万上、凛と

「えっらい渋い話やけど、そやろうな、でな、このモールに工房あるんちゃうか、四階全面が事務所って、場所取過ぎや、」

楠上、ただ空読みしては

「乙川さんの透視図も詳細な事は書かれていませし、ここは豪胆そのものなのかな、ああでも、モールにそこまで電力供給されていません、飛び抜けた時期も有りませんでした、あったとしてもそれらしい透視図からの古の3Dプリンタ位ですよ、万上さん、行きがかり上でも乗り込んで徴集したら、旧中華に警戒されて、それこそ一気呵成とばかりの各僻地で生産ラインを構築され、増々売り逃げされます、そうでなくてもユーロへのコピー商品の流入増えているのに、市場経済破綻しかねないですよ、何と言うか最悪の結果として、アフリカの拠点洗い出しが最優先となり、私達の捜査がそれで終ってしまいますよ、」

万上、苦笑しつつ

「それ殺生やわ、太陽光発電に事欠かへんから、アフリカの辺境の単独工場わんさか作られたら、行き帰りで十年単位の捜査になってまうで、到底付き合えんな、」

楠上、表情は頬笑んだままに淡々と

「その先が、ユーロ破綻は勿論、世界の市場経済が破綻に、その一方で旧中華の栄華、そして麦秋も漁夫の利でしょうが、龍舜女帝はそこに付け入る程疎かでは有りません、旧中華麦秋共闘の事実を叩き付けられれば、即麦秋討伐になりますからね、私達は穏やかに行きましょう、」

万上、ぽつりと

「大筋、それか、」

楠上、モールを見つめるも

「とは言え、行く時は行きます、旧中華の精鋭部隊を叩きのめし、首根っこを掴みます、その為の留名団全員の勾留が、当分の命題です、」

万上、失笑しては

「命題な、とは言え、帰ってきた面子、弓月と太尊だけやぞ、あとの連中どこに行っとるんや、」

楠上、はきと

「弓月を捕まえれば、あとは雑魚です、自ずと追い詰められる事でしょう、」

万上、神妙に

「雑魚言うても、どれも一端に強いぞ、案に野に放ってええものかの、」

楠上、繁々と

「万上さんらしくも無い、武士にも勝てるのにそれですか、」

万上、大仰にも

「勝つ言うても、初動躱してこその、懐に飛び込んで、がーのばきで、何とかや、あちらの武士さんが束になったら逃げるしかないわ、まあな、ここで堪らず上家衆ユーロ班のお出ましの事態にしたら、何の大事かと、旧中華に憐憫の情掛ける団体出させたらあかんな、楠上の慎重は正解やな、」

楠上、音楽に嬉々としながらも

「そうですよ、例の全米チリ州のナチス潰滅しかり、お説ご尤もです、」

万上、くしゃりと

「それな、国連総会の年頭挨拶、シオン福音国もかなり配慮したな、関係各位に感謝の意だけで済ますなんて、らしく無いと言うか、何を考えているやらだ、」

楠上、ファニーフェイスなままに

「何を言われます、シオン福音国、12分も演説して、国連総会皆スタンディングオベーションですよ、ただですね、ローマへの謝辞が多く、持ち上げられ過ぎては、何か苦手ですよ、」

万上、こことぞ得意気に

「ええねん、堂上には、これぐらいせえへんと響かないやろ、」

楠上、途端に真顔も

「まあ、堂上さんの件は私達はアフリカですから置かざる得ないとして、」不意に「そもそもの留名団勾留のそれ、遺窟の次元回廊関連探索なんて、土台無茶なお話なんですよ、何とか別件をこじつけてこその嫌疑しか掛けようが有りません、そうなんですよね、何が次元回廊の起動物件かも分からないのに、盗難案件でごり押せなんて、」

万上、確と

「かと言ってな、この先も留名団に幅利かせられるか、俺達上家衆アフリカ班がどうにもあきまへん言たら、ローマどないですのや、地道に拠点の聞き込みして行くしかないやろ、ただ真面目な姿勢は大切やで、」

楠上、満面の笑みで

「分かりました、いっそ、残らず爆破しましょう、それが手っ取り早いですよ、」

万上、引き攣っては

「待て待て楠上、何でここで作り笑いや、通じるの俺だけやって、ええか、それ誰もが思いつくが、楠上関与は一切あかん、楠上階上の大破壊コンビ解消させたのに、ここでやられたら敵わん、よう聞きや、楠上は、得意の会計監査で締め出すんや、くれぐれも言うで、レシート控え全部集める勢いや、それが合うてるって、」

楠上、必死の笑みを湛えたまま

「それを言ったら、先々全米パナマ州開発銀行も全行停止させないといけませんよ、何かな、折角泳がせてるのに、留名団如きにそのカード使うなんて、」

万上、こくりと

「待ちいな、根元絞るのもあかん、楠上も相変わらず答えが早いの、一足二足三足飛びや、」

楠上、ナイキのハンドバックに徐に左手を入れレシートを引き出しては、ぴしゃりと叩き

「万上さん、早いも何も、ここで区切るべきでしょう、皆さん我慢の限界なら立ち上がります、良いですか、レシートこれだけ集めても、通し番号が一週間後には帳消しです、これではショッピングモール事務所に踏み込んで一同脱税疑惑で任意同行しようも、その対となる台帳が無ければ、旧式レジスター使用につき推定無罪の放免ですよ、ニュードルのシリアル管理するFRBの全面協力仰がないといけません、」

万上、身を捩っては

「せな、露骨もあかんやん、どう足掻いても全米vs旧中華なんて最悪の構図や、」

楠上、尚も

「万上さん、お言葉ですが、旧中華に対して、全米は必要なカードです、この先もローマの単独捜査で、旧中華一人残らず証拠不十分のまま任意同行しようものなら、こことぞばかりに旧中華より、ローマは国際互助会の仕事を邪魔するかで、ローマ憎からずの国からも非難の的になりますよ、」

万上、ただ作り笑いで

「そやかて旧中華や、亡国やろ言わせとけ、せやけどな楠上、ローマは、そこまで非公式に嫌われてるか、ちゃうやろ、あのプロイセンも、新ユーゴも、東アフリカも、何だかんだで各国協力してくれるやろ、その上での確実な詰めで国際司法の場に上がらせななあ、無茶な国家対決はあかん、地道も肝心やで、」

楠上、万上に向き直り頬笑んでは

「あのローマが露骨に嫌われてはいませんが、スコール司教枢機卿から事細かに正論言われると、言い返せないお偉方が多々いる事は間違い有りませんよ、東アフリカのジンデル首相との対面の話、やたら長いですよね、言っておきますけど女性だからとかでは有りませんよ、えっらい遠回しの含みです、」

万上、頬笑んだまま

「際どい言い方するの、あのな楠上な、ジンデルを態々宥めに行ってるちゅうに、何で東アフリカの放漫財政の健全の話になるねん、お抹茶立てて、お暑いですなでええねん、」

楠上、微笑浮かべるも小声で

「東アフリカのバベルの塔に関連プラントの一切合切を聞かねばなりません、万上さん、ここ笑顔で御願いします、」

万上、嬉々も小声で

「バベルの塔イコール軌道エレベーターはさっぱりや、だがな関連プラントは果てしなく黒や、無限機関のジェネレーション炉が、ハイブリッドエンジンと同額で選別輸出してる段階で、東アフリカのうはうは加減は能天気過ぎるわな、」

楠上、リズムに乗りながらも、切に

「万上さん、若人博士から、ブルーストーンの件聞き出せないのですか、何度会見しているんですか、」

万上、大仰にも、切に

「楠上、大体な、バベルの塔が不過視の状態やで、若人博士から聞き出そうも何も守秘義務遵守の末の、取って付けたおやまあ発掘の大見得や、ブルーストーンは未知の物質で、未解明の成分やから、ジェネレーション炉に格納せんとあかんとや、あの砂漠の何処にブルーストーンっぽい石があるっつちゅうね、」

楠上、朗らかにも、口角下げては

「守秘義務なんて、預かりしれません、未解明の成分表なら、人類の健康維持の為にも尚更吐かせて、周期表を書き換えさせます、万上さん、若人博士を拉致の上拷問お任せします、」

万上、途端にがっくりと

「楠上もお役目となると無慈悲やな、せやな、意外にも柔和な階上が苛立つのも世話ないわな、」

楠上、笑顔も万上の右腕をがっちりと

「何でここで階上さんの名前が出ます、万上さんは、私の味方ですよね、」

万上、ただ笑みを浮かべたまま

「せやからな、楠上聞きいや、当たり前や、何を置いても味方やで、だからこその、上家衆のこの組み替えだの第一弾発表はアフリカ班やろ、光準教皇は何でもお見通しや、ええか、喋りいの渕上は脇に置いといてな、楠上の長女待遇は最優先事項や、大船に乗りいな、ええな、」丁寧に楠上の手を解いて行く

楠上、神妙にも

「まあ、確かに、何もかも有り難い事ではあります、光準教皇のお話が出ましたので、ここまでにします、」


不意に耳を劈く轟音が、街中に響く


楠上、咄嗟にヘッドフォンを引き抜き、そのまま万上のヘッドフォンをも引き抜いては、Zeharpの携帯音楽プレーヤーをそのまま ナイキのハンドバック に突っ込み 

「これ、私では有りませんよ、」

万上、そのまま楠上の手を引ては、ベンチから立ち上がり

「分かっとる、この唸り、大きいで、避難や、」咄嗟に背後の一橋銀行ヨハネスブルグ支店へと向う

楠上、万上に引かれるまま

「皆さんに、避難勧告は、まあ、悪党でしたね、」

万上、ただ一目散に

「そこまで義務無いわ、ここぞの一橋銀行の用心に感服や、」

万上と楠上、一橋銀行ヨハネスブルグ支店の入口を共に一橋フレンドクレジットのゴールドカードで、セキュリティ認証し入場すると同時に、更に蹴破る音が押し寄せる


空間を斬り裂こうかの蹴破る轟音が最大にも、ただ宙より傾れ込んで来る謎の貨物コンテナ二基、凄まじい速度のまま道路にバウンドしては勢いそのままに、行き交う無駄に武装した重トラックを次々弾き飛ばし、形骸化した面前のオールザッットショッピングモールに突っ込み、見る見る内部薙ぎ払い抉って行く


万上、一橋銀行ヨハネスブルグ支店の厳重に施された防弾ガラス三重越しに、茫然と

「これな、楠上な、うっかり気が乗ってもあかん、俺は何度も言ってるだろ、破壊は無しだって、」

楠上、窓越しに伺っては、神妙にも

「もう、何となくそれですけど、私のリング発動していませんよ、」

万上、切に

「だったら、どないしたんや、見たままコンテナ二基で合ってるよな、」

楠上、ただ指差しては

「形状は正しくそれですが、万上さん見て下さい、各種弾薬散らばってます、各種形状から何れの大軍隊所有の筈です、」

万上、髪をくしゃりと

「はあ、まんまと出し抜かれたな、留名団狙いか、最悪のシナリオ発動か、」

楠上、溜息混じりに

「ここまで正確に追跡出来るなんて、渕上さん、無茶しますよ、」

万上、透かさず

「いや渕上ちゃうな、元全米班で知り尽くしてるが、渕上は人一人送り込めるかや、」

楠上、ただ思い倦ね

「でしたら、何がどうなってるのですか、この手の技は、えーと、まさか、」

万上、ぽつりと

「せやな、芍薬さん、あんお人、無茶するわ、」

楠上、見る見る血の気が引き

「まずい、送り込んでる以上、各種弾薬に時限信管付いてる筈です、ここも巻き込まれます、」

万上、歯噛みしては

「それ、早く言いや、持つか、一橋銀行、」振り向き声を張っては「ええですか、行内の皆さん、窓から離れて屈んで、急いで、早うです、」


一斉に窓辺から離れ机の下に隠れる、一橋銀行ヨハネスブルグ支店の客店員一同


楠上、ただ床に屈みながら

「うわ、この質量なんて、留名団爆殺以外無いですよ、確実に止めですよ、かなりまずいかな、流れ弾ががっちりの一橋銀行でも当たれば吹き飛びかねません、」

万上、ただ屈んだまま、くしゃりと

「さて、神様に祈ろうか、」

楠上、凛と

「効き目有りますかね、」

万上、頬笑みながら

「決まっとる、普段から存分に祈っとる、神様は慈悲深いで、」

万上と楠上、恐る恐る窓辺に近付き隠れ見守る

楠上、はたと

「うわと、衝撃で一階は全壊かな、あの貨物コンテナ二基、猛スピードで飛び出し来ては、選りに選ってモールの正面玄関ヒットしては、完全突破、拠点をショッピングモールにしたのが裏目に出ましたね、構造が脆過ぎます、」

万上、訝し気に

「入場セキュリティあれど、見た目だけごつく手抜きかい、なんやな、いざ、面前でやられると、やや同情しそうになったわ、いや、うちらの内定おじゃんやな、」

楠上、はきと

「おじゃんも何も、今はこれですよ、ロシア語らしきマーキング有りましたけど、困りましたね、公式な書類に書き様が無いですよ、サンクトペテルブルク公国と衛星国を主犯扱いは、私でもちょっとですよ、」

万上、吐息混じりにも

「まあ、ええわ、トレーラーの衝突事故で丸う収めるわ、証人は自分等最低二人おるし、ええやろ、」

楠上、諭す様に

「万上さん、このアフリカで事なかれを貫くと、どんと堰が切れますよ、非常に困りますね、」

万上、神妙にも

「事なかれも何も、書き様無いなら事故以外どう書くね、いや、時速500km出てる勢いだったし、どう収めるやな、」

楠上、切に

「そうですよね、現行のF1の直線でも、出るか出ないかですよね、かっとばしたトレーラーが仲良く二台同時に脱輪で突っ込んだで、誤摩化せるかな、」

万上、ただ耳をそばだて

「楠上、何か、鈍い音、せえへんか、」



オールザッットショッピングモール内は惨状そのもの、突っ込んだ貨物コンテナ二基、一階フロアを容赦無く残らず砕き薙ぎ払い、同じ人とは思えぬ悲鳴雄叫びが漸く上がり始めるも、既に建物内部の柱と言う柱を折っては、二階三階四階がやっと持ちこたえるも、鈍い音を立てては、やはり雪崩打っては一階のそこへと崩れ落ちる

地響く豪快な倒壊音、街四区画分が軒並み崩れ落ちたオールザッットショッピングモールより、そのタイミングそのままに、各種弾薬の時限信管作動し軒並み一斉炸裂、貨物コンテナ内の銃弾砲弾榴弾が無軌道に飛んでは四散爆散するも、ショッピングモールの崩落で盾となったか、辛うじて周辺街は破片の飛散を仰ぐだけ

漸く炸裂音が沈黙するオールザッットショッピングモール、もはやその広大な建物の形状は皆無に等しく、ただ残骸の山と化し、朝から晩まで賑わっていた様子は幻かと、周辺地域の市民が訝し気に眺め始めて行く



一橋銀行の階段を駆け上がり三階上の屋上に躍り出る万上楠上、ただ茫然と、倒壊の残骸と燻る爆煙を仰ぐ

万上、ただ神妙に

「これな、凌いだな、辛うじてモールの区画だけか、込み込みの計算かい、」

楠上、折りたたみ双眼鏡の倍率を最大32倍まで上げては隈無く注視

「計算では無いですね、オールザッットショッピングモールの後方1km内は飛び火で炎上中です、もっともその区画、アングラの武器商人の商い所なので、もっと燃えないものかです、」

万上、神妙に

「淫売街は逃がさんと、後味悪いな、行って来るか、」

楠上、左に傾いては折りたたみ双眼鏡で注視

「万上さん、それはご心配無用です、この時間は、書き入れ時では無い為、夜鷹は見受けられませんね、辛うじて、客引きがびびってる位です、」

万上、不意に

「楠上、右隣りの、安ホテルはどうや、」

楠上、右に傾いては折りたたみ双眼鏡で注視、神妙にも

「ノーセキュリティチェックの違法営業ホテルも、この際ですけど、今の所、無事ですか、とは言え武装込みの重トラック留めてますから、引火すれば大事ですかね、」

万上、凛と正面の跡形も無いオールザッットショッピングモールを見据えては

「肝心のモールやな、生きてるタフネスおるんかい、」

楠上、正面を折りたたみ双眼鏡で隈無く見渡しては、訥に 

「この惨状、肉片有るか無いかですね、何より止めの爆風で全員死亡の筈です、そうですね、オールザッットショッピングモールも辛うじて入場セキュリティカード配布して、改めて被災者確認出来るかですけど、この瓦礫の有様なら、警備室のハードディスク回収出来ますかね、」

万上、徐に指差し

「それより楠上、指の向こう見てみい、小ホール位の区画丸ごと無くなってる、乙川の引き継ぎ書と透視図から、留名団のそれかと用心しとった四階事務所の区画や、どないや、」

楠上、ただ折りたたみ双眼鏡で注視したまま

「これは次元回廊の初めての通過ですね、まあ、時間も無く空間横切るならごっそり抉りますますか、留名団、取り逃しましたね、」折りたたみ双眼鏡をぱちんと畳むと、ナイキのハンドバックに仕舞い

万上、ただ神妙に

「目標の留名団逃して、悪人共らが死傷者推定1000人か、芍薬さん、冗談とうに越えてるわ、戦争やな、」

楠上、凛と

「そこは絶好の機会なら止む得ません、次元回廊の性質を正しく捉えたなら、時限信管の炸薬爆薬送り込まざる得ないですからね、そうですね、これは、ワルシャワ承認礼会の騒乱のお返しでしょうね、留名団の本拠地殲滅だなんて、後ろめたい事をしているオールザッットショッピングモールとは言え、旧中華筋界隈から弾劾されますよ、いよいよ火蓋が切られましたね、」

万上、凛と

「せやな、紛争一択か、旧中華もな、女真事務会の東アジアとユーロからの容認を経て麦秋立国への変遷、そしてワルシャワの一連の襲撃で糾弾されての立場ようよう無くなっって、没落して行ったのに、それでもようやるんやろうな、さて報告書な、どう書くか、思いの外難儀やな、事無きか焚き付けか、まあやな、」

楠上、はきと

「万上さん、まずは芍薬さんの正しい意図を聞きませんと、送り込んだ貨物コンテナ二基の中身を有耶無耶に出来ません、」

万上、苦い顔で

「楠上も律儀やな、現実は突き詰めても、何れからかの宙から貨物コンテナ二基が猛スピードで落ちて来ての事故や、俺等は芍薬さん見とらんし、巻き添えに出来るか、違わんか、」

楠上、ただはきと

「万上さん、この事件、ローマ参画政府図書館第七自習室送りとは言え、正式な資料として残りますので、私の件と同じく、細かに書かないと行けません、」

万上、ただ苦い顔で

「またも律儀と言うところやったわ、楠上な、聞くも何も、肝心の芍薬さん、どこにおるねん、報告書は正確であればええねと違うね、まず事実を上げなあかん、手始めのこの瓦礫からの証拠回収考えたら、完璧な報告書に時間割けんわ、」

楠上、麻のワンピースのポケットより猫の刺繍のパスカードケースを取り出し、最下部の一枚引き抜いては颯爽と翳す

「万上さん、困った時のこれです、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスのカード、ふふ、」

万上、綻んでは

「ふふは、なんやね、明石課長さんか、渋い声に惚れるか、もう惚れとる、それか、言う方が照れるが、せやろ、」

楠上、慌てふためくも

「いやいや、何を言いますか、一介の明石課長ファンですよ、まずはそこからです、」

万上、満面の笑みで

「まあ、ええわ、源に遠回しにその明石課長さんのファンミーティング囁いとくわ、ネーデルラント内務大臣兼務なら、えろう便宜図ってくれるで、そのファンミーティングの土産話とことん聞くさかいな、楠上、ええな、攻めるんやで、」

楠上、たじろいでは

「あっと、そこは、ちょっと時間が必要かな、ほら私、三十路に乗ったところで、二十代のがつがつと違いますからね、そう淑女のそれです、攻めとか守りとか、大人の雰囲気でばっちりです、」

万上、大仰に

「楠上、電話でも澄ましたらあかんで、気取らんとええねん、源が、チリ州騒乱から、もっと使ってくれって言ってるんさかい、それ位、便宜貰ってもええで、逆に使わんと、何つんと澄ましてるねんやで、」

楠上、、たじたじと

「ええと、色々配慮しつつの、明石課長さんファンミーティングは検討として、そうです、まずは芍薬さんですって、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスのコンシェルジュに電話して、芍薬さんに繋いで貰わないと、どんな経緯で弾薬満載の貨物コンテナ二基が飛んで来たか報告書に書けません、」

万上、尚も

「せやからな、慌てて書いたところで、最期はローマ参画政府図書館第七自習室で精査や、そやったら、まずは建前の報告書や、順序守って、焦らず行こうか、」

楠上、髪を掻きむしっては

「まあ、一理どころか正論に近いですけど、そうなんですよね、証拠回収確認の時間を考慮すると、万上さんの言う通りなんですけどね、それに何と言うか、ここら一帯電柱折れてますから、電話掛けられませんしね、滞在のホテルに急ぎ戻ったところで、この大事件でヨハネスブルグの電話回線がまともに機能してる訳も有りませんし、まずは現場確認を優先すべきですか、」

万上、ただ辺りをぐるりと見渡し

「それも、州警察来てからや、先に現場に入ったら、何や疑われるしな、うっかり火事場泥棒の類いにされたら、ヴァチカンのサン・ピエトロ広場の漫談の大ネタにされるわ、こっちもどっかんかい、おちがいくらでもあってええな、」

楠上、ただ屋上から伺いながら

「まあ、警察も消防も、サイレン鳴らないのは流石にですね、そんなに忙しいのですかね、ヨハネスブルグの無法街は、」

万上、はきと

「そら、足りんわな、馴染みの警官と顔会わせると、冗談抜きの警官にリクルートさかいな、」

楠上、くすりともせず

「万上さんの身体能力なら、確かに即採用でしょうけど、すぐ昇進してヨハネスブルグ署長になってしまいますね、現場対応で採用したのに、そのぶれは何でしょうね、」

万上、鼻息も荒く

「ローマの人材は、有能って事やな、」

楠上、寂し気にも

「自ら言いますかね、まあですけど、上家衆の唯一の一般常識持つ方が抜けたら、クラス崩壊しますよ、」

万上、宥める様に

「楠上、そこ全くちゃうで、何を想像して、切のうなってるね、楠上は考えすぎるとぶすさかいな、階上位に下品に顎外す位で丁度ええねん、」

楠上、口もへの字に

「はあ、その比較対象が、いつまでも階上さんなんでしょうね、」

万上、ただくすりと

「そう、機嫌悪うならんと、先々の組み替えで、階上とまた一緒の班になるかもしれんで、余り構えんと、余裕見せえや、ええな、」

楠上、逡巡するも

「先々ですか、まあ、考えておきます、」


不意に屋上の開閉ドアが開き、飛び出る上質スーツの壮年にがっちりの男性

「いた、万上さん、楠上さん、支店長室にネーデルラントプルデンシャルファイナンスから電話が掛かって来ています、全く一橋フレンドクレジットの専用衛星回線にも割込めるなんて、どういう機材で運用しているんだ、」

楠上、生返事も

「井筒支店長、ああ、はい、」思い倦ねては「でも、何でネーデルラントプルデンシャルファイナンスが知ってるんだろう、万上さん、ここの場所教えましたか、」

万上、神妙にも

「いや、知ってるも何も無いな、昼前に、市内の夕方の食事の相談しただけやん、まさか、そこから目星付けられるんか、」

井筒支店長、ただ両手をぽんと

「万上さん、恐らくそれですよ、オールザッットショッピングモールの崩壊と炎上、BBBCの緊急ニュースにも放送されていますから、まずは心配しての安否確認の事でしょう、いやあ流石は業界ナンバーワンのネーデルラントプルデンシャルファイナンス、そうですよ、一橋フレンドクレジットも負けてはいられないですよ、」ただ感慨深く

楠上、目を細めては

「何だ、そっちか、」

万上、ただ宥めては

「楠上な、露骨にへそ曲げるな、現状これなら、心配より卒倒ものやで、明石課長さんにご無事でしたかと聞かれたら、そこで花を咲かせるんや、」

井筒支店長、居を正しては

「そうそう、無事で何よりです、万上さん楠上さんが入店されなかったら、当店のお客さんの何れかが巻き込まれていましたよ、非常に有り難い限りです、それと、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスの第三特任接遇課のその明石課長が、目の前の被災状況を聞かれては、上家衆の便宜で発生するレシートは全部回してくれと言ってます、ここは一橋フレンドクレジットが張り合っても何ですので、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスに是非甘えて下さい、」

楠上、忽ち綻び

「おお、本当に丁寧ですね、流石明石課長さんです、万上さん、乗っちゃいましょう、移動病院トレーラー3式に、支援物資運搬トラック12台が妥当ですかね、」

万上、はたと

「あかん、ここは無法街ヨハネスブルグや、支援は控えとこ、支援員にセクハラする輩がおったら、看護様子の衛星中継が洒落にならん、」溜息も深く「まあな、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスも何処迄気を使ってくれるね、逆に気を使うわ、気が変わったわ、井筒支店長、ちょいと立て込んでるさかい掛け直すにしといてな、」

井筒支店長、ただ切に

「ですが万上さん、その明石課長さん、何でも、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスに就職した際、天上さんから大変お世話になったとの事ですから、上家衆の事案は最優先順位になるそうです、ここまで言わないと出てくれないだろうと言ってましたよ、万上さんの心情をかなり察してくれています、」

万上、くしゃりと

「天上さんのお人柄出されると、皆弱いやん、まあな、明石課長の人情お疎かに出来へんか、止む得んな、」

楠上、髪を丁寧に撫でながら、満面の笑みで

「ふふ、明石課長さん、私達ののつぼ、しっかり押さえられてますね、さてと、明石課長さんに、それとなくファンミーティングを遠回しに言ってからの御用件と、あっつ、でもドレス新調しないと、アフリカの日照りでこんがり日焼けしちゃって、ローマの居室のクロゼット全滅ですよ、まずは写真数十枚撮ってはパーフェクトソウルに送っての、そこから密なるオーダーですね、」

万上、連れては笑み

「楠上な、せやから行けると踏んだら捲るなっちゃうに、まずはな、ビジネス交流会で行ってからの、舞踏会良くなくないですか、良いですよね、せやろ、ほんま、話早いな、」

楠上、尚も

「そんな、やはりなんですけど、手順踏んでたら、明石課長、見た目美人さんに持ってかれちゃいますよ、その渋い声、かなりのがっちりさんの筈です、想像上、かなりのいける方ですよ、そうですよね、万上さん、」

万上、くすりと 

「まあな、いける渋い低音で通話すると、楠上でさえも逸るわな、その捲る展開も有りは有りや、まあ、俺としては楠上の私生活が満喫出来れば、それはそれや、お幸せにな、」ただグッドサイン

楠上、万上のグッドサインを思いっきり叩き、ぶすっとしては

「ちょっと万上さん、待って下さい、何でぷつと話を閉じるんですか、まさかのブッキングだけで、あとはお若い方に任せましょうですか、お見合い100回の令嬢さん扱いですか、がっかりですよ、万上さんともあろう方が、」

万上、ただ真顔で

「俺にがっかりあるか、楠上ええか、私生活も理詰めで話されたら、先の先読まなあかん明石課長さんが気の毒やわ、お任せ位が丁度ええねん、いや、何時の時点から俺も同行してるね、今のアフリカ空けられんわ、」

楠上、理路整然と

「そんなの、ヘルプで暇なユーロ班にお茶させておくだけで結構です、大体ですね、万上さん以外の司会者さんは誰がいますか、ここは是非お願いしますね、とは言え、いざとなると何を話しましょうね、まずは明石課長さんに天上さんから斡旋された経緯聞いておかないと、あと基本は音楽ですか、20世紀ロック行けない方いませんよね、いや、盛り上がるのは各国料理でしょうかね、ザグレブのグレナディル・マルシュは鉄板ですけど、ニュアンス伝わりますかね、」

万上、はきと

「鉄板も何も、ザグレブ市、クロアチア州、南スラブ永世国なら、誰かて一度は駐留しとるから、決まって花が咲くわ、何で抉るカーブ投げんのかい、まあええ、そこは長うなるからおいおいや、基本はのりつつのねた一本に絞る方向や、大概がやで、あの天上さんが斡旋やぞ、明石課長さん、何か曰くあるに決まってる、」

楠上、溜息も深く

「全く曰くなんて、結局そこですか、抉られますか、万上さんも気乗りしないなら、応援とか言わないで下さい、大体ですよ、身元不安定なら、超優良企業のネーデルラントプルデンシャルファイナンスに就職出来ませんよ、」

万上、とくとくと

「せやかてな、そのオーナー会長のオランダの五郎八公女、こっちはこっちで気紛れやぞ、天上さんの口上斡旋そのまま受けては、何か思惑あると考えへんか、」

楠上、凛と

「天上さんが、毒をもって制するジャパニーズヤクザの類いを紹介すると思います、ネーデルラント連邦は至って平穏の毎日、そこは違いますからね、そう、明石課長もそれなりのキャリアを詰めばこその、特任接遇課の専任課長ですよ、」

万上、身振り手振りのままに

「だからな楠上、こう、真っすぐも大概や、今時の日本国男子で多少事情あるのはほぼほぼや、仮にもな、いざ付き合ってみてな、生娘っぽく迫っても、何かイメージとちゃうと純情ぶって言おうものなら、男子さん引くで、ここで楠上の恋愛観崩壊や、ええか、ここで躓いたら、結婚一生出来んね、傷ついた楠上なんて見とう無いわ、」

楠上、ぽつりと

「そういうものですかね、ああ、それより、いきなり結婚まではちょっと、私にも心の準備が、」

万上、切に

「心の準備も何も、楠上の恋愛話は何れも自然消滅やん、仕事忙しいなんて理由にならへん、結局は及び腰なんやろ、見た目女子の女子のままで、ようよう何とか山越え出来たらゴール出来ると思ったら、ちゃうで、勢いのまま結婚しても、今時の男は、ぐわと得体の知れない情熱で飛び立って行くで、」

楠上、口も重く

「まあですね、何と言うべきか、切り出し難いですけど、そこ、ローマからのメール便で届いたビデオテープ5本ですよね、察してノーコメントです、はあ、」

万上、ただゆっくり頷き

「そやろ、ローマの渕上と長電話したら、ヴァチカンの女子職員皆溜息らしいで、まあそれも上手いチョッコラータ食べたら忘れるやろが結論や、生きておれば気持ちも切り替えは大切、楠上、最悪のそれなら、甘味処なんぼでも付き合うで、」

井筒支店長、伺っては漸く踏み込み

「あの、お取り込みの所、結局、ネーデルラントプルデンシャルファイナンスからの電話どうしましょう、」

楠上、綻んでは

「ああ、はい、早く明石課長さんの電話に出ないと、井筒支店長、ちょっと電話お借りますね、」脱兎の如く走ろうかも

万上、ただ立ちはだかり

「楠上、俺も行くで、芍薬さんに繋いでもろうて、どえらい目にあった事言わんと、気が済まんわ、」

楠上、じろりと

「それ、本当に言えます、」

万上、大仰にも

「そこものりや、まあな、芍薬さんにいきなり言い含められるんやろうな“万上、ロイヤルバレエの客演はいつですか”と言われたら敵わん、赤星さんに即興で赤坂のステージにのし上げられたの、そんな凄いんかな、」

楠上、ただ立て板に水とばかり

「赤星民風:落花流水ガラ公演2082、そのセカンドステージのイニシャル・スワンレイクの入ったメディア、ヴァージン・レコードから流通され、世界中で売れていますよ、ついでにわーるどぴあ劇団年鑑の何度でも見たい世界公演ベスト100の栄えある1位です、尚皆さんのコメントはほぼイニシャル・スワンレイクに夢中です、さてもです、モダンスタイルで連続5回目の1位はとは感服します、そして少数精鋭の各演目デュオでこの業績とは驚きですね、吊下一休さん、」

万上、慌てる素振りも

「待て待て、吊下一休もだけど、この話は今やぞ、何で楠上が知ってるねん、そこまで君は高尚なんか、ちゃうやろ、楠上はポップカルチャー専門やろ、」

楠上、こことぞ頬笑み

「高尚、良いじゃないですか、良いものは良いのですよ、こほん、そもそもになりますが、年次のローマ全体会議が終ると、白鷺最高司祭の懇親会で、必ずと言う程にイニシャル・スワンレイクの鑑賞会ですよ、何度見ても良いものですね、そりゃあ三國さんも名張さんも我れ先とスタンディングオベーションしますよ、」

万上、ただ目を見張り

「待ちいや、いろいろ、ぐさくるけど、三國も名張も、何で同席するねん、アンダー40の偏諱特捜班と照会特捜班、この2班揃うたら、国崩しの異名やで、あかんちゃうのか、しかも二人仲良くなんて、ええのかい、」

楠上、ふと

「そんな事言われても、国崩しなんて、白鷺最高司祭の懇親会は至って和やかなものですけど、ああ、そう言えば、天上さんの怒髪天が勇名馳せてますけど、グレートティモールにアンダー40全員集結でしたね、確かに亡国にはなりましたね、」

万上、目を見張っては

「それや、先送りになってるグレートティモールの全報告書、主文注釈補項必ず目を通したるわ、三國に名張も、絶対何かごりおしてる筈や、必ずしでかしてるで、」

楠上、いとも容易く

「そうですかね、偏諱特捜班と照会特捜班、アンダー40でアンバシャトーレスペチャーレの肩書きなのですから、幾分大事に関わるから大袈裟になるだけですよ、その掛け合い故に、女性陣ただ痛快ですよ、」ただ真顔に戻り「あと、ここ大切なのですが、平和島の宮代さんとの長距離電話した際は、イニシャル・スワンレイクが必ず話に上がり、感動しているとの事ですよ、」

万上、ただうんざりと

「あかん、平和島皆知っとるパターンやん、照れて行かれへんやん、」

楠上、尚も

「万上さん、平和島の皆さん、各種兵器は勿論、それはもう一流の目利きです、光栄じゃありません、」

万上、ただぴたりと

「いや、待ちいや、楠上な、白鷺最高司祭も、宮代も、それって、俺のどこまで知ってるんや、」

楠上、ただ痛快に

「ああ、白鷺最高司祭もすっかりお姉さんの顔で“一休さんいいわね、この目でまた見たいわね”と立ち会われた赤坂御用地恩賜記念ホールの雰囲気を嬉しそうに話されますよ、弟さんと一緒のデート、どんなに可愛い事でしょうね、また想像して良いですか、」

万上、目を覆っては

「あかん、姉はん、姉弟、ばればれやん、」更に仰け反りながら「あとな、何で宮代やねん、何でこのタイミングでしゃしゃり出て来るんや、もうやろ、」

楠上、とくとと

「ああ、そうですよね、万上さんは超遠距離恋愛で自然消滅とお思いでしょうが、白鷺最高司祭がまめに宮代さんに手紙を送られていますから、今も尚ですよ、宮代さん不憫の声が上がらないのは、そういう事情があるからです、実に優しいお姉さんだからこそ、優しい弟さんなのですね、」ただまじまじと

万上、はきと

「何で、まっすぐ目を見るねん、大体な、懇親会ちゃうやんおもろ会やん、それにな楠上、俺の一々言って照れへんか、俺は苦手やん、堂上の次にいけてるあにさんちゃうんか、」

楠上、くすりと

「いいえ、私は別に、あと、堂上さんの次は大差で、五位までどんぐりの背比べです、良いですか万上さん、むしろ好感度で二位なのですよ、ここは姉はんのお口添えあえればこそですからね、」尚も万上をみつめ「それより明石課長さんのお電話終ったら、白鷺最高司祭と宮代さん、どちらからお電話されます、」

万上、くしゃりと

「なんで今やね、捜査中やろ、長距離話は後や、」

楠上、ただ屋上から周囲を見渡し

「後も何も、警察が一向に来ません、万上さん言われましたよね、現在いの一番に現場に入ったら疑われると、そうですよ、多少の時間は有りますよ、白鷺最高司祭と宮代さんに改めて労いの一言あっても、ばちは当たりませんよ、私が実直な証人で良かったですね、」

万上、神妙に

「まあ、先ずは姉はんに言っとくわ、忙しくても三食きっかり食べてやや、」

楠上、乗り出す様に

「うんうん、宮代さんには、」

万上、半ば照れ混じりに

「そこはのりや、」

楠上、くしゃりと

「そう言うと、思いましたよ、」ただ万上の腕を引き「さあ、そうと決まれば電話です、」

万上、諦め顔で引かれながら

「なんや、悲喜交々、ごつい日やな、」

楠上と万上、階段を足早に下りながら、二階の支店長室へと進む



漸く、オールザッットショッピングモールの崩落現場と周囲の火災現場へと、ヨハネスブルグ中からかとの大サイレンが近づいては周辺一帯が騒然とし、大勢の火事場泥棒が一目散に逃げ去って行く、鳴り止まぬ罵声と怒声はヨハネスブルグの日々の常 


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奇跡 -faraway- 判家悠久 @hanke-yuukyu

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