第43話 2087年12月29日 ローマ参画政府 ローマ教皇庁 秘蹟会館前

ローマ教皇庁内の秘蹟会館前には、ただ連なるオレンジのテントの山々

そこには、クリスマスシーズンの終盤でも尚集まりに集まった面子がずらりと


午後三時も回り、炊き出しの片付けも終っては、一段落とばかり大型テント内で無炎電磁コンロをアウトドアチェアに座り囲む三人

壮年後半のローマ参画政府上家衆島上、クラムチャウダーのカップを飲み終えては置き

「風雅も、好い加減この状況、結構まずいだろ、炊き出しは有り難いが、結局居座るのかよ、」

赤のダウンジャケットに錦鯉柄の黒和服のローマ参画政府上家衆渕上、クラムチャウダーのカップを飲み終えては、手で塞ぐ様に置き

「そうないですな、本クリスマスも越え今日に至ってゆっくり言えますな、ローマ参画政府救国宣言、序文概略、来るもの拒まず、但し厳正な審査有りきなのに、このテントの山だらけは、風雅、野戦テントでは無いと言え、まるで心象良く無いわよ、」

ツーブロックに尾の伸びた武士、南スラブ永世国ザグレブ統一部会総代表兵総長風雅、察しては無炎電磁コンロのクラムチャウダーの入った鍋の蓋を閉じ

「仕方無いですよ、ビシッチが行動あるのみとの指導です、」

島上、神妙に

「まあな、現段階の状況では、南スラブ永世国のローマ参画政府の参入は頼もしいが、ベルリン四者会議で躓いてる時点で、まず無いな、やはりここは、スカウターの灰屋さんの胸三寸になるか、」

渕上、口を尖らせては

「その灰屋さん、今は第七次東南アジア事変の台湾の兵站で頑張ってると思いきや、とても気さくな台湾の陶首相と毎日会食三昧ですよって、三食満喫ですよって、国際電話越しで堪らず怒鳴りましたらな、アンダー40総出にしたら本所を守る面子足りないから良いだろうですって、戦力的に灰屋さんウエルカムですよって、そこ違いますがな、バルカン半島分離の際八面六臂の活躍したザグレブ統一部会ではなく、南スラブ永世国そのものですよって、それでも良いじゃないって、はあ、ええどすか、灰屋さん絡ませたらあきませんよ、」

島上、ぽつりと

「とは言えな、あとの人事権絡みは枢機卿長になってしまうだろ、ここで一旦駄目出し食らったら、先々に万が一あったら、南スラブ永世国招集出来ないぞ、」

渕上、はきと

「先の問題より、現状ですがな、ごり押しはあきまへん、」

島上、促しては

「渕上、ハウルに便宜計って貰えよ、」

渕上、ただ頭を悩ませ

「ハウルはどすな、もう言ってますよって、首相がいの一番に駆けつけて、南スラブ永世国の炊き出しのスープカレーが美味しいと生中継したら、もうあきませんよ、ベルリンの方向に向ってど阿呆言いたいですわ、とは言え、現に家庭のコンロでは到底作れませんコクですし、風雅、芸が細かすぎですよ、」

島上、悶絶しては

「いきなりそこか、つうか、風雅、ここは一旦下がれ、それしか無い、あとは評判待て、そこからも有りに有りだ、」

風雅、手元の野外エアポットの蓋を開けては蒸気を確かめ、不意に

「いいえ下がれません、そこはバルカン半島分離の際に、階上と箸木と光準教皇のポルシェに恩が有ります、今、このタイミングしか無いですよ、」新しいカップに粉末のトルココーヒーの粉を入れて行く

島上、悩まし気に

「昔の戦線のそれを言われたらな、まあ、光準教皇はどこまで本気か、よく分からんな、」

渕上、はきと

「全部、本気で良いと違います、光準教皇態々休戦協定に、修繕もしない例のポルシェ・パナメーラサポーターで赴いて言い放ちましたがな、“階上さんに貸与したポルシェは、私の一部だ、それを銃創だらけにするなんて許せない”なんて、ポルシェファンなら、そら真っ当ですよって、」

島上、とくとくと

「衛星中継入れてそれ言っちゃうか、何と言うか、交渉前の根回しじゃ、クロアチア国境線までが新ユーゴスラビア公共自由共和国だったのに、銃創だらけのポルシェでボスニア裁定は沈黙、光準教皇の一言でボスニア・ヘルツェゴビナ国境線まで巻き戻したもんな、御大将、兵隊何人分なんだよ、」

渕上、繁々と

「島上さん、妙な例えは止めましょう、光準教皇に物騒は似合いませんで、」

風雅、出来立てのトルココーヒーのカップを島上と渕上に差し出しては

「そのお陰で、たった一回のボスニア裁定で鉾は収まりました、関わった皆さんのこの恩は、身を切ってでも、返さないといけません、」

島上、トルココーヒーを一口飲んでは、ほっと

「そこだよな、武士とか小難しい切り返し無しにして、恩を返すとか返さないとかは形式で良いんだよ、このローマ参画政府に南スラブ永世国を迎え入れたら、やっぱりな、ユーロの大国思想のバランスが崩れるって、なあ風雅、諦めろって、」

渕上、トルココーヒーを一口飲んでは佇み

「ベルリン四者会議でも、がっつり上がってましたな、南スラブ永世国の次は、行く行くは旧オーストリアだろうと、風雅さん、ローマとプロイセンが喧嘩越しになったら宗教戦争真っ青ですがな、がっつり行くのは止めましょう、波風立てたらあきませんで、」

風雅、トルココーヒーを一口飲んで、はきと顔を上げ

「いいえ、バルカン半島分離から8年です、隣りの新ユーゴスラビア公共自由共和国は世界中のリベラルが合流し躍進甚だしいのですよ、そのまま共栄圏となった南スラブ永世国は、何を心の支えにしろと言うのです、カトリック教会以外に何がありますか、このまま堪えろでは、荒みますよ、」

島上、神妙に

「ビシッチも詰んでるか、」

渕上、はきと 

「はい、詰んでると同情せんと、ここは風雅始めテント群説得ですよって、」

風雅、尚も

「南スラブ永世国は敬虔です、それを足蹴にされては、ヴァチカンの権威が堕ちますよ、」

渕上、真摯に

「風雅も怖い事言いますな、ヴァチカン丸ごとですか、まあ、焦るビシッチなら、先ずは風雅の精鋭部隊送り込んでの適正評価なんでしょう、よくやるわ、あのおいちゃん、」

風雅、そこはかとなく

「こう言ってはなんですけど、ローマ参画政府は人手不足ですよね、」

島上、真摯に

「諸事情あってのアンダー40総出はこの先無いと考えたい、そこを踏まえても局所的にだな、例えば、全米明日から行けって、行けないだろ、そんな感じだ、」

渕上、ふわりと

「島上さん、上家衆はあまり気張らんと、全米班が長かった私が言います、あちらは全米最高議会の八萬議長が何とかしてますよ、日本人贔屓と違いますで、仕事は出来ますから、当分は凌げます、良いですか、今の話題はこのオレンジのテント群ですよって、」

島上、トルココーヒーを半分飲んでは、悩まし気に

「そうだな、風雅よ、何時迄ここにいるんだ、美味いトルココーヒーはまだ飲みたいが、大方が納得してこその良い着地は無いものか、」

渕上、トルココーヒーほっこりしてはコーヒーカップを下ろし

「ですから、島上さん、促す雰囲気はどうされたいのです、あかん言いましたでしょう、そう、風雅もたらたらしたらあきませんで、ごつい枢機卿団が表に出て来てごっそり強制撤去しようものなら、ヴァチカンの品位が問われますよ、これも困りますよってな、」

風雅、コーヒーカップを台に置いては、はきと

「渕上さん、ローマはこの前迄スイス衛兵入れてましたよね、その線で口説けないものですか、」

渕上、ぴしゃりと

「あきませんな、スイス衛兵さんも何時迄も傭兵前提ではあかんと人道的配慮で、今はもうですよ、何処も寂しいの立ち話も漸く収まり、そこに新たな兵隊さん招き入れられますか、しかも、隣国とは言えバルカンさんから招いたら、うちもうちもですがな、安易に取引先増やせますか、ようようあきませんで、」

風雅、はきと

「ビシッチ的には、そこが落とし所なんですけどね、俺がローマに入れば何とかなるとかなるだろうって、」

渕上、コーヒーカップを台に置き

「風雅、ええどすか、無茶は止めときなはれ、ちらと見えますで、ここいらの軒並みザグレブ統一部会皆さんの尾を提出されても困りますが、恭順の意とは取らず、付き纏う感出ますよって、ええどすか、そんな無茶されても、マスコミの話題に上がる前に返しますよって、判りましたな、あかんですよ、何度も言いましょう、あかんです、」

島上、不意に

「まあな、尾を出されてもな、今時尾無しはユーロだとフォーマルになってるしな、今更だよ、」

渕上、憤慨そのままに

「大体ですよ、難民でも無いのに、広場の一角にテント張るなんて、やっとど阿呆違います、ええどすか、来るなら兵隊さんそのもではなく、生業付きで入国しなさいよ、ええところではこのトルココーヒですがな、クロアチア名物の飲食業そのまま持って来なはれ、」

風雅、思いを巡らしながら

「やはりカフェになりますかね、でも長い目で見てもカプチーノには勝てないし、どうしましょう、」

渕上、毅然と

「風雅、営業努力せんと、美味いも何も辿り着けませんで、戦い忘れて必死こいてみなはれ、その姿勢込みでのローマ国内での評判ですがな、」


徐にテントを五回叩く音が響く


いそいそとテントを開き分け入る、ロングヘアーの見目麗しき若き女性つばめ

「入りますね、風雅さん、島上さん、渕上さん、途中からお聞きしましたが、南スラブ永世国のローマ参画政府への立ち入りは一切駄目な様です、」

続く、お付きの丸顔の若き女性関根、ただ朗らかに

「失礼しますね、おお、コーヒー有りますね、」目敏くも入口のアウトドアチェアを見つけては二席展開

風雅、堪らず地面に跪き

「これはこれは、」

渕上、アウトドアチェアに座ったままに一礼

「固いですな、風雅さん、テント内は誰も見てませんよ、」

島上、同じくアウトドアチェアに座ったままに一礼

「つうか、スペイン公国勢もなんてな、つばめも関根も、俺達に付き合うなよ、」

アウトドアチェアへと座るつばめ、凛と

「ここはお構いなく、ベルリン四者会議の全資料整理の一環です、公族会議も憂いていますよ、」

島上、困り顔も

「公族会議まで巻き込むな、芍薬、天敵だろ、いつも条件付きの容認が面倒だよ、」

渕上、くすりと

「そう言わんと、どちらかと言ったら、私は術式系統で芍薬さん寄りですよって、」

つばめ、凛と

「公族会議の動きは、私の介添えでは有りません、秘密裏に南スラブ永世国が国を跨いでスペイン公国に接触している懸念故です、そう、ビシッチからスペイン公国へとユーロの衛兵制度の是非の訴状が上がって来ています、訴状の内容が巧みを求められますから、各国を跨ぎ慈悲の裁量を受け持つフェリペ9世の裁定が入る筈です、風雅さん、それまで大人しく出来ますよね、」

風雅、床に正座のまま

「つばめ様、ご配慮ありがとうございます、」

お付きの関根、ふわりと

「ですが、今のつばめ様のお話は結局お流れなのですよ、」


不意に緊迫するテント内


つばめ、凛と

「関根さん、順序が有りますよ、」

島上、不意に

「お流れって、待てよ、フェリペ9世の裁量なら、ザグレブ統一部会の意気を重んじるじゃないのか、何が難しいんだよ、そこの入口閉ざしたら、南スラブ永世国のローマ参画政府参入の前提全く無くなるだろ、」

渕上、神妙に

「島上さんも焦らないで、お話を聞きましょう、」

つばめ、はきと

「ユーロの現状を加味すると、観光目的の各国の儀仗隊は、警備費の無駄遣いで削減の方針ですが、実もある一騎当千のザグレブ統一部会なら、訴状の補正案の一環として、警備リストの筆頭として受け入れざる得ません、」

風雅、ただ頭を下げ

「有り難き幸せです、」

つばめ、尚も

「中でも、スペイン公国内では高評価です、スペイン近衛騎士団は医療ボランティアの傾向に有りますので、ザグレブ統一部会とかち合わず招聘の向きは有ります、」

渕上、訥に

「つばめさん、両足突っ込んで聞きますけど、そこまでの高評価付いて、なんであかんのです、」

つばめ、漸く繰り出しては

「そうなのです、源さんともお話しましたが、全ユーロへの警備有りきのローマ参画政府への南スラブ永世国の編入、そして近隣国との牽制を回避する為の参入なのですが、ローマ常駐ともなれば敬虔が最優先らしいです、」

風雅、ただ頭を下げては

「はっつ、」

島上、口を尖らせては

「敬虔って、ここいらのテントの連中漏れ無く礼拝行ってるだろ、何が駄目なんだ、源も何をむずがってるんだよ、」

つばめ、視線そのままに

「源さんに提出されたボランティア参加リストの方々と、追加で提出されたザグレブ統一部会全派遣リストを、源さんが信用機関で精査された様です、約五百名の内2/3のメンバーが跳ねられました、押し並べて深夜までの酒盛りは如何にですとの事です、」

島上、はたと

「やっちまったな、」

風雅、ただ神妙に

「クロアチアは四季が明確に有るため、酒に幾分頼る傾向です、ですが、」

渕上、ゆっくり首を横に振り

「風雅、ですがは無しです、日本国も四季が有りますけど、夜中までの飲ん兵衛と、切り崩してまでの酒代持つお人などあらしません、」

風雅、膝の両拳を強く握ったまま

「ご尽力頂いたのに、面目有りません、」

つばめ、諭す様に

「風雅さん、続きは有ります、私達も厳正な信用調査票を付けて安易にフェリペ9世までお話を上げたく有りませんので、今教導騎士の蜜屋さんにお願いして、光準教皇と親睦を深めています、このお二人なら必ずや活路は有る筈です、」

島上、くしゃりと

「光準教皇か、好き嫌いはっきりしてるから、半々だな、」

渕上、凛と

「どうしても南スラブ永世国の本意に近いですが良いと違います、懇意有りきの寄り道多いですが、止む得ずのローマの参入も考えておきましょう、さて光準教皇の裁量次第ですが、心しましょうか、」

つばめ、頬笑んでは

「風雅さん、これでもフェリペ9世の裁量も立て込んでいます、お答え頂けるまで野営するつもりは有りませんよね、」

風雅、つばめを見つめては

「はい、テロ警備も一段落する年明けには引き上げるつもりでは有りましたが、仲間内では回答が出る迄の声があるのも事実です、ですが、つばめ様の介添えとあれば根気よく説明しますので、御意のままに、つばめ様、多大なるご配慮感に入ります、」ただ深くお辞儀のままに

島上、気もそぞろに

「それで、何処行った光準教皇、」

渕上、ただ呆れ顔も

「当然、毎度豪快な巡察でしょう、」

いち早く耳を澄ます関根、はきと

「このモーター音、帰って来ましたね、」

島上、感心しては

「凄いな関根、そりゃあ、つばめのお付きにも選ばれるか、出先さえ押されば仕上げられもするか、」

関根、ぴしゃりと

「島上さん、スペイン公国にテロだなんて、そこまで破綻していませんよ、」



テント群の入口に勢い良く滑り込むポルシェ911OZ、初代Oシリーズのフレームそのものもから降り立つ光準教皇と蜜屋

ローマ職員は毎度の事と頬笑む一方で、テントからいち早く飛び出すボランティアの一向、深い礼が連なる


白のフックスーツに黒髪の20代後半の日系美男子、光準教皇

「おお、いるよね、」

渕上、呆れ顔で詰め寄っては

「ぼん、ちゃう、光準教皇、それはいますよ、夜になるとランタンの灯りでテントのお山が綺麗とかで、職員がいつもより集まりもします、」

島上、はたと

「それで蜜屋、どこまで話したんだよ、」

長身偉丈夫のウエーブの掛かったスペイン公国教導騎士蜜屋、砕けたままに

「そうだね、いっそ、スペイン近衛騎士団とザグレブ統一部会と合同戦線も出たけど、兵隊だけでは不躾だからって、光準教皇に却下された、」

つばめ、慇懃に一礼しては

「光準教皇、合同戦線の折角の落とし所、何故消去するのです、スペイン公国は一向に構わないのですよ、」


風雅始めボランティア一向、ただ深く頭を下げたまま


光準教皇、朗らかにも

「そうは言ってもね、仮想敵を刺激するのは良く無いかな、ほら、私のポルシェ蜂の巣にしちゃう位でしょう、」

風雅、頭を上げては

「恐れながら光準教皇、もはや、逼迫しています、このまま新ユーゴを図に乗せる訳には行きません、」

光準教皇、ふと

「風雅さん、何か察してるようだね、その決意は後程聞こうね、そうだよね、受け皿のスペイン公国なら、せめて技巧職人さんいれば、このまま聖堂の整備に行って貰いたいけど、銃まではね、ちょっとね、」

つばめ、ただ神妙に

「そうですね、サグラダ・ファミリアもほぼ完成ですけど、建築までに時間掛かって、各塔の音色が揃わないのですよね、」

関根、つばめの腕を掴んだままに

「つばめ様、そこはまだ公表しないお約束です、サグラダ・ファミリアをまるで失敗作みたいな発言は駄目です、」

蜜屋、思いを巡らしては

「ガウディの悩みどころだね、材質は今更変えれないし、左官屋さんが試行錯誤してるよ、」

島上、ぽつりと

「思いっきり、渋い話だな、」

渕上、ご機嫌にも

「まあ、止む得ませんな、私の夢も先延ばしですよって、結婚式はやはりローマにしておきます、ここ、突っ込みはいらんどすよ、」

光準教皇、輪に掛けてはご機嫌も

「良いね、渕上さん、私が仲立ちで良いよね、」

渕上、はたと

「いや、確かに職場の筋ではそうもなりましょうが、光準教皇自らとなると招待客増やさないといけないし、そうなると自然と京都主催になりますね、そう、そこです、光準教皇、有り難いお話ですが保留でお願いします、」深く一礼

光準教皇、こくりと

「まあ、そうだよね、渕上さんも大家だし、よくよく考えないとね、」

島上、苛つくも

「なあ、蜜屋、他に落とし所ないのかよ、」

蜜屋、堪らず右手で髪をくしゃりと

「あるけど、かなり取り扱いが難しい、」


一同、察しては深く押し黙り


光準教皇、慌てふためき

「駄目駄目、何で、皆黙っちゃうの、ここ思いっきり話し合うところだよ、スペイン近衛騎士団が厄介事持ってきたみたいじゃない、作ろうよ寺院、」

つばめ、諭す様に

「光準教皇、寺院までは噂が流れていませんよ、この場では如何ですよ、」ぐるとボランティアの一向を見渡しては

光準教皇、ぽつりと

「ここに限っては、ローマの職員、口が固いんだね、」


一同、更に深く押し黙り


渕上、颯爽と

「光準教皇、ウィーンに着々と拐かされた児童達が集まっていますけど、どう接したらとの相談も上がっていますので、采配願います、」

島上、ただ渋い顔で

「いやな、そうじゃないだろ、人生20年も生きていないなら、幾らでもやり直し出来るって、大人が戸惑ってどうするんだよ、」

つばめ、切り出しては

「そうは言っても、心と身体に受けた痛みは消えないのでは無いのですか、」

島上、凛と

「いいか、つばめ、為政者はどんとしてろって、お身内を迷わせるな、」

光準教皇、諭す様に

「でもね島上さん、実際の齢はそうでしょうが、人生経験では、私達を遥かに凌ぎます、どうか児童達には丁寧に行きましょう、」

渕上、くしゃりと

「光準教皇も、ここぞと、良い事言うから、そら、皆さん理不尽でも付いて行きますわ、」懐からハンカチを涙袋の下に当てる


一同、戦渦の経験を思いだしてか、石畳に無数の涙が落ちて行く


ポルシェ911OZの快音を聞きつけて、秘蹟会館より走り抜けて来る、ショートボブの可憐な女性

「はあ、居ましたね、光準教皇、出来ました、これにサインお願いします、」陳情箱をうやうやしくも全力で差し出す

光準教皇、綻びながら

「ああ、例の寺院の件だよね、丁度良い、今話していたところだけど、煮詰まっちゃって、結城さん、以前に聞いた、何か良いアイディアの集大成がこれなのかな、」

一際つぶらな瞳の結城顧問、大きく頷き

「はい、」

風雅、次第に間合いを取っては

「この人外は、」

島上、慌てて間に入り

「待て、風雅、抜くな、それっぽいけど、かなり深いから言えん、」

蜜屋、ただ遠い目で

「結城顧問は、うっかりしても勝てないけどね、」

渕上、毅然と

「風雅、見たままいいますけど、結城さんはヴァチカン積極施工室顧問よ、時間があれば聖堂寺院学校の設計施行運営までしてるから、面識無いのは当たり前、良いから、構えを解きなさい、」

風雅、咄嗟に右腕のリングの発露を庇うも、その兆候見受けられずに困惑し

「ですが、違いすぎる、この違和感は何なんだ、」

結城顧問、風雅を隈無く見つめては、溜息のままに

「風雅さん、ちょっと待って、その左腕を庇う仕草、寒いからじゃないでしょう、」進み寄っては右手で風雅の左腕をがっちり掴み

風雅、掴まれた左腕から忽ち激痛が走り

「痛て、」

結城顧問、尚もそっと掴むも

「もうちょっとだけ、武士は痛い言わないの、」

関根、こくりと

「そんな痛そうかな、風雅さん、神経痛ですか、底冷えして来ましたね、私も実の所寒いですよ、」

風雅、漸く結城から手を離され

「はあ、いや、そうではなく、こんなに酷かったか、昔殿で重装甲車隊凌いだ時に、左腕の腱が伸びたままなんだよ、」

結城顧問、くすりと

「でも、今は大丈夫でしょう、」

風雅、朧げに左腕を曲げ伸ばししては

「えっつ、そんな事って、」

渕上、釈然と

「そうですな、行き掛かりで、満身創痍の武士に、斬られたとあっては、どこぞの界隈の話題になりますな、それは無しにしましょう、」

結城顧問、頬笑みながら

「風雅さん、左腕大丈夫では有りません、リハビリテーションにも行けない生活は決して褒められませんよ、」

風雅、不意に左腕そのままに薙ぎる素振りで

「まさか、感覚が戻ってる、あなたは、」

結城顧問、一礼しては

「改めまして、結城と申します、ヴァチカン積極施工室顧問をしております、風雅さん、そして皆さん、この先腕白達を相手にされるなら、今の内にちゃんとヴァチカン祈念医療会館で検診を受けましょうね、」


不意に、笑いと共にざわめいて行くテント群一同


渕上、嘆息しては

「結城さん、風雅に畏まらんでよろしい、目の前の無頼達、誰も言いませんの良い事に広場の一角無断占拠してるのですよ、」

光準教皇、ただ結城から渡された資料を捲り進めては

「まあね、結城さんとその同僚の職歴は話すと長いけど、またにしようね、」ただ次々ページを捲っては「良いね結城さん、良い出来だね、土地の収用もばっちりだね、居住まいは新居にしたいけど、お金掛けてるぞの雰囲気だと構えちゃうからリフォームが順当だね、」

結城顧問、ただ進み出ては

「光準教皇、ひょっとして、決裁出ちゃいます、」

光準教皇、尚もページを捲っては

「ここまで手厚い資料渡されたら、承認しない訳にはいかないでしょう、」

つばめ、声高にも

「ありがとうございます、光準教皇にお話通して良かったです、やはりスペイン公国が旗振りでは、昵懇のマスコミが配慮も無く書き上げ兼ねません、」

光準教皇、尚も資料に注視しながら

「つばめ公女、謝辞には及びませんよ、まだ寺院建立は着手していませんからね、」ただ思いも深く「そして結城さん、ところで人手は足りるのかな、春前に入居して貰いたいけど、」

結城顧問、はちきれんばかりに

「光準教皇、勿論ですよ、何せ広場で延々燻ってる方々いますから、如何様にも人手は集まります、」

渕上、はたと

「それですな、当面はこの面子で行きましょう、うっかり南スラブ永世国に戻って煽りに煽って志願募ると、我もとばかりに生業投げ出して来ますから、テントさん達のメディカルチェックの結果が出ましたら、各地に赴いて貰いましょう、何ですの、丸く収まりましたな、」

島上、神妙に

「そうか、渕上、その詭弁が通じるものかよ、こいつら、第七次東南アジア事変前からいるんだぞ、」

渕上、凛と

「筋を存分に通すのが、ローマ参画政府でおます、クリスマスボランティアの末に、急遽寺院建立に人足として招聘、成り行きが見事ですがな、」

つばめ、不意に

「ですが、寺院となると、聖堂職人さんがいるべきですよね、」

結城顧問、凛と

「つばめ公女、一切問題有りません、各国の聖堂職人さんは手配確認し充当できます、現在不足しているのは、立案の寺院建立特別人足と相談食堂の配膳です、テントの皆さんと、否が応にも南スラブ永世国から駆けつける方々で充分かと思われますよ、」つい噴き出す

渕上、結城の礼服の袖を引いては

「結城さん、噴いたらあきませんで、きっと、ごつい事になりますで、」

結城顧問、くすりと

「渕上さん、ですが春迄となると、やや多い位が丁度良いですよ、楽しそうじゃないですか、」

渕上、嘆息混じりに

「結城さん、その御様子、長い巡視になりますな、ですが、一気に話が弾むのは幾分の憂慮があります、どこぞの誰かさん達が茶々入れるともなれば、光準教皇がきっかり言えば道理は通じる事でしょう、そうですな、ユーロの次世代寺院新整備会議、駆け付けているザグレブ統一部会が全面支援、この線でお願いしますな、」

結城顧問、深く一礼より

「風雅さん、左腕治療しましたから支障無いですよね、そしてテントの皆さん、よろしくお願いしますね、」


一同、その微かな威光に何故か跪く


風雅、神妙にも 

「御意のままに、」徐に立ち上がり「誰か、ビシッチに使いを頼む、この話を流れをそのまま伝えて、暫しローマ参画政府の参入を猶予させるんだ、」

島上、ただ頭を掻いては折り畳んだ朝刊をこれでもかと

「いや、風雅、今は止めとけ、ビシッチは延々ビスマルク首相に懇願してるよ、それにあれでも敬虔深いから、風雅の治癒の奇跡に号泣して、ベルリン四者会議が理由も無く終ってしまうだろ、良いか、議論の上で終らせる為に、俺がそれとなくベルリンに話しに行って来る、」

渕上、神妙に

「島上さん、一人で気張らんと、それなら上家衆ユーロ班で行きましょう、やんわりとぴしゃり、雰囲気で乗せましょう、」

島上、はきと

「上家衆のユーロ班ね、ビシッチ、あいつよ、階上には散々甘いのに、俺等にはきついって、どう言う事だ、ああ、」

徐にテント群の後方から進み出る四十路の礼服の女性、諭す様に

「島上さん、渕上さん、私も同行しましょう、」

渕上、つい二度見しては

「待っておくれやす、白鷺最高司祭、いや外務大臣さんが、何故ローマに、ハウルと一緒にベルリン四者会議違いますの、」

生まれつきのウエーブにロングヘアーの白鷺最高司祭兼外務大臣、はきと

「渕上さん、ビシッチが何度言ってもあれですから、光準教皇の参入要検討の勅書を頂きに戻って来ました、もっとも光準教皇はいつも巡察ですから、待ちくたびれて、テントの皆さんからの歓待を受けているところでしたよ、」つい綻んでは「因みにメジムルスカ・ギバニツァをつい三つも平らげたのはここだけにして下さいね、」

テント群の一人が興奮しては、はきと

「Buonissimo!」

続く一同

「Non è giusto.」

「Non essere sciocca, la mia Međimurska gibanica dovrebbe essere deliziosa.」

「Per dirlo, la ricetta di mia madre è migliore.」

「Ciao, Shirasagi. Per favore mangia anche il mio Međimurskagibanica. Non perderò a nessuno.」

白鷺最高司祭、頬笑んでは

「Per favore lasciami mangiare il tuo Međimurskagibanica nel tempo. Ad ogni modo, tutti, la vita di questa tenda non funzionerà per sempre.」


一同、立ち上がっては深く一礼し、一糸乱れず

「Come vuole Lei.」


白鷺最高司祭、くすりと

「光準教皇、テントの皆さんの意志は固まりましたね、ビシッチも拝領する勅書で必ずや説得致します、」

光準教皇、くすりと

「和やか大いに結構、治癒の奇跡は白鷺最高司祭も見ていたよね、それはテントも厳かになるかな、」

白鷺最高司祭、はきと

「ええ、全テント、結城さんの治癒の奇跡に至る迄、一度油断すれば咽び泣く事でしょう、」

結城顧問、たじたじと

「うわ、私、そうじゃないんだけどな、実務の方が大好きなのに、」

風雅、思いを巡らせながら

「ああ、何と言うべきか、治療者って、本当にいるものなのですね、」

白鷺最高司祭、優し気な笑みをたたえては

「皆さん、治癒のお話はそこまでにしましょう、結城さんの物語は話すと長いですからね、巡察の時にでも直接お聞き下さい、」

光準教皇、不意に胸元のペンを走らせてはサイン

「そういう事です、はい、立案書のサインは終りました、結城さん、早速積立予算部に行かれた方が良いですよ、何せ大晦日迫っていますから、予算の取り合いが凄まじいですからね、」

結城顧問、胸を手を当てては

「光準教皇、そこは任せて下さい、毎年の事ですからね、先を急ぎます、」踵を返しては駆け抜けて行く

風雅、ただぽつりと

「本当、お仕事好きなのですね、」

渕上、つい頬が緩んでは

「風雅も、まるっきりべたですな、ここで結城さんにべた惚れたとかないのですか、相変わらず残念な無骨さんですな、ええどすな、結城さんのGoサインが出たら、何が何でも従う事ですよ、判りましたな、優先事項取り間違えたらあかんですよ、」

風雅、ただ左腕を何度も握っては

「それは勿論です、ただ、何か、実感無いですけど、こういう奇跡は有るのですね、いや、決してぞんざいにするとかではなく、何と言うか、」

蜜屋、はきと

「それは、鍔迫り合いになったら、嫌でも結城さんに感謝するよ、」

光準教皇、思いも深く

「私としては、そういう世界は避けて貰いたいけど、先駆者は必要なんだよね、」

風雅、ただ深く一礼

「光準教皇、御意のままに、」

一同、続いては深く畏まる


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