悔恨

第42話 2087年12月26日 京都府京都市嵐山鎮守行政区 嵐山華辺記念会館 ニューサイドテラス 亜細亜復権参画定期会議

日本は第三次世界大戦に大いに傷つき勝利を得るも、皇室は止む得ず解散の憂き目に、その為東京の御料所は困窮する日本国政府に引き渡し、日本国に居残った華辺家は、新たに京都の嵐山一帯を発展の為に譲り受け、京都府京都市嵐山鎮守行政区として居を構える事に


その京都府京都市嵐山鎮守行政区の施設、純白で統一された嵐山華辺記念会館内のカフェ:ニューサイドテラス、日本式内部庭園木漏れ日庭園をガラス張りで仕切っては和やかな雰囲気のままに

そのニューサイドテラスの入口はクローズの看板が立てかけられ、白シャツ黒タイパンツルックに店のロゴの入った白いエプロンの、接遇の三十路後半女性たおやかな満座が丁寧に挨拶しては、会議終りの御仁を慇懃にもお断りして行く

そして、ニューサイドテラス内の窓辺の特別テーブル席に佇む公用スーツの男女4人の一同


満座、一通りのお断りも終え蓄電型エスプレッソマシーンのワゴンカートを見晴らしの良い窓辺の円卓テーブルに進ませ、慇懃に一礼しては

「あきら様、仰せの通りにしました、」

華辺家女性当主あきら、何れの年齢か察する事も出来ず、不惑の佇まいそのままに

「満座さん、折角の仕込が勿体無いわね、」

満座、はきと

「いいえ、あきら様の御様子は見慣れておりますから、サイドメニューのみの準備にしております、」

あきら、面白みもなく

「そうね、それもお昼前だから、今は控えましょうか、それも、この席に居続けて迷惑な話よね、」

満座、満面の笑みで

「万事ご心配無く、もし余りましても、いつもの通り、同志社大学のカフェに出張しますので一切の廃棄は有りません、」

あきら、溜息も深く

「満座さんには、武士らしい手際させてないわね、」

満座、頬笑みながら

「あきら様は、それがお望みですよね、」

あきら、心にも非ずのまま

「まあ、そうなのだけど、」

外務省連携調査室の美丈夫の小堀、察したままに

「華辺様、改めてですが、先程の亜細亜復権参画定期会議は、アフリカの無計画なオアシス建設を抑制しつつ、熱砂難民の為に中央アジア西アジアにおける生活大改善を抜本的解決するの、アジェンダでよろしいですね、」

あきら、興味も無く

「そうね、足りないところは、心根を読んで頂けるかしら、」

小堀、ただ困り顔も

「ですから、聞いております、ここまでの虚無感、復員兵でもいませんよ、」

あきら、ぽつりと

「そうね、私が、出張ればだったかしらね、」

壮年の日系の麦秋中華帝国外務院院長我那覇、ただ察しては

「小堀さん、アジェンダはそれで結構です、麦秋国内のゴビ砂漠進行もやっと進行が弱まる傾向ですが、熱砂難民は辛うじて国内に南下しては麦秋国内で救済しています、ここは心苦しくも、旧中華の南進政策の線引きに救われているのが、情けなくもあるな、」吐息混じりに

顧問団のスプリガンプリンスファンデーションの壮年の前田、虚実そのままかに

「我那覇さん、麦秋に何もかも被せるのは如何だが、その南下が悲劇を生んでますよね、何かと小競り合い、こちらのスプリガンプリンスファンデーションとしては大打撃ですよ、そう、何かとどんぱちは疲れますよ、主任研究員の波戸からは顔を合わせる度に、国境線を引き戻せの一点張り、そう、麦秋も建国から落ち着く様子です、ここはそうすべきでは有りませんか、」

我那覇、はきと

「国境線は限りなく第三次世界大戦のジュネーブ協定に則っています、ただ関係当事者国も散発的な紛争の非緩衝地帯を良い事に、互いに侵犯し日が経ち過ぎています、そう、すでに熱砂難民も非緩衝地帯で滞り無く生活している為、これは戻せ等となると新たな火種を生みかねません、前田さん、改めて問いますが、スプリガンプリンスファンデーションの懸念は、戦闘地帯の秘宝ばかり狙うからでは有りませんか、多少のお目こぼしは致しますので、長らく続く熱砂難民の為にも、仮の避難地域として承認して頂けませんか、」

前田、とくとくと

「我那覇さん、麦秋の国境線における事象、仮の避難地域も何も、すでに永住の地の生活そのものです、その善かれ生じて、麦秋以外の既に亡国となった中東北部東部からの難民が流入し生活しているのですよ、このままでは、麦秋も割込んだ旧中華と全く政策が変わらないのではないですか、好い加減人間の盾は止めて貰いたい、」

我那覇、一歩も引かず

「前田さん、良いですか、麦秋は建国以降国軍を越境させていない、これは国連の線引きにも準じているので、旧中華と一纏めにされて引き続き弾劾される覚えは無いですよ、」

小堀、ただ溜息も

「まずいまずい、また蒸し返すよ、我那覇さん、前田さん、ここは熱砂難民対策ですよ、」

我那覇、はきと

「いや、前田さんが白黒付けたいなら、麦秋も実に糾したい事があります、小堀さん、議事録に付け加えて下さい、」

前田、居を正し

「我那覇麦秋中華帝国外務院院長、伺いましょう、」

我那覇、とくとくと

「スプリガンプリンスファンデーション一派による、麦秋と紛争調停中のカンボジアのアンコール・ワット一帯の古の原子蓄電設備の強奪、詳細な報告は、麦秋は疎かカンボジアに報告が上がっていません、前田総帥、これは一体どういうことでしょう、」

前田、慌てる素振りも

「強奪、何を言ってるかね、アンコールの寺院は依然とそのままの筈だが、その遺跡群で延々紛争しては傷つけ破壊しているのは、両国だろう、」

我那覇、うんざり顔で

「前田さん、しらばっくれますか、まあ、そうもなりましょう、古の原子蓄電設備の一時間の通電で、カンボジア全土の半年の電力備蓄量です、こんな莫大な電力があったら、延々電子機関砲で戦い抜けますよ、スプリガンプリンスファンデーションにしてみたら、テスト起動かもしれないですが、紛争当事国としたら、新たな火種です、良いですか、これは古の恩恵なのか古の兵器なのか、白黒の判断を貰いたい、」

前田、はきと

「我那覇さん、中途半端な報告が上がっている様だが、12世紀初頭建設着手の寺院群にそんな恩恵を生める技術力があるかね、ある訳も無かろう、」

我那覇、尚も

「それでしたら、デン・ハーグ統合軍事裁判所に訴状を添える迄です、波戸と田原を拘束し答弁して貰いましょう、」

あきら、興味無さげに

「波戸と田原もね、痛快なお話聞けないのも如何かしら、」

小堀、宥めながら

「華辺様、ここでの介添えは何卒はご勘弁下さい、」

前田、はきと

「止むえん、華辺様が仲裁に入られた、我那覇さん、ここだけの話にしてくれ、アンコールの寺院は、12世紀初頭より前の古代からの原子蓄電設備を崇めての中世のアンコール王朝の国家プロジェクトだ、本格的な可動ともなれば永続的な疑似太陽を放ち上空から照らし出せる、正にここです、現在の地球で、疑似太陽の出力が必要かね、温暖化で日照は余り有る、良いですか、ここでうっかり原子蓄電設備使おうものなら、可動のまま止めようが無く、地球全土が砂漠化しかねない、ここは回収した設備一帯、スプリガンプリンスファンデーションが預かるしかあるまい、呉々もご納得されたい、」

我那覇、ただ嘆息も

「さて、これは凄まじいお話だ、スプリガンプリンスファンデーション、いや波戸に田原、どの国も慎重に対応せざる得ませんか、」

前田、神妙に

「我那覇さん、それが、通じる国ばかりだと思いますか、」

我那覇、はきと

「結構です、心しておきましょう、」

あきら、ふと 

「さて、野暮ったい話は終ったわね、」正面席に視線送っては「前田さん、表向き熱砂対策のアドバイザーなら、砂漠の進行の抜本的解決出来ないものなの、」

前田、居住まいをただ正し

「華辺様、確かに伺いました、全ては大戦前の旧中国よりの人口増加です、無理な植樹を施した結果が忽ち枯れ木となり砂漠化の有様です、」

あきら、はきと

「前田さん、私は一般紙に載るコラムを聞いていないわよ、」

前田、神妙に

「華辺様、良いですか、遺伝子改良多色樹の件は、誰に話しても、何それです、そんな夢のような樹をとことん想像が出来ません、とは言え、大植樹の果てに、根がどこまでも地中深く伸び枯れても次なる開花の為に延々水分を吸い上げる、これ程までにマルチに過酷な環境に対応にした結果が、根こそぎ大伐採出来ない程の悲劇ですよ、誰もが躊躇する事を施策してしまうのが大国たる中華の歴史故です、」

あきら、吐息まじりに

「まだ詭弁ね、」

我那覇、神妙に

「華辺様、そこは、私がやんわりお答えしましょう、旧中華は根こそぎ証拠を消す為に、いくつも町や村を通告無しに火炎で焼き払い、証人まで根絶やしにしました、ですが、当然の帰結になりますが深く刺さった根はそのままです、今でも枯れた実がなる、不気味な遺伝子改良多色樹として存在しています、」

小堀、不意に

「我那覇さん、お話は確かに聞きました、ですが国際連合さえ立ち入れないのは如何ですよ、」

我那覇、はきと

「延々、焦土と化しても、遺伝子改良多色樹が生い茂るのですよ、未知の毒を噴霧している可能性が有ります、敢えてお話したのは忠告と受け取って貰いたい、」

前田、はきと

「迂闊には手を出せないか、結構でしょう、推測は、慎重な実地検分が揃ってこそです、ここは一旦置き、憶測はまた後日勉強会でお話ししましょう、我那覇さん、それまでに内々の資料は貰えますね、」

我那覇、うんざりと

「内々ですか、止む得ない、各食物の成分表を提出しましょう、」

あきら、うんざりと

「その様子は明らかに弊害有りそうね、さて、また文献の山ね、流石に整理に疲れるわね、」

満座、訥に

「あきら様、その割りにはすみれ様程、進捗は宜しく有りませんよ、」

あきら、ぽつりと

「12月は行事が多いから、そんな事では無いかしら、」

満座、こくりと

「12月に限っては、その言い訳を承ります、」

前田、切に

「さて、華辺様は会議から、ご機嫌損ねてますよね、どうしたものでしょうね、お仕事も停滞となると、皆の士気に関わります、」

小堀、溜息ついてははきと

「そのまま言われますか、前田さん、ここで華辺様が気紛れにご隠居されたら、私達外務省の渉外が増えて人員がまるで足りないですよ、」

あきら、凛と

「小堀さん、人員が足りてないの言い訳、元老安良神部会の成すがままのそれよね、改めて内閣の裁断を仰ぎたいわね、」

小堀、切に

「花彩さんの一件、第三次世界大戦時の無制限徴用に関して、改めて恩給を調整中です、また、『あなたの向こうで』を受けて君塚首相も国会の年頭挨拶で歴史的謝辞を申しました、それをまだ、お話に上げられますか、」

あきら、はきと

「小堀さんも、察して、お話を閉じてるのでしょう、私は礼儀の有無も問うています、」

小堀、切に

「オートマシーンのシステム管理を一気に束ねる、ウインドウダイレクトシステム機構の根本会長には、折り有る毎に証人喚問をお願いしています、しかし、“弊社の日本国のサーバーをみすみす破壊させる内閣は信用に足りず、生命の危険がある”の一点張りで証人喚問に応じません、日本国の統治を見渡しては、もっともな意見です、」

あきら、はきと

「ご立派な元老安良神部会ビルディングに、やたらちんけサーバーおくからでしょう、そんなにオートマシーンに転じた学識者達を軒並み管理して、現守護国家の麦秋は何をしたいの、」

小堀、神妙にも

「華辺様、そこは、私を経由せずに、我那覇麦秋中華帝国外務院院長にお話下さい、」

我那覇、困り顔も

「ウインドウダイレクトシステム機構ですか、全米から看板買い取ったの一点張りで、我ら麦秋立国との会談を、未だに応じてくれませんよ、逆に華辺様の仲立ちを受けたいものです、」

あきら、凛と

「これは進展と見ましょう、我那覇さん、ウインドウダイレクトシステム機構の全サーバーの住所を教えなさい、」


途端に静まる一同を尻目に、淡々と満座が帳票と筆を、我那覇に差し出す


我那覇、固まったままに

「華辺様、それはご勘弁願えますか、これは華辺様自らをお示しですよね、冗談でもお止め下さい、日本国の特赦あればこその、麦秋中華帝国の奇跡の政権委譲なのですよ、ここで華辺様のご隠居覚悟の一大事とあれば、麦秋は依然と鎖国のままです、トランジットだけでは非常に旨味が有りません、」

あきら、我那覇を促しながら

「我那覇さん、気にしないで、世に言う隠居とあれば、私も今より寛げるでしょうし、今や台北のお気に入りの茶房の方が、麦秋より格上よ、」

我那覇、宙を仰ぎ

「そうですね、ミシュランガイド、戦中から延々止まったままですよ、麦秋になって、どうにか懐柔出来ないものか、そう思いますよね、華辺様、」やっとの笑みで返す

あきら、ただくすりと

「どうかしらね、ミシュランも文香が顧問に入ってるから、到底無理だと思うわ、」

満座、繁々と帳票と筆を引き上げては

前田、居住まいを但し

「戦後の悲しい皇室解散におかれましては、今も尚、世界の公族の仲間入りとなり、ご活躍が麗しい限りです、」

我那覇、神妙に

「そうでしょうね、第三次世界大戦発端の中国と聞いただけで、忌避するのは当然です、」

小堀、切に

「我那覇さん、日本人ですよね、麦秋から日本国に帰られませんか、」

我那覇、顔をしかめては

「小堀さん、日本国に帰るって、沖縄に原爆五発落とされてそのままの行政だろ、無人島に帰す気ですか、」

前田、切に

「沖縄は未だ受けた傷が癒えない、ですが、高台の慰霊碑タワーはちゃんとそびえ立ち、航路に沖縄があった際は、慰霊碑タワーに向けてちゃんとお祈りしていますよ、」

小堀、確とあきらに向き直り

「華辺様、終戦記念日の四月一日、いらっしゃらないと困ります、」

あきら、視線を中庭に落とし

「良いかしら、終始、私の話だけで、巡らすのは止めて貰えないかしら、」


一同ただ静まるも


満座、心得ては

「皆様、エスプレッソのお代わり如何ですか、手書き看板の通り、ブラジルの有機豆を使っていますので、とてもコクが有りますよ、」

我那覇、神妙に

「皆さん、ここはお代わりを頂きましょう、話し疲れてますから、良き頃合いです、」

前田、憮然と

「我那覇さん、コーヒーブレイクに持ち込んでも、華辺様のご機嫌が直るものか、」

満座、切に

「皆さん、この通りあきら様はご立腹です、華辺家の自警団の暴走が気に入らない様ですね、ここは労って貰えますか、」皆のエスプレッソカップを一つ一つ丁寧に拾い上げて行く

あきら、透かさず

「それを込みの隠居よ、何と言うべきか、もう付き合いきれないわ、」

満座、尚も 

「あきら様、お怒りごもっともです、ですが、このままご隠居では、あきら様お気に入りの階上嘉織はお伽衆として直接招こうも高貴過ぎて一生かしずく事は有りませんよ、ここは那由多スキームの受け皿あればこその招聘と、よくご案じ下さい、」

あきら、ただ憤懣遣る方無く

「私を目の前に、高貴だなんて、今や一介の公族はそれ相応で良いのよ、満座さんは無理に持ち上げなくて結構、」

満座、尚も

「あきら様、今日を逃したら、二度とご機嫌が戻りませんから、言上しております、」

小堀、不意に

「いっその事、すみれさん、いやお仲間の皆さんも呼びましょう、各国の大使館から聞いた、公族のお話も積もっていますよ、」

あきら、くすりと

「小堀さん、それは今日は無し、川添さんも巻き込んだら、賑やかになっちゃうわ、」

満座、はきと

「川添さんは大丈夫です、セキュリティを兼ねてフロントで接遇していますから、出席は相成りません、」

我那覇、咄嗟にホールドアップ

「でも、川添さん、相変わらずなんでしょう、いつ顳顬に拳銃突きつけられるやら、」

満座、我那覇の手を優しく降ろしては

「ご心配無く、川添さんの行状、節度のある方には覚えている限り数度だけですから、全く、尾ひれが付いて良いのは特定の方だけですよ、」

我那覇、こくりと

「さて、麦秋と言うだけで嫌われたくないものだ、」

あきら、手にしたエスプレッソカップをふと降ろし

「そうは言っても、満座さん、隠居は勿論、那由多スキームを畳むのは止む得ない事よ、嘉織さんと純さんの何れかを殺すところでした、」

満座、凛と

「あきら様、自ら幕を閉じる事は、決して相成りません、華辺家の主要名札は常に三枚です、残りの一人、階上嘉織さんを選出せずに代替わりされては、迷惑この上有りません、」

あきら、訥に

「この際、誰でも良いわよ、そういう事にしましょう、」満座をただちらりと

満座、窘める様に

「あきら様、一切許容出来ません、主要名札は、昔の仕来りも有り、私及び同親戚筋の最上も以ての外です、武士団からの殿上は特例と申されても決して叶いません、」

あきら、溜息も深く

「さて、一瞬で満座さんと最上さんを消去されるなんて、源家平家縁の小難しいお話は悩ましい所ね、」

満座、はきと

「我那覇さん、あきら様のご機嫌斜めは、中国に伝わる鴆毒に由縁します、申し開きお願い致します、」

我那覇、神妙にも

「満座さん、鴆毒のそれは名称の一人歩きしかない、確かに中国伝承ではあるが、製法は誰が考え抜いたやらだ、」

前田、はきと

「我那覇、ここは逃げられる所か、ちゃんと言うんだよ、」

我那覇、凛と

「前田さん、言うも何も、旧中華からの紫禁城の受け渡しの際は、何もかも黒塗りですよ、誰がやったと官吏に詰め寄りましたが、知らないの一点張りで、お陰で内務院の職員が今も尚麦秋全土に飛んでは、歴史資料を精査中です、」

あきら、ただうんざり顔で

「ふん、察しはつくわ、黙って学者の椅子座ってれば良いものを、」

小堀、咳払いをしては

「華辺様、著名な考古学者の名前は控えましょう、今を以てしても対処が出来ません、」

あきら、凛と 

「ワルシャワ承認礼会に乗り込んで、何をそんなに気になるのかしらね、」

小堀、切に

「話を戻しましょう、我那覇さん、その黒塗りに至るも、龍舜女帝は旧中華の徹底的な根絶やしをお考え故ではないのですか、」

我那覇、ただうんざりと

「小堀さん、それは無いです、旧中華も、龍舜女帝をただの腰掛けと見ていて、いざ謁見したら、その強い威光に強く触れたまでです、勝手に恐れ戦いて、どうかしてるよ、旧中華の連中は、」

あきら、途端に身を乗り出しては

「我那覇さん、麦秋の近代医療は先進的と聞くわ、世の中の毒という毒の抗生剤はあるのでしょう、鴆毒の解毒剤、念の為に処方して貰いたいわ、」

我那覇、慇懃にも

「階上村の件、今確かに華辺様からお話を貰いました、全米海軍より不躾に麦秋中華帝国厚生院へと鴆毒のサンプルが送られていますが、ここは日本国の密なる要請として、解析を急がせましょう、」

あきら、ただ両手を重ねたまま

「我那覇さん、頼むわね、嘉織さんと純さんに、万が一の服毒の発作が出ないとは限らないわ、」

小堀、忌々しくも

「華辺様、そこまで、階上一家に拘る理由が分かりませんね、関係各国より内政干渉と何度も戒告を受けては、いや、特にあのぼっさぼっさの何処が良いのです、日本国もそれ相応の官吏を嵐山鎮守行政区の為に御用意出来ますよ、」

満座、ただ目を細め

「そうでしょうか、藤原特任区長ののりに、絶対ついて行けないと思います、」

あきら、はきと

「そうよね、どうしても、嘉織さんになるわね、」

我那覇、思いを巡らせては

「ぼっさぼっさか、そうかな、階上も式典に紛れている時は、結構着飾っては二度見されてますよ、そうでしょう前田さん、」

前田、図らずも苦笑

「まあ、そこは確かに見られますね、但し、何見てるんだの、しかめっ面されるけどね、」

小堀、ただ真摯に

「前田さんのそれは、階上に限らず、遺物はそこそこにですよ、現地の博物館に返すべきは返すべきです、」

前田、声を張っては

「言うね、小堀さん、返却したところで関係各国の圧力が募りましょう、また帰属すべき国家も然るべき継承した国家か甚だ疑問です、そう、スプリガンプリンスファンデーションは一切を解消する互助団体ですよ、そうですよね華辺様、」

あきら、頬笑んでは

「前田さん、はいと言えば、何か貰えるのかしら、」

前田、神妙にも

「華辺様、階上嘉織の弱点の一つお教えしましょう、」

我那覇、くすりと

「前田さん、勿体ぶるな、」

あきら、身を乗り出しては

「いいえ、こういうのは大好物よ、聞いておこうかしら、」

小堀、はきと

「前田さん、待った、それは言わぬが花です、止めておきましょう、」

前田、諭す様に

「小堀さん、そっちじゃなくて、階上嘉織は、携帯電話を持っていないので、連携作戦が苦手なのですよ、」

小堀と我那覇共に

「ほっつ、そっちか、」

あきら、ただ笑い止まらず

「前田さん、そうね、ポケットの中は武器で一杯なのに、携帯電話持っていないわね、おかしいわ、」

前田、ただガッツポーズのままに

「おお、華辺様、ご機嫌が戻りましたか、」

我那覇、切に

「華辺様、連携が取れないなら、階上はやはり手元におくべきですよ、あいつもたまには良い事をする、死なれたら、やはり困るか、」

小堀、神妙に

「そっちじゃないでしょう、我那覇さん、どうしても振り幅大きくなっていませんか、」

我那覇、訥に

「華辺様から、鴆毒の解毒剤分析の勅命を頂いた以上、気も大きくなるさ、」

あきら、ぽつりと

「嘉織さんへの、直接的な、お誘いは止めておきましょう、二度目のお誘いは義務になってしまい、嘉織さんの良さを帳消しにするわ、」

我那覇、神妙に

「さて、身に余る光栄なのに、察しないものか、階上、」

前田、居住まいを正しては

「華辺様、改めて階上に拘る理由が分かりません、今後の付き合いの為にもお教え願えませんか、階上の職務、曲げるべき所は考えておきませんとなりません、」

満座、あきらに凛と視線送るも

「あきら様、」

あきら、溜息混じりに

「満座さん、事が終えれば微笑ましい事よ、」思いも深く「そう、今から三年前のお盆前よね、すみれと鴨川でお食事した帰りに、鴨川に水遊びしていたら、お父様から譲り受けたの指輪をうっかり滑らして鴨川に落としちゃったの、満座さんにも手伝って貰っては延々探したわね、そこで警邏中の嘉織さんに出会って、事情をお話したら一緒になって探したのよ、そうよね、それでも中々探せなかったから、私達に気を使ってくれて、これでも食べて待ってて、ポケットから手づかみで渡されたのが起爆装置付きのC4なんて、嘉織さん自分でも驚いていたわね、おかしいわ、」

我那覇、はきと

「それって、華辺様ですからよね、」

あきら、訥に

「それは無いわね、外出の時は日焼け防止も兼ねて皆深い帽子被るから、顔は見えないわ、」

満座、凛と

「ええ、私も帽子を被っては帯刀していましたが、階上さん、武士には慣れたものか、砕けてはの大家扱いでした、私も誰かは存じない様です、」

前田、はきと

「まあ、どれも階上らしいかな、でも気付いているのではないのですか、何せ華辺家のジャガーSS9リミテッドが横付けされていますよね、どうしても気付くでしょう、」

満座、はきと

「前田さん、それは有り得ません、当日ジャガーSS9リミテッドは車検に出していましたのでトヨタ産業のマルチクラウンに乗っておりました、何より、華辺家と察しもしたら強ばります、それが終始見受けられませんでした、」

前田、吐息混じりに

「階上、それでも華辺様だぞ、全く、」

我那覇、尚も

「それでですが、指輪は見つかったのですか、」

あきら、事も無げに

「ええ、ちょっと流れた先にあったわ、固い小岩の隙間に入って取れない所を、嘉織さんの念動力でぱんと割っては拾い上げたわ、お礼を言おうと思ったけど、とても綺麗な小岩を割ってばつが悪いのか、さっさと靴を持って裸足のまま車に乗ってはまた警邏に戻ったわ、いるのね、京都の塵一つ迄が遺産だと思う方、」

小堀、身を乗り出す様に

「まさかですけど、その指輪、」

あきら、はにかみながら

「ええ、婚約したすみれに、何れは渡るでしょうね、縁起が付いて、ますますの宝よね、」

前田、憤懣遣る方無く

「一見良いお話ですが、小岩でしたら剛力を呼べば良かったものを、階上、華辺様謁見を何と心得るんだ、」

満座、切に

「それは何もか階上さんです、現に私が柄に手を掛けた間際に、瞬時に叩き割りました、本物ですよ、階上さんは、」

あきら、いみじくも

「探し物が指輪だけに、誰それと呼べないわね、呼ぼうものなら、鴨川の組合は何をしていると、陰口叩かれるのは忍び難いわ、通う度に気を使われたら堪らないもの、」

前田、前のめりにも

「それ、良いですね、お昼は鴨川で、その小岩を眺めながらのお食事にしましょう、」

あきら、微笑のままに

「それね、割れたままだと忍び難いから、藤原区長がそのまま持って来ましょうの相変わらずののりだけど、嵐山鎮守行政区役所にきちんと訪問して貰い受けて来たわ、見て、そこの木漏れ日庭園にそのままよ、」

前田、見据えたまま

「本当に真っ二つか、階上、やるな、」

小堀、凛と

「いや、武士の斬撃みたいですね、」

前田、好奇心が逸り、席を立ち進み出ては

「いや、これは、筋目無視の物理的に不可能な割れ方ですよ、階上嘉織、確かに放っておけないか、」

満座、同じく進み出ては

「丁寧な切り口、正しく一刀両断でしょうけど、波紋が浮かんでいません、そこそこの武士でもここまでは叶わないでしょう、そうですね、表立って悟ってくれたのは灰屋さん位でしたか、誰か誰かと尋ねられましたので、あきら様に答えて貰いました、」

前田、席に戻っては仰け反り

「それ、灰屋さん、大爆笑でしょう、まさかの上家衆でしょうから、」

満座、凛と

「確かに笑いは堪えていましたが、そこは灰屋さんです、暫し失礼と言いながら、幾ばくか後、無形の位から、そのまま抜刀しては、得心されたようです、」

あきら、機嫌のままに

「灰屋さん、あのお年で更に強くなられたら、誰も倒せないわよね、正しくローマ参画政府に死角無しね、前田さん、好い加減財団畳んだら如何かしら、」


ただ沈黙する一同


あきら、ただ溜息のままに

「待って待って、真に受けないで、あくまで精進しなさいの意だから、はき違えないで、」

前田、腕を組んでは

「いえいえ、うちの実動部隊も増員すべきか、ただ募集要項良過ぎても、有象無象に来ますし、さて、」

満座、はきと

「前田さん、波戸さんと田原さんは、まだまだ伸びしろが有りますよ、」

あきら、頬笑みながら

「皆さん、真面目顔は疲れるわよ、嘉織さんの念動力はともかく、ここまで親身になれる方を、可愛がらない訳は無いでしょう、」

小堀前田我那覇共に

「いや、そこは、どうでしょうね、」一同逡巡のまま

あきら、凛と

「そう言わないで貰えるかしら、嘉織さんは、そういう側面もあるから、極めてキュートなものよ、」


満座、察しては円卓のテーブルを周り、皆のエスプレッソカップを引き上げ、新しいエスプレッソを注いで行く

総ガラスの向こうは、折しもかなり遅い初雪がちらりと嵐山の麓に降り始める

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